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◆今更でした

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翌朝、父さんと一緒に出かけようとゲートを開こうとしたところで、母さんから声を掛けられる。
「ちょっと待って、なんで父さんだけで決めるの?」
「いや、だってお前はまだ出られないだろ」
「少しくらいなら、大丈夫よ。それにケインが繋いでくれるんでしょ?」
「うん、まあね」
「なら、ほとんど歩かないじゃない。なら、平気よね」
「確かに床上げは、もうすぐのはずだけど……」
「父さん、ヘレンさんに聞いてみればいいんじゃないの?」
「ああ、そうだな。母さん、今ヘレンさんに確認するから、それまで待ってくれな」
「あら? ヘレンさんに聞くのね。分かったわ、じゃそこで座って待ってるから」
母さんはそう言って、ソファに座ると父さんが嘆息し俺に向かって目で合図する。

「じゃヘレンさんに連絡するね」
そう言って、携帯電話を取り出すとヘレンさんに掛ける。
『プルル……プルル……プルル、カチャ。はい、ヘレン』
「ヘレンさん、おはようございます。ケインです」
『おうケインか。こんな朝早くに珍しいの。もしや、マギーになにかあったか?』
「うん、まあ、あったと言えばあったんだけどね」
『なに~! なにをのんびりしてるんじゃ! さっさと迎えにこんかぁ!』
「わ、分かったよ。家でいいんだよね?」
『当たり前じゃ! なんじゃ浮気を疑っているのか? だいじょ』
「まったく、なにを言い出すんだか。じゃ、父さん。ヘレンさんを迎えに行くね」
「ああ、頼んだ」
父さんに伝え、ヘレンさんの家の中へとゲートを繋ぐと、すぐにヘレンさんがこちらへ飛び込んできた。
「遅い! まったく。で、マギーの様子は?」
ゲートを飛び出してくるなり、母さんの様子を気にしているようだが、当の母さんはソファに座りお茶を飲んでいる。それを目にしたヘレンさんは「ふぅ~」と嘆息すると俺に向かって一言言う。
「この慌てん坊が!」
「え~ちょっと待ってよ。ろくに話も聞かずに勝手に解釈したのはヘレンさんでしょ? そっちこそ慌てん坊じゃない!」
「いや、じゃがケインが電話でマギーになにかあったと言ってたじゃろうが!」
「ああ、確かに言ったね」
「ほれ、みろ」
「だって、もう出歩きたいって駄々捏ねるからさ。なら、ヘレンさんに見てもらってからにしようって話になったんだよ。ほら、母さんからも言ってよ」
そう言うと母さんの方に向き直り、ヘレンさんへの説明をお願いする。

「ねえ、ヘレンさん。床上げにはまだ早いと思うんだけどね。もう寝ているのも飽きたし、ほら、個人差ってのもあるでしょ? だから、ね、いいでしょ?」
「なんじゃ、もう飽きたって。まあ、ええ。なにもないなら、床上げを早めるのもいいじゃろ。なら診てみるとするかの。ほれ、寝室へと行こうか」
「ごめんね、ヘレンさん。変に勘違いさせちゃって」
「ふん、ここにはケインがおるからの。大抵のことには驚かんが、お前さんは産んだばかりと言うのを忘れておるようじゃし、もしかしたらと慌ててしまったわい。ふふふ」
母さんがヘレンさんと部屋に入るのを確認すると父さんとソファに座る。
すると兄ズがなにかを言いたそうにこちらを見ているのに気付く。
「兄さん達ももしかして、行きたいの?」
「「行きたい!」」
「え~なんで? もう行ったことあるでしょ」
「そう言うなよ。たまにはいいじゃん」
「そうだよ、ケイン。僕もたまには付き合いたいし」
「でも、クリス兄さんはショッピングセンターに行ってるじゃない。なら、たまにはもなにも」
「ケイン、分かってないな~こういうのは家族揃ってだから楽しいんじゃない」
「家族揃ってと言うけどさ、双子の妹は連れて行けないよ?」
「「え~」」
「え? もしかして一緒だと思ってた?」
「「うん」」
「ダメでしょ。と、言うわけで兄さん達はここで双子の面倒を見ててね」
「「え~」」
「え~じゃない! ちゃんと妹の面倒を見るのも兄としての務めでしょう。ほら、これをあげるから」
テーブルの上にガラガラを何種類か出して、並べる。
「「なにこれ?」」
「これは『ガラガラ』。これを赤ちゃんに向かって振ってあげれば興味を引くはずだから」
「こんなものがね~」
「本当なの?」
「試してみてよ。もし反応がよければ、新しい店舗で玩具部門を作ってもいいし」
「おもちゃか。確かにキックボードもおもちゃと言えなくもないしな」
「それにビーチボールみたいな物もあるしね」

「父さん、ちょっと母さんが長くなりそうだから、ガンツさんをこっちに呼ぶね」
「ああ、そうしてくれ。俺も少し話をしたい」
「うん」
ゲートを工房の自室に繋ぐとガンツさんが腕を組んで座っていた。
「遅いぞ! ケイン」
「ごめん、出掛けに色々あってさ。とりあえずこっちにきてもらえるかな」
「まあ、それはいいが」
ガンツさんがソファから立ち上がるとこちらへ潜ってくる。

「ガンツさん、おはようございます」
「旦那、おはよう。で、旦那までいるってことは何事なんだ?」
「ほら、この前家をドワーフタウンに移設したいって話したじゃない」
「ああ、そうだったな」
「それでね、父さんも色々考えて、移設に前向きになってさ。今日はガンツさんに案内してもらって実際に土地を見てみようってなったんだよね」
「ああ、それもそうだろうな」
「だけどね、それを知った母さんが自分を除いて決めるのは納得いかないって話になってさ、連れて行けって言うもんだから、今、ヘレンさんに診てもらっているんだ」
「は~なるほど。それで、ケインの遅刻に繋がるわけだ」
「そう、ごめんね」
「いや、それは別にいい。で、旦那も移設に前向きなのは分かった。で、ここは店にするんだよな」
「そう、それは俺が用意しようと思っているんだけどね」
「おいおい、ここの連中に見せるのか?」
「だから、いきなり見せることはしないでさ。足場を組んで家を囲ってから、作業を進めようと思っているんだ」
「それがいいかもな」
「ガンツさん、土地はどれくらい用意されているか聞いても?」
「旦那、まだ今は建設が進んでいないから、どこでも好きにしていいぞ」
「分かりました。それで土地代はどうなりますか? 相場はどれくらいで?」
「相場か……」
「どうしたの?」
「いや、ほら、今は好き放題に作っているじゃろ。だから、相場と言われてもいくらいくらとは言えないんじゃ」
「ああ、なるほどね。じゃあさ、今は移転する人には土地をプレゼント! ってことにしといてもいいんじゃないの?」
「まあ、それはそれでアリかもな。ってことだ。旦那」
「ガンツさん、本当にそれでいいのかい?」
「まあ、後から徴収ってことはないが、税金としての徴収はあるかもな」
「まだ、税って決めてないよね?」
「ああ、領主からもなにも言ってこないしな。それにあそこは一応はワシとケインの自治区じゃ」
「あれ? なんで俺まで?」
「なんじゃ、ワシ一人に被せるのか?」
「別にそんなつもりじゃないけど」
「まあ、領主もそのつもりじゃろうし、今更じゃ」

寝室の扉が開き、ヘレンさんだけが出てくる。
「ヘレンさん、診察は終わったのかい?」
「トミー、よくお聞き」
寝室から出てきたヘレンさんが神妙な顔で父さんに告げる。
「マギーがな……」

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