上 下
223 / 468
連載

◆ヤマでした

しおりを挟む
「デュークよ、そこまで言うのか?」
「ええ、言わせてもらいますよ。私が罰せられるのを覚悟して、提言したにも関わらずに、いい機会だと捉えたのはハロルド王ですよね」
「ああ、だが余がそれを認めるとでも?」
「今度はそうきましたか。しょうがないですね、出来れば出したくなかったのですが……」
「な、なにを出すというのだ。まさか……武具の類は持ち込めないはずだ」
「そんな物ではないです。セバス」
「はい。旦那様、これを」
「ありがとう。ハロルド王、これをご覧になっていただけますか?」
デュークがタブレットを起動すると、ある動画が流される。
そこにはハロルド王とデュークが映っており、昨日の会談のようだ。

~タブレット上で~
「まあええ、今夜の襲撃の件は分かった。バカどものことは任せてもらおう。それと其方には責任が及ばないようには配慮しよう」
「ありがとうございます」

~再びハロルド王~
「どうです? 確かに言ってますよね」
「あ、ああ、だが、これが余であると誰が保証する? 当然だが、余は否定するぞ」
「どこからどう見てもハロルド王なのですがね~そこまで、貫くのであればこちらも引くに引けなくなりますが」
「ま、待て! それはどういう意味だ。なにをする気でいる」
「ハロルド王が約定を違えるのであれば、私もそれに従う道理はないと思いますがね」
「なにを言うか。余は王で、其方は王国に仕える貴族であろう。なら、余の言うことに従うべきではないのか」
「そう、仰いますが、なにも一から十まで従う必要はないと思うのですよ。そんなに『はい』しか言わない部下がいいならば、木偶でも並べておけばいいでしょう。それに王国に仕えるのであって、王に仕えるのではないと思いますが」
「だが、余は王国の代表であろう。ならば、それに従うのが道理だ」
「では、頭が違うことを言い出したても手足は黙って従えと言うのですか?」
「ああ、そうだ。その通りだ。だから、余の言うことに従うのだ。いいな、これは命令だ」
「そうですか、では命令だと言うのであれば、口ではなくちゃんとした書面でいただきたいのですが」
「ふん、それくらいならば、すぐに準備させよう。おい!」
「はい、ここに」
側に控えていた執事が、一枚の書面をハロルド王の前に出す。
ハロルド王が書面に書かれている内容を確認すると、そこには『港の権利をシャルディーア伯に全て一任する』と書かれていた。
「なんだ、これは内容が違うぞ。すぐに作り直せ!」
「いえ、これで合っております。書面にサインをお願いします」
「なにを言うか。おい、こいつをつまみ出せ!」
すると部屋の扉が開かれ、男がツカツカと中へ入ってくる。
「父上、いやハロルド王よ。あなたは少し疲れているようですね。しばらくの間、静養してはどうでしょうか? そうですね、今なら避暑も兼ねて涼しい山など如何でしょうか」
「な、なにを言うか! ハリソン、お前はまだ、王太子の身であろう」
「そうですね、今は王太子として、国に仕えております。ですが、今のハロルド王の発言内容を聞く限りでは、このままでは王国の危機と感じましたので、是非とも療養していただきたいと思いまして」
「お、お前まで余に逆らうのか!」
「逆らうとはまた、穏やかではありませんね。私は、そこのシャルディーア伯が仰られるようにハロルド王ではなく、国に仕える身なので国のことを考えて、ハロルド王に静養を勧めております」
「な、なぜだ! 余の気がふれたとでも言いたいのか!」
「ええ、そうですね。そう捉えたのは方がスッキリしますね。どう考えてもハロルド王の言うことが間違っているとしか思えません」
王太子であるハリソン王子が父であり、国王でもあるハロルド王にデュークの目の前で事実上の引退である蟄居を申し渡しているのである。
『どうしてこうなった』
デュークは目の前の出来事を見ながら、そう思わずにはいられなかった。

ハロルド王がハリソン王子の目の前で、屈辱に身を震わせながら書面になんとかサインをすると、デュークに渡す。
その時になぜか睨まれ、口元が小さく動き呟くので、よく聞いてみると。
「覚えていろ!」
そう、ハロルド王が言っていた。

「なぜ、俺が恨まれることになるんだ。これもあいつが……」
「シャルディーア伯、それ以上強く思わない方がいいと思いますよ。彼はあなたに対してはなにも害を与えていないはずです。それどころか、領自体の発展に尽力しているのではないですか? あなたまで父と同じ道を歩むのですか」
「ハリソン王子……そうですね、分かりました。では、書面もいただきましたので私共はこれで失礼します」
「そうですか。シャルディーア伯、余計なことかもしれませんが、この部屋の中で起こったことは、くれぐれも……」
「分かっております。私もまだ、領の発展を見届けたいので……」
「ええ、そうでしょうね。私もあなた方とは、これからも仲良くしていきたいと思います。では、お気を付けて。あ、エアコンの発注はシャルディーア伯宛でよろしいですね」
「あ、はい。それでお願いします」
「では、後ほど」
「はい、失礼します」
そう言って、ソファから立ち上がると、少し急いで部屋からの退出を試みる。
『一刻も早くこんな所から出たい!』
そう思うデュークを後ろから見ながらセバスも同じ思いで、少し早足で王城からの脱出を試みる。

王城から出ると用意されていた馬車へと飛び乗り、出来るだけ急いで屋敷に戻るように御者へと指示を出す。
「分かりました」
そう言って、御者が馬車を走らせたところで、デュークが嘆息する。
「ハァ~なんとか出ることが出来たな」
「ええ、まだ安心は出来ませんが、王城から出られたので」
「しかし、なにも俺がいる目の前ですることじゃないだろうに」
「まあ、大凡ですが、計画自体は進行していたのでしょうね。そう考えれば、これまでの素早い行動も納得出来るというものです」
「そうだが、今の王にそんなに不満があったのか?」
「それは私共は王都から離れているので、そこまでの情報は得られていなかったですね」
「そうか。で、お前はどう思う?」
「それは、これからのことですか?」
「ああ、あの王太子が、どこまで泳がせてくれるかだがな」
しおりを挟む
感想 254

あなたにおすすめの小説

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。

天災少年はやらかしたくありません!

もるもる(๑˙ϖ˙๑ )
ファンタジー
旧題:チート(現代知識)×チート(魔法)×チート(武術)はチート∞(天災級)?! 【アルファポリス様にて発売中!!】 「天災少年はやらかしたくありません!」のタイトルで2022年10月19日出荷されました! ※書籍化に伴い一部を掲載停止させて頂きます あれ?何でこうなった? 僕の目の前の標的どころか防御結界が消滅。またその先の校舎の上部が消滅。 さらにさらに遠く離れた山の山頂がゴッソリと抉れてしまっている。 あっけにとられる受験者。気絶する女の子。呆然とする教員。 ま……まわりの視線があまりにも痛すぎる…… 1人に1つの魂(加護)を3つも持ってしまった少年が、個性の強い魂に振り回されて知らず知らずの内に大災害を発生させて、更なるチートで解決していく物語です! 書籍化記念書き下ろし 天災少年はやらかしたくありません!スピンオフ Stories https://www.alphapolis.co.jp/novel/589572036/842685585 第2部『旅行中でもチート(現代知識)×チート(魔法)×チート(武術)はチート∞(天災級)?!』 https://www.alphapolis.co.jp/novel/589572036/979266310 第3部『ダンジョンでもチート(現代知識)×チート(魔法)×チート(武術)はチート∞(天災級)?!』 https://www.alphapolis.co.jp/novel/589572036/211266610

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

月が導く異世界道中

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  漫遊編始めました。  外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。