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第1章 ここが異世界
第58話 気付けば地雷原の中に立っていた
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「では、手続きを進めてもよろしいでしょうか」
「ああ、頼む。ヒロ殿、それと……」
「セツです」
「セツと言うのか?」
『ピ!』
ギルマスに名を呼ばれたセツは俺の右肩の上でギルマスに触手を振って愛想を振りまく。
「うっ……」
「可愛いですね! ね、ギルマス!」
「……あ、ああ」
「あれ、どうしました?」
「き、気にするな。それよりも手続きを進めてくれ」
「はい、それはしますけど……ホントに大丈夫なんですか?」
「ああ、私のことは気にするな」
「……もしかして、スライムに何かイヤな思い出でもあったりしますか?」
「ない! ないから、いいから進めろ!」
「は~い、じゃ、ヒロ様。『ギルドカード(仮)』と『従魔登録カード(仮)』をお借りしてもいいですか」
「はい、コレです」
「はい。では、確認しますので少々お待ち下さい」
俺はケリーさんに上着の内ポケットから取りだしたフリでインベントリから取り出したカードをテーブルの上に置くと、ケリーさんがそれを手に取り確認するが、ギルマスの様子がさっきからちょっとだけ挙動不審だ。頑張って挨拶したセツも何処となく意気消沈している様に見える。セツはセツなりにギルマスの態度を気にしているのかもしれない。ならば、ここはセツの飼い主としてギルマスの気持ちをハッキリさせた方がいいだろう。
「ギルマス、ちょっといいですか?」
「な、なんだ! 私はスライムなんか怖くないぞ! 怖くなんかないんだからな! 怖くなんか……グスッ……うっうわぁぁぁぁぁん!」
「えぇ~」
「ヒロ様、それはちょっと私でも引きます」
「……ヒロ様、いくらギルマスといえ、女性として接した方がいいかと思います」
俺はギルマスのセツに対する思いを確かめようと両手の上にセツを載せて、ギルマスの顔の前に差し出してセツの可愛さをアピールしようとしたのだが、それは却ってイヤな思い出を刺激したみたいでギルマスが泣きだしてしまった。そして、それを見たケリーさんに引かれ、オジーには『ギルマスは女性なんだから』と今更ながらの注意をされた。女性と知っていたのなら教えてくれてもよかったと思うんだけど? と、今はそんなことじゃない。
齢がいくつかは知らないが、俺が泣かせてしまった女性が顔を隠すこと無く大声で泣いているのは事実だ。
「困ったなぁ~」と後頭部をポリポリ掻いてみてもケリーさんもオジーもギルマスを慰めようと動く気配がない。どちらかと言えば、俺がどう対処するのかを好奇心ワクワクといった感じで黙って観察しているし、セツはセツで自分が泣かせてしまったと気落ちしているようにも見える。
「はぁ~どうすればいいんだよ、これ……」
「慰めなさい!」
「え? でも、どうやって?」
「こういう時は頭ポンポンだ!」
「いや、したことないし……」
「いいから、早く!」
「えぇ~」
「早く!」
泣いているギルマスをどうしたらいいのかと頭を悩ませていると、いつの間にか泣き止み鼻をグスグス言わせているギルマスが俺を見て「慰めて」と要求してきた。そりゃ、泣かせたのは俺だから、なるべく言うことは聞いてやりたいが、女性の……しかも年上の女性の慰め方なんて知らないしと困ってしまう。
腕を組み、こういう場合はどうやって慰めるのが正解なんだと考えてみる。これが会社の先輩なら居酒屋にでも連れて行って飽きるまでお酒に付き合うんだが、異世界にそんなモノがあるかどうかも分からないし、まだ日も高いから却下だなと自問自答していたらギルマスから頭ポンポンを要求されてしまった。
いやいやいや、そんな高度なことはこんなモブ男に出来る訳ないしと躊躇していたら「早く!」と急かされてしまい「どうにでもなれ!」とギルマスの頭の上をポンポンと軽く撫でれば「違う!」と言われてしまう。
「いや、違うと言われても初めてすることだし……」
「へぇ~そうか。では、私が教えてやろう!」
「えっ!」
ギルマスがしろと言うから、イヤイヤながら頭ポンポンしたのに違うと言われたので初めてだから分からないしと言えば、ギルマスは口角の端を上げニヤリとする。そして、次の瞬間には教えてやるとグイッと体を引かれ、ギルマスが俺の胸元に頭を近付け俺の右手を自分の頭に導くと「ほれ」と言ってきたので多分撫でろと言うことなのだろうと大人しくギルマスの頭を優しく撫でる。もちろん、特徴的な耳には絶対に触れないようにしながらだ。
「耳が邪魔ならどかしてもいいのだぞ?」
「いえ」
「いや、でも邪魔だろ?」
「いえ、大丈夫ですから。お気になさらず」
「いや、でも触りたいなぁ~とかあるだろ? ほれ、遠慮することはないんだぞ。私が特別に許可しようではないか」
「いえ、大丈夫ですから。間違っても自分から地雷原に突っ込むマネはしませんから」
「触れと言ってるだろ!」
「もし、触ったらどうなるんですか?」
「そりゃ、お互いの好意を確認し合ったということで、即入籍と「やっぱり」……あ! ウソだ! 今のは全部ウソだ!」
「ウソですか?」
「ああ、ウソだ。ヒロ殿がどこまで知っているのかを確認しようとしたちょっとした茶目っ気だ」
「ふ~ん、そうですか。じゃあ、もし触ったらどうなるんですか?」
「そりゃ、今この場でケリーに婚姻届を用意させてケリーとオジーに保証人と見届け人になってもらってからの新居探しだ! あ……」
「もう、泣き止んだようなので大丈夫そうですね。では」
「あ……」
俺に密着しているギルマスの体を無理矢理離すとスッと席をずれ、ギルマスと距離を取る。
「ギルマス、惜しかったですね」
「言うな!」
「ふふふ、流石に三百年近くも処女を拗らせていると手練手管に長けると思っていましたが、この様子だと更に記録を更新しそうですね」
「うるさい! オジーよ、誰がヒロ殿に吹き込んだのだ! 客は世事に疎いからこの方法なら絶対に大丈夫だからと里の秘伝だったのに……」
「私じゃありませんよ」
ギルマスとケリーさんのやり取りを聞いてやっぱり地雷だったと思い「あっぶねぇ」と胸を撫で下ろす。
「でも、結局のところ、スライムに対するイヤな思い出ってなんだったんだろうね、セツ」
『ピ?』
「ああ、頼む。ヒロ殿、それと……」
「セツです」
「セツと言うのか?」
『ピ!』
ギルマスに名を呼ばれたセツは俺の右肩の上でギルマスに触手を振って愛想を振りまく。
「うっ……」
「可愛いですね! ね、ギルマス!」
「……あ、ああ」
「あれ、どうしました?」
「き、気にするな。それよりも手続きを進めてくれ」
「はい、それはしますけど……ホントに大丈夫なんですか?」
「ああ、私のことは気にするな」
「……もしかして、スライムに何かイヤな思い出でもあったりしますか?」
「ない! ないから、いいから進めろ!」
「は~い、じゃ、ヒロ様。『ギルドカード(仮)』と『従魔登録カード(仮)』をお借りしてもいいですか」
「はい、コレです」
「はい。では、確認しますので少々お待ち下さい」
俺はケリーさんに上着の内ポケットから取りだしたフリでインベントリから取り出したカードをテーブルの上に置くと、ケリーさんがそれを手に取り確認するが、ギルマスの様子がさっきからちょっとだけ挙動不審だ。頑張って挨拶したセツも何処となく意気消沈している様に見える。セツはセツなりにギルマスの態度を気にしているのかもしれない。ならば、ここはセツの飼い主としてギルマスの気持ちをハッキリさせた方がいいだろう。
「ギルマス、ちょっといいですか?」
「な、なんだ! 私はスライムなんか怖くないぞ! 怖くなんかないんだからな! 怖くなんか……グスッ……うっうわぁぁぁぁぁん!」
「えぇ~」
「ヒロ様、それはちょっと私でも引きます」
「……ヒロ様、いくらギルマスといえ、女性として接した方がいいかと思います」
俺はギルマスのセツに対する思いを確かめようと両手の上にセツを載せて、ギルマスの顔の前に差し出してセツの可愛さをアピールしようとしたのだが、それは却ってイヤな思い出を刺激したみたいでギルマスが泣きだしてしまった。そして、それを見たケリーさんに引かれ、オジーには『ギルマスは女性なんだから』と今更ながらの注意をされた。女性と知っていたのなら教えてくれてもよかったと思うんだけど? と、今はそんなことじゃない。
齢がいくつかは知らないが、俺が泣かせてしまった女性が顔を隠すこと無く大声で泣いているのは事実だ。
「困ったなぁ~」と後頭部をポリポリ掻いてみてもケリーさんもオジーもギルマスを慰めようと動く気配がない。どちらかと言えば、俺がどう対処するのかを好奇心ワクワクといった感じで黙って観察しているし、セツはセツで自分が泣かせてしまったと気落ちしているようにも見える。
「はぁ~どうすればいいんだよ、これ……」
「慰めなさい!」
「え? でも、どうやって?」
「こういう時は頭ポンポンだ!」
「いや、したことないし……」
「いいから、早く!」
「えぇ~」
「早く!」
泣いているギルマスをどうしたらいいのかと頭を悩ませていると、いつの間にか泣き止み鼻をグスグス言わせているギルマスが俺を見て「慰めて」と要求してきた。そりゃ、泣かせたのは俺だから、なるべく言うことは聞いてやりたいが、女性の……しかも年上の女性の慰め方なんて知らないしと困ってしまう。
腕を組み、こういう場合はどうやって慰めるのが正解なんだと考えてみる。これが会社の先輩なら居酒屋にでも連れて行って飽きるまでお酒に付き合うんだが、異世界にそんなモノがあるかどうかも分からないし、まだ日も高いから却下だなと自問自答していたらギルマスから頭ポンポンを要求されてしまった。
いやいやいや、そんな高度なことはこんなモブ男に出来る訳ないしと躊躇していたら「早く!」と急かされてしまい「どうにでもなれ!」とギルマスの頭の上をポンポンと軽く撫でれば「違う!」と言われてしまう。
「いや、違うと言われても初めてすることだし……」
「へぇ~そうか。では、私が教えてやろう!」
「えっ!」
ギルマスがしろと言うから、イヤイヤながら頭ポンポンしたのに違うと言われたので初めてだから分からないしと言えば、ギルマスは口角の端を上げニヤリとする。そして、次の瞬間には教えてやるとグイッと体を引かれ、ギルマスが俺の胸元に頭を近付け俺の右手を自分の頭に導くと「ほれ」と言ってきたので多分撫でろと言うことなのだろうと大人しくギルマスの頭を優しく撫でる。もちろん、特徴的な耳には絶対に触れないようにしながらだ。
「耳が邪魔ならどかしてもいいのだぞ?」
「いえ」
「いや、でも邪魔だろ?」
「いえ、大丈夫ですから。お気になさらず」
「いや、でも触りたいなぁ~とかあるだろ? ほれ、遠慮することはないんだぞ。私が特別に許可しようではないか」
「いえ、大丈夫ですから。間違っても自分から地雷原に突っ込むマネはしませんから」
「触れと言ってるだろ!」
「もし、触ったらどうなるんですか?」
「そりゃ、お互いの好意を確認し合ったということで、即入籍と「やっぱり」……あ! ウソだ! 今のは全部ウソだ!」
「ウソですか?」
「ああ、ウソだ。ヒロ殿がどこまで知っているのかを確認しようとしたちょっとした茶目っ気だ」
「ふ~ん、そうですか。じゃあ、もし触ったらどうなるんですか?」
「そりゃ、今この場でケリーに婚姻届を用意させてケリーとオジーに保証人と見届け人になってもらってからの新居探しだ! あ……」
「もう、泣き止んだようなので大丈夫そうですね。では」
「あ……」
俺に密着しているギルマスの体を無理矢理離すとスッと席をずれ、ギルマスと距離を取る。
「ギルマス、惜しかったですね」
「言うな!」
「ふふふ、流石に三百年近くも処女を拗らせていると手練手管に長けると思っていましたが、この様子だと更に記録を更新しそうですね」
「うるさい! オジーよ、誰がヒロ殿に吹き込んだのだ! 客は世事に疎いからこの方法なら絶対に大丈夫だからと里の秘伝だったのに……」
「私じゃありませんよ」
ギルマスとケリーさんのやり取りを聞いてやっぱり地雷だったと思い「あっぶねぇ」と胸を撫で下ろす。
「でも、結局のところ、スライムに対するイヤな思い出ってなんだったんだろうね、セツ」
『ピ?』
応援ありがとうございます!
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