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◆年内いっぱいはフル稼働でした

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「ガンツさん!」
「おう、ケインも来たか!」
「来たかじゃないよ! 皆してこっちに来たら、向こうの片付けが進められないんだけど?」
ドワーフタウンの工房でガンツさんを叱り付ける。

「悪かった。おし! じゃ、向こうに戻って片付けるぞ!」
「「「「「はい、親方!」」」」」
ドドドと凄い音を出しながら、ドワーフの集団が転送ゲートの扉を潜っていく。

「ほら、ケイン。お前も行くんだよ」
「なんで俺が?」
「なに言ってんだ。あの設備の大きさじゃ、この扉は通らないだろ」
「そうだね。で?」
「で? じゃないだろ! お前が収納して、ここを通るんだよ! ほら、行くぞ」
「もう、面倒だな~」
「面倒じゃない! ほら、早く済ませて作るんだろ?」
「あ、そうだった。ほら、なにしてんの! さっさと行くよ!」
「おいおい、ケイン。そりゃワシの……」
皆が通った後の転送ゲートの扉を潜って領都の工房へと戻る。

「よし、なら、この辺のを全部持って行ってくれ」
「全部? いいの?」
「ああ、ここには受付業務だけ残す。まあ、搬入搬出は今まで通りだがな」
「あ、それなら転送ゲートをもう一つ用意しないとダメじゃん。その搬入搬出用に」
「それもそうだな。まあ、それは落ち着いてからでいいから、今は移設だ」
「分かったよ。じゃ、根こそぎ持っていけばいいんだね」
「ああ、それで頼む」
ガンツさんの指示で、工房内の設備や資材、資料とか根こそぎ収納する。

「どう? これでいいかな?」
「ああ、十分だ。ボビーいいか?」
「はい。ケイン君、ありがとうございます」
すっかりキレイになった工房を目にしてボビーさんは少し驚いていたが、気を取り直して俺に礼を言ってくる。

「まだ、向こうに行ってやることがあるんですから。ほら、お礼はいいですから行きましょう」
「そうですね。それと引っ越しはどうすればいいんですか?」
「引っ越す方は、この空っぽになった工房に引っ越し荷物を置いておけばいいですよ。後で、大きな転送ゲートを用意しますから。それが出来たらリヤカーでも車でも使って運び出せばいいんですよ」
「それもそうですね。じゃ、また向こうに行くんですね……」
「ねえ、ボビーさん。さっきから気になっていたんだけど、なにがイヤなの? 転送ゲートが怖い風にも見えないし」
「ああ、そうか。そうですよね。ちょっとおかしく思えますよね」
「まあな、さっきはワシが手を繋いで無理矢理通ったが、なにかあるのか?」
「絶対に他の人には言わないでくださいね」
「ああ、言わねえよ。で、なんなんだ?」
「……閉所恐怖症なんです」
「ん? なんだそりゃ」
「ガンツさん、要は狭いところが苦手なんですよ」
「なんだ、そんなことか」
「ガンツさん、そんなことかと言いますが、私にとっては大事なんです」
「ガンツさん、それはないよ。そんなこと言っちゃダメだよ」
「そうか、それは済まんかった。だがな、どうもイマイチ実感が湧かなくてな」
「そうですよね。この病気は発症した人じゃないと分からないですよね」
「ボビーさん、そういう症状は人それぞれですが、対処法はないんですか?」
「ありません。とりあえずは車とかでも窓から外が見えるので大丈夫ですが、その転送室みたいに狭い部屋だと、どうしても苦手意識が働いてしまって……」
「じゃあさ、ボビーさんは搬入搬出用のゲートを使えばいいんじゃないの?」
「それもそうだな。だが他の奴が文句言ったらどうする?」
「その時はボビーさんの症状を素直に話して納得してもらうしかないでしょ」
「私の症状を告白するんですか?」
「その時になったらだけどね」
「そうですね、分かりました」
「じゃ、今は俺のゲートで行こうか」
「はい、お願いします」
転送ゲートをドワーフタウンの工房へと繋いで潜っていく。

「じゃガンツさん。向こうから持ってきた物をどこに置くか指示してね」
「ああ、任せろ」
「ちょっと待った!」
向こうから持ってきた設備をガンツさんの指示で置いていこうとしたら、そこへイーガンさんが口を挟んできた。
「なに? イーガンさん」
「ケイン君、一旦向こうから持ってきた設備や資材とか、出してもらっていいかい?」
「それはいいけど? ガンツさん、いいの?」
「そうじゃ、イーガン。なんで止めた?」
「親方、もうここには出来上がった動線があるんだから、好き勝手に物を置かれたら困るよ」
「ああ、そういうことか。分かった、ケインここに出してくれ」
「うん、分かった。じゃ、出すね」
そう言って、領都の工房から持ってきた設備や資材や資料なんかをその場に出していく。

「よし、とこれで全部かな」
「どうじゃ、ボビーよ」
「今、確認しますね」
「おう、頼むな。それで、イーガンよ。これはどこに置いていくか決めてくれ」
「ああ、分かったよ。ちょっと待ってね。お~い! ちょっと手が空いている人~」
周辺の工員に声を掛けると、数人で設備を持ち上げ、イーガンが定めた場所へと置いていく。
「うわぁ~やっぱドワーフって凄いね~いつもお年寄りが相手だから、若い人の力なんてわからなかったよ」
「ワシだって、あれくらい」
「嘘は良くないよ。ガンツさん」
「う、嘘じゃない!」

そんなガンツさんを宥めすかして落ち着かせ、工房内が新しくレイアウトされていくのを見る。
「ヘェ~動線の確保がちゃんとされているって言ってたけど、これはなかなか」
「どう? ケイン君から見て」
「イーガンさん」
いつの間にか俺の横にイーガンさんが来て話しかけて来る。

「ガンツさんの言う様に置かなくてよかったです」
「ふふふ、ケイン君にそう言って貰えたなら、成功だね」
「ガンツさんとの大雑把さとは、また違った繊細さが分かりますね」
「おお、分かってもらえるとはね~いやぁ嬉しいね~」
「ははは、ところで、随分と草刈りが進んでいる様ですが、なにも問題はないんですか?」
「ああ、今のところはなにもないな。で、そろそろ草刈りが終わってしまうんだが、次はなにをするつもりだい?」
「次は、計測して区割りを済ませたら、その区割りに沿って取水用の水路を用意するつもりです。その後は、道路を作って、畑を分けて果樹園や水田にビニールハウスに……」
「ちょ、ちょっと待ったケイン君。君はどこまでやるつもりなんだい?」
「どこまでって、冬になる前に今言ったことは済ませたいですね」
「冬になる前って、あと二ヶ月くらいか。中々忙しいね。で、俺達はなにを作ればいい?」
「もしかして、餓えています?」
「ああ、君が作るのは面白い! 親父がくっついているのも正直羨ましいくらいだ」
「なんじゃイーガン、ワシを代わるつもりか?」
ガンツさんが後ろからイーガンさんに話しかける。
「ああ、親父も歳だしな」
「バカ言うな! こんな面白いこと、そうそうやめることなぞ出来んわ!」
「だから、それに俺も加えてほしいって言ってんだけど」
「イーガンさん、多分また色んな製品の注文が増えますよ。今もエアコンや冷蔵庫とか忙しいんじゃないですか?」
「ああ、この親父が引っ張ってきた注文でな」
「すみませんでした。それ、俺も関係しているんですけど」
「まあ、ケインが関係というか、ほぼほぼケインのせいじゃな。なんせ、王城全体にエアコンを着けようってんだからな」
「なあ、なんでそういう話になってんだ?」
「さあな、ワシに言われてもな。そこのケインに聞いてみるんだな」
「ガンツさん、ひどい!」
「なにが『ひどい!』じゃ。全部お前の考えで動いた結果じゃろうが! ま、これで登城した貴族が我先にとエアコンを欲しがるじゃろうから、年内は稼働しっぱなしじゃろうな」
イーガンさんがなにか言いたそうにこっちを見てくるので、思わず口から出る。
「ごめんなさい」
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