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◆誓約させました

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家に帰ると父さんが上機嫌で晩酌していた。
「何、父さんいいことあった?」
「お、ケインか、ほらこれ。」
父さんが出したのはライセンスだった。
「取れたんだ。すごいね父さん。」
「だろ?ケイン、約束の物頼んだぞ。いいな。」
「分かってるよ。モニカさんの用事が済んだら取り掛かるから。もしリクエストがあるなら考えといてね。」
「おう、分かった。何がいいかな~」

「ケイン、父さんに付き合うことなかったのに。」
「何で?だってあんなに嬉しそうなのに。」
「俺達はもう何回も聞かされたんだ。分かるだろ。」
「じゃ、俺は父さんが飽きてたから助かったんだ。」
「そうかもな。」

「そう言えば話は変わるけどさ、俺達に祖父母っているの?」
「お、また急だな。」
「だってさ、そう言えば知らないなと思ったら気になって。」
「まあ、そう言われたら俺も知らないな。クリスは聞いたことがある?」
「いや、僕もない。」
「何かあるのかな。秘密にしておきたい何かが。」
「かもな。父さん達の故郷はここじゃないってのは聞いたことがあるし。」
「おお、それは初耳!それじゃぁ、どこなんだろ。」
「どこなんでしょうね~はい、夕食にするからね。準備手伝って。」
「「「は~い。」」」

夕食時に父さん母さんに何度か聞き出そうとしたが、上手にはぐらかされて分からなかった。
「何で教えてくれないの?」
「さあ、何ででしょうね~」
「じゃ、父さんと約束した車もお預けでいいよね?」
「な、ケインそれは約束が違うぞ!」
「何とでも言って。俺ははっきりしないのが嫌なの。話せないなら話せない理由を言えばいいじゃない。それすら言わないってのは変だよ。」
「ぐっ、なあ母さん、ダメかな?」
「何よ、私に振るの?父さん、それはちょっといただけないわね。」
「だって、母さんが…」
「もう、いいわ。ケイン、それにサム、クリス。この話はこのお腹の子が生まれるまではお預けね。無事に産まれたら全部話してあげるから。ね、それでいいでしょ。」
「「「は~い。」」」

翌朝、工房へと向かうとモニカさんが既にいた。
「モニカさん、色々とやってくれたね。」
「え?何、ケインが困るようなことをした覚えはないけど。」
「じゃあ母さんが、モニカさんを連れていくことを知っていたのは何でかな~不思議だよね~そう思わない?」
「え?何それ?私何も言ってないよ。ただ…」
「ただ?」
「サムには言ったかも…しれない。」
「はい、ギルティ!」
「え?ダメだった?」
「まあ、特に口止めしていなかった俺も悪かったけどね。」
「そう、そうだよ。ケインが悪いじゃん。そういうのはちゃんと言っといてくれないと。」
「そうだよね、こんな残念な人に注意していなかった俺が悪いよね。」
「そうだよ、この残念な…ちょっと待って。残念ってどういうこと?私が残念な人って言うの?」
「そう、俺の周りには残念な人ばかりが集まるから。」
「何だ、じゃやっぱりケインが原因なんじゃない。」
「モニカは『残念』と呼ばれるのはいいのか?」
「何、もしかしてリーサさんも残念な人なの?」
「ああ、私含めて家族全員が『残念な人』としてケイン達には認定されている。」
「そうなんだ。でも私は残念じゃないから、気にしないよ。」
「そういうところが同じ匂いがするな。」
「待って!そんな「ケインいるか?」…って誰このおじさん?」
「へ?デューク様、どうして?」

「ケイン、来ちゃった。てへっ。」
「『てへっ』じゃなくて、どうして?」
「『どうして』って、お前そこの姉ちゃんを里まで連れて行くんだろ?なら俺達も連れて行ってもらおうかと思ってな。」
「え?」モニカさんを見ると顔の前でブンブンと手を横に振る。
「知らないと言ってるようですが?」
「ああ、そうかセバス説明してやってくれ。」
「はい、旦那様。ケイン様お久しぶりです。」
「はい、お久しぶりです。それでどういうことなんですか?」
「ちょっとややこしいかと思いますが、よく聞いてくださいね。」
「はい、お願いします。」
「まず、モニカ様は教習所で日曜日は用事があるからと、そこのダンに話しましたね。」
「ええ、話しました。」
「その際に誰とどこに行くかも話しましたね?」
「ええ、ケインと里に行くと。」
「はい、それを私がダンからの報告で知ることになり、旦那様に報告しましたところ…」
「こうなったと言う訳だ。納得したかケイン。」
「ええ、もう十分に。」
「えっとケイン、顔がよくないよ。」
「顔がよくないのは知っている。毎日見てるからな。」
「あ、違う、違うからそうじゃなくて言いたいのは…」
「もういいから、モニカさんの口は災いを撒き散らすみたいだね。」
「おいおい、俺達は災い扱いか?」
「すみませんが、先にこの残念な人を片付けるんで黙っててもらえますか?」
「…ああ、すまん。」
「モニカさん、ここに座ってもらえますか?」
「…ここに座ればいいの?」
「はい、お願いします。」
「…座ったよ。これでいい?」
「ええ、これで手が届きます。」と言うとモニカさんの額を鷲掴みにする。
「ねえ、ケイン君。あの言いにくいんだけど頭が痛いから離してもらえるかな?ね?」
「ちょっと黙ってて下さいね。」
『………』とケインが呟くとモニカさんが「はい、誓います。」と言って、その場でソファに倒れる。
「おい、ケイン。その嬢ちゃんに何をしたんだ?」
「特に何も。」
「『何も』ってことはないだろ。現に嬢ちゃんはぐったりしているじゃねえか。」
「ああ、ちょっと誓約を掛けさしてもらいました。どうもこのモニカさんは、あまり考えずにベラベラと喋るようなので、俺達に関することは秘匿してもらうようにしました。」
「お前、えげつないな。」
「それはどうも。では、次はデューク様達の番ですね。」
「へ?何で俺達まで…」
「まだ、今日の俺達のことは広めて欲しくないんですよ。だから、少しばかり誓約を掛けさせてもらいますね。イヤならこのまま帰ってもらいますが。」
「そう来たか。よし、分かったやってくれ。」
「じゃ、セバス様は少し外れてて下さいね。ダンさんはデューク様の横に座って下さい。」
「待て!何でセバスはいいんだ?」
「へ?だってセバス様だし。」
「何だ、その理由であって理由じゃないような言い訳は!」
「まあまあ旦那様、早く座って早く終わらせてしまいましょう。」
「なあ、お前の雇い主は俺だって分かってるよな?」
「はいはい、よろしいですか。じゃケイン様、お願いします。」
「はい。じゃ、デューク様、ダンさん俺が言った後に『はい、誓約します。』と言って下さい。それで誓約が完了しますので。」
「それだけか?」
「ええ、ただ一言『はい、誓約します。』とお願いします。」
「分かった。やってくれ。」
「では…『………』、お願いします。」
「「はい、誓約します。」」
「はい、これで完了です。」
「なあ、これでどうなるんだ?」
「今日、これからのことを誰かに話そうとか聞かれたりした場合に止まります。」
「『止まる』?」
「ええ、文字通り行動が止まって何も出来なくなりますので。」
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