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連載
◆どこかのお話でした
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~セバスが馬車を倉庫で引き取った後の話~
辺境伯のお屋敷内の一室にて。
「セバスよ。戻ったか」
「はい、旦那様、領都より無事に馬車を運び入れることが出来ました」
「そうか、なら後は王に謁見の申込みをして、早ければ明日にでも行くとするか」
「いえ、すでに冷蔵庫は載せていますし、このまま王城の方へ出かけましょう」
「なに言ってんだ? まだ王には面会予約すらしていないぞ」
「その辺は抜かりなく。事前に全て終わらせています。また、今から会うのも非公式として謁見ではなく別室でのお話ということにしてもらいました」
「そ、そうか。妙に手回しがいいな」
「はい。ケイン様より今夜にも夜襲があるかもとご助言いただいております故」
「ああ、そうだったな。だが、本当に来るのか?」
「旦那様、今日も道中で襲われましたが、ご存知ありませんでしたか?」
「襲われた? いつの話だ。そんなことはなかっただろう。実際に止まることなく難無く王都に入れたのだから」
「いいえ、しっかり襲われました。旦那様が乗る車もメイド達が乗るマイクロバスも。それに先行していたバイク隊も襲われましたが、誰も怪我することなく進むことが出来ました。これもケイン様が障壁を張るようにしてくれたお陰です」
「そうか、では気のせいということはないんだな?」
「はい。誰もどこにも傷が付いておりませんので、襲撃されたという証拠にはなりませんが、記録として、映像には残っております」
「なんだ? その記録というのは」
「ケイン様曰く『ダッシュカム』と言うもので、走行中の全方位の全ての記録を行うとか」
「ハァ~もうなんでもありだな。で、王様とは今から、会えるんだな?」
「はい、献上する蒸留酒も用意しております。あと、魔道ミキサーも忘れずに」
「ホント、お前はケインのことになると妙に活発になるというか」
「それは次に仕える方ですから」
「また、それか。いいか? 今は俺に仕えてくれているんだから、俺のことを第一に考えてくれよ。頼むぞ」
「はい、旦那様が後ろ盾として頑張っていただければ、ケイン様も楽になれるのでお任せください」
「もういいよ、回り回って俺の為になるのなら、言う通りにしてやろうじゃないの」
「はい、ではお着替えを済ませたら、王城へと参りましょう」
「分かったよ。もう、中止にならないかな~」
「私は構いませんが、すでに面会の約束は取り付けていますので……」
「そうなんだよな~もうショーンに行かせようかな~」
「それはまた、なんと言うか大胆すぎると言いますか」
「もう、ハッキリ言えよ」
「では、言わせていただけると……自殺行為に等しいかと」
「だよな~はぁ行くしかないか……」
「そうして下さい」
しばらくした後、登城するに問題ないくらいの格好に着替えたデュークとセバスが揃って馬車へと乗り込む。
「ハァ~なんだか胃が痛くなってきた」
「そうですか。では、お城に着くまで我慢するしかないですね」
「セバスよ。ここは当主を労って引き返そうとか思わないのか」
「もう、ここまで来たら覚悟を決めて下さい。旦那様の一言で救われる貴族家もあるかもしれませんよ」
「そうなんだよな~俺もなんで、車で来るって言っちゃったんだろうな~」
「今更、反省しても遅いですよ。領都を出発する以前から、周りに監視の目がありましたから」
「ほ~そんなにか」
「ええ、数人は捕らえましたが、後は適当に泳がしていますので」
「なら、全部捕まえた方が楽じゃないのか?」
「そうすると変に目を付けられたり、優秀なのに入れ替わったりとややこしくなるので、適当に間引くのが一番です」
「そっか、なんか雑草みたいだな」
「ええ、本当に。狩っても刈ってもどこからか出てくるんですからね」
「なあ、刈った後はどうしてるんだ?」
「聞きたいですか?」
「いや、やめとこう」
「それが賢明かと」
「優秀すぎるのも考えもんだな」
「なにか?」
「いや、独り言だ」
「左様ですか」
「セバス様、そろそろ、お城に着きます」
「分かりました。一旦、衛兵の前で止めて下さい」
「分かりました」
「着いちゃったな~」
「覚悟は決まりましたか?」
「そんな大層なもんは持ってねえよ。王にどうか、バカ貴族を出さないようにとお願いするだけだ」
「ええ、それで構いません。ですが、どこの世界でも跳ねっ返りというのはいるものですからね。逆恨みで旦那様に跳ね返って来ない様に十分に王様にご忠告して下さい」
「あ~逆恨みね~ないとは言い切れないな」
「まあ、今夜の襲撃が終わりましたら、お屋敷は完全警備に入りますので大丈夫ですよ」
「ああ、なんだその『完全警備』ってのは?」
「はい、ケイン様から、お屋敷全体を包める障壁を張る魔道具を頂きましたので」
「そんなもんいただくなよ~誰に目を付けられるか分からないじゃんか~」
「大丈夫です。いざとなれば、国ごと切ってしまえばいいのですから。幸い我が領都は国境に近いですし」
「もう反乱する気じゃん! 俺はしないからな!」
「旦那様。旦那様にその気がなくても逆恨みで、ほとんどの貴族から弾圧される可能性もあるのですから、そのくらいは予測しておいた方がいいかと思いますが」
「セバスよ。そうは言うが、実際に戦になったらどうすんだ?」
「多分、負けるでしょうね」
「だろ? 俺だって負け戦には加担したくないからな」
「いえ、負けるのは相手の方ですよ」
「そうか? なんでお前はそう、やたらと自信満々なんだ?」
「私とケイン様の仲ですから」
「なにか切り札があるってことか?」
「そうですね、今はその解釈でいいかと思います」
「怖いよ。お前達本当に転覆とか考えてないよな?」
「ケイン様は自身の身内になにかあれば手段は選ばないと仰ってましたね」
「分かった。今日の王との面会で十分に釘を刺すし、俺に逆恨みもしないようにちゃんと根回ししてくるから、お前はちゃんとケイン達が暴走しないようにしてくれよ」
「ふふふ、どうですかね。どちらかと言えば一緒に暴走してしまうかもしれませんね」
「……」
「着きました」
「はい、ご苦労様です。シャルディーア伯が面会の為、登城します」
セバス様が城門の衛兵にそう声を掛けると、確かにと登城予約者一覧を確認した後に馬車での通行を許可されたので、そのまま馬車で通り抜ける。
王城の正面玄関でセバスが先に馬車から降りるとデュークをエスコートして馬車から降ろす。
「来ちゃったな。ハァ~」
「さ、行きましょう旦那様」
王城にデュークがセバスと一緒に入っていく。
「王がお部屋でお待ちです。私に着いてきて下さい」
執事らしき人物がデューク達を案内し先行する。
とある部屋の前で軽くノックすると中から、「入れ」と応答があったので執事がドアを開けると中へと招き入れられる。
「久しぶりです。ザナディア王」
「あ~よいよい非公式じゃ。楽にせい」
「それではハロルド様、お久しぶりです。まずはこれを」
セバスがテーブルの上に蒸留酒と魔導ミキサーを置く。
「ほう、これが噂のシャルディーア産の蒸留酒とやらか。それとこちらが魔導ミキサーじゃな」
「ご存知でしたか」
「ふふふ、諜報部隊がいるのは知っておろうが。それで冷蔵庫はどこに?」
「そこまで知っていましたか。それはまだ、馬車の中に積んだままなので、帰りにでも……」
「よいよい、誰か」
テーブルの上の呼び鈴を鳴らすと控えていたメイドが部屋に入ってくる。
「シャルディーア伯の馬車に私への土産が積まれているのでな、それを下ろしておくように伝えてくれ」
「賜りました」
メイドにそう伝えるとメイドが部屋から出ていく。
「流石に其方の領から運んで来るのは重いのでな。いやいや助かった。それで今回は例の小僧絡みなんじゃろ。今夜なにが起きる?」
「はっ、そこまで調査済みでしたか」
「それはいいから、なにが起きるのか早う教えてくれ」
「では、失礼して……」
デュークが今夜襲撃されるであろうこと、その後に起こるなにかは不明だが、襲撃に加担した者は、その上層部にまで呪いが感染すること、その呪いを解除するには感染者が罪を心の底から悔い改めることでしか、解呪されないことを告げる。
「なるほど、それで貴族の大半が潰えるかもしれんと言うわけじゃな」
「はい、その通りです」
「恐ろしいの。しかし、そんな貴族はこちらから願い下げじゃな。ちょうどいい、一斉取り締まりじゃ」
「え? いいのですか」
「どうせ、どうしたってそういう連中はやらかすじゃろ。なら、早いか遅いかの話だけじゃ。なら、私が手を下さずとも自ら滅んでくれるのじゃろ。いい話じゃないか」
「ですが、残された領民はどうなるのですか?」
「まあ、そういう連中なら、反発するのもいるじゃろ。なら、そいつらの中から代表を出して、代官としておけば済む話じゃ」
「そんな簡単に……」
「なに、難しそうなら、国が手を貸せばいい。ほれ」
ハロルド王が手を出して、デュークに催促する。
「手土産はこれだけじゃないんじゃろ? 携帯電話とやらはないのか」
「いえ、用意してあります。セバス」
「はっこちらを」
セバスが王の執事へと携帯電話を渡す。
「ほう、これか携帯電話とやらは。で、使い方は?」
「は、ではこちらを私の番号ですが、これをその数字のボタンで順番に押してもらえますか」
「これか、え~と最初は0で……」
ハロルド王に対する携帯電話講座が始まり、セバスは執事にもう一台を渡して教えていた。
「うん、なんとなく分かった。では、小僧の番号は?」
「まさか、今から掛けるのですか」
「なんじゃ止めるのか?」
「はい、今は止めていただけないでしょうか」
「その理由を聞いても?」
「はい、あいつはなにかあれば、この国を捨てることも考えています。そうなれば、この国にとって大きな損失としかなりません。なので、許していただけるのであれば、今は大人しく見守っていただければと思います」
「そうか。だが、今夜の騒ぎはその小僧が原因で起きるのであろう。なら、その責任の一端として少し話をさせて欲しいのだがな」
「話であれば、私がお聞きしますので」
「そうか。では、其方達は国に対して不満はないんじゃな」
「はい、あいつに対して、こちらから手を出さない限りはなにもしないことは確認しております」
「では、もしその小僧の身内に対しなにかあれば、どうなると?」
「壊滅するでしょう」
「それは、どのくらいのレベルで?」
「この大陸ですね」
「マジで?」
「え? マジです」
「やっぱり、そのくらいはするだろうな」
「ハロルド王はなにをご存知で?」
「ドワーフタウンは知っているよな?」
「ええ、それはもう」
「そのドワーフタウンから、なにかが飛び立つのが何度か目撃していると報告が上がっている」
「飛び立つ? 鳥かなにかですか」
「其方は知らんのか」
「ええ、さっぱり」
「諜報部隊からの報告でも目で追うことも出来ないし、格納されているであろう建物に近づいて中を確認してもなにもなかったとしか報告されとらんでのう。なにもかもが不明じゃ」
「そうなのですね」
「まあええ、今夜の襲撃の件は分かった。バカどものことは任せてもらおう。それと其方には責任が及ばないようには配慮しよう」
「ありがとうございます」
「だが、落ち着いたら、その小僧に会わせるのが条件じゃ。いいな忘れるなよ。諜報の目も光っとるということをな」
「は、承知しました」
「ならば、話はこれまでじゃ。土産の酒を楽しませてもらおう。其方もどうじゃ」
「いえ、ありがたいのですが、今日着いたばかりで屋敷の方も手付かずのままでして」
「なんじゃつまらんの」
「旦那様、これをお忘れです」
「ああ、そうだった。ハロルド王よ、これを」
「なんだそれは?」
「護身の腕輪です。これをこのように腕に嵌めて魔力を通すとなにか危険に晒された時に障壁が自動で張られます」
「ほう、これがバイク部隊を守った魔道具か」
「すでにご存知でしたか」
「一応な。話だけは聞いておる」
ハロルド王が早速と左腕に嵌めて魔力を通す。
「これでいいんじゃな。ほれ、お前も付けろ」
そう執事に促すと執事も左手に嵌め、魔力を通す。
すると徐にハロルド王が執事に向けて、石礫を飛ばす。
『コン』と執事の障壁に石粒が当たり落ちる。
「ほう、障壁は本当のようじゃな。これはいい物をもらった。その小僧には褒美を与えんとの」
「ハロルド王、申し訳ありませんが、しばらくは放置していただきたいと」
「なんじゃ、その小僧は欲がないのか?」
「まあ、そうですね。金は自分で稼いでますし、貴金属の類には興味もないようで」
「そうか、なら別の手を考えるかの」
「なにか、お考えで?」
「まあ、よい。気にするな。では、これで全部でいいんだな」
「はい、これで話すことは全部です」
「分かった。明日を楽しみにしておるぞ。今日は大義であった。下がってよい」
「はっでは失礼いたします」
デュークがセバスと一緒に退室し、そのまま一言も喋らず馬車へと乗り込む。
「ああ、緊張した。もう脇汗がすごいわ。セバスもよく我慢したな」
「はい、もう少しで喋りそうになりましたが、旦那様が止めてくれたので助かりました」
「その辺はちゃんとあいつにも言っとけよ。ちゃんと後ろ盾として働いたとな」
「はい、その辺はお任せください」
緊張が解けたのか上機嫌で屋敷へと戻る。
~その頃、王城の一室で~
「どうだ、お前からみて」
「そうですね、かなり興味深いですね」
「なんとか、小僧と仲良くなりたいもんだが」
「話を聞く限りでは権力に阿ることをよしとしない人物のようですね。しかも金にも興味がないとなれば、後は色ですが。対象が子供となると、それも難しいとしか言えませんね」
「小僧の正体はすでに掴んでいるが、下手に手を出すとどこに逃げるか分からんとなれば、大人しく言うことを聞かせるようにするしかないんじゃが」
「それをするとどこかに行ってしまいますよね」
「結局はそうなるんだよな」
「しばらくは様子を見るしかありませんね」
「それしかないか」
辺境伯のお屋敷内の一室にて。
「セバスよ。戻ったか」
「はい、旦那様、領都より無事に馬車を運び入れることが出来ました」
「そうか、なら後は王に謁見の申込みをして、早ければ明日にでも行くとするか」
「いえ、すでに冷蔵庫は載せていますし、このまま王城の方へ出かけましょう」
「なに言ってんだ? まだ王には面会予約すらしていないぞ」
「その辺は抜かりなく。事前に全て終わらせています。また、今から会うのも非公式として謁見ではなく別室でのお話ということにしてもらいました」
「そ、そうか。妙に手回しがいいな」
「はい。ケイン様より今夜にも夜襲があるかもとご助言いただいております故」
「ああ、そうだったな。だが、本当に来るのか?」
「旦那様、今日も道中で襲われましたが、ご存知ありませんでしたか?」
「襲われた? いつの話だ。そんなことはなかっただろう。実際に止まることなく難無く王都に入れたのだから」
「いいえ、しっかり襲われました。旦那様が乗る車もメイド達が乗るマイクロバスも。それに先行していたバイク隊も襲われましたが、誰も怪我することなく進むことが出来ました。これもケイン様が障壁を張るようにしてくれたお陰です」
「そうか、では気のせいということはないんだな?」
「はい。誰もどこにも傷が付いておりませんので、襲撃されたという証拠にはなりませんが、記録として、映像には残っております」
「なんだ? その記録というのは」
「ケイン様曰く『ダッシュカム』と言うもので、走行中の全方位の全ての記録を行うとか」
「ハァ~もうなんでもありだな。で、王様とは今から、会えるんだな?」
「はい、献上する蒸留酒も用意しております。あと、魔道ミキサーも忘れずに」
「ホント、お前はケインのことになると妙に活発になるというか」
「それは次に仕える方ですから」
「また、それか。いいか? 今は俺に仕えてくれているんだから、俺のことを第一に考えてくれよ。頼むぞ」
「はい、旦那様が後ろ盾として頑張っていただければ、ケイン様も楽になれるのでお任せください」
「もういいよ、回り回って俺の為になるのなら、言う通りにしてやろうじゃないの」
「はい、ではお着替えを済ませたら、王城へと参りましょう」
「分かったよ。もう、中止にならないかな~」
「私は構いませんが、すでに面会の約束は取り付けていますので……」
「そうなんだよな~もうショーンに行かせようかな~」
「それはまた、なんと言うか大胆すぎると言いますか」
「もう、ハッキリ言えよ」
「では、言わせていただけると……自殺行為に等しいかと」
「だよな~はぁ行くしかないか……」
「そうして下さい」
しばらくした後、登城するに問題ないくらいの格好に着替えたデュークとセバスが揃って馬車へと乗り込む。
「ハァ~なんだか胃が痛くなってきた」
「そうですか。では、お城に着くまで我慢するしかないですね」
「セバスよ。ここは当主を労って引き返そうとか思わないのか」
「もう、ここまで来たら覚悟を決めて下さい。旦那様の一言で救われる貴族家もあるかもしれませんよ」
「そうなんだよな~俺もなんで、車で来るって言っちゃったんだろうな~」
「今更、反省しても遅いですよ。領都を出発する以前から、周りに監視の目がありましたから」
「ほ~そんなにか」
「ええ、数人は捕らえましたが、後は適当に泳がしていますので」
「なら、全部捕まえた方が楽じゃないのか?」
「そうすると変に目を付けられたり、優秀なのに入れ替わったりとややこしくなるので、適当に間引くのが一番です」
「そっか、なんか雑草みたいだな」
「ええ、本当に。狩っても刈ってもどこからか出てくるんですからね」
「なあ、刈った後はどうしてるんだ?」
「聞きたいですか?」
「いや、やめとこう」
「それが賢明かと」
「優秀すぎるのも考えもんだな」
「なにか?」
「いや、独り言だ」
「左様ですか」
「セバス様、そろそろ、お城に着きます」
「分かりました。一旦、衛兵の前で止めて下さい」
「分かりました」
「着いちゃったな~」
「覚悟は決まりましたか?」
「そんな大層なもんは持ってねえよ。王にどうか、バカ貴族を出さないようにとお願いするだけだ」
「ええ、それで構いません。ですが、どこの世界でも跳ねっ返りというのはいるものですからね。逆恨みで旦那様に跳ね返って来ない様に十分に王様にご忠告して下さい」
「あ~逆恨みね~ないとは言い切れないな」
「まあ、今夜の襲撃が終わりましたら、お屋敷は完全警備に入りますので大丈夫ですよ」
「ああ、なんだその『完全警備』ってのは?」
「はい、ケイン様から、お屋敷全体を包める障壁を張る魔道具を頂きましたので」
「そんなもんいただくなよ~誰に目を付けられるか分からないじゃんか~」
「大丈夫です。いざとなれば、国ごと切ってしまえばいいのですから。幸い我が領都は国境に近いですし」
「もう反乱する気じゃん! 俺はしないからな!」
「旦那様。旦那様にその気がなくても逆恨みで、ほとんどの貴族から弾圧される可能性もあるのですから、そのくらいは予測しておいた方がいいかと思いますが」
「セバスよ。そうは言うが、実際に戦になったらどうすんだ?」
「多分、負けるでしょうね」
「だろ? 俺だって負け戦には加担したくないからな」
「いえ、負けるのは相手の方ですよ」
「そうか? なんでお前はそう、やたらと自信満々なんだ?」
「私とケイン様の仲ですから」
「なにか切り札があるってことか?」
「そうですね、今はその解釈でいいかと思います」
「怖いよ。お前達本当に転覆とか考えてないよな?」
「ケイン様は自身の身内になにかあれば手段は選ばないと仰ってましたね」
「分かった。今日の王との面会で十分に釘を刺すし、俺に逆恨みもしないようにちゃんと根回ししてくるから、お前はちゃんとケイン達が暴走しないようにしてくれよ」
「ふふふ、どうですかね。どちらかと言えば一緒に暴走してしまうかもしれませんね」
「……」
「着きました」
「はい、ご苦労様です。シャルディーア伯が面会の為、登城します」
セバス様が城門の衛兵にそう声を掛けると、確かにと登城予約者一覧を確認した後に馬車での通行を許可されたので、そのまま馬車で通り抜ける。
王城の正面玄関でセバスが先に馬車から降りるとデュークをエスコートして馬車から降ろす。
「来ちゃったな。ハァ~」
「さ、行きましょう旦那様」
王城にデュークがセバスと一緒に入っていく。
「王がお部屋でお待ちです。私に着いてきて下さい」
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「久しぶりです。ザナディア王」
「あ~よいよい非公式じゃ。楽にせい」
「それではハロルド様、お久しぶりです。まずはこれを」
セバスがテーブルの上に蒸留酒と魔導ミキサーを置く。
「ほう、これが噂のシャルディーア産の蒸留酒とやらか。それとこちらが魔導ミキサーじゃな」
「ご存知でしたか」
「ふふふ、諜報部隊がいるのは知っておろうが。それで冷蔵庫はどこに?」
「そこまで知っていましたか。それはまだ、馬車の中に積んだままなので、帰りにでも……」
「よいよい、誰か」
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「シャルディーア伯の馬車に私への土産が積まれているのでな、それを下ろしておくように伝えてくれ」
「賜りました」
メイドにそう伝えるとメイドが部屋から出ていく。
「流石に其方の領から運んで来るのは重いのでな。いやいや助かった。それで今回は例の小僧絡みなんじゃろ。今夜なにが起きる?」
「はっ、そこまで調査済みでしたか」
「それはいいから、なにが起きるのか早う教えてくれ」
「では、失礼して……」
デュークが今夜襲撃されるであろうこと、その後に起こるなにかは不明だが、襲撃に加担した者は、その上層部にまで呪いが感染すること、その呪いを解除するには感染者が罪を心の底から悔い改めることでしか、解呪されないことを告げる。
「なるほど、それで貴族の大半が潰えるかもしれんと言うわけじゃな」
「はい、その通りです」
「恐ろしいの。しかし、そんな貴族はこちらから願い下げじゃな。ちょうどいい、一斉取り締まりじゃ」
「え? いいのですか」
「どうせ、どうしたってそういう連中はやらかすじゃろ。なら、早いか遅いかの話だけじゃ。なら、私が手を下さずとも自ら滅んでくれるのじゃろ。いい話じゃないか」
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「そんな簡単に……」
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ハロルド王が手を出して、デュークに催促する。
「手土産はこれだけじゃないんじゃろ? 携帯電話とやらはないのか」
「いえ、用意してあります。セバス」
「はっこちらを」
セバスが王の執事へと携帯電話を渡す。
「ほう、これか携帯電話とやらは。で、使い方は?」
「は、ではこちらを私の番号ですが、これをその数字のボタンで順番に押してもらえますか」
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ハロルド王に対する携帯電話講座が始まり、セバスは執事にもう一台を渡して教えていた。
「うん、なんとなく分かった。では、小僧の番号は?」
「まさか、今から掛けるのですか」
「なんじゃ止めるのか?」
「はい、今は止めていただけないでしょうか」
「その理由を聞いても?」
「はい、あいつはなにかあれば、この国を捨てることも考えています。そうなれば、この国にとって大きな損失としかなりません。なので、許していただけるのであれば、今は大人しく見守っていただければと思います」
「そうか。だが、今夜の騒ぎはその小僧が原因で起きるのであろう。なら、その責任の一端として少し話をさせて欲しいのだがな」
「話であれば、私がお聞きしますので」
「そうか。では、其方達は国に対して不満はないんじゃな」
「はい、あいつに対して、こちらから手を出さない限りはなにもしないことは確認しております」
「では、もしその小僧の身内に対しなにかあれば、どうなると?」
「壊滅するでしょう」
「それは、どのくらいのレベルで?」
「この大陸ですね」
「マジで?」
「え? マジです」
「やっぱり、そのくらいはするだろうな」
「ハロルド王はなにをご存知で?」
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「ええ、それはもう」
「そのドワーフタウンから、なにかが飛び立つのが何度か目撃していると報告が上がっている」
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「其方は知らんのか」
「ええ、さっぱり」
「諜報部隊からの報告でも目で追うことも出来ないし、格納されているであろう建物に近づいて中を確認してもなにもなかったとしか報告されとらんでのう。なにもかもが不明じゃ」
「そうなのですね」
「まあええ、今夜の襲撃の件は分かった。バカどものことは任せてもらおう。それと其方には責任が及ばないようには配慮しよう」
「ありがとうございます」
「だが、落ち着いたら、その小僧に会わせるのが条件じゃ。いいな忘れるなよ。諜報の目も光っとるということをな」
「は、承知しました」
「ならば、話はこれまでじゃ。土産の酒を楽しませてもらおう。其方もどうじゃ」
「いえ、ありがたいのですが、今日着いたばかりで屋敷の方も手付かずのままでして」
「なんじゃつまらんの」
「旦那様、これをお忘れです」
「ああ、そうだった。ハロルド王よ、これを」
「なんだそれは?」
「護身の腕輪です。これをこのように腕に嵌めて魔力を通すとなにか危険に晒された時に障壁が自動で張られます」
「ほう、これがバイク部隊を守った魔道具か」
「すでにご存知でしたか」
「一応な。話だけは聞いておる」
ハロルド王が早速と左腕に嵌めて魔力を通す。
「これでいいんじゃな。ほれ、お前も付けろ」
そう執事に促すと執事も左手に嵌め、魔力を通す。
すると徐にハロルド王が執事に向けて、石礫を飛ばす。
『コン』と執事の障壁に石粒が当たり落ちる。
「ほう、障壁は本当のようじゃな。これはいい物をもらった。その小僧には褒美を与えんとの」
「ハロルド王、申し訳ありませんが、しばらくは放置していただきたいと」
「なんじゃ、その小僧は欲がないのか?」
「まあ、そうですね。金は自分で稼いでますし、貴金属の類には興味もないようで」
「そうか、なら別の手を考えるかの」
「なにか、お考えで?」
「まあ、よい。気にするな。では、これで全部でいいんだな」
「はい、これで話すことは全部です」
「分かった。明日を楽しみにしておるぞ。今日は大義であった。下がってよい」
「はっでは失礼いたします」
デュークがセバスと一緒に退室し、そのまま一言も喋らず馬車へと乗り込む。
「ああ、緊張した。もう脇汗がすごいわ。セバスもよく我慢したな」
「はい、もう少しで喋りそうになりましたが、旦那様が止めてくれたので助かりました」
「その辺はちゃんとあいつにも言っとけよ。ちゃんと後ろ盾として働いたとな」
「はい、その辺はお任せください」
緊張が解けたのか上機嫌で屋敷へと戻る。
~その頃、王城の一室で~
「どうだ、お前からみて」
「そうですね、かなり興味深いですね」
「なんとか、小僧と仲良くなりたいもんだが」
「話を聞く限りでは権力に阿ることをよしとしない人物のようですね。しかも金にも興味がないとなれば、後は色ですが。対象が子供となると、それも難しいとしか言えませんね」
「小僧の正体はすでに掴んでいるが、下手に手を出すとどこに逃げるか分からんとなれば、大人しく言うことを聞かせるようにするしかないんじゃが」
「それをするとどこかに行ってしまいますよね」
「結局はそうなるんだよな」
「しばらくは様子を見るしかありませんね」
「それしかないか」
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【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
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【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
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【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
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長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
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辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
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旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
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月が導く異世界道中
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月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。
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とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
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