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第1章 ここが異世界

第45話 頭の中で鳴り響く鐘の音は人それぞれだったりする

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「では、いいですか。もう一度、説明しますよ」
「いや、それはいいから」
「何か不服ですか?」
「えっとね、領主にも言われたでしょ。俺に一ヶ月間でこの国の常識を教えるようにと」
「ええ、そうですね。ですから、ここは手っ取り早く先ずは私と夫婦になってからの方が、色々と都合がいいと思いまして、はい!」
「いや、ダメでしょ」
「何がですか! 私と一緒になれば、色々な弊害が無くなるというのに」
「弊害?」
「はい。ヒロ様はまれびと様として陛下と謁見する予定です。これはいいですよね?」
「うん、それはね。でも、弊害な「あります! 弊害はあるんです!」んて……えぇ?」
「ホントに分からないんですか!」
「え、うん」
「ハァ~もう少し思慮深い方だと思っていました」
「え、もしかして呆れられてる?」
「いいですか……」

 セシルがいう弊害とは俺に言い寄ってくるであろうご婦人方のことだった。俺がまれびととして王様の前に出て、他の貴族の面々に紹介されれば、俺と縁を持ちたい連中が自分の娘や親戚、知人などをそれこそ山のように縁談を持ちかけてくるだろうということだった。

「えっと、言っとくけど俺はそれほどイケメンじゃないのは自覚しているよ」
「ええ、見れば分かりますから。それにと卑下して言うほどよくもありませんから」
「……あっそ」
「でも、そんなモノモブ顔よりまれびと様だということに価値があるんです!」
「そんなモノって……」
「そんなモノです!」
「……」
「この際ですからハッキリ言っておきますね」
「……はい」
「あなたにはまれびと様だという以外に取り柄はありませんから!」
「くっ……そんなにハッキリ言うかな」
「言います! ですから、ヒロ様の顔が好みだとか、ヒロ様の性格に惚れましたなどと言われても決して真に受けて本気にならないようにお願いします」
「さりげなくどころかハッキリディスってくるなんて、ヒドい!」
「許して下さい。これもヒロ様の為ですから」
「……」
「ヒロ様?」

 セシルが言うことはよく分かる。地位も財力もないし、容姿が優れている訳でもない俺なんかに惚れたとか言うのは、ハニートラップだと言いたいのだろう。でも、ここまで言われるのもなぁ。

「そんな訳ですから、十分に注意して下さいね」
「……」
「なんでしょうか?」
「セシルに会う前に聞きたかったよ」
「それはどういう意味でしょうか?」
「どういうって……」

「今のはでしょ」と喉まで出掛かったセリフをグッと呑み込む。

「今、俺の頭の中ではうるさいくらいに鐘がなっているよ」
「えっ! もう、ヒロ様ってばそれは少々気が早いですよ」
「へ?」
「え?」
「えっと、セシル……さん?」
「うふふ、イヤですわ。セシルって呼んで下さい。ね、あなた……キャッ!」
「いやいやいや、ちょっと待ってね。ちなみにだけどセシルが想像している鐘ってのは……何?」
「ヒロ様、何を言っているんですか? 鐘と言えば、教会の上に付いているアレでしょ。ふふふ、ヒロ様は教会での神前式を希望なんですね。楽しみですわぁ」
「いやいやいや、違うからね、俺の頭の中でうるさくなっているのは警鐘だから! セシルに会ってからずっとうるさいくらいに『カンカンカン!』って鳴っているから!」
「警鐘……ですか?」
「そう、火事とか何かあった時に多くの人に知らせる為にカンカン鳴らす鐘のことだよ」
「聞いたことはないですね」
「そう。まあ、いいよ。もう今更だし」
「ふふふ、そうです今更ですよ。絶対に逃がしませんから!」
「……逃げないから。もう少し抑えようね」
「イヤですから」
「……」

 セシルから今後の予定を聞こうと思っていたが、その前に部屋の扉がノックされ「はい」とセシルが答えるとオジーが顔を覗かせる。

「旦那様が食堂でお待ちです」
「食堂? もう、そんな時間かぁ~セシル、後でちゃんとした計画を聞かせてね」
「はい。私の頭の中には理想的なプランが組み立てられていますので問題ありません。いつでもお聞かせして差し上げます。なんなら、寝物語でもよろしいですよ」
「いや、だからそうじゃなくて……」
「ヒロ様、明日からの予定は私が旦那様から預かっておりますので、ご心配なく」
「ホント! じゃ、後で聞かせてね」
「はい」

 オジーが食堂まで案内すると言うので、そういや腹が減ったなとお腹を擦りながらセシルに計画をちゃんと教えてねと言えば、俺との具体的な人生設計を語り出しそうになったので、そういうのはいいからとやんわりと止めればオジーが領主から俺の教育計画は聞いていると言われ安心する。

 オジーの案内で領主と最初に会った広間ではなく食堂へと案内されると、そこには長いテーブルが中央に置かれていて、その奥には領主が既に座っていた。そして、その右横には綺麗な婦人と利発そうなお子さんが三人並んで座っていた。

「遅かったな。まあいい。座ってくれ」
「はい」

 俺はご婦人とは反対の席に案内され、椅子を引こうとすればオジーが「私がしますので」と手で制され、オジーが引いてくれた椅子に座ると、その正面では俺のことを物珍しいモノを見るように好奇心一杯の表情だ。でも、それは俺ではなく俺の右肩で触手を振っているセツに向いていた。

『ピ!』
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