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◆譲り合いは大事でした

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とりあえずの校長も決まり、リーサさんを迎えに行こうとしていたらガンツさんに呼び止められる。
「ちょっと待つんじゃ、ケイン。ワシもアンジェを迎えに行くし、それまでに机と椅子の試作品を作ってもらおうかの」
ガンツさんがガンボさんをチラッと横目で見ると、それに頷き返しガンボさんが続ける。
「そうじゃな、ワシも学校で使うものじゃし何も知らずに発注することは避けたいの」
ガンボさんが話し終えるとガンツさんとガンボさんが二人してカーティスさんをチラ見する。
まあ、ここで足止めする為に何か言えとのサインだとは思うんだけど、肝心のカーティスさんはと言うと。
「え……私ですか? いや、私は、そうですね。頑張ってくださいね」
「ハァ~もうちょっと何か言えたじゃろう。まあいい、なあケイン。これだけの人が期待しているんだ。な、チャチャッと試作品を作ろうじゃないか」
「分かりました。じゃ急ぐんでゲートを繋ぎますね。ガンツさん、軽トラの回収を忘れずにね」
「おお、分かった。『回収』っと。よし、いいぞ」
「じゃ、繋ぎますね」
ゲートを工房の自室に繋ぎ、まずはソファに座りゆったりとする。

「ほれ、ケイン。ゆっくりするのは試作品を作ってからじゃろ」
「もう、人使いが荒いよね~」
「文句を言うな、時間がないのは分かっているんじゃろ」
「はいはい、作りますよ」

その場でステンレス板とステンレスパイプを取り出し、椅子の形状に加工していく。
「おいおい、ケイン。これじゃ椅子にならんぞ。何でバラバラなんじゃ?」
ガンツさんが指摘する様に用意したのは椅子の脚部分と座面と背もたれが一つになったもので、見た目にはバラバラの役に立たない中途半端な物だ。

「ガンツさん、慌てないの。俺が中途半端な物を出す訳がないでしょ。これ、ほら! この部分を見てよ。ガンツさんなら分かってくれると思ったのに」
「ん?何じゃ、この部分て言うが、単なる穴じゃないか」
「もう、これだからじ「じいさま言うな!」……じゃあ、いい?」
テーブルにボルトとナットを数組取り出し置くと、平たいスパナを二本? 二枚? 置く。
「じゃあ実際にやってみるから。ガンツさんは、この台座部分を脚と位置を合わせるように持っていてね」
「合わせる? こうか?」
「あ、そう! そのまま、動かさないでね」
脚と台座部分の穴が重なった所でボルトを差し込み、ナットを着けて仮止めする。

「なるほど、こうやって組み立てるんじゃな。じゃが、何で台座と脚を分ける必要があるんじゃ」
「ふふふ、ガンツにはそこまで知恵が回らなかった様じゃな」
「ガンボよ、そこまで言うのなら、キサマには分かると言うんじゃな」
「ワシに当てられるのが悔しいか? ん?」
「いいから、その正解とやらを教えてもらおうか」
「まあ待て、小さい子供と言うのは成長が早い。ここまでは血の巡りが悪いお前でもわかる話じゃろ」
「勿体つけてないで、先に進めろ」
「ふぅ~全く、いいか成長が早いと言うことはだ、その子に用意した椅子もすぐに小さくなる。そうするとまた、新たに椅子を用意する必要がある。そこまではいいか?」
「ああ、そんなのは当たり前じゃないか。何を……ハッそうか、そう言うことなのか~あ~悔しい!何で気付かんかった……」
「あの~説明を続けてもらってもいいですか? まだ私にはピンと来ていないので」
「カーティスもか、まあいい。椅子が成長に追いつかなくなるのなら、椅子が成長すればいいってことだ」
「え? ガンボさん、椅子ですよ? 椅子が何で成長するんですか? まさか、ケイン君の作る物には命が宿るとでも……」
「違うよ、カーティスさん。命が宿ればいいとは思っているけど、それはまた別の話で。ガンボさんが言う成長ってのは、こういうこと」
仮止めのボルトを抜いて、台座を少し持ち上げるとまたボルトを差し込み仮止めする。

「ああ、そう言うことでしたか」
「カーティスも分かったようだな。そこの石頭もこれで分かったじゃろうて」
ガンボさんが、ガンツさんを揶揄うように笑う。
「ワシだって、落ち着いて考えれば分かったさ、ふん!」
「それで、ケインよ。その平たい物は何に使うんじゃ?」
「お、ガンボはこれを分からないと? ふふん、形勢逆転じゃな、いいかこれはな」
「ああ、そのボルトとナットを締める工具になるんじゃな。何じゃ工房で見かけるのはもっと重たそうなヤツじゃから、違うのかと思っていたが。なるほどの~そうやって薄く軽くすることで子供の手でも扱えるようになるってことか。ん? ガンツはどうした?」
「ガンボさんが全部言っちゃったから、拗ねたみたいだね」
「ハァ~小さいの~」
「うるさいわい!」
「それで椅子は分かった。なら机も同じ様な感じか?」
「そうだね、じゃついでに机の方も作るね」

机も同様に天板を含む上部分と脚だけの部分を二つ用意すると、何も言わないままガンボさんとガンツさんで脚を合わせるとカーティスさんがボルトとナットを使い仮止めしていく。

「これでいいんじゃな」
「そう、ちゃんとボルトを固定したら、座って確かめてみてよ」
「そうじゃな、どれ」
ガンツさんが椅子の背もたれをひき座ろうとするのをガンボさんが止める。
「ガンツよ。ここは発注者のワシが先じゃろ。ワシに譲らんか」
「何を言うか! 工房の責任者であるワシが試さんでどうする?」
「何を~」
「何じゃ!」
ガンツさんとガンボさんが背もたれから手を離しお互いに組み合う姿勢になる。

「ほう、これは少し硬いですが、なかなか座り心地がいいですね」
「「カーティス!」」
「おや、お二人も座ってみて下さい。なかなかですよ」
そう言ってカーティスさんが椅子から降りると二人に勧める。
「お、おお。ガンボ先に座っていいぞ」
「ま、まずはガンツじゃろ。さあ座ってくれ」
「ワシが譲ったんじゃ。大人しく座ればよかろう!」
「せっかく薦めたのに何じゃ、その言種は!」
「「あぁ~!」」
「あの~」
「「うるさい!」」
ご老人二人に声を掛けたカーティスさんがどやされ腰が引ける。
「ケイン君、これはどうすれば?」
「放っときましょう。じゃ、俺はリーサさんを迎えに行くのでこれで失礼しますね」
「え! 本当にこのまま放っとくんですか?」
「ああ、カーティスさんも心配ですね。じゃ一緒に帰りましょうか。先にリーサさんのところに一緒に行きますか」
「ああ、そうですね。あの子にもちゃんと謝っておかないと」
「じゃ、繋ぎますね」
「お願いします」
椅子のことで揉めるご老人二人をその場に置いて、保育所に向かう。
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