上 下
80 / 468
連載

◆いろんなモノが立ちました

しおりを挟む
クレイグさんと別れた後、どうするかと考えるがまだ解散するには陽が高いので、工房へと戻る。
自室へと戻るとガンツさんとアンジェさんがお茶を飲みながら、くつろいでいた。
ここは俺の部屋のはずなんだが、気がつけば溜まり場となっている。
まあ、今は気にせずガンツさん達に声を掛けソファへと座る。

「アンジェさんの話し合いはうまくいったの?」
「ええ、あの保育所でね説明しながら子供達の面倒を見てもらったから、私が言いたいことのほとんどは分かってもらえたと思うの。それに奥さん達だけじゃなくてね。私以上のお年寄りでも手伝えるなら、喜んで手伝いたいと言ってくれる人達がいたのよ。でもね…チラッ」
「分かりました。セニアカーが必要と言う訳ですね。ガンツさん、そっちはお任せしましたよ。」
「ああ、任された。」
「うふふ、貴方頼みますね。」
「あ、ああワシに出来ることはこれぐらいだからな。町長と言われながらも細かいところはほとんど周りに助けてもらってばかりだな。」
「うふふ、威張って何もしないよりはマシよ。」
「いいじゃない。助けて貰えばさ。一人でやろうとしたって無理だもんね。頑張らないのが一番だよ。」
「そこにいい見本がいるしの。」
「ケインは私をあまり頼ってはくれないが…」
「まあまあ、お昼も食べてないんじゃないの?ガンツからある程度の話はさっきまで聞かせてもらっていたのよ。結構色々あった見たいね。ほら、おやつの残りで悪いんだけど、食べなさい。」
「「はい、いただきます。」」
アンジェさんにお茶を入れてもらい、甘く香ばしいお菓子を頬張る。

お腹も落ち着いたので、ちょっと今から工作室で作ろうと立ち上がるとガンツさんが興味深そうに「何を作るんだ?」と聞いて来たので、「見る?」と聞くと「もちろん!」と返された。

二人で工作室に入ると後ろからちょっとよろしくない会話の内容が聞こえてきた。
「やっぱり、ケイン君には敵わないのね。」
「アンジェよ、それは一部の人にはご馳走になる発言だぞ。」
「でも、見てよ。あの嬉しそうな顔。やっぱりガンツは何か作っている時が楽しいのよね。私達家族も忘れるくらいに。」
「だが、ケインと会う前は小さな工房だったぞ。こうは考えられないか?アンジェ達を呼ぶ為に頑張って工房を大きくしようとしていたと。まあ、大きくなった後も連絡を取らなかったのは本当に忘れていたのかも知れんが。それにまだ幼かったケインと出会って、次から次に新しい物が作られる様になり、工房も大きくして忙しくしていたのは見ているし。まあ、私もしばらくはケインに忘れられていたからな。少しは気持ちがわかる気がする。」
「そうね、あの人もそうだけど男の人にはそういうところはあるかもね。」
「私は偉そうなことは言えんが、二人で何か作っているところや、動かしているところを見るのは結構、好きだぞ。ガンツは除くがな。」
「あら、ガンツ込みでも私は構わないわよ?」
「「ぷっ、ふふふ。」」

「(ガンツさん、聞こえた?)」
「(ああ、ほぼな。アンジェにはまだ、忘れていたと思われているが今はこのままでいいか。)」
「(ほぼ事実だもんね。リーサさんにズバリ言われているし。ぷっ)」
「(お前だって、そうじゃねえか。)」
「(案外、あっちのコンビもいい関係になってそうだね。)」
「(ああ、いい感じだな。)」
工作室の扉を閉めた位置で二人で盗み聞きをする格好となったが、アンジェさんの気持ちを知れたのはガンツさんにとってはいい方向に向いたようだ。

「で、ケインよ何を作るつもりだ?」
「ちょっと待ってね。…サラサラっとこんな感じかな?」
ファスナーの絵をメモ紙に書いて見せる。
「これは何だ?パッと見は何かを繋いでいる様に見えるが…」
「本当は細かい部品がいっぱいいるんだけど、まずは試作と言うことで噛み合わせる『歯』の部分と、それを合わせる『スライダー』部分を作るね。」

いつもの様に細かい調整が出来る土魔法を使って、『歯』と『スライダー』を用意する。
後は布の切れ端二つに『歯』を止めて、間に『スライダー』を噛ませる。
「これで出来上がり!」
「ふむ、これは布の合わせを繋ぐ?塞ぐ?」
「両方だね。例えばほら、ここ!」
ズボンのボタン部分を指す。
「ほら、ボタンが煩わしい時ってあるでしょ?その時にこのファスナーなら、ほら!」
スライダーを動かして二つの布がくっ付いたり離れたりするのを見せる。
「なるほど。確かに便利そうだの。」
「でしょ。それにね、これをバッグとか袋の口に付けると開け閉めも楽になるよね。」
「ああ、それは分かる。これは流行りそうだな。くくく。」
「ガンツさんもそう思うよね。じゃあ、量産用のを作ろうか。」
「ああ、まずはこの『歯』と『スライダー』だけでいいのか?」
「このままじゃスライダーが抜けるから、止める部分も必要になるから。」
「ならば、三つか。」
「『止め』がね、上下で二種類必要になるから、あとスライダーのつまみ部分でしょ、だから部品だけで五つだね。後はスライダーにつまみを付けるのと布に噛ませる工作機械が必要になるよ。」
「おお、それは面白そうだな。ワシが作っても?」
「まずは部品用のを作ってからだね。」
「ふふふ、ならば先に作り終わった方が作ると言うことじゃな。」
「まあ、別に競争じゃないんだけどねえ…」
「い~や、ただ作るだけで何が面白い?」
「はいはい、分かりました。じゃ、作るよ。」
「おう!」

さあ、作ろうとしていると工作室のドアがノックされ、「そろそろ帰りませんか?」とアンジェさんから提案される。
「お、もうそんな時間か?」
「貴方達は楽しそうだったものね。時間が経つのも早く感じたでしょ?」
「…ぐ、そ、そうだな。で帰るか。ケイン、競争はお預けじゃ。」
「はいはい、ガンツさんこそ朝早く来て『もう出来た!』ってのはなしだよ?」
「ワ、ワシがそんなことをするような男だと言うのか!」
「うん。そう思ってる。」
「ふふふ、読まれているわね、貴方。」
「い、言うなよ~アンジェ~ワシの計画が…」
「もう、ちゃんとした鍵を付けようかな。」
「ダメだ!ここはそのままでいい!分かったから、抜け駆けのような真似はせんから、このままで頼む。」
「はいはい、もういいから帰りましょう。」
「ああ、いつまでもガンツとのイチャイチャを見せられるのも苦痛だ。」
「もう、リーサさんまでそんなこと言うの?」
「それはある種の性癖持ちにはご馳走になると思うぞ。」
「…えっと、もしかして、そう言うお知り合いがいる?」
「何だ、紹介して欲しいのか?」
「いえ、出来ればそのままで。」
「そうか、私の性癖を理解してくれる数少ない友人の一人なんだがな。残念だ。」

「(まあ、長く生きてりゃ色んな知り合いがいるもんさ。頑張んなケイン。)」
「(ガンツさんもその一人だしね。)」
「(ああ、そうだな。だがワシは『理解者』ではないが、その友人とやらは思い付かん。)

「(ここで話しているとフラグが立ちそうだな。不吉な…)」
「(何だ『フラグ』とは?何が『立つ』んだ?)」
「(だから、そう言うのが…)」
「ケイン、ガンツに何が立つんだ?私は放っといてそっちに行くのか…泣くぞ。」
「ああ、立っちゃったかも…」
「何!ガンツ相手にか!そんな…私の立場は…そう言えば、さっきも互いの股間を指していたし…」
「(アレを見られていたのか…)リ、リーサさん、そもそもが違うからね。それもなんで男相手に…」
「なら私にと言うことだな!ついに…ああ、私もついに…ケインと一緒に登れるのか…」
「ち、違うからね、リーサさん?ガンツさんもニヤニヤしないで、何とかしてよ!」
「もうそこまで暴走モードに入りかけていたら、いつものヤツしかないじゃろ。ほれ、はよせんと、入るぞ。」
「ふふふ、なら今日はこのままケインと…」
『スパ~ン』と暴走モードを断ち切り、何とか納める。
「もうリーサさん、何度も言うけどまだだからね。」
「…すまない。」
しおりを挟む
感想 254

あなたにおすすめの小説

月が導く異世界道中

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  漫遊編始めました。  外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

天災少年はやらかしたくありません!

もるもる(๑˙ϖ˙๑ )
ファンタジー
旧題:チート(現代知識)×チート(魔法)×チート(武術)はチート∞(天災級)?! 【アルファポリス様にて発売中!!】 「天災少年はやらかしたくありません!」のタイトルで2022年10月19日出荷されました! ※書籍化に伴い一部を掲載停止させて頂きます あれ?何でこうなった? 僕の目の前の標的どころか防御結界が消滅。またその先の校舎の上部が消滅。 さらにさらに遠く離れた山の山頂がゴッソリと抉れてしまっている。 あっけにとられる受験者。気絶する女の子。呆然とする教員。 ま……まわりの視線があまりにも痛すぎる…… 1人に1つの魂(加護)を3つも持ってしまった少年が、個性の強い魂に振り回されて知らず知らずの内に大災害を発生させて、更なるチートで解決していく物語です! 書籍化記念書き下ろし 天災少年はやらかしたくありません!スピンオフ Stories https://www.alphapolis.co.jp/novel/589572036/842685585 第2部『旅行中でもチート(現代知識)×チート(魔法)×チート(武術)はチート∞(天災級)?!』 https://www.alphapolis.co.jp/novel/589572036/979266310 第3部『ダンジョンでもチート(現代知識)×チート(魔法)×チート(武術)はチート∞(天災級)?!』 https://www.alphapolis.co.jp/novel/589572036/211266610

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

料理屋「○」~異世界に飛ばされたけど美味しい物を食べる事に妥協できませんでした~

斬原和菓子
ファンタジー
ここは異世界の中都市にある料理屋。日々の疲れを癒すべく店に来るお客様は様々な問題に悩まされている 酒と食事に癒される人々をさらに幸せにするべく奮闘するマスターの異世界食事情冒険譚

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。