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◆対価が必要でした

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キャシーさんに腕を掴まれ、店から出ることは出来なかった。
「分かりました。お話を聞きましょう」
「あら、そう。じゃ奥に行きましょうか」
キャシーさんはそう言うと腕を掴んだまま、奥の部屋へと進んで行く。

部屋に入り、ソファを座るように言われてやっと掴んでいた腕を解放してくれた。
ソファに座ると「お茶を用意するわね」と俺を残して部屋から出る。
しばらくしてお茶を手に戻って来たキャシーさんがソファに座り、キャシーさんと対面すると、キャシーさんが切り出す。
「あのね、また王都にお店を出して欲しいって言われているんだけど」
「それはよかったですね」
「それで終わり?」
「なにを言えと?」
「もっと他になにかあるんじゃないの?」
「えっと、なにを期待しているんでしょうか?」
「だって、私達が王都に行くと、このお店は無くなるかもしれないのよ?」
「なんで、そういう話になるんですか?」
「なんで? なんでだろ?」
「いや、それを俺に言われても」
「とにかく、王都にお店を出すなら、ここと王都を行ったり来たりは出来ないから、どっちかしか選べないのよ。分かるでしょ?」
「そうなんですか? 誰かに任せてもいいんじゃないんですか?」
「そんな、任せると言っても誰に任せられるのよ」
「そう言えば、ここにはお二人の他に店員はいないんですか?」
「そうなのよ。買いに来てくれる人はいるんだけど、働きたいって人はいないのよねぇ~」
「そうなんですね。じゃ、働きたい人を連れてきたら、面接ぐらいはしてもらえますか?」
「え? 本当にそんな人がいるの?」
「実はですね、竜人の里からとアズマ村からドワーフタウンへの移住希望者がいるんですけど、それに見合う働き口も用意しなきゃというところで困ってて」
「あら、それはいいわね。なら、何人でも面接に連れてきていいわよ。雇えるのはそんなにいないけど、服飾工房にも回せるしね」
「分かりました。あとついでなんですけどね、近々王都とドワーフタウンを船で行き来が出来るように計画中なんですよ。だから、ここか王都かとか選ぶ必要も無くなると思いますよ」
「あら、それは本当なの?」
「ええ、今、王都でデューク様が頑張ってくれていますから」
「へえ、そうなんだ。ねえ、ケイン君って確か歳上が好きだったわよね?」
「いえ、特に歳上が好きって訳じゃなく、たまたま歳上だったってだけで……」
「そう。まあ、今はいいわ。じゃ、さっきの面接の話、よろしくね」
「はい、分かりました。お話はこれだけでよかったんですか?」
「そうね、ミシンとかは、工房の人にお願いするから。今はこんなところね」
「じゃ、父さん達に挨拶してから出ますね」
「分かったわ。ありがとうね」
キャシーさんにことわってから父さん達の様子を見ると、まだまだ時間が掛かりそうだったので、なにも言わずにゲートを繋いで帰ろうとしたら、また腕を掴まれる。
「もう、キャシーさん話は終わったんじゃ……シャルさん」
腕を掴まれたままの状態で振り返ると今度はシャルさんが俺の腕を掴んでいた。

「えっと、なんでしょうか?」
「なんでしょうかって、お前。久しぶりにあったと言うのに随分じゃねえか」
「そうでしょうか」
「なあ、オレはお前になにかしたか?」
「俺にはしてませんが、兄達の彼女にナニかしましたよね?」
「あ~まだ、尾を引いてんのか?」
「詳しくは知りませんが、まだみたいですよ」
「そうか、まあ悪かった。って、そんなことはどうでもいいじゃないか。なあ、あの旦那たちが決めるまでは暇なんだよ。ちっとは相手してくれよ」
「まずは、腕を離してもらえませんか?」
「ああ、悪かったな」
やっとシャルさんが腕を離してくれた。
「それで、なにを話せと?」
「いや、なにって、お前がなにかあるだろ? ほら、話してみなよ」
「え~」
「え~ってなんだよ。こういう時は男から話題をふるもんじゃないのか?」
「そうなの?」
「さあ? 知らんけど」
「知らないんですか?」
「まあな、自慢じゃないが、そういったお付き合いはして来たことがない!」
「思いっきり自慢しているじゃないですか」
「そういうなよ。これでも頑張っているんだぜ。なんとか幸せになろうとしているんだけどな」
「まあ、一部のコアなファンはいるかもしれませんね」
「一部かよ。まあお前でもいいんだぞ」
「俺は一部じゃないですよ」
「そうか、あのエルフのお姉さんは、あれも一部の人しか「それ以上はダメ!」……お、おお」
「そういう風に言ったらダメでしょ!」
「ああ、悪かった。でもオレのことも言っただろ?」
「それは事実ですし」
「また、随分と扱いが違うな。それもしょうがないか」
ここで、ふと思いつく。カタログ販売の通信販売と言えば、下着と婦人服だったよなと。
「シャルさん、こういうの興味あります?」
「なんだ? それは儲け話か?」
「そうですね。しかも潜在的な顧客を掘り起こすかもしれませんね」
「よし、奥に行こうか。キャシーもいるだろうしな」
また、腕を掴まれると奥の部屋へと連行される。

奥の部屋に行くとまだ、キャシーさんがソファに座っていた。
「あら、ケイン君。お帰りなさい。今度はシャルとお楽しみなの?」
「ん? なんだキャシーと奥に消えたと思ったら、そういうことだったのか? なら、もったいぶらずにオレともいいじゃないか」
「ち、違うから! キャシーさんもそういうことを言わない!」
「ふふふ、ごめんね。シャル、ほんの冗談だから本気にしないの。それより、ケイン君を連れて来てどういうこと?」
「ああ、実はなケインが儲け話を教えてくれるってんで、なら話をじっくり聞かせてもらおうと思って連れて来た」
「あら、私にしてくれた話とはまた違う話なのかしら?」
「なんだ、キャシーはなにか聞いているのか?」
「シャルさん、落ち着いて! まずは腕を離してもらえるかな? もう、手の方が白くなってきてるんだけど」
「あ、ああすまない」
そう言って、やっと手を離してくれたが、血行が止まりかけていたせいか妙に白い。
ソファに座り、嘆息すると対面に座る二人を見て話しかける。
「いいですか。今から話すのはお二人が初めてです。なので、出来れば方法も含めなるべく口外しないようにお願いします」
「分かった」
「分かりましたわ」
「じゃあ、話しますね。方法としては『カタログ販売』と言います」
「「カタログ販売?」」
「そう、ここで売っている服や下着を写真でまとめて、一冊のカタログにしてお客に渡して、お客はそこから選んで、注文したら、お店からは品物と請求書が届けられます。お客は、請求書通りの金額を払います」
「「ちょっと待って!」」
「なんでしょう?」
「注文して品物を届けてお金をもらうのは分かったけど、最初の部分が全く分からないわ」
「そうだぜ、写真ってなんだよ」
「ああ、そうでしたね。じゃこれを」
そう言って、テーブルの上にカメラとタブレットを出す。
「これがカメラで、写真を撮ります。撮った写真はこのタブレットで確認出来ます。写真はこのタブレットで、紙に転写します」
「「???」」
「じゃ、とりあえずキャシーさん。このカメラでシャルさんを撮って下さい」
キャシーさんにカメラを渡し簡単に操作方法を説明する。

「これをこうやって……これでいいのかな?」
「まだか、キャシー。早くしてくれ! このままじゃ落ち着かない」
「待ってよ。よし! これでいいはず。じゃ写すわよ」
「ああ、いいぞ」
『パシャ』
「これで撮れたのかしら?」
今度はタブレットでの写真の見方と転写方法を教えながら試してもらう。
「まずは写真を選ぶのね」
そう言って、さっき写したシャルさんのサムネイルをタップすると、写真が大きく表示される。
「おお、これがオレか。自分でいうのもなんだが、なかなかじゃないか。なあケイン」
「そうですか」
「なんだよ、ノリが悪いな。それでこれをどうすんだ?」
「なにか適当な大きさの紙はないですか?」
「これでいいかしら」
キャシーさんが少し大きめの用紙を差し出す。多分デザイン画とかに使うものだろう。
「じゃ、これに転写するとして、いいですか」
「うん、どうするの?」
「このタブレット上の『転写』を押して下さい」
「これね。押したわ。あら、なにか枠が表示されたわね」
「その枠をこの用紙に合わせて下さい」
「これに合わせるのね。っと、これでいいの?」
「はい、それでいいです。その『実行』を押して下さい」
「これね。よし! どう?」
するとテーブル上の白紙だった用紙にシャルさんの姿が転写される。
「「おお!」」

「後は、この写真で売り物の……例えば、このシャツなら、『一番』って番号を振って、別の表には『一番、シャツの品名、色、値段』って感じのを表にまとめればカタログとして使えると思うんですよ」
「「は~」」
「分かりました?」
「分かったけど、これを一つずつするのは、キツイわね」
「ああ、手間がかかり過ぎる」
キャシーさんとシャルさんには写真と転写は理解してもらったが、これをまとめて複数用意するのは疲れるということだった。
ならばと、今度は複合機を取り出し、テーブルへと置く。

「今度はなんでしょうか?」
「ケイン、なんか知らんが邪魔だぞ」
「まあまあ、これにさっきの写真をですね、このトレイに載せて『コピー』を押すと」
「「押すと?」」
「こんな風に」
『コピー』のボタンを押すと、複合機から写真が出てくる。
「なんだ、さっきのじゃないか」
「そうよね。なにが『コピー』だったのかしら?」
「キャシーさん、その複合機の上部分を持ち上げてもらえますか?」
「これを上げるの? いいけど……え? 残ってる?」
「キャシーなにを見つけたんだ?」
「シャル、これ!」
キャシーさんがそう言うと右手にさっき複合機から出たもの、左手に転写したもの、所謂原紙をシャルさんに見せる。
「へ? 同じものが二つ?」
「そう、これが『コピー』です。最初はそんなに数を作らないだろうから、これでも対応可能でしょ?」
「ええ、これでも十分すぎるくらいよ」
「ああ、そうだな。後はオレ達が頑張って写真を撮りまくるだけだな」
「そうね。それでケイン君、肝心のお値段なんだけど……」
「いいです。差し上げます」
「「ダメだ!」」
「え~そう言われてもまだ売ってないもんだし、値段はついてないんだし」
「「それでもダメ!」」
「困ったな~」
するとキャシーさんがなにかを思いついたような顔になる。
「ねえ、そういえばさ、ちょっと聞いたんだけど、今さ、お姉さんが家に来ているんでしょ?」
「え? なんで知っているの?」
「あら、やっぱりそうなのね。あのお姉さんが最近、やたらと嬉しそうにいっぱい買い物しているからなにか訳ありとは思っていたけど、まさか当たるとはね。やっぱり『まさかのケイン』なのね」
「それはいいですから。それでリーサさんがどうかしましたか?」
「君も結構察しが悪いわね」
「いや~それほどでも」
「「褒めてないから!」」
「コホン、まあいいわ。それじゃ、そのリーサさんをここへ連れて来なさい」
「どうしてですか?」
「どうしてって、今までお世話してもらったんでしょ。なら、なにか感謝の意を示すものじゃないの? それをさっきの魔道具の対価として受け取って欲しいのよ。どう? これならお互いに悪い話じゃないでしょ」
「おう、それはいいな。なら、オレも襲いたくなるような下着を選んで贈らせてもらうぜ」
「え~」
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