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◆移転しようとしました

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翌朝、父さんに昨夜の話のことで「ちょっと真面目に考えてみるな」と言われる。
意外と移築の方でまとまりそうだなと思ったけど、それならそれで俺も楽になるしいいかと思った。

朝食を済ませるとドワーフタウンの工房へとゲートを繋いで潜る。
「おう、来たか。待ってたぞ。さあ、早く作ろう!」
「ねえ、ちょっと待って。ここに来る前に思い出したんだけどさ、領都の工房の移転の話もあったよね?」
「ああ、そんな話もあったが、放置してたな。で、『も』ってことは他にもあるのか?」
「そう、実はさ……」
昨日の父さん達との話を聞かせて、どこか空いているかをガンツさんに確認する。
「まあ、住宅地はまだ空きがあるからな。いつでも用意出来るぞ」
「分かった。ありがとうね。じゃ、領都の工房に行こうか」
「おう、そうじゃな」
「ちょっと、待って下さいよ~なにいないものとして扱ってるんですか!」
「あ、ジョシュアさん。おはようございます。じゃ」
「おはようございます。って、『じゃ』じゃないでしょ!」
「もう、なんだ。ジョシュアよ。ワシらはさっさと用事を済ませて、船を作りたいんじゃよ」
「それ! なに人を無視して作ろうとしてんですか! 俺、言いましたよね。次になにか作る時には教えて下さいって」
「ああ、そうじゃったな。じゃあ、も少ししたら船を作るから。じゃな」
「そうなんですね。……ってならないですからね」
「なに? ジョシュアさん、ちゃんと言ってくれないと分からないよ」
「じゃあ、はっきり言います。俺にも手伝わせて下さい」
「それはライセンスを取ってからって話になったんじゃなかったっけ?」
「ぐっ……それはそうだけど」
「じゃ、そういうことで」
「でも、たまにはいいじゃないか!」
「ジョシュアさん、約束は約束です。まずは車のライセンスを取ってからですね。それに船はこれから、まだいっぱい作る予定だから、焦る必要もないよ」
「でも、俺だって……」
「はい、この話はここまで。後にいっぱい作る物が控えているからね。早くライセンスを取らないともう、ジョシュアさんがライセンス取る頃には物作りに飽きてしまうかもよ」
「な! 嘘でしょガンツさん」
「まあ、あり得なくはないな。こいつもワシも飽きると興味がなくなるからの」
「そんな~」
「なら、早くライセンス取って下さいね~」
「ケイン君の意地悪~」
ジョシュアさんが目から汁を流しながら、部屋から走って出ていく。

「お前、泣かすなよ~」
「俺のせいなの?」
「まあ、全部とは言えないがな」
「ほら、それより移転を進めようよ。多分、放ったらかしで呆れていると思うけどさ」
「そうか? 一日だろ」
「それでもだよ。ほら、急ぐよ」
ゲートを王都の工房の俺の部屋へと繋げるとガンツさん達と潜る。

皆が潜って出てきたのを確認し、ゲートを閉じると机の上の内線電話をガンツさんが受話器を上げるとボビーさんを呼び出す。

「ガンツさん、なにしてたんですか!」
ボビーさんが部屋に入るなり、ガンツさんを怒鳴りつける。
「ボビー、まあ落ち着け」
「落ち着けじゃないでしょ! 遅れるなら遅れるで連絡くらい入れるのが社会人としての努めでしょ!」
「済まない」
「まあ、いいです。で、今日ここに来たのは移転を進めるためと思っていいんですね?」
「あ、ああ、そのつもりで来た。なあ、ケイン」
「うん、ボビーさん、遅くなってごめんね」
「いえ、ケイン君は悪くありません。悪いのはそこにいるガンツさんなんですから」
「それじゃあさ、向こうに移住してもいいって人を集めといてもらえるかな。あ、それと別に今日引っ越すわけじゃないから慌てないように言っといて」
「分かりました」
それから、皆で下に行き、俺は工房の隅にドワーフタウンの工房へと直接繋ぐ転送ゲートの専用室を作る。
ボビーさんは他の工員達に今からする作業と移住希望の人達に説明している。
ガンツさんは工房内の設備を移設するために他の工員達と一緒に作業している。
マサオは……あくびしながら眠そうだ。

転送ゲートの部屋を作るとドワーフタウンの工房へとゲートを繋いでいきなりだけど、今から領都の工房の設備を移転させることを伝える。
「また、いきなりだな」
「話はしてたはずでしょ?」
イーガンさんにそういうと少し首を傾げながら俺に言う。
「確かに移転話は聞いていたが、いつとはっきり言われた覚えがないような気がするんだが……」
「そ、そうかな? ま、今から移設するからあそこでいいのかな?」
その前に工房入り口のすぐ横に転送ゲートの専用室を作ると中に入り、転送ゲートの扉を設置する。
「ここはこれでよし! と、認証はいいか。じゃ、向こうに戻るね」
そのままイーガンさんに軽く挨拶し、領都の工房に戻るとゲートを閉じて、作った転送ゲートの専用室の中に入り、ここにも転送ゲートの扉を設置する。
一度、開いてドワーフタウンの工房に繋がることを確認すると、ボビーさんに話しかける。
「転送ゲートは設置したから、もう自由に向こうに行けますよ。最初はボビーさん、どうぞ」
「私がですか?」
「そう! やっぱり責任者が最初じゃないとね。はい、どうぞ」
「どうしても?」
「どうしても」
「いやでも?」
「いやでも」
「……」
「どうしました?」
「なんじゃ? ボビーよ怖いのか?」
「ガンツさん、そうではないですが……」
「はっきりせんの~よし、ワシが手を繋いで一緒に潜ってやろう! ほれ、行くぞ」
「あ、ガンツさん……」
ガンツさんに手を引かれ、ボビーさんが転送ゲートの扉を潜る。

「行っちゃったよ」
二人を見送り、工房へと視線を戻すと工員達が興味深そうにこちらを見ている。
「潜る?」
「いいんですか?」
「いいも、なにも今からずっと使うんだから」
「それもそうですね。じゃ、俺から」
「じゃ、次は俺が……」
そう言って、次々と扉を潜っていく工員達だった。

「もう、皆して行っちゃったら、誰がここの施設を動かすのさ」
しょうがないので、俺も扉を潜って、ドワーフタウンへと行く。

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