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◆断られました

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女性陣が下りて来るのを男だけで数分待つ。
「中々下りて来んの。」
「じゃこのメンバーで行きますか。」
「そうするとナーガ様が暴れるのでやめてくれ。」
「暴れます?」
「ああ、感情が昂ると危ないからな。ケインも揶揄うのは余裕を持ってやるんだぞ。ワシは責任持たんからな。」
「うわぁ色々面倒臭いな。」
「何が面倒臭いのかしら?ケイン君。」
「あ、やっと来た。モニカさんなんて何を準備するのさ。こんなに人を待たせてさ。」
「な、私だって一応女なんだから、色々とあるんだ。」
「そんなこと言って、早く出るとまた何か言われると思ってタイミングを測っていただけでしょ?」
「な、なぜ知っている!」
「うわぁ残念すぎる。」
「モニカ、父さんは悲しい。」
「ほら、何をしているの。早く行くわよ。」
「はいはい、行きましょうか。」

魔導列車に乗り領都の入り口に着くと、モニカさんにタクシーの手配を頼み少し待つ。
「これはママチャリとは少し違うのか。」
里長達に色々と説明している内にタクシーがやって来たので乗り込み教習所までお願いする。

教習所の前には既にサム兄さんが待っていたので、下りて里長達を紹介する。
「どうも、ケインの兄のサムと言います。」
「ケイン君にお世話になっています。里長のドランと言います。」
「じゃ、中に入ろうか。」
「ああ、お願いする。」

中では既に数台の教習が行われていた。
「これが車か。ワシらもこれの運転とやらを覚える必要があると言うてたが、本当に必要か?」
「そうですね、この車の運転がほとんどの作業車の基本になるので、覚えてもらわないと何も作業が行えないことになりますね。」
「それはイヤじゃな。」
「それで、今のドラゴニュータウンは草原なので、あの車じゃうまく走ることは出来ません。なので最初は、あっちのモトクロスバイクに乗って視察して欲しいと考えています。車のライセンス取得は最短で二週間ですが、バイクなら一週間です。ちなみに教習所はドワーフタウンで行えるように手配済みですので、明後日から通って下さい。」
「何と、もう決まっているのか?」
「ええ、決めました。」
「何と言うか…」
「まあまあ里長、悪い提案ではないのですから、ここは乗っておきましょう。」
「何じゃダリルよ。嬉しそうじゃの。」
「いえね、ママチャリでも十分楽しめたのですから、バイクはそれ以上の楽しさがあるんだろうなと思うと、もう楽しみで楽しみで。」
「(ケイン、このおじさん意外と話せそうだな。)」
『(そりゃモニカさんの親父さんだからじゃない。)」
「(何?モニカさんの?ばか、そう言うことは早く言えよ。)」
「お父さん!」
「『お父さん』って急になんですか?私はダリルであってあなたのお父さんではないですよ。」
「(あれ、サム兄さんはまだモニカさんのこと…嘘でしょ!)」
「すみませんでした。私はサムと言います。今モニカさんを雇っている商会の代表を務めております。」
「あ~あなたが雇い主でしたか。娘がお世話になております。」
「いえいえ、実は「はい、そこまで視察が終わらないからね。」…ケイン。」

「ダンさんはいるかな?」
「ケイン君、呼んだかな?」
「あ、ダンさん。ここの人達を車に乗せて軽くコースを回ってもらえますか?」
「ああ、この人達が例の?」
「そうです。新しい住人になる予定です。」
「分かった。ではお連れの皆さんこちらへどうぞ。」
「じゃあ里長達はダンさんに着いて行って。」
「ああ、行って来る。」

サム兄さんにサプライズで用意していた物を渡す。
「サム兄さん、はいこれ。」
「何だ?ブレスレットか。しかも赤ってお前こんなもんを男に渡すなよ。」
「いらないの?」
「う~ん、俺の趣味じゃないかな。」
「へ~弟からのプレゼントを断るんだ。へ~」
「お、プレゼントだったか。でもな~ブレスレットだろ。」
「本当にいらない?」
「ああ。俺が今欲しいのはお前も知っているだろ。それに約束もしてくれたよな。お前こそ忘れたのか?」
「だから、それがこれなんだけど?」
「へ?お前な~いくらケインでもこのブレスレットがバイクですって言ったって、ジョークにもならないぞ。」
「もう疑り深いな。そんなこと言ってるけどブレスレットのお礼に涙するからね。」
「俺が?それこそ『まさか』だろ。」
「いいからこれを着けて軽く魔力を流して。」
「分かったよ。一度だけだぞ。」
そう言ってブレスレットに魔力が登録され薄く光る。
「はい流したぞ。」
「じゃあ手を前に翳して『解除』って言ってもらえる?」
「言やいいんだな。『解除』…ってうわぁ何、何だこりゃ!」
「はい、試してもらったからもういいよ。そのブレスレットを返してもらえるかな。」
「ま、待て、待ってくれ。ケイン、俺が悪かった。謝る謝るから、これを説明してもらえるか?」
「なら、それに手を翳して『回収』って言ってもらえる。」
「ああ、いいぞ。『回収』…って消えたぞ。ケイン、あのバイクが消えたぞ。おい、どういうことだ。」
「だってブレスレットをいらないって言うから回収させてもらいました。はい、返して!」
「イヤ、ま、待つんだケイン。な、冷静に話し合おう。な、そうだな…まずは俺が悪かった。何の説明も聞かないままにお前からのプレゼントを否定してしまったことは謝る。だから、これを取り上げるなんてそんな酷いことを言うなよ。なあ俺はお前の兄貴だよ。」
「その兄に『こんな物はいらない』と思いっきり否定されましたが?」
「だから、俺が悪かったって。な?」
「ふふふ、サム兄さん。さっき俺が言ったことを覚えてる?」
「さっき?」
「サム兄さんが涙して感謝するって。」
「あ、ああそう確かそんなこと言ったな。」
「で?」
「で?」
「俺への感謝の言葉は?」
「へ?」
「俺への感謝の言葉は?」
「あ、ああ、ありがとう。俺には勿体無い贈り物だ。今まで最高の贈り物だ。ありがとう。」
「どういたしまして。サム兄さん誕生日おめでとう!」
「ああ、ありがとう。」
「じゃ乗ってみて。」
「ああ、乗ってみるな。『解除』」

出てきたバイクを今度はじっくりと見始めるサム兄さん。
やっとライセンスが発行され自分のバイクまで持てたんだもんね、嬉しいよね、たまんないよね、それは分かるけど、後にして欲しいなってことで話しかけてみる。

「サム兄さん、もういいかな。見つめるのは後にしてさ軽く乗ってきなよ。」
「あ、ああそうだな。じゃ、ちょっとだけ。」
赤い大型バイクに跨りエンジンを掛ける。
「ケイン、これは今までのと違う気がする。」
「そうだよ。新しいエンジンで馬力も上がっているから、最初は飛ばさないように慣らし運転に徹底してね。」
「その『慣らし運転』ってのをしないとどうなる?」
「部品が馴染む前に無茶をさせることになるから、すぐに壊れるね。」
「やばっ!あっぶな!すぐに最高速度に挑戦するところだったぞ。で、その慣らし運転はどのくらいを目処にすればいい?」
「まず最高速度は出しても50kmが上限。で、走行距離が500kmに達するまでは慣らし運転でお願いね。」
「そんなにか~我慢できるかな~」
「そんなのすぐでしょ。まあじっくり慣らしながら慣れていけばいいんじゃないの。」
「そうだな、そうする。ありがとうなケイン。」
「どういたしまして。」
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