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◆いろんなモノが立ちました

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クレイグさんと別れた後、どうするかと考えるがまだ解散するには陽が高いので、工房へと戻る。
自室へと戻るとガンツさんとアンジェさんがお茶を飲みながら、くつろいでいた。
ここは俺の部屋のはずなんだが、気がつけば溜まり場となっている。
まあ、今は気にせずガンツさん達に声を掛けソファへと座る。

「アンジェさんの話し合いはうまくいったの?」
「ええ、あの保育所でね説明しながら子供達の面倒を見てもらったから、私が言いたいことのほとんどは分かってもらえたと思うの。それに奥さん達だけじゃなくてね。私以上のお年寄りでも手伝えるなら、喜んで手伝いたいと言ってくれる人達がいたのよ。でもね…チラッ」
「分かりました。セニアカーが必要と言う訳ですね。ガンツさん、そっちはお任せしましたよ。」
「ああ、任された。」
「うふふ、貴方頼みますね。」
「あ、ああワシに出来ることはこれぐらいだからな。町長と言われながらも細かいところはほとんど周りに助けてもらってばかりだな。」
「うふふ、威張って何もしないよりはマシよ。」
「いいじゃない。助けて貰えばさ。一人でやろうとしたって無理だもんね。頑張らないのが一番だよ。」
「そこにいい見本がいるしの。」
「ケインは私をあまり頼ってはくれないが…」
「まあまあ、お昼も食べてないんじゃないの?ガンツからある程度の話はさっきまで聞かせてもらっていたのよ。結構色々あった見たいね。ほら、おやつの残りで悪いんだけど、食べなさい。」
「「はい、いただきます。」」
アンジェさんにお茶を入れてもらい、甘く香ばしいお菓子を頬張る。

お腹も落ち着いたので、ちょっと今から工作室で作ろうと立ち上がるとガンツさんが興味深そうに「何を作るんだ?」と聞いて来たので、「見る?」と聞くと「もちろん!」と返された。

二人で工作室に入ると後ろからちょっとよろしくない会話の内容が聞こえてきた。
「やっぱり、ケイン君には敵わないのね。」
「アンジェよ、それは一部の人にはご馳走になる発言だぞ。」
「でも、見てよ。あの嬉しそうな顔。やっぱりガンツは何か作っている時が楽しいのよね。私達家族も忘れるくらいに。」
「だが、ケインと会う前は小さな工房だったぞ。こうは考えられないか?アンジェ達を呼ぶ為に頑張って工房を大きくしようとしていたと。まあ、大きくなった後も連絡を取らなかったのは本当に忘れていたのかも知れんが。それにまだ幼かったケインと出会って、次から次に新しい物が作られる様になり、工房も大きくして忙しくしていたのは見ているし。まあ、私もしばらくはケインに忘れられていたからな。少しは気持ちがわかる気がする。」
「そうね、あの人もそうだけど男の人にはそういうところはあるかもね。」
「私は偉そうなことは言えんが、二人で何か作っているところや、動かしているところを見るのは結構、好きだぞ。ガンツは除くがな。」
「あら、ガンツ込みでも私は構わないわよ?」
「「ぷっ、ふふふ。」」

「(ガンツさん、聞こえた?)」
「(ああ、ほぼな。アンジェにはまだ、忘れていたと思われているが今はこのままでいいか。)」
「(ほぼ事実だもんね。リーサさんにズバリ言われているし。ぷっ)」
「(お前だって、そうじゃねえか。)」
「(案外、あっちのコンビもいい関係になってそうだね。)」
「(ああ、いい感じだな。)」
工作室の扉を閉めた位置で二人で盗み聞きをする格好となったが、アンジェさんの気持ちを知れたのはガンツさんにとってはいい方向に向いたようだ。

「で、ケインよ何を作るつもりだ?」
「ちょっと待ってね。…サラサラっとこんな感じかな?」
ファスナーの絵をメモ紙に書いて見せる。
「これは何だ?パッと見は何かを繋いでいる様に見えるが…」
「本当は細かい部品がいっぱいいるんだけど、まずは試作と言うことで噛み合わせる『歯』の部分と、それを合わせる『スライダー』部分を作るね。」

いつもの様に細かい調整が出来る土魔法を使って、『歯』と『スライダー』を用意する。
後は布の切れ端二つに『歯』を止めて、間に『スライダー』を噛ませる。
「これで出来上がり!」
「ふむ、これは布の合わせを繋ぐ?塞ぐ?」
「両方だね。例えばほら、ここ!」
ズボンのボタン部分を指す。
「ほら、ボタンが煩わしい時ってあるでしょ?その時にこのファスナーなら、ほら!」
スライダーを動かして二つの布がくっ付いたり離れたりするのを見せる。
「なるほど。確かに便利そうだの。」
「でしょ。それにね、これをバッグとか袋の口に付けると開け閉めも楽になるよね。」
「ああ、それは分かる。これは流行りそうだな。くくく。」
「ガンツさんもそう思うよね。じゃあ、量産用のを作ろうか。」
「ああ、まずはこの『歯』と『スライダー』だけでいいのか?」
「このままじゃスライダーが抜けるから、止める部分も必要になるから。」
「ならば、三つか。」
「『止め』がね、上下で二種類必要になるから、あとスライダーのつまみ部分でしょ、だから部品だけで五つだね。後はスライダーにつまみを付けるのと布に噛ませる工作機械が必要になるよ。」
「おお、それは面白そうだな。ワシが作っても?」
「まずは部品用のを作ってからだね。」
「ふふふ、ならば先に作り終わった方が作ると言うことじゃな。」
「まあ、別に競争じゃないんだけどねえ…」
「い~や、ただ作るだけで何が面白い?」
「はいはい、分かりました。じゃ、作るよ。」
「おう!」

さあ、作ろうとしていると工作室のドアがノックされ、「そろそろ帰りませんか?」とアンジェさんから提案される。
「お、もうそんな時間か?」
「貴方達は楽しそうだったものね。時間が経つのも早く感じたでしょ?」
「…ぐ、そ、そうだな。で帰るか。ケイン、競争はお預けじゃ。」
「はいはい、ガンツさんこそ朝早く来て『もう出来た!』ってのはなしだよ?」
「ワ、ワシがそんなことをするような男だと言うのか!」
「うん。そう思ってる。」
「ふふふ、読まれているわね、貴方。」
「い、言うなよ~アンジェ~ワシの計画が…」
「もう、ちゃんとした鍵を付けようかな。」
「ダメだ!ここはそのままでいい!分かったから、抜け駆けのような真似はせんから、このままで頼む。」
「はいはい、もういいから帰りましょう。」
「ああ、いつまでもガンツとのイチャイチャを見せられるのも苦痛だ。」
「もう、リーサさんまでそんなこと言うの?」
「それはある種の性癖持ちにはご馳走になると思うぞ。」
「…えっと、もしかして、そう言うお知り合いがいる?」
「何だ、紹介して欲しいのか?」
「いえ、出来ればそのままで。」
「そうか、私の性癖を理解してくれる数少ない友人の一人なんだがな。残念だ。」

「(まあ、長く生きてりゃ色んな知り合いがいるもんさ。頑張んなケイン。)」
「(ガンツさんもその一人だしね。)」
「(ああ、そうだな。だがワシは『理解者』ではないが、その友人とやらは思い付かん。)

「(ここで話しているとフラグが立ちそうだな。不吉な…)」
「(何だ『フラグ』とは?何が『立つ』んだ?)」
「(だから、そう言うのが…)」
「ケイン、ガンツに何が立つんだ?私は放っといてそっちに行くのか…泣くぞ。」
「ああ、立っちゃったかも…」
「何!ガンツ相手にか!そんな…私の立場は…そう言えば、さっきも互いの股間を指していたし…」
「(アレを見られていたのか…)リ、リーサさん、そもそもが違うからね。それもなんで男相手に…」
「なら私にと言うことだな!ついに…ああ、私もついに…ケインと一緒に登れるのか…」
「ち、違うからね、リーサさん?ガンツさんもニヤニヤしないで、何とかしてよ!」
「もうそこまで暴走モードに入りかけていたら、いつものヤツしかないじゃろ。ほれ、はよせんと、入るぞ。」
「ふふふ、なら今日はこのままケインと…」
『スパ~ン』と暴走モードを断ち切り、何とか納める。
「もうリーサさん、何度も言うけどまだだからね。」
「…すまない。」
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