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◆節食もダメでした

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海で溺れていたマサオをなんとか引き上げ、浜辺に戻り舟から下りる。
マサオが潮水でびしょ濡れなのは仕方がないとしても、なんで俺までびしょ濡れなんだよ!

『ケイン、そう怒るなよ。だって、しょうがないじゃんか! あのブルブルってのは本能で止められないんだからよ』
「それはわかるよ。本能だもんね。でもさ、こっち見て笑ったよね? 俺の気のせいじゃなきゃいんだけどさ。なんとか引き上げてぐったりしていたから、早く戻らなきゃとか考えていた時に、ちょっと笑ってからブルブルってしたよね?」
『え……そ、そうだったかな~よく覚えてないや』
「そう、まあ、それならいいけどさ」
『……なあ、正直に言えば怒らない?』
「さあ? 話の内容によるよね」
『怒らないって約束してもらわないと、話せないんだけど……』
「それ、確実に怒られる前提で話しているよね? ってことは……」
『あ! あ~俺のバカ! ごめん、悪気はなかった。でも、本能でしたのも事実だ!』
「もういいよ、ほら昼の前に綺麗にするから、そこに座って」
『お、おう。優しく洗ってくれよ』
「まあ、なるべく優しく洗うから」
そう言ってお返しとばかりにニヤリと笑って魔法を発動する。
『お、お前、なんだよ! その笑顔は!』
「別に。どうせやるなら楽しくしないとね!」
そう言って、マサオを水球に閉じ込める。いきなり水球に閉じ込められ、なんとか顔だけ水球から出す。
『溺れさせる気か!』
「え~そんなことないよ。ちゃんと洗うから。そのままじっとしてて」
水球の中を風魔法で渦を作り攪拌させ、マサオの毛に染み込んだ潮水を洗い流す。
「ほら、ちゃんと顔を付けないと頭を洗えないでしょ!」
『バカ、バカ溺れるわ! そんなん出来るか!』
「じゃ、無理矢理にでも洗うね。えい!」
今の水球より、ひと回り大きい水球でマサオを囲んで取り込むと思いっきり撹拌すること三十秒。
「こんなもんかな」
水球から解放したマサオがぐったりしている。
「ほら、乾かすからじっとしてる」
マサオに熱風をドライヤーのような感じで四方からあてて乾かした。
「終わったよ~」
『やっと、終わったか~じゃ、次はお前の番だな』
「なに、言ってんの。マサオを洗っている間に済ましたに決まっているじゃん」
『へ?』
「なに、驚いているの?」
『イヤ、だって魔法って複数同時発動は出来ないって聞いてたぞ』
「へ~そうなんだ」
『そうなんだって、お前……』
「だって、今までやってたじゃん。なに今頃驚いているのさ。ほら、お昼食べ損ねるから早くしてよ」
『そういや、そうか。まあ、こいつに関しては本当に今更だな』

マサオが落ち着きを取り戻したので、ガンツさんのところに戻る。
「なんだ、遅かったな。なんかあったのか?」
「あったもなにも、マサオがさ『ケイン、言うな! 頼む!』……なんでよ。いいじゃない」
「マサオがなにかしでかしたんだな。まあ、いいがな。どうせ、くだらんことだろうし」
『くだらないって言うなよ~! 俺は死にかけたんだからな、それも二回も!』
「あ~言っちゃった……」
『あ!』
「ほう、マサオは死にかけたのか。二回も死にかけたってのが分からないが、どっちもケインに助けられたんだろ?」
『一度目は確かに溺れているところを助けられた』
「ぷっ! 溺れた? お前が? フェンリルなのに? もう自称フェンリルだな! ははは!」
『笑うなよ。だから、言いたくなかったんだ……』
「いやぁ悪りぃ悪りぃ。で、なんで溺れるような目にあったんだ? この辺には魔物なんていなかったはずだがな」
『……』
「マサオが言わないのなら、俺が言うね。足が攣ったんだってさ」
「ハァ~? 足が攣った……もう、お前、野生が抜けきってんな~」
『言うなよ~俺も反省はしているんだからさ~』
「でね、ダイエット目的で飯を減らすって言ったらさ、思いっきり反抗してきてさ。そのせいで、俺までびしょ濡れにされちゃってさ。ホント、助けたってのにえらい目にあったよ」
『その後、しっかり仕返ししたくせに……』
「そうか。で一回目の死にかけたのは分かったが、二回目はなんだ?」
『それは、ケインのせいで……』
「ああ、それはね。潮だらけになったから、洗おうってことになって、うっかり水球に閉じ込めたまま、攪拌したのを怒ってんだよ」
「なんだ、そんなことか」
『そんなことって、こっちは死にかけたんだぞ!』
「だから、そうならないようにちゃんと調整したでしょ。もうグチグチ言わないの! ほら、昼食べないの?」
『食うよ! 食うけど、もう量を減らしてるじゃん』
「なに言ってんのさ。それが今までの量じゃない。ん? お前、うち以外で誰かに貰ってる?」
『な、なんのことかな~』
「もしかして、マサオ以外の名前で呼ばれてたりしてる?」
『ど、どうかな~』
「シロ」
そう呟くとピクリとマサオの耳が反応する。
「これも候補の一つと。じゃあ、次は……」
『分かった。分かったから、言うよ。貰ってる! 他の家でもたま~に飯を食わせて貰ってる』
「ハァ~なんでそんなことに?」
『いや、俺からくれとは言ってないからな。これはホントだぞ』
「まあ、いいよ。どうせ、その辺に寝転がっていたら、構ってくれる人たちが、最初におやつをお前にあげたら、なにも警戒せずにバクバク食べるのを面白がって、次から次にやる人が増えたとかそういうことなんでしょ」
『お前、すげ~な。まるで見てたように言い当てるな』
「もう、そんなのいくらでも想像がつくよ。まあ、今はそれしかないから、よ~く味わって食べるんだよ」
『ない……』
「ないって、さっきあげたばかりじゃん」
『だから、もうない』
「お前、さっき味わって食べろって言ったばかりじゃん!」
「ケイン、もうお前が話していた時点でなかったぞ」
「ハァ~……」
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