上 下
140 / 468
連載

◆愚痴ってました

しおりを挟む
翌朝、格納庫に直接向かうとガンツさんが既にいた。そして…「遅い!」と。
「ガンツさんが早すぎるんだって。」
「そんなことはない!」
「だってまだ九時前だよ。いつもより早いくらいじゃない。」
「あれ?」
「何?もう始まっちゃった?」
「違~う!ワシを年寄り扱いするんじゃない!」
「でも、早いのは早いよね。」
「…すまん。」
「いいよ、予測出来ていたことだし。だから、少し早めに来たんだけどね。まさか、その予測を超えてくるとはね。」
「しょうがないじゃろ。せっかくワシらで作ろうとしていたのを下のヤツらに分捕られた形になってしまったんじゃからの。」
「まあ、気持ちは分からなくもないけどね。」
「じゃろ!なら、ほら、さっさと作ろうじゃないか。どら、まずは模型を見せるんじゃ。」
「もう、しょうがないな。ほら、これがそうだよ。」
「ん?何で二つあるんじゃ?」
「こっちがデューク様に渡す方で、こっちが父さんに渡す予定の物。」
「大して形は変わらないように見えるが?」
「まあね、パッと見は好みの問題だと思うよ。後は内装なんだけどデューク様のシートは革張りで、父さんのは汚されること前提で、スライム樹脂をコーティングしたシートにする予定なんだ。」
「ほう、内装でうるさい貴族と差を付けるって訳か。あの領主なら、あまりうるさいことは言わんだろうが、普通なら『平民と一緒だと!馬鹿にするな!』ってことになりかねんからな。」
「あ~やっぱり?」
「そうじゃ、まあしばらくは領主以外との付き合いはないじゃろうが、これで王都に行くとなると周りの貴族は放っとかんじゃろうな。」
「じゃあ、その時は後ろ盾に頑張ってもらわないとね。何ならしばらくは、あの無人島にこもってみたりとか?」
「ああ、秘密基地もすっかり忘れとったな。これが終わったら行くぞ。」
「行けるかな~」
「どっちみち騒ぎになるだろうから、その時は籠っていた方がいいかもしれん。何なら工員達も一緒に連れて行くのもいいかもしれんな。」
「保護と考えれば、それしかないね。」
「まあ、その時に考えればいいか。ほら、作るぞ。」
「はいはい。」

車体フレームを作り終え、エンジンを載せ動力部を繋いでいく。
「下回りは、こんなもんか?」
「そうだね。だいたい出来たね。」
「しっかし、あいつらは本当にコレを理解して作ってんだろうな。」
ガンツさんがコレを指差して言うコレとは、ディファレンシャルギアやセンターデフなどの四駆の中核と言ってもいい部分だ。
このギアが上手く動作しないと四駆どころかまともに走ってくれない。

「そこは自分の弟子達を信用しないと。」
「そこが難しいところでな。自分の目の届く元でなら安心して見ていられるんだが、今回みたいに一からあいつらに任せるのはなかったからな。どうも心配でな~」
「誰にでも最初はあるんだから、そこは信用してあげないとダメじゃん。単なる親バカになっちゃうから。」
「親バカか。確かにな、ワシの息子も関わっているし。そう考えるとな~」
「へ~息子さんがね~そりゃ、信用す…って、何?今、『息子』って言った?」
「ああ、言ったぞ。言ってなかったか?」
「聞いてないし!紹介もされてない!ええ、いつの間に?」
「アイツが里帰りした時に移住後じゃったから、ワシらはいなかったが、草刈りに行った奴らに会って一緒に来たらしい。」
「らしいって、アンジェさんは知ってるの?」
「知ってるも何も今一緒に暮らしとるが?」
「何で俺に言ってくれないの!」
「何でお前に?」
「『何で』って、そう言われると困るけど…俺って相棒じゃなかったの?」
「まあ、正直言うのを忘れとったからな。いつか言えばいいかとそのままじゃったわ。そんなところじゃ、まあ許せ。」
「いい加減だな~」
「アンジェにも叱られたしの~『ケイン君にはちゃんと言っとかないと』ってな。」
「ほら~やっぱりアンジェさんは分かってるよね。」
「まるでワシがしっかりしていないみたいじゃないか。」
「そう言ってるつもりなんだけど?」
「は~まあええわ。そろそろ昼にするか。」
「今日もアンジェさん特製?」
「そうじゃ、アンジェに感謝しろよ。ふふふ。」
「もちろん、アンジェさんには感謝してるよ。」
「何じゃワシにはナシか?」
「お弁当を運んでくれる人ってくらいには感謝してるから。」
「何じゃそりゃ。」
「そう言えばさ、そろそろ母さんが出産準備に入るからって昨夜言われてね。自分のことは自分でしてくれとも言われてさ。」
「ああ、もうすぐか。で、何が大変なんだ。母親がキツイんだから、そのくらいは当然じゃろ。」
「ああ、俺とクリス兄さんはいいんだけどね。」
「サムか!」
「そう、分かる?サム兄さんは、ほぼ家の中のことなんてしたことないだろうし。どうしたものかと思ってね。」
「なら、サムだけ独身寮にでも放り込めばいいんじゃないか?アイツなら、モニカと一緒に住めるとか勘違いして喜びそうだけどな。」
「おお!確かに。それはいいかも。今日帰ったら父さんに言ってみようかな。」
「ふふふ、長男だけが差別されているようにも見えるの。」
「父さんは差別じゃなくて、区別だって言ってるけどね。」
「区別か。」
「そう。」
「じゃが、本人は納得してないんじゃろ。」
「そこが問題なんだよね。」
「まあ、サムのことはそっちで解決してくれ。ほれ、続きをやってしまうぞ。」
「は~い、ごちそう様でした。」

下回りを完成させ、インパネ周りやライトなどの付属品を付けていく。
「だいたい出来たな。後はシートじゃな、しかしこのシートのせいで余分に長くしたんじゃろ。」
「だってさ、最初は二、三、三のシート配列を考えていたんだけど、流石にお貴族様を三人掛けに座らせるのは窮屈かなと思うと、シングルソファの二、二、二、二に変更するしかないじゃない。」
「まあ、それは分かるがな。しっかし肘掛けや背面にテーブルまで付ける必要があるのか?」
「だって、お貴族様はお茶を嗜むんでしょ?」
「ケイン、さっきから『お貴族様』って軽くディスっておるぞ。気を付けろよ。」
「あ、言ってた?」
「しっかりとな。」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

下級兵士は断罪された追放令嬢を護送する。

やすぴこ
ファンタジー
「ジョセフィーヌ!! 貴様を断罪する!!」  王立学園で行われたプロムナード開催式の場で、公爵令嬢ジョセフィーヌは婚約者から婚約破棄と共に数々の罪を断罪される。  愛していた者からの慈悲無き宣告、親しかった者からの嫌悪、信じていた者からの侮蔑。  弁解の機会も与えられず、その場で悪名高い国外れの修道院送りが決定した。  このお話はそんな事情で王都を追放された悪役令嬢の素性を知らぬまま、修道院まで護送する下級兵士の恋物語である。 この度なろう、アルファ、カクヨムで同時完結しました。 (なろう版だけ諸事情で18話と19話が一本となっておりますが、内容は同じです) 2/7 最終章 外伝『旅する母のラプソディ』を投稿する為、完結解除しました。 2/9 『旅する母のラプソディ』完結しました。アルファポリスオンリーの外伝を近日中にアップします。

断罪されているのは私の妻なんですが?

すずまる
恋愛
 仕事の都合もあり王家のパーティーに遅れて会場入りすると何やら第一王子殿下が群衆の中の1人を指差し叫んでいた。 「貴様の様に地味なくせに身分とプライドだけは高い女は王太子である俺の婚約者に相応しくない!俺にはこのジャスミンの様に可憐で美しい女性こそが似合うのだ!しかも貴様はジャスミンの美貌に嫉妬して彼女を虐めていたと聞いている!貴様との婚約などこの場で破棄してくれるわ!」  ん?第一王子殿下に婚約者なんていたか?  そう思い指さされていた女性を見ると⋯⋯? *-=-*-=-*-=-*-=-* 本編は1話完結です‪(꒪ㅂ꒪)‬ …が、設定ゆるゆる過ぎたと反省したのでちょっと色付けを鋭意執筆中(; ̄∀ ̄)スミマセン

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。