上 下
137 / 185
第3章 ただいま、放浪中

第12話 問題はソコ

しおりを挟む
「陛下、本日は急な「いいから、用件を早く言え」……は! では」

 朝になり伯爵は王に対し「急用があり面会したい」と申し出て、今は応接室にて王と伯爵、そして宰相の三人でソファに座っていた。

 伯爵が部屋に入ってきた王に対し急に会いたいと呼び出した非礼を詫びようとしたところで王から「そんなのはいいから」と話を進めるように言われる。

「実は急用と言うのはヒロ殿に関することでありまして……」
「ヒロ殿か……確か、報告では昨日、王都を発ったと聞いているが」

 王は伯爵の言葉に腕組みをして伯爵を見据える。

「はい。ヒロ殿は確かに昨日、出立しました」
「うむ。で、それがどうしたのだ?」
「はい。実は……」

 伯爵はヒロは確かに王都は発ったが、夜には屋敷に戻って来たと報告する。

「あぁ~そういうことか。確かにヒロ殿ならば、それくらいは容易いことであろう。で、それが急用として報告するほどの内容か?」
「いえ、問題はそこではありません。ヒロ殿が連れ戻って来た人物が問題なのです」
「ふむ。では、其方そなたがそれほど慌てる程の人物をヒロ殿が連れて来たと言うのか?」
「はい、その通りです」
「しかし、ヒロ殿とて無理矢理連れて来たと言う訳ではあるまい。ヒロ殿はああ見えて人畜無害なところもあるし強引にコトを運ぶなんてことは出来そうにないしな」
「はい。ですが、連れて来た……まあ、実際は無理矢理着いて来た様な感じですが、その人物が問題なのです」
「随分と勿体ぶるではないか。そんなに大層な人物なのか?」
「陛下は世界樹ユグドラシルをご存じですか?」
「ああ、実際に訪れたことはないが、遠目に『あれが世界樹です』と木の先端を見た記憶はあるが……それが何の関係が?」
「大ありです。ヒロ殿が連れて来たのは、その世界樹の守人である『原初のオリジンエルフ』と言ったのです」
「は?」

 王は伯爵の言葉に自分の耳を疑うしかなかった。

「ジャミア卿、今『原初のオリジンエルフ』と言ったか?」
「はい。確かに言いました。私も彼女から聞いた時には自分の耳を疑いましたが、事実の様です」
「……どうしてそうなったのだ?」
「どうしてと私に聞かれても困るのですが、その彼女……リーア殿と申しますが……彼女が言うにはヒロ殿を気に入ったと。孰れはヒロ殿の伴侶になるつもりだともハッキリ申しました」
「はぁ?」

 王は伯爵の言葉に正直に頷くことは出来なかった。確かにヒロには王妹であるクリスが文句の付けようがない相手を探すことを勧めはしたが……まさか『原初のオリジンエルフ』を連れ来ると誰が想像出来ようか。

「……で、大体の話は分かったが、肝心のヒロ殿とその……リーア殿はどうしてこの場にいないのだ?」
「はい。ヒロ殿は結果的にはリーア殿を無理矢理拐かしたと思われてもしょうがないと言うこと。そしてリーア殿は暫くは国であるリリージュには戻りたくないと宣言していることもあるので、今日はヒロ喉にお願いしてリリージュ国に説明しに行ってもらっています」
「ああ、なるほどね。それもそうか、国家のシンボル的な人物を攫ったとなれば国際問題だからな」
「ええ、ヒロ殿もそれをリーア殿に説いて、なんとか承諾してくれたようで」
「今はリリージュ国に向かった……と」
「はい」

 伯爵の説明を聞き終えた王は「ハァ~」と深く嘆息すると「で?」と伯爵に問い掛ける。

「『で?』と申しますと?」
「だからね、リーア殿はヒロ殿と親密になりたい……これは確かなんだよね?」
「はい。本人も強く望んでいましたので間違いはないかと……」
「それなら、国家間としての問題はなさそうだが……そう上手くはいかないか」
「はい。なんせ『原初のオリジンエルフ』ですからね」
「あぁ~問題はそこだろうな」
「ええ、実際に現人神の様な扱いを受けていますから。そんな方がいくらまれびととは言え一般人であるヒロ殿と一緒になると聞いて『はい、そうですか』とはならないかと」
「だな。どうだろう。いっそのこと、ヒロ殿に爵位を与えると言うのは」
「それは名案だと思いますが……」
「が?」
「平民を貴族に陞爵させるにはそれなりの功績が必要になります。申し訳ありませんがヒロ殿にはそこまでの功績はありません」
まれびとでは足りないか」
「はい。不足しています」
「だが、リリージュ国の現人神を娶るとなれば、それは功績となるのではないだろうか」
「……可能か不可能かと言えば可能でしょう。ですが、それはリリージュ国に認められたらという前提条件が必要となります」
「結局はそこに落ち着くのか……」
「はい」
「ならば、私達はそれが無事に成功することを祈るしかないか……」
「はい。消極的ですがそれが無難かと」
「しかし、ヒロ殿はなんと言うか……」
「飽きさせない人物……でしょうか」
「まあな。確かにそれはあるが……どちらかと言えば……そうだな」
「「トラブルメーカー!」」

 王はヒロをなんとか陞爵出来ないかと考えてみるが、その為にはリーア殿との仲をリリージュが認めるしかない。でも、その為にはヒロが平民のままでは都合が悪いと堂々巡りだ。

 そんなヒロに対し王と伯爵は面白いことが続けて起こることを内心楽しんではいるが、結局は大事に発展してしまうこともあり、単に面白がってはいられないことに対し二人で口を揃えて「トラブルメーカーだな」と口に出して大笑いすることになるが、その直ぐ後に二人で大きく深くハァ~と嘆息するのを宰相は笑って見ていた。

 そして「確かに笑い事ではないですが退屈はしませんね」と宰相は独り言ちる。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ

トール
恋愛
会社帰り、駅までの道程を歩いていたはずの北野 雅(36)は、いつの間にか森の中に佇んでいた。困惑して家に帰りたいと願った雅の前に現れたのはなんと実家を模した家で!? 自身が願った事が現実になる能力を手に入れた雅が望んだのは冒険ではなく、“森に引きこもって生きる! ”だった。 果たして雅は独りで生きていけるのか!? 実は神様になっていたズボラ女と、それに巻き込まれる人々(神々)とのドタバタラブ? コメディ。 ※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

処理中です...