上 下
156 / 468
連載

◆技術者にとってはエサでした

しおりを挟む
ガンツさんのゲテモノ車に乗りドワーフタウンの工房へと向かうが…悲鳴らしきものがあちこちから聞こえて来た。
「ガンツさん、やっぱり不評みたいだね。」
「な、何を言うか。このままでいい。周りが慣れるまで待つ。」
「アンジェさんに見せた?」
「いやまだじゃ。」
「他の人からの評判が耳に入る前に告白した方がいいよ。」
「何でワシが悪いことしたみたいになっとるんじゃ。」
「だって…ねえ。」
「そもそも、こんなデザインにしたのはケインじゃろ。何でワシが悪いことになってるんじゃ。」
「まあ、それは後で対策を考えるとして、今は工房に行こうよ。」
「あ、ああ分かった。」
しばらく走り、工房の前に着くと中から工具片手に工員が飛び出して来た。

「おい!誰か乗っているのか!ここが誰の工房だと思ってるんだ!あの『まさかのケイン』が関わっているんだぞ!今なら見逃してやるから、とっととここから立ち去るんだ。」
「ガンツさん、どうする?何か俺のことも軽く悪者扱いされているんだけど…」
「なあ、アイツらが言う『まさかのケイン』ってのは何なんだ?」
「食い付くのそこ!もっと別のところがあるでしょ!」
「いや、しかし『まさかのケイン』…ぷっ…『まさかのケイン』って、まさか?ぷっ」
「もう、笑いたかったら笑えばいいでしょ!我慢すると血管が切れるよ。」
「ぷっははは、まさかお前に『二つ名』とはな。しかも『まさかのケイン』か、本当に『まさか』だな。ぷっ…くくく。」
「それより、これ…どうするのさ。」
「まあ、とりあえずは降りるか。」
『ガチャ』と運転席の下が開放されガンツさんと俺のシートがゆっくりと下りていくと、それを見た工員に「親方!何やってるんですか!」と注意されてしまった。

「お前らこそ何をやっているんだ。こんな格好いいワシの車を見に来たって訳でもなさそうじゃし。」
「…」
「何じゃ何か言わんか。」
「親方、本気で『格好いい』と思っているんですか?俺達はどこかを侵略しに行くって言われた方が信じられますよ。」
「侵略?何を言っとるんじゃ?こんな格好いい車で何をやろうと言うんじゃ。大丈夫か?」
「「「「「いやいやいや…正気ですか!」」」」」
「皆んなして、そう言わんでも…格好いいのにのぉ~」
「で、侵略じゃなければ何なんですか?」
「おう、そうじゃ!まずはこれを見せたくての。これがワシらドワーフでも乗れる四駆車じゃ。どうじゃ?そう聞くと格好良かろう?ん?」
「…俺らドワーフでも乗れると言うのは有り難いですが、このフォルムはちょっと…」
「何じゃ、じゃあこれはワシが秘匿する。お前らはお前らで作れば良かろう。」
「いや、親方として秘匿するってのはどうなんですか?そんなことが許されるとでも言うんですか!」
「ワシのセンスをバカにする奴らに何を教えろと言うんじゃ!」
「親方のセンスのなさは今更じゃないですか!そこのケイン君もよく知っている筈です。ケイン君が付いていながら何でこんな風になってしまったんですか!」
「いや俺はガンツさんの好きな様にさせただけで…でも、そこまで責められること?」
「ここに来るまで悲鳴が聞こえなかったとでも?」
「ちょっとは聞こえたかな?」
「ここまで聞こえる悲鳴がちょっとですか。」
「ぐっ、そこまで言わんでもええじゃろ。」
「俺達で、その禍々しいフォルムを変えますから、置いて行って下さい。」
「イヤじゃ、ワシはこれでドライブするんじゃ!ワシから奪うな!」
「しかし、このまま街中を走られたら、それこそパニックを引き起こします。なのでここは素直に渡して下さい。」
「ケ、ケイン…何とかならんか。」
「え~と、この車のフォルムを変えると言うことですけど、具体的な案を見せてもらえますか?」
「「「「「へ?」」」」」
「いや、ガンツさんだって自分が格好いいと思っているのにどんなフォルムにされるかも説明されないまま、引き渡せと言うのはちょっと横暴じゃないかなと。それにこれが禍々しいのは認めますが、あなた達がこれよりも格好いいフォルムにすると信じられる物を俺達に見せてもらえますか?」
「「「「「ぐっ」」」」」
「出来ないのであれば、俺達は引き渡しを拒否します。」
「分かった。だが、すぐには用意出来ない。少し時間をもらえないか。」
「分かりました。俺達はこの工房で作られた四駆を見させてもらうので、その間に準備して下さいね。大体十分くらいでしょうか。では、ガンツさん行こう。」
「ケイン、そんなに禍々しいかの。」
「うん、そう思うよ。」
「ワシには格好良く見えたんじゃがの。何が悪かったんじゃろうか。」
「まあ、あのトゲトゲを取るだけでも変わると思うんだけどね。」
「何を言う!あの無数の棘が強さを表しとるんじゃぞ。それを取るなんて…」
「(いや、あれがあるから『世紀末風』に見えるんだけどな~)何でそこまで棘に拘るのさ。別になくてもいいじゃん。」
「ダメじゃ、強そうに見せんと襲われてしまう。だから、ダメじゃ。」
「あれ?ガンツさん、車にシールド着けなかったの?」
「ほえ?何じゃそれは。」
「いや、飛行機には着けたじゃん。何で車には着けなかったのさ。」
「あ…あ~!忘れとった。そうか、それがあったな。なら、棘はいらんな。」
「随分、あっさりだね。」
「守られるのなら、何でもええよ。後でアイツらに言って取り外そう。」
「うん、そうだね。」
工房の中に入り、四駆の様子を見る。
「うわ~結構作ったね~ガンツさんとして、作りはどうなの?」
「まあ、合格点じゃな。じゃが、肝心の駆動装置はまだ試しておらんじゃろうから、そこは誰かに試してもらわんとの。」
「デザインは問題ないの?」
「元々はケインの模型じゃろ?それほど変わったことはしていないと思うがの。」
「でもさ、俺としてはここの部分にこういうのを追加したいんだよね。」
「何じゃ、何を追加したいんじゃ。」
簡単にメモ紙に書いて『ウィンチ』を説明する。

「そんな物を着けてどうなると言うんじゃ?」
「壁を登れる様になるよ。」
「もう少し詳しく聞こうか。」
ガンツさんにウィンチの使い方を説明すると、「なら反重力の魔道具を付けた方が早いんじゃないか?」と言われるが、あれは浮くだけなので結局は引っ張る必要があるから、ウィンチは有効であることを納得してもらう。

「それは分かった。他にも何かあるのか?」
「じゃあ、ついでに…」と『シュノーケル』も説明する。
「ふむ、これを着けると多少の深いところでも川を渡ることが出来る様になると…」
「そう、どう?面白くない?」
「なぜじゃ…なぜもっと早く言ってくれんかった…」
「ど、どうしたのさガンツさん。」
「ケインがもっと早く言ってくれれば、ワシのに着けることが出来たのに…」
「そこなの?」

そんなやり取りをしていると肩をちょんちょんと叩かれる。
後ろを振り向くと工員達が迫っていて「さっきの話をもう少し詳しく!」と。

工員達にさっきの話をもう一度、より詳細に話す。
「ふむ、全部に着ける必要はないな。試しに三台に着けてみるか。よし、やるぞ!」
「「「「「おお!」」」」」
「あ、ケイン君、魔導モーターとエンジンはありったけ置いていって下さいね。頼みましたよ。」
「う、うん分かったよ。」
「何じゃケインも弱いの~」
「何で止めないのさ!」
「半端に餌をやるケインが悪い。」
「え~俺のせいなの~」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

下級兵士は断罪された追放令嬢を護送する。

やすぴこ
ファンタジー
「ジョセフィーヌ!! 貴様を断罪する!!」  王立学園で行われたプロムナード開催式の場で、公爵令嬢ジョセフィーヌは婚約者から婚約破棄と共に数々の罪を断罪される。  愛していた者からの慈悲無き宣告、親しかった者からの嫌悪、信じていた者からの侮蔑。  弁解の機会も与えられず、その場で悪名高い国外れの修道院送りが決定した。  このお話はそんな事情で王都を追放された悪役令嬢の素性を知らぬまま、修道院まで護送する下級兵士の恋物語である。 この度なろう、アルファ、カクヨムで同時完結しました。 (なろう版だけ諸事情で18話と19話が一本となっておりますが、内容は同じです) 2/7 最終章 外伝『旅する母のラプソディ』を投稿する為、完結解除しました。 2/9 『旅する母のラプソディ』完結しました。アルファポリスオンリーの外伝を近日中にアップします。

断罪されているのは私の妻なんですが?

すずまる
恋愛
 仕事の都合もあり王家のパーティーに遅れて会場入りすると何やら第一王子殿下が群衆の中の1人を指差し叫んでいた。 「貴様の様に地味なくせに身分とプライドだけは高い女は王太子である俺の婚約者に相応しくない!俺にはこのジャスミンの様に可憐で美しい女性こそが似合うのだ!しかも貴様はジャスミンの美貌に嫉妬して彼女を虐めていたと聞いている!貴様との婚約などこの場で破棄してくれるわ!」  ん?第一王子殿下に婚約者なんていたか?  そう思い指さされていた女性を見ると⋯⋯? *-=-*-=-*-=-*-=-* 本編は1話完結です‪(꒪ㅂ꒪)‬ …が、設定ゆるゆる過ぎたと反省したのでちょっと色付けを鋭意執筆中(; ̄∀ ̄)スミマセン

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。