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◆始まりはケッコンでした

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朝食を終えて、そろそろ時間かなとリーサさんの部屋の前に繋ぎ潜って行く。
リーサさんの部屋の前に立つ。
「うん、ここで待つとか言った時は『マジか』とか『やりそうだな』とか思ってはいたけど、どうやら無駄な心配だったみたいだね。うんうん。ん?」
ドアの前で見付けた小さな血痕。

「あれ、昨日はなかったはずだし、リーサさんもそんな様子はなかった。なら、これは?」
まるで二時間サスペンスの導入部分のような場面展開にゾクッとしながら、呼び鈴を押す。
『ピンポ~ン♪』と部屋の中に響く音はするが、玄関に近付いて来る足音が聞こえない。
「まさかね。」と思いつつ、ドアノブを回すと鍵が掛かっていなかったようで、ガチャッとドアが開く。
「リーサさ~ん、いますか?迎えに来ましたよ~起きてますか~」
悪いなと思いつつ中へと足を踏み入れる。

「返事がないけど、お邪魔しますね~リーサさ~ん。」
それでも返事が返って来ない。

ふと足元を見ると血痕が奥へと続いている。
「え~ナニコレ!」
驚きつつも血痕を辿り奥へと進む。

そこには血溜まりに顔を突っ込み倒れているリーサさんがいた。
「リ、リーサさん?」
まずは近付き呼吸を確かめると、微かに呼吸していた。
「ほっ、とりあえずは生きている見たいだけど、この血溜まりは何?あれ、顔というか鼻からだな。はぁそういうことか。ったく、あれほど言ったのに。」
とりあえずは問題ない事を確信し、リーサさんを揺り起こす。

「リーサさん、リーサさん、起きて!もう朝だよ。お出掛けするんでしょ。起きて!この血痕も片付けな「ん?結婚!今『結婚』と言ったか?そうか、ケインもとうとうその気になってくれたんだな。だから、お泊まりデートの話になったんだな。そうか、私もいよいよ花嫁か~ふふふ、みんなに『奥さん』とか『奥様』とか言われて、ケインには『これウチの』とか『カミさん』とか言われる日が来たんだ。やっと来」いいから起きて!」
『スパ~ン』とハリセン一発で覚醒させる。

「あ、ケイン。さっき『結婚』と聞こえたんだが?」
「ああ、これのことね。正確には『血痕』ね。ほら、この血溜まりとか見えるでしょ?」
「は!何だこれは!いつの間に。」
「『いつの間に』って全部リーサさんでしょうに。」
「そうなのか?」
「いやいや、逆に誰か他人がするとしたら、わざわざここまですることに驚きだよ。」
「…やっぱり私なのか?」
「よく思い出してみたら?俺と別れた後、どうしたの?」
「そうだな、あれは確か…ケインと別れてから今日の事を考えてて、少し興奮し出したので『ヤバい』と思ったが、もう鼻からつたって来たので慌てて部屋に入った。」
「それが玄関前の血痕だね。それで?」
「部屋に入ってからもケインとの妄想が続いて、これはマジでヤバいなと思いながら、先にお風呂を済ませてしまおうと替えを取りに部屋に入ったところで、お風呂の妄想も加わって最高潮になって…」
「そこまでが覚えている全部なの?」
「ああ、そうだ。それで気付いた時にはケインが『結婚』と口にしていた訳だ。」
「しつこいようだけど『血痕』ね。」
「チッ」
「(舌打ちしちゃったよ。もしかして押し通すつもりだったの?)じゃ、片付けてしまおうか。」
「へ?お出掛けは?」
「それこそ『へ?』だよ。何でこのままお出掛けしようって気になるのさ。血痕は…ああもうややこしい、血液は早く拭かないとシミになって取れないからね。はい、俺も手伝うから。ああ、その前にリーサさんはお風呂に入って来なよ。顔を洗うついでにさっぱりした方がいいよ。」
「…そうか、確かに服も血だらけだしな。じゃ一緒に行くか。」
「だから、なぜそうなるの?いいから、さっさと入ってきなよ。」
「途中からの参加もOKだぞ。」
「いいから!」
「何なら、覗くだけでも。ガラス越しでもいいぞ。」
「もう、いいから。俺が片付けている間にさっさと済ませないと、お出掛けの時間もなくなるよ。」
「そうだ。こんな事をしている間に残り時間がなくなるな。分かった、さっさと済ませてしまおう。ケイン。そこのタンスの引き出しから替えをとってくれないか。」
「ああ、このタンスね…って、下着でしょ!自分でとりなよ。もう油断も隙もあったもんじゃない。」
「チッ」
「もう引っ掛からないからね。」
「まあいい、まだ二日あるんだし。」
リーサさんがお風呂に入っている間に床掃除を『クリーン』でさっさと済ませてしまう。

床掃除もサクッと終わらせてしまったので、ソファに座りリーサさんがお風呂から上がってくるのをだら~っと待つ。
時折聞こえてくるシャワーの水音を聞いていると何だか心地よくなって来る。
水音と言うのは、川の流れる音や海の波の音といい何でこんなに穏やかになるんだろうなとか考えているうちに眠気が押し寄せてくる。
「いや、リーサさんが出て来るまでは、ちゃんと起きてないと。出かけるんだし、ここで寝てどうする。起きていないと…起きて…起き…スゥ。」

何だかんだで一時間近くの入浴を済ませ、リーサさんがお風呂からバスタオル一枚で出て来る。
「ケイン、待っていたのになかなか来ないから長風呂になってしまったぞ。ん?」
ひっかかる場所がないほどの細身であるために今にもずり落ちそうなバスタオルを抑えつつドヤ顔で部屋に入って来るも肝心のケインの反応がないのを不思議に思っているとソファで丸くなっているケインを見つける。
「ふふふ、何だケインも楽しみで寝れなかったのか?」
今の姿を見せつけることが出来ないことを残念に思いつつも着替えを済ませ、ソファに座りケインが起きるのを待つ。

なかなか起きないケインの頭を自らの膝上に乗せ、その髪の毛を撫でつつ起きるのを待つ。
「しかし、こうやってても起きないもんだな。何だか私まで眠くなってしまうな。ふぁ~ぁ。でもまあ、こういうのも意外といいもんだな。前に友人と話している時に膝枕の有効性を教えてはもらったが、その時には何が楽しいのかと思ったもんだがな。これは意外といいな、今度友人に会ったら謝らないと。ふぁ~ぁ、それでも眠くなるな。床で寝てしまったからか?」

『ぴちゃん』と頬に伝わってくる水気に目が覚める。
「う~ん、何?雨なの?」
頬を拭いながら、目を覚ますと横になっている自分に気が付く。
「ああ、いつの間にか寝てしまったんだな。」
目を擦り意識を覚醒させると、リーサさんの顔を真下から確認する。
「何も遮る物がないから、そのまま綺麗に真下から見られるね。くくく。」
するとリーサさんの口元から一滴の滴が落ちそうになっているのに気付く。
「あれ?あれってもしかして…じゃあ、さっきの『ぴちゃ』ってのは…」
一気に意識が覚醒し、リーサさんの膝から跳ね起きる。
するとその刺激でリーサさんも覚醒する。

「ああ、ケイン起きたのか。」
「うん、起きた。今さっき起きた。膝枕ありがとうね。」
「ああ、そのくらい妻たるものの務めだ。気にすることはない。」
「…『妻』ってまあ、いいや。否定するのも時間が勿体無いしね。リーサさん、その前に口元を拭こうか。」
「口元?」
リーサさんが手で口元を触って、垂れていた物に気付くと慌ててハンカチで拭う。
「…見た?」
「うん、見たし、俺にも垂れて来た。」
「…すまない。」
「別にいいから、それより今は何時かな。」
「時間か結構経ったような気もするが…まだ昼前だな。」
「じゃ、今から王都の近くに出て、歩いて迎えばちょうどお昼くらいじゃない?」
「そうなのか?」
「前に出た場所に繋ぐから、遅くてもお昼過ぎには着くと思うよ。」
「分かった。じゃお願いする。」
「任せて。」
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