上 下
206 / 468
連載

◆約束が出来ませんでした

しおりを挟む
ガンツさんに少しイラッとしながら、なんとか仕組みを考える。
まずは活版を台に固定し、その上をインクを染み込ませたローラーを通過させ活版にインクを載せる。
「ここまではいい。問題はこの後だよな。さて、どうやって、紙を固定させるかだよな」
『そんなん両端をピ~ンと張ればいいだけなんじゃねえのか?』
「マサオ! お前凄いな。単純すぎて気付かなかったよ」
紙送りの方法は複合機で実現出来ているから、後は両端を引っ張る仕掛けか。
いや、別に引っ張らなくてもガイドに合わせるだけで固定はされるか。
なら、これで出来そうだな。
「よし。ガンツさん出番だよ」
「お! やっとワシの出番か。で、どこから手を付ければいい?」
「まずは大きめの台が必要だね」
「また、適当な。で、大きめってどれくらいだ?」
「じゃあ、一メートル四方くらいで」
「適当じゃな」

すぐにガンツさんが台を用意して、持ってくる。
「ほれ、こんな物でいいのか?」
「いいよ。上等上等。そしたら、ここに活版を固定する仕組みが欲しいんだ。出来れば大きさは変えられるようにして欲しい」
「今度はまともじゃな」
「あ、でも基準点はちゃんとしてよ」
「基準点? それはどういうことじゃ?」
ガンツさんにいつもの様にメモ紙を使って説明する。
「これに印刷するとしてだよ。この右手のメモ紙と左手のメモ紙に印刷する位置がずれたら、それは失敗扱いになるよね」
「まあな。で、その基準点てのがどう関わってくるんだ?」
「だからだよ、例えばこのメモ紙の左上をその基準点に合わせて印刷すれば、全部同じ位置に印刷されるでしょ」
「なるほどな。そういうことなら分かった。精度が必要なら、確かにワシの仕事だ。任せろ」
「ちゃんと基準点を起点に水平、垂直にね」
「任せろって!」
ガンツさんが作業している間にインクを載せるローラーの仕組みを考える。
が、そんな暇もなくガンツさんから出来たと報告される。
「どうじゃ、その基準点とやらに合わせてガイドも固定する仕組みも出来たぞ」
「どれどれ」
固定枠を触り、実際に活版をセットし簡単にずれないことを確認する。
「いいね。ガッチリ固定されているから、印刷する時の衝撃でずれることもなさそうだね」
固定はできたから、今度は活版にインクを載せるローラー部分をガンツさんに作ってもらう。
「今度はなんじゃ?」
「これ、インクを染み込ませたローラーね。これを活版の上を通らせて活版全体にインクを付ける物なんだ」
「分かった。今度は、このローラー部分を追加するんじゃな」
「そう、ちゃんとインクを着けて垂らすことなく活版全体を通ってインクを着けたら元の位置に戻るようにするんだよ。あまり圧力も掛けないようにね」
「注文が多いの~でも、多ければ多いほど燃えるもんじゃ!」
ガンツさんが困った困ったと言いながら、嬉しそうに作業に戻る。

ガンツさんが作業している間に紙送りの部分を作ってしまう為に作業に入る。
さて、まずは給紙だよな。枚数は百枚単位で置ける様にしてと。紙送りは上から順番に送る仕掛けにして、紙束はなるべく上に持ち上がるように軽めのスプリングを紙束の底板に追加する。
「これで給紙の仕掛けは大丈夫。次は印刷台に送って出す、給排紙の仕掛けだけど、そこは複合機からの流用で済ませられるから、これでよし!」
ガンツさんの様子を見ると、まだ四苦八苦している様だった。

「ガンツさん、お困りですか~」
「おう、ケイン。いやな、ローラーをインクに着けて持ち上げるところまではいいんじゃが、均等にするための水平移動がうまくいかないんじゃ」
「へ~意外。そんなことで躓いているなんて」
「そうは言うがな、これがなかなか難しくてな」
「それならさ、水平移動するためのガイドを横に付ければいいんじゃないの?」
「ガイドか。なるほどの~そいつは思い付かんかった。じゃ、早速付けてみるか」
「手伝うよ」
「すまんの~」

これで活版印刷の主要部分は揃った。
「どれ、早速試そうかの」
「じゃ、動かすね」
「おう、やってくれ」
「久々の『ポチッ』とな」
『ブ~ン』と魔導モーターが低い音で唸ると続いて『ガッチャンガッチャン』と活版印刷機が動き出す。
一枚目の紙が送られ、活版の上で押されて印刷されると、下向きになっていた表面が上になり排紙されてきた。
「どれ」
ガンツさんが記念すべき一枚目を手に取り確認する。
「うん、いいじゃろ。ケインも見てみろ」
ガンツさんから、印刷されたばかりのメモ紙を見る。
「やっぱり、インクが乾いてないね」
「そりゃそうじゃろ。そんなにすぐには乾かんぞ」
「あ、じゃあすぐに止めないと!」
「なんだと……あ、ああ、重なってる……」
慌てて活版印刷機の動力を止めるが、間に合わずインクが表と裏にベッタリと付いたメモ紙の山がそこにあった。
「これじゃあ、使い物にならんの~」
「乾くのが遅いなら、無理にでも乾かせばいいんだよね」
「なにか考えがあるのか?」
「うん、乾かすのなら、その時間は表面になにも載せなきゃいいんでしょ。なら、印刷した後に乾燥ゾーンを通ってもらえばいいんだよ」
「なにを言っているのか、ワシにはさっぱりじゃ」
「まあ、見ててよ」
活版印刷機から、排出された紙をベルトコンベアーに載せて魔道具を使って表面に弱めの熱風をかける仕掛けを思い付く。
これを余裕をみて、長さ5メートルのベルトコンベアーを用意してその上全部に熱風の魔道具を用意する。
排出口にベルトコンベアーの入口を取り付け、活版印刷機を動かす。
やがて、印刷されたばかりのメモ紙が乾燥ゾーンのベルトコンベアーに乗って、反対側の出口から出てくる。
それをガンツさんが手に取り一言発する。
「乾いてる」
「じゃ、成功だね」
『腹減った~』

時間を確認するとお昼を少し回っていた。
「じゃ、昼にするかの」
「そうだね」
『飯、飯~』
ガンツさんと一緒に弁当を広げ、食べようとするとマサオが騒ぐ。
『ない! 俺の飯はどこ?』
「ないよ。その辺で捕まえてきなよ」
『ええ! まさかの放置……』
「なんじゃ、ケインはマサオの分は用意しとらんのか」
「リーサさんもそこまでは気を回してくれなかったみたいだね」
『なあ、腹減った! なにか食わせろよ~』
「もう、しょうがないな~俺のを少しやるから、それで我慢しろ」
『こんなんじゃ全然足りね~』
「後で王都に行ったら、なにか食わせてやるから。それまで我慢してくれよ」
『本当だな! 約束だぞ!』
「ああ、約束だ。ほら」
そう言って、右手の小指をマサオの前に突き出す。
『あ、これって約束の儀式だろ! よし、これなら破ることはないな……なあ、俺の小指じゃ絡められない……』
「そうか、なら約束は無理だな」
『そんな……』
「ケイン、揶揄いすぎると捻くれてしまうぞ。マサオ、心配せんでもワシも着いとる」
『ガンツ、ありがとうな』
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

下級兵士は断罪された追放令嬢を護送する。

やすぴこ
ファンタジー
「ジョセフィーヌ!! 貴様を断罪する!!」  王立学園で行われたプロムナード開催式の場で、公爵令嬢ジョセフィーヌは婚約者から婚約破棄と共に数々の罪を断罪される。  愛していた者からの慈悲無き宣告、親しかった者からの嫌悪、信じていた者からの侮蔑。  弁解の機会も与えられず、その場で悪名高い国外れの修道院送りが決定した。  このお話はそんな事情で王都を追放された悪役令嬢の素性を知らぬまま、修道院まで護送する下級兵士の恋物語である。 この度なろう、アルファ、カクヨムで同時完結しました。 (なろう版だけ諸事情で18話と19話が一本となっておりますが、内容は同じです) 2/7 最終章 外伝『旅する母のラプソディ』を投稿する為、完結解除しました。 2/9 『旅する母のラプソディ』完結しました。アルファポリスオンリーの外伝を近日中にアップします。

断罪されているのは私の妻なんですが?

すずまる
恋愛
 仕事の都合もあり王家のパーティーに遅れて会場入りすると何やら第一王子殿下が群衆の中の1人を指差し叫んでいた。 「貴様の様に地味なくせに身分とプライドだけは高い女は王太子である俺の婚約者に相応しくない!俺にはこのジャスミンの様に可憐で美しい女性こそが似合うのだ!しかも貴様はジャスミンの美貌に嫉妬して彼女を虐めていたと聞いている!貴様との婚約などこの場で破棄してくれるわ!」  ん?第一王子殿下に婚約者なんていたか?  そう思い指さされていた女性を見ると⋯⋯? *-=-*-=-*-=-*-=-* 本編は1話完結です‪(꒪ㅂ꒪)‬ …が、設定ゆるゆる過ぎたと反省したのでちょっと色付けを鋭意執筆中(; ̄∀ ̄)スミマセン

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。