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◆移設を頼まれました

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デューク様が、その重い口を開き、王様と話した内容について語り始める。
「……とまあ、大体はこちらの希望が通った形だが、まだ書面が届いていないのでな。だから、港湾施設の開発工事は書面が届いてからにしてくれるとありがたい」
「分かりました。では、書面が届いたら取り掛かれるように準備だけは進めておきますね」
「ああ、そうしてくれ。しかし、たまには海の上に出るのもいいもんだな」
「そうでしょ。どうです? 余裕が出来たら、デューク様専用のプレジャーボートでも?」
「なんだ? そのプレジャーなんたらってのは?」
「そうですね、一言で言えば遊びのための船ですね。どこかに行くとか運ぶとか目的もなく、ただ楽しむためのものですね」
「そんな贅沢なものはまだ許されんだろ。だが、専用というのはいいな」
「欲しい時にはいつでも言って下さいね」
「その時には頼むとしよう。もちろん、セバス向けのもあるんだろ?」
「本当ですか? ケイン様!」
「え? セバス様は海上でもスピード重視ですか?」
「い、いえ、そういう訳ではありませんが、スピードというものは、こうなんとも形容し難い魅力があるのですよ……」
セバス様が恍惚とした表情で宙を見つめる。あ、ダメな人だこれ。

デューク様から話も聞けたので、ガンツさんにドワーフタウンの港へと戻ってもらう。
試作品フェリーを接岸させ係留ロープで岸壁に繋ぐ。

デューク様達と岸壁に降り立つと、ゲートをデューク様の王都のお屋敷へと繋ぐ。
「ふぅ~今日は色々と驚かされたが、楽しかったぞ。また、頼んでもいいか?」
「はい。いつでもどうぞと言いたいですが、今度は港湾施設の開発が終わってからでしょうか」
「それもそうか。じゃな」
「失礼します。ケイン様」
そう言って、デューク様達がゲートを潜って行くのを確認してからゲートを閉じる。

「ケイン、それで王都の港湾施設は決まったのか?」
「ガンツさん、まだ正式ではないけれど口約束の段階では決まったらしいよ。後は王様からの正式な書面が届くのを待ってから、工事に入って欲しいんだって」
「ほう、なかなか頑張ってくれているようだな。あの領主殿も」
「うん、そうみたい」
「なら、立派な船でも作って渡してやるか?」
「それは余裕が出来てからだね。今はやることが多すぎるからね」
「まあ、それもそうだが。他には?」
「……ちゃった」
「ん? なんだ?」
「船もライセンス制度になっちゃったんだよ! ガンツさんが俺に操船させてくれない内に!」
「ぷっははは、そうか。そいつは悪かったな。で、どうすんだ? ワシは年齢的には問題ないと思うが、お前は色々と足りないようじゃな」
「分かってるよ。だから、もう船はガンツさんに任せるよ。俺は試運転も出来ないしね」
「ほうほう、ん? 待て! ワシに全部任せるというが、それは単に丸投げじゃないのか?」
「そうともいうね。だって、操船出来ないのに作るなんて意味がないじゃん!」
「そうはいうが、今まで車だって作って来たじゃないか。それなのに船はワシに任せるというのは、ちょっと乱暴すぎるんじゃないのか」
「車はいいの! もうライセンスが必要なもんだと最初から思っていたからね。でも、船までライセンス制度になったら、もう乗れないじゃん。全部、ガンツさんのせいなんだし」
「お前……まあ、待て! 少し落ち着いて考えてみろ。ライセンスが必要だと言い出したのは今日なんだろ。なら、制定までには時間があるんじゃないのか? 特に今なら動かし放題じゃないのかな? ん?」
「ガンツさん、天才!」
「ふふん、まあな。ほれ、思いっきり走らせて来い!」
「うん、分かった。じゃあね」
急いで係留ロープを解くと試作品フェリーに乗り込み、操舵室まで駆け上がる。

操舵室に駆け込むと、出港準備を急いで済ませる。
「よし、これでいいね。じゃ行くぞ! しゅっぱ~つ!」
『ボォォォォォ~』
汽笛を鳴らし、試作品フェリーがゆっくりと進みだす。
耳を澄ますと舳先が海面を裂いて進む音が聞こえてくる。
「いいな~いいよな~車もいいけど、船もいいよな~」
『そんなにいいもんか?』
「だって遮るものがなにもないんだよ。自分が進みたい方向に自由に進めるんだから! ……え? マサオ、いたの?」
『いたとはひどいな』
「ごめん。でも、いつから?」
『いつからって、ケインが走って船に飛び乗るところからか?』
「ずっといたの?」
『ああ、いたな』
「じゃあ、さっきの独り言も聞いたの?」
『ああ、あの「いいな~」ってやつか?』
「しっかり聞かれてるじゃん……」
『なんだよ。そんなに気落ちすることでもないだろ。なにが気になるんだ?』
「もう、いいよ。なんか気が削がれちゃった。戻ろう」
『なんだ、もう戻るのか? もう少し乗っていたかったんだけどな』
「でも、もう夕暮れも近いからいい頃合いだしね」
『それもそうだな』

ドワーフタウンの岸壁に接岸するとガンツさんに係留ロープを繋いでもらうと船尾ハッチを開けて降りる。

「なんだ、早かったな」
「うん、もう夕暮れも近いからね」
「そうか、満足出来たのならよかった。それじゃワシ一人に任せるとか言わんよな?」
「それはちょと考える」
「ハァ~なんでそうなる? ちゃんと船も走らせたじゃろ?」
「そうなんだけど、造船所を作ったら後は任せるかも」
「ワシ、そんなに掛け持ちしてられんぞ」
「そこは、ほら! なんとでもなるでしょ。今までそうだったし」
「いやいや、そこは考え直そうか。なんとかしてこれたのはワシ一人だけの力じゃないし」
「まあ、そこはおいおい考えるから。とりあえず今日は帰ろうか」
「本当にちゃんと考えてくれよ。頼むぞ」
「分かったって。じゃ繋ぐよ」
ガンツさんを工房ではなく、ガンツさんの家の前にゲートを繋いで見送る。
「本当にちゃんと考えるんだぞ! いいな!」
「もう、分かったから。はい、また明日」
ガンツさんを無理矢理押し込めるようにゲートを潜らせると、今度は自宅へとゲートを繋ぎマサオと一緒に潜っていく。

「お、帰ってきたな」
「ただいま、父さん。どうしたの?」
家のリビングに入るなり父さんが上機嫌で話しかけてくる。

「ほら、お前が言っていた家ごと移設の話だよ」
「うん、言ったね。それが?」
「頼んだぞ! ケイン」
「ええっ! 本当に移設するの?」
「ああ、今日も店の中の様子を見てな、このままじゃダメだと改めて思ってな。なら、早いところなんとか出来るのは、ケインが提案してくれた家を移設して、空いたこの土地に支店というか専門店を開こうと思ってな。どうだ? やってくれるか?」
「まあ、俺が言い出しっぺだし、ドワーフタウンの方の住宅地はガンツさんにお願いしているから、いつでもいけるけどさ。ちゃんとドワーフタウンの方の土地は確認しといてよ。後からイヤって言われても困るからね」
「ああ、分かった。それなら、視察は早いところ済ませてしまおう。明日の朝でもいいか?」
「それは俺と一緒に出るってこと?」
「ああ、そうだ。ガンツさんも一緒なんだろ。なら、ちょうどいいじゃないか」
「ま、別にいいけど」
「よし! なら、これで決まりだな」
「その前にさ、どういう風に商品を分けるのかは決めてあるの? あと、新しい店舗の様子とかさ」
「区分けは前にサムが話したことを前提に考えてある。新しい店舗はまだだな」
「なら、とりあえずは移設が先で、新しい店舗は外観だけでも考えといてよ。必要な階数とかさ」
「なんだ、それもケインが用意してくれるのか?」
「するよ。言い出しっぺだからね」
「それはありがたいな」
「でも、後で起きる騒動までは面倒見られないからね」
「やっぱり起きるのが前提か……」
「そりゃそうでしょ」
すると横で聞いていた兄ズが口々に言う。
「父さん、今更だって。ケインが絡んでなにも起きない方が珍しいんだから」
「僕もそう思うよ。でも、この場合はしょうがないよね。質問責めに合うとは思うけど頑張ってね」
「……」
「つむじの大きさを測る魔道具を作る予定なんだけど、いる?」
「いらん!」
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