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◆大きな貸でした

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しばらく奥の部屋でキャシーさん達にカタログ販売について、色々と話していると店の方から声が聞こえる。
「すみませ~ん、すみませ~ん。どなたか~いらっしゃいませんか~」
「あ、ほら! キャシーさん。父さん達が呼んでるよ」
「あら、本当。じゃ、詳しい話はまた、後で聞かせてね」
「はい、分かりました」
そう言って、店内に戻ると母さんが嬉しそうに父さんの腕に抱きついている。

「父さん、随分時間が掛かったね」
「まあな。だが、たまにはいいんじゃないか。母さんの機嫌も良くなったみたいだし」
「それはいいけどさ。せっかく買ったのに着ないの? それが目的だったでしょ」
「それもそうだな。母さん、買った服から選んで着なよ。それでドワーフタウンに行こう」
「え~折角父さんが買ってくれたのに~」
「「いやいや」」
「母さん、なにが目的でここに来たのか思い出してよ。もう皆待ってるんだから」
「まあ、それは悪いことしたわね。でももうお昼よ。お腹も減ったし、あの子達にもおっぱいあげないと」
「じゃあ、とりあえずはこのまま帰ろうか」
「はい、そうしましょ。父さん」
「え~と、お会計いいですか?」
砂糖を口から出しそうになっているシャルさんが父さん達の会話が終わるのを待てずに割って入る。

会計を済ませた後に父さんが俺に両手いっぱいの服を預ける。
「買ったね~」
「ああ、とりあえず仕舞ってくれ。頼むな」
「はいはい。じゃ、キャシーさん、シャルさん、面接の件、お願いしますね」
「「は~い。またね~」」
ゲートを家のリビングに繋ぐと兄ズにガンツさん、ヘレンさんにマサオと皆がソファに座ったまま、気持ちよさそうに寝ていた。

「うわ~すごい格好。この際、カメラに収めておくか」
カメラをインベントリから取り出すと、気持ちよさそうな連中を撮る。

「ん? ケイン、帰ったのか。随分時間が掛かったな」
ガンツさんが気配を感じ取ったのか、居眠りから目を覚ます。
「そう、長かったよ。しかも俺まで、あのお姉さん達の相談で捕まるし」
「なんじゃ、なにかあったのか?」
「そうなんだよ。実はさ……」
ガンツさんにキャシーさんの出店話と王都への船で通えるようになるかもの話とカタログ通販の話をしてきたことを話す。
「また、随分と色んなことを話してきたもんだな」
「そこでね、やっぱり製本が必要になりそうだよ。どこまで進めていたんだっけ?」
「確か印刷機は出来たが製本までは進んでおらんぞ」
「それは困ったね。もうすぐ学校も始まるし、製本が出来ないのはイタイね」
「なら、先に作っちまうか? まだ、王都の港については正式に書面が届いてないんだろうからの」
「そうか。じゃ先に作っちゃおうか」
「だが、先に片付けんといかんだろ」
「え? なにを?」
「お前は……お袋さんの服が決まったら、外に出られるんだろ? なら、家の候補地を見に行くんだろうが」
「ああ、そういえばそうだったね。もうお昼だってのに」
「なあ、ワシもここで済ませていいか?」
「ああ、ちょっと待って。母さん達もお昼にするだろうから」
「それもそうか。なら、もう少し待つか」
『なに、お昼? お昼ご飯なの?』
「ん? 昼飯か?」
「もう、お昼なの?」
「なんじゃ、飯はまだかいの?」
マサオの『お昼ご飯』の一言で、皆が覚醒する。

「ケイン、帰ってたのか。じゃあ、母さん達も帰ったのか。それにしても遅かったな」
「まあまあ、サム兄さん。女性の買い物の時間が長いのはしょうがないよ」
「クリス、お前……最近、中身が代わってないか?」
「なんのこと? それよりお腹減ったね」
「サム兄さん、クリス兄さんの余裕はなにかあると思わない?」
「ケインもそう思うか?」
「うん、思う」
『なに? 気になるのなら、聞けばいいじゃない』
「そう簡単にいかないから、気になるんじゃない」
『そう? でも、クリスからはここにはいないメスの匂いがするよ』
「た、たまたまじゃないのか?」
『ううん、いつもだよ』
「「やっぱり……」」
「ほら、サム兄さんもケインもなにやってんの? お昼の準備しないとダメでしょ」
「俺は当番じゃないぞ」
「僕も昼は管轄外だよ」
「そんなことはいいから、皆でしないと終わらないでしょ」
「「は~い」」

お昼の準備が出来たところで、母さんが父さんに買ってもらった服を着て寝室から出て来た。
「どう? これ」
「これって?」
「サム兄さん、ダメだよ。まずは褒めないと。ねえ母さん、よく似合っているよ」
「ふふふ、ありがとうクリス。ケインはなにもないの?」
「なにもないのって、俺は現場にいたし」
「あら? そういうこと言うのね。いいわ。リーサちゃんに今日のこと言いつけるから」
「え? 今日のことってなに? 俺はなにもしてないよ。やだな~母さんは」
「へ~じゃあ、リーサちゃんにそう言うのね。私は見たままを伝えるだけだし」
「え~勘弁してよ~母さん!」
「母さん、もうそのくらいにしておきなさい。ケインも今日は色々と手伝ってくれたんだから」
「それもそうね。いいわ、ケイン。貸にしといてあげる」
「子供相手に貸ってひどくない?」
「あら、じゃあ言ってもいいのかしら?」
「貸でお願いします!」

その後は皆で昼食をとり、後片付けまで済ませると、いよいよドワーフタウンへの候補地を確認しに行くことになった。
兄ズが着いて来たそうなのを察したヘレンさんが、双子の面倒は見といてあげるからと言ってくれたので兄ズは俺達の視察に加わることになった。
「じゃ。ゲートを繋ぐね。ガンツさん、場所は独身寮の近くでいいのかな」
「ああ、そこでいいぞ」
「分かった」
ゲートを独身寮の近くへ繋ぐと家族一行とガンツさん達と一緒に潜る。
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