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第1章 ここが異世界

第56話 どっちなん?

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「あれ? 確かにこっちに曲がったと思ったんだけど……おかしいな」

 時はちょっとだけ遡る。俺とオジーは角を曲がり路地に入った瞬間に三十メートル上空へとオジーを抱きかかえる形で転移し、俺達を障壁バリアで囲み空中に固定しオジーを自由にするが、オジーは俺にしがみついたままだ。

「あの、オジー。大丈夫だから。ほら、落ちることはないから、ね、ほら、安心して」
「ほ、ホントですか?」
「ホントだって。ほら、俺もちゃんと立っているでしょ」
「……」

 オジーは俺が大丈夫だと言うのに、どこか不安そうにつま先だけでチョンチョンと障壁バリアを確かめると今度はソロ~ッと片足だけを下ろす。片足に体重を預けても大丈夫だと分かると俺の顔を見ながら、ゆっくりと俺から体を離し両足で障壁バリアの上に立つと今度はそっと下を見れば「ヒッ!」と声を出しまた俺に抱き着こうとするので、俺はそれを片手で制し、下を見なければ大丈夫だからとオジーに離れてもらう。

「で、見覚えはありますか?」
「えっと、ちょっと待ってね」

 オジーが落ち着きを取り戻したところで、まだ俺達を探している追跡者の様子を観察しているが、上空からじゃ遠いし頭の上しかよく見えない。

「ん? んんん? もしかして……」
「お知り合いですか?」
「いや、知り合いというかなんというか、トリリア村のギルドの受付嬢のミーさんだと思う」
「村のギルドの? その人がどうしてこんな所に?」
「俺に聞かれても……」
「では、お会いしますか?」
「いや、やめとく」
「理由をお聞きしても」
「だって、なんか怖いし」
「あぁ~それは……そうですね。では、どうしますか?」
「ちょっと移動して。あ! そうだ。思い出したギルドに行かないとダメだった。ね、この街のギルドってどこにあるの?」
「ギルドですか。ギルドなら、あの周りよりちょっとだけ背が高く大きい建物は分かりますか?」
「あれかな?」
「はい、そうです」
「分かった。じゃ、行こうか」
「へ?」
「一応、大丈夫だと思うけど俺にしっかり捕まっててね。『転移』!」
「あ……」

 俺はオジーが指差す方向を確認すると確かにオジーが言うように回りの建物とはちょっと違った建物を見えたので、念の為にオジーに確認すると間違いないと言うので俺はオジーに捕まってもらいギルドの上空へと転移する。

「え~と、人気ひとけがない通りはと……うん、あそこだね。転移!」
「……」
「オジー、もう大丈夫だから離れようか」
「ホントですか? ウソじゃないですよね? 騙してないですよね? 信じますよ。もしウソだったら恨みますからね」
「いいから、ホントだって。ほら、だから早く離れて! 皆が見てるから!」
「え! あ、はい……失礼しました」

 ギルドから少し離れた裏路地に転移したはいいけど、オジーが怖がって目を開けてくれないからまだ上空にいるものと思い込み、なかなか俺から離れてくれないのをなんとか宥めて離れてもらう。

「じゃあ、案内よろしくね」
「はい。では……」

 オジーに先導してもらい恐る恐るギルドの中へと入ると、既にお昼近くということもあり、冒険者でごった返しということもなく、どちらかと言えばがら空きで受付カウンターに座っているお姉さんの顔すら判別可能なくらいだ。そして受付のお姉さんがこちらに気付くとガタッと慌てて椅子から立ち上がり「お久しぶりです、オジー様!」と言うじゃありませんか。

「これはどゆことですか、オジー」
「お気になさらずに。ケリーさん、この方の手続きをお願いします」
「オジー様ではなくですか……失礼ですが、この方は?」
「深く詮索するのはギルドの規約に反すると思うのですが?」
「失礼しました。では、こちらへどうぞ。ご案内致します」
「ここで結構です」
「いえ、オジー様に失礼があってはなりません。ギルドマスターにもきつく言われていますので。お手数をお掛けして申し訳ありませんが、お願いします」
「……分かりました。ヒロ様、よろしいでしょうか」
「あ、はい。お願いします」
「申し訳ありません。では、案内をお願いします」
「はい、こちらへ」

 オジーがケリーさんと呼んだ受付嬢の後を黙って着いていくが、『オジーって何者なの?』という疑問が頭から離れない。多分、説明を求めてもはぐらかされそうな気がする。

 ケリーさんが扉の前に立ち、扉をコンコンコンと三回ノックすると中から「入れ」と返されたのを確認してからケリーさんが、その扉を開ける。

「ギルマス、オジー様がお見えになりました」
「そうか! やっと受ける気になってくれたんだな! おい、ケリーよ。必要な書類を揃えて持って来い!」
「あ、いえ。ギルマス、そうではありません」
「は? ソレ以外になんの用事があるっていうんだ? まあ、通してくれ」
「はい。オジー様、お連れの方もどうぞ」
「失礼する。ヒロ様、汚いところですが」
「はぁ……」

 俺とオジーはギルマスと呼ばれる人物の前に通されたが、この人は……男? 女? え、どっちなん? と見た目で性別を判断することは出来なかった。

「おいおい、オジーよ。汚いはないだろ。これでも小まめに掃除しているんだぞ」
「……主に私がですがね」
「ケリー、私は掃除だけでなく整理整頓も苦手だ。そんな私が手を出して必要以上に散らかすよりはマシだと思うが?」
「はいはい、物は言いようですね。分かっているのなら、散らかさない努力くらいはして欲しいものです。大体、今の私の給金では安すぎます!」
「あぁ分かった、分かった。だが、今は客人の前だから、そういうのは後で話そうじゃないか。なあ」
「約束ですよ!」
「ああ、分かった。約束しよう。ほら、客人に何も出さないのか?」
「あ! 失礼しました。今すぐにご用意いたしますので」

 ケリーさんが部屋から出るとギルマスが口を開く。

「そんなにジロジロ見ないでくれ。照れるじゃないか」
「あ、すみません」
「ふふふ、エルフなんてそんなに珍しいもんでもないだろ。なあ、オジーよ」
「ヒロ様はまれびと様ですから」
「そうか。まれびとであればエルフが珍しいのも頷けるな……ん? まれびとだと!」
「はい。聞けばトリリア村でギルドへの仮登録は済ませているようなので、こちらで本登録をお願いしたいと思いお連れしました」
「そうか……なるほどな。で、あれば私の元へ寄越したのも正解だな」
「ええ」
「え?」
「ヒロ様、何か?」
「いえ……」

 ギルマスがエルフだと言われて、『これがエルフなんだ』と改めてジックリと観察するが、やはり性別までは分からない。今まで読んできたラノベで紹介されてきたように艶のある綺麗な銀髪のストレートで長さは腰の手前まであるだろうと思われる。そして、細面に切れ長の目に尖った耳だ。思わず手が出そうになるが、どんな地雷があるか分からないのを思い出し、慌てて手を引っ込める。

 そして、オジーだ。オジーはさっき受付カウンターで手続きを済ませようとしたっていうのに、ギルマスに対しては「まれびと様ですから」と当たり前の様に細心の注意を払うようにと言っているのに驚いたところで、オジーが「何か?」と澄ましていたのがなんかムカツク。
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