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◆歪な物がそこにありました

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遅過ぎた昼食を食べ終わり、改めてさっき作った模型を眺めて見る。
「ケイン、これはちょっと…」
「いいよ。ガンツさん、皆まで言わなくても分かってる。これは…失敗だね。」
「分かっとるなら、いいが。何でさっきは思わなかったんじゃろうの。」
「そうだよね。妙なテンションに引っ張られちゃったのかもしれないね。」
二人が失敗と評するその模型は、草刈り部分から粉砕、圧縮までを前部に集中し過ぎた為にトラクターよりも長く大きくなり過ぎていた。

ガンツさんともう一度練り直そうと、何が悪かったかを話し合う。
「まずは配置から考え直そう。草刈りは前方に置くしかないけど、他のは後ろに回した方がいいと思う。」
「なら、横刈りで中央に集めるのは無しじゃな。う~ん、この場合は左に寄せて集めたのを後ろに流すか。」
「回転刃の回る方向は右回りでいいのかな?」
「左と右のどっちがいいか分からんから、とりあえずは右にしとくか。」
「いいよ。じゃあ変えるところはそのくらいでいけそうかな?」
「まあ、待て。もう一度模型でじっくり確認させてくれ。」
「分かったよ、ちょっと待ってね。」と模型のアタッチメント部分を先ほど話して決めた内容で修正し、配置も変える。
「出来たよ。俺としてはいい感じになったと思うけど。どう?」
「うむ、なかなかいい感じに仕上がったな。これでやっと作れるわ~ここまで、長かったな~」
「そんな、大袈裟な。」
「じゃが、今までは『作る!』『出来た!』『動いた!』『完成!』って流れじゃったろ?こんなに最初っから、模型とかでじっくり考えたことはなかったと思うがな。」
「う~ん、言われてみれば…今までは発作的に作っていたみたいに思うね。」
「『発作的』ってお前…まあ、違ってはいないがな。」
「ほら、そんなことより作っちゃおうよ。部品数が多いんだからね。」

それからはガンツさんと工作室に入り、細かい部品から作り始める。
「なあ、ケインよ。これだけの部品なんじゃからプレス加工とかで済ませられるじゃろ。何で一から…ブツブツ…」
「まあまあ、ガンツさん。プレス機は下で使っているんだし、時間もあるんだし、ここは原点に戻っての全部手作りってことで、ね。」
「何でワシまで…」
「だから、グチグチ言わない。手を動かすハイッ!」

何とか必要な回転刃を用意することが出来たので、今度はそれの軸受と連動させるための歯車の生産に移る。
「また、これも数が多いの~」
「ガンツさん、愚痴が多いよ。最近らくし過ぎているんじゃないの?まだ、ベルトコンベアー部分のもあるからね。」
「ハァ~こんなチマチマしたのは苦手なんじゃよ。もっとド~ンバ~ンボ~ンって感じでパパッと出来んもんかな~」とチラッとこちらを見る。
「擬音ばっかで全然分からないから。」
「チッ失敗したか~あ~もう!」
「いいから手を動かす!」
「もう何ならワシを機械人形にしてくれ~!」
「何それ?」
「『何』って、お前がなってたろうが。忘れたのか?」
「俺が?」
「ああ、機械的にブレスレットを作っていたじゃろ。アレじゃよ。アレ!」
「ああ、何だ。そんなことなの。じゃあガンツさんもなってみる?」
「いや、ワシはただ何となく言ってみただけじゃから…だから、冗談だから。な?そんな目で見るな。もう二度と愚痴は言わんから。な~止めろって!」
「…分かったよ。でも、次に言ったら俺と並んで大量生産モードに入ってもらうからね。」
「…ああ、分かったわ。二度は言わん。ったく、こんな年寄りに…」
「ガンツさん?」
「何じゃ、愚痴は言うとらんぞ!」
「あれ?いつもならここで褒められるはずなのにと思ったんだけど?」
「ハァ~?お前はあれを本当に誉めていたと思っていたのか?もう一度言うが、ワシはお前を物作り以外では誉めた覚えはないからの。ただ呆れただけじゃから。」
「え~そうなの。誉められたとばかり思っていたのに~」
「よくあんなことを言っといて、誉められたと思えるもんじゃて」
「やっぱり、誉めているじゃん。」
「…い、今のは違うぞ。褒めとらんからの。ふぅ~危ない危ない。もうお前の前では迂闊には話せんの。」
「そんなこと言わずに誉めてくれていいのに~」
「い~や、この際だから言っとくが、お前は物作り以外に褒められるところはない!」
「だから、お前を褒める奴がいたら、それは頭から嘘だと思って用心して掛かることじゃな。」
「え~そこまで言う?」
「言うわ!そこまでと言わんとお前には分からんじゃろうからな。」
「親バカのくせに…」
「お、お前!それはただの悪口じゃぞ。」
「もう、いいから手を動かしてよ。」
「まったく、お年寄りを大切にと言われんかったのかの~」
「十分、お年寄りには優しいと思うけどね。」
「なら、ワシにも…」
「だけど、一部の人は『年寄り扱いするな!』って怒るんだよね~」とガンツさんをチラ見する。
「ま、まあ何だ…その人も気丈に振る舞ってはいるが、心の中では『優しくして欲しい』と思っとるはずだぞ。」
「そうかな~だって優しくして欲しいって思うのは、人として普通だからね。その人に『じい様』って言っても怒らなくなったら優しくしようかなとは思ってるけどね。」
「か~そう来たか。」
「ほら、そんな先の長い話は後回しにして、手を動かそうね~」
「ああ、分かったわ。本当に…」

半ば機械と化して部品を作り続けたお陰で、ある程度の部品が揃ったのでガンツさんにお礼を言ってお開きにする。

家に戻り「ただいま~」と言うと奥から「お帰り~」とリーサさんの返事が聞こえる。
「やっぱりいいよな~」
「ん?何がいいんだ?」
「家に帰ってからのこのやり取りがね。やっぱりいいな~って改めて思ってさ。」
「何だ、そんなことか。ケインが望むなら、すぐに手に入ることだぞ。何なら今から「ストップ!リーサさん、暴走の閾値が下がってるんじゃないの?」…む、そうか。この雰囲気に慣れ過ぎたのかな。」
「おお、ケイン。帰って来ていたのか。なら、もうすぐに夕食だな。」
「ケイン、ここじゃ。ここに座れ。ワシが甘やかしてやろうじゃないか。ほれ、ここに頭も載せるがええ。…待て、リーサ。まずは手に持っている物を離すんじゃ。な、ほれ、ワシはケインから離れたぞ。な、お前も離せ。な?」
「ヘレン…私が膝枕して耳掃除してあげましょうか?何度も何度も…言っているのにね。おかしいですね。」
「ワシが悪かった。な?ほれ、直に夕食じゃろ。ケインも手伝うとええ。(すまんがあやしてくれ。)」
「(ヘレンさん、怒らせるマネは止めて下さいね。)リーサさん、手伝うよ。」
台所に立つリーサさんの側に行き、声を掛ける。

「なら、これを運んでくれ。」
「これは美味しそうだね。毎日違うのが出て来るけど、大変じゃないの?」
「あら、ケインってば。何ていい子なの。父さんは私にはそんなこと一言もなかったわよ。本当に父さんの子なのかしら。」
「か、母さん!それはどういうことなのかな!」
「冗談よ、冗談。本当にね~うふふ。」
「でも父さんは母さんにちゃんとマッサージの時に声は掛けているじゃない。」
「「クリス…」」
「(あ~あ、墓穴だよ。)そうだよね、ほら、父さんもちゃんと優しく声を掛けているじゃん。母さんってば。」
「「(ありがとうケイン。)」」
「(ちゃんと教育しないから、こんなことになるんだからね。)」
「(すまんケイン。)」
「それでヘレンさん、母さんの調子はどうなの?」
「そうじゃな、床上げはまだ先じゃが。食事に立つぐらいは問題ないな。」
「じゃあ双子にはいつ会える?」
「あの子達を部屋の外に出すにはまだ早いわ。幸いこの家は清潔に保ててはいるがな。」
「じゃあ、外に出るなら周りが清潔になればいいんだね?」
「何を考えとるか知らんが、相手はまだ赤子じゃぞ。もう少し長い目で見てやれ。まあ、ワシとの子なら「ヘレン、やっぱり耳掃除が必要だな。」…リーサ、まだ食事中じゃから。」
「リーサさん、気にしなくても大丈夫だから。」
「ふぅヘレンはもっとケインに感謝すべきだぞ。」
「はい…」
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