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◆とんでもなく不器用でした

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エルフの里の結界の話の流れから、いつの間にかクレイグさんを研究者として雇う話になった。
「じゃクレイグさんはリーサさんと一緒に住む?」
「ケイン、冗談だよな?なぜ、私がこんな兄の世話をするんだ。」
「ええ、じゃ誰が俺の世話をしてくれるの?」
「もしかして、不器用って生活全般にも影響してます?」
「「「「もちろん!」」」」
「分かりました。なら独身寮に入れるようにしておきますので、今日は皆さんとお帰り下さい。また、明日に迎えに伺いますので。じゃいいですね。」
「「「よくない!」」」「ない…の?」
「ええ、もうリーサさん、面倒くさい。どうにかならない?」
「…そうだな、もういい加減面倒だな。ケイン、繋いでくれるか。兄も今日は向こうで荷造りでもするんだな。」
「じゃ繋ぐよ。」とエルフの里にゲートを繋ぐと『ぽいぽいぽ~い』とご両親、妹さんをリーサさんがゲートの向こう側に投げると、弟さんを抱いたクレイグさんがそっと潜って行ったのを確認しゲートを閉じる。

すっきりとした顔でリーサさんが振り返ると「これで静かになった。」と俺に言う。
「そうだね、じゃ帰ろうか。」
「…静かになったし、これからと思ったのに。そうか、もうこんな時間だしな。リーサ~ファイトォ~」
「リーサさん?その掛け声はちょっと怖いから、やめようか?」
「そ、そうか、すまない。ふぅ落ち着け、落ち着くんだリーサ、まだチャンスはいっぱいあるんだから。」
「(俺は狩られるの?)リーサさん?」
「…ああ、すまん。帰るんだったな。」

無事に家に帰り、夕食、風呂と済ませ自室に戻る。
兄ズはまだ立ち直っていないようだ。

布団に入る前にしたいことや忘れちゃいけないことをメモに書く。
なぜ今、こんなことをしているかと言うとさっき風呂に入る時に気付いたからだ。
「なぜ俺はファスナーを作っていないんだ。」と。
普段履いているズボンはビンテージジーンズの様に全てをボタンで閉じるから、余裕がある時はいいが、催して急いでいる時にはすごくもどかしい。
その時にファスナーの重要性を思い出し、いつか作ると誓っていたはずなのにすっかり忘れていた。
だから今、忘れないようにとメモに『ファスナー』と書いてから布団に入る。

翌朝、工房の自室に出るとどこかやつれた状態のガンツさんと少し作った感じのすまし顔のアンジェさん、そして満面の笑みのリーサさん。
「おはよう、ガンツさん無事だったんだね。」
「ケイン…一言目がそれか。」
「おほん、ケイン君、リーサさん昨日はお見苦しいところをお見せしました。ごめんなさいね。」
「いえ、悪いのはそこのガンツさんですし、アンジェさんは悪くないですよ。そうだ、それ下に持って行った方がいいですよね。後で下ろしますから、忘れないようにして下さいね。」
「ありがとう。その時は頼みますね。こういう優しさをガンツも見習うべきなのよ。」
「ふふふ、そうだな私もそう思うぞ、ガンツ。」
「…ぐっ何も言い返せない!」
「ガンツさん、女性にとって記念日は大切みたいだよ。お互いに注意しようね。」
「お前はいいのか?」
「俺?俺は誕生日とか聞いてないからセーフ!」
「い、いいのかリーサよ。これをお前は許すのか?」
「当日に忘れないように私から言うから、大丈夫だ。」
「そ、そうなんだ。へ~」
「ケイン、どうする?」
「ガンツさん、俺たちは技術者だよね?何か忘れないように『備忘録』みたいな魔道具を作るしかないと思うんだけど。」
「だな、じゃそれを作りたい物リストの一番最上位にしとくか。」

とりあえず昨日の話はここまでにして、今日の予定を確認する。
「私は今日は着いて行かないから。」とアンジェさんが言う。
「どうした?」
「昨日、保育所を用意してもらったでしょ?その件で奥様達と一緒に色々と話をしておきたいと思ってね。ガンツは淋しいだろうけど、我慢してね。」
「べ、別にそんなつもりで聞いたんじゃないからな。」
「お~『ツンデレ爺さん』だ。」
「何だ?その『ツンデレ爺さん』とは?」
「あのねまず『ツンデレ』ってのは…ってことね。」
「そうか、それはまさしく目の前のガンツだな。」
「リーサさん、『それ』後で詳しく。」
「ああ、分かった。」

「ケインよ、ワシをじい様呼ばわりだけじゃなく、何の属性を追加した?」
「まあ、いいじゃない。それより今日は転送ゲートタワーをエルフの里に繋いでクレイグさんを迎えに行くよ。」
「何だ?その『転送ゲートタワー』ってのは。」
「そうか、リーサさんにはまだ説明していなかったね。いい?『転送ゲートタワー』ってのは…」
「なるほど、許可された者のみが通れる転送ゲートの施設か。また何でそんな物を用意しようと思ったんだ。」
「切欠はドワーフの里に寄った時に雑草が伸びていたのを見てさ、誰かが自由に来られるようにした方がいいかなって思ってね。」
「それが形になったという訳か。」
「「そう(だ)。」」
「でもね、昨日のベティの様に飛び込んで来られる場合がこの先ないとも言えないよね。だから、その辺の警戒も含めての転送ゲートってわけさ。」
「そうか、あの子はまたやらかしそうだったものな。」
「ってかさ、何であそこまでリーサさんに固執してるの?」
「私にそれを聞かれても分からん。」
「そうか。じゃはい、これ。」
「これは?」
「これが許可証代わりのブレスレットになるから、無くさないでね。あ、アンジェさんのブレスレットにも『セニアカー』の鍵を追加しないと。アンジェさん、ちょっといい?」
「はい、お願いしますね。」
「じゃ、ちょっとセニアカーに乗ってもらえる?」
「これでいい?」
「じゃ、そのまま楽にしている状態で、セニアカーに魔力を通してね。」
「こう?かな。」
ブレスレットが一瞬光り登録が出来たことを知らせる。
「出来たね、じゃこのセニアカーは預かって下に下ろすね。」
「はい、お願いね。ケイン君。」
セニアカーを収納し、揃って下に降りてからアンジェさんの前にセニアカーを出す。

アンジェさんが早速と乗り込み、始動ボタンを押す。
「確か左手は握ったままで…」
「大丈夫か?アンジェ。」
「ちょっと、うるさい。今思い出しながらやっているんだから。」
「す、すまん。」
「まあ、心配だよね。でも、そこは信頼してあげないと。」
「『信頼』か。そうか、ワシには足りないものだな。」
「心配しなくても信頼はしてるわよ。うふふ、昨日のが効きすぎたかしら。」
「ほら、アンジェさん行っちゃうよ。」
「あ、ああアンジェ頑張ってな。」
「うふふ、信頼してるんでしょ。任せなさい、じゃあね。」
セニアカーに乗って去っていくアンジェさんを見送る………が、遅い。
「アンジェさん、もう少し最高速度を上げようか?」
「あら、うふふ、そうね。じゃもう少し…このくらいかしら。ひゃっ」
「アンジェ!大丈夫か。」
「だ、大丈夫よ、少しだけ速くなったのに驚いただけだから、ね。大丈夫だから。」
「そうか、気をつけるんだぞ。」
「うふふ、じゃあね。」
少し速くなったセニアカーでアンジェさんが走っていく。

「さて、ガンツさん。俺達も行こうか。」
「ああ、待たせたな。」
「ガンツも慌てるんだな。」
「あまり年寄りを揶揄うなよ。」

少し歩いて転送ゲートタワーの前に着いた。
「これが、そのタワーなのか。全く、ちょっと目を離した隙に色々と作るもんだ。」
「それがケインだと分かっている話だろ。それにそんなことは今更だ。」
「うん、そうだな。じゃ入ろう。」
「あ、待ってリーサさん!」
「何だケイン?あれ、開かないぞ?壊れているのか?」
「何じゃケイン、あのビリビリはないのか。がっかりじゃな。ワシちょっと期待したんじゃぞ。あれにリーサが掛かるところを。」
「ガンツ…よ~く覚えておく。」
「さあケイン、リーサにタネ明かしをしてやれ。」
「あのね、リーサさん。このタワー自体は認証された人しか入れなくしているから、このブレスレットにまずは魔力を軽く流してもらえる?」
「ふむ、これが鍵になるのか。どれ。」
リーサさんのブレスレットが一瞬光りリーサさんの魔力が登録された。
「じゃあ、もう一回ドアを開けてもらえる?」
「今度は開くんだな。どれ。」
リーサさんが軽く力を入れると扉が開いたので中へと入る。
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