31 / 78
第1章 ここが異世界
第30話 な?
しおりを挟む
「「なるほどぉ~」」
「ね、簡単でしょ」
「それって……俺がもし途中でバックレてもこの村にはお咎め無しってことになるのかな?」
「するのか?」
「いや、しないけど……もしだよ、もしの話だから」
「「……」」
村長と奥さんが俺をジトッとした目で見てくるが、俺は「ぷひゅ~ぷひゅ~」と下手な口笛で誤魔化すが「吹けとらんぞ」と村長に注意される。
「白々しい演技ならしない方がマシだぞ」
「……ゴメン。でもさ、領主に会って何するかは分かってないんでしょ。その対応が嫌で俺が逃げ出したことでこの村に迷惑が掛かるのはちょっとだけイヤだしね」
「ちょっとなんだ……」
「なんだか薄情ね……」
「なんかゴメン」
「ちょっと話が逸れちゃったわね」と奥さんが「コホン」と咳払いしてから話し出す。
「あのね、あなたはヒロ君と一生のお別れみたいな感じになっていたけど、要は王様に会ってしまえば、そこでヒロ君は客としての義務……になるのかな? それは一応、終えたことになると思うのね。だから、その後はヒロ君次第だと思うの。王都に残るのも、旅をするのも、もちろん、この村に帰って来るのもね」
「あ!」
「へぇ~」
奥さんの話を聞き、村長は「そうだな。ヒロが帰って来る頃には俺達の赤ん坊も産まれているだろうな。うんうん」と頷く。
「いや、流石にまだ早いんじゃないの。それに往復でもそんな一年近くにはならないでしょ。ね、ならないよね?」
「知らんし」
「そうね、私達は送れと言われているだけだもの。それにヒロ君が初の客だから、余計分からないわよ」
「え~」
村長は俺が王様に会った後、どうするのか決まったら手紙でもくれと締めくくったところで、村長の話は終わったので俺とセツは「ごちそうさまでした」と朝食のお礼を言ってから、仮家に戻る。
「さてと……お昼に出て行くなら何をするにも中途半端だよね。どうしよっか?」
『ピ?』
俺は領主からのお迎えが来るまでどうやって時間を潰したものかと考えていると玄関扉が『ドンドンドン!』と激しく叩かれる。
「ん? 誰だろ? は~い」
「こちらは客殿の家であるか?」
「え?」
「客殿はご在宅だろうか?」
「へ?」
「だから、客殿はどこにいるのかと聞いている!」
「あ、はい。ここに……」
「ん?」
扉を開けると少し身形の良い口髭を生やしたおじさんが立っていた。そして、俺が挨拶する間もなく「客」と連呼するので、この人が迎えに来た人だろうとか考えているが、おじさんは「客はどこだ?」としつこいので俺は自分の顔を指差し「ここ」と言うが、おじさんは不思議そうな顔をする。
「お前が客なのか? 何か証明するものはあるか?」
「え、証明って何をすればいいの?」
「何をって……何だろうか?」
「いや、だから何を見せれば俺が客だと分かってもらえるのかなってことなんだけど……」
「そう、それだ! で、何を見せてくれるのだ?」
「えっと、だからそれを聞いているんだけど?」
「お、そうか。それは困ったな。う~ん……お、そうだ! 客なら衣服が違うはずだろ……って、その格好は……」
「あ~、ははは……」
そう、俺のスーツはこの服を買った時に下取りに出したから、今はないテイだ。インベントリには替えとして保管済みだけど、ここで取り出すと面倒なことになるので、それも出来ない。おじさんは俺の頭からつま先までを確認するとハァ~と嘆息する。
ま、そうだよね。今の俺の格好は『メイド・イン・村』で覆われていて、ザ・村人な格好なのだから、いくら俺が「客だから」と言っても説得力は皆無だ。
「私はどうすればいいのか……」
「あの、どうしたんですか?」
おじさんが項垂れてしまったので、俺は慰めようと近付けば「キッ!」と睨まれてしまう。
「どうして服を着替えたんだ!」
「え?」
「だから、どうして服を着替えた! 元の世界からの服を着ていれば誰が見ても客だと胸を張って言えたのに……今のお前の格好はなんだ! どこから、どうみても村人ではないか!」
「あれ? もしかして責められてる?」
「当たり前だ! あ~どうしよう……私はなんと説明すれば……そうだ! いなかったんだ。そうだよ、客なんて最初っからいなかったんだ。うん、そうだ、そうしよう! って、ことで済まないが……」
「え? ちょ、ちょっと待って!」
項垂れていたおじさんはスッと立ち上がると俺に対し「何故、服を着替えた」と責め立てる。そして、その内に俺という存在がいなければ、客自体がいなかったと報告することが出来ると言い出し、懐から大降りのナイフを取り出し腰だめに構えるので俺は慌ててそれを制する。
「止めるな! 私はこんなことで躓く訳にはいかないのだ。潔く錆となれ。な~に、痛いのは最初だけだ。後は、次第に気持ちよくなるハズだ。だから、私の為に……な?」
「な? じゃねえ!」
「あ~そうか。一人じゃ淋しいか。そうか、そうか。それもそうだな。ならば、この村の連中も一緒に葬ってあげるから。それなら、いいだろう。な?」
「だから、『な?』じゃねぇって!」
「何故、分からない!」
「分からねぇよ!」
おじさんは自分の立場を守る為に俺だけでなく村の人達も一緒に始末すると言い出した。何が『な?』だ! そんな自分勝手なこと分からねぇよ!
俺はナイフを構えたまま、にじり寄ってくるおじさんをどうやって宥めようかと考える。
「あ、そうだ! ほら、コレだよ、コレ!」
「なんだ。今更、何を言っても変わらない。さあ、私の為に……な?」
俺は自分の頭と顔を指差して「黒髪、黒眼なら客だと言えるんじゃない?」と言うがもう目が血走って俺の言うことを聞こうともしない。
「だから、『な?』じゃねぇって! いいから、人の話を聞けよ!」
「ふぅふぅ~ははは、いいじゃないか。な? 痛いのは最初だけだから……な?」
「だから、『な?』じゃねぇ!」
「ね、簡単でしょ」
「それって……俺がもし途中でバックレてもこの村にはお咎め無しってことになるのかな?」
「するのか?」
「いや、しないけど……もしだよ、もしの話だから」
「「……」」
村長と奥さんが俺をジトッとした目で見てくるが、俺は「ぷひゅ~ぷひゅ~」と下手な口笛で誤魔化すが「吹けとらんぞ」と村長に注意される。
「白々しい演技ならしない方がマシだぞ」
「……ゴメン。でもさ、領主に会って何するかは分かってないんでしょ。その対応が嫌で俺が逃げ出したことでこの村に迷惑が掛かるのはちょっとだけイヤだしね」
「ちょっとなんだ……」
「なんだか薄情ね……」
「なんかゴメン」
「ちょっと話が逸れちゃったわね」と奥さんが「コホン」と咳払いしてから話し出す。
「あのね、あなたはヒロ君と一生のお別れみたいな感じになっていたけど、要は王様に会ってしまえば、そこでヒロ君は客としての義務……になるのかな? それは一応、終えたことになると思うのね。だから、その後はヒロ君次第だと思うの。王都に残るのも、旅をするのも、もちろん、この村に帰って来るのもね」
「あ!」
「へぇ~」
奥さんの話を聞き、村長は「そうだな。ヒロが帰って来る頃には俺達の赤ん坊も産まれているだろうな。うんうん」と頷く。
「いや、流石にまだ早いんじゃないの。それに往復でもそんな一年近くにはならないでしょ。ね、ならないよね?」
「知らんし」
「そうね、私達は送れと言われているだけだもの。それにヒロ君が初の客だから、余計分からないわよ」
「え~」
村長は俺が王様に会った後、どうするのか決まったら手紙でもくれと締めくくったところで、村長の話は終わったので俺とセツは「ごちそうさまでした」と朝食のお礼を言ってから、仮家に戻る。
「さてと……お昼に出て行くなら何をするにも中途半端だよね。どうしよっか?」
『ピ?』
俺は領主からのお迎えが来るまでどうやって時間を潰したものかと考えていると玄関扉が『ドンドンドン!』と激しく叩かれる。
「ん? 誰だろ? は~い」
「こちらは客殿の家であるか?」
「え?」
「客殿はご在宅だろうか?」
「へ?」
「だから、客殿はどこにいるのかと聞いている!」
「あ、はい。ここに……」
「ん?」
扉を開けると少し身形の良い口髭を生やしたおじさんが立っていた。そして、俺が挨拶する間もなく「客」と連呼するので、この人が迎えに来た人だろうとか考えているが、おじさんは「客はどこだ?」としつこいので俺は自分の顔を指差し「ここ」と言うが、おじさんは不思議そうな顔をする。
「お前が客なのか? 何か証明するものはあるか?」
「え、証明って何をすればいいの?」
「何をって……何だろうか?」
「いや、だから何を見せれば俺が客だと分かってもらえるのかなってことなんだけど……」
「そう、それだ! で、何を見せてくれるのだ?」
「えっと、だからそれを聞いているんだけど?」
「お、そうか。それは困ったな。う~ん……お、そうだ! 客なら衣服が違うはずだろ……って、その格好は……」
「あ~、ははは……」
そう、俺のスーツはこの服を買った時に下取りに出したから、今はないテイだ。インベントリには替えとして保管済みだけど、ここで取り出すと面倒なことになるので、それも出来ない。おじさんは俺の頭からつま先までを確認するとハァ~と嘆息する。
ま、そうだよね。今の俺の格好は『メイド・イン・村』で覆われていて、ザ・村人な格好なのだから、いくら俺が「客だから」と言っても説得力は皆無だ。
「私はどうすればいいのか……」
「あの、どうしたんですか?」
おじさんが項垂れてしまったので、俺は慰めようと近付けば「キッ!」と睨まれてしまう。
「どうして服を着替えたんだ!」
「え?」
「だから、どうして服を着替えた! 元の世界からの服を着ていれば誰が見ても客だと胸を張って言えたのに……今のお前の格好はなんだ! どこから、どうみても村人ではないか!」
「あれ? もしかして責められてる?」
「当たり前だ! あ~どうしよう……私はなんと説明すれば……そうだ! いなかったんだ。そうだよ、客なんて最初っからいなかったんだ。うん、そうだ、そうしよう! って、ことで済まないが……」
「え? ちょ、ちょっと待って!」
項垂れていたおじさんはスッと立ち上がると俺に対し「何故、服を着替えた」と責め立てる。そして、その内に俺という存在がいなければ、客自体がいなかったと報告することが出来ると言い出し、懐から大降りのナイフを取り出し腰だめに構えるので俺は慌ててそれを制する。
「止めるな! 私はこんなことで躓く訳にはいかないのだ。潔く錆となれ。な~に、痛いのは最初だけだ。後は、次第に気持ちよくなるハズだ。だから、私の為に……な?」
「な? じゃねえ!」
「あ~そうか。一人じゃ淋しいか。そうか、そうか。それもそうだな。ならば、この村の連中も一緒に葬ってあげるから。それなら、いいだろう。な?」
「だから、『な?』じゃねぇって!」
「何故、分からない!」
「分からねぇよ!」
おじさんは自分の立場を守る為に俺だけでなく村の人達も一緒に始末すると言い出した。何が『な?』だ! そんな自分勝手なこと分からねぇよ!
俺はナイフを構えたまま、にじり寄ってくるおじさんをどうやって宥めようかと考える。
「あ、そうだ! ほら、コレだよ、コレ!」
「なんだ。今更、何を言っても変わらない。さあ、私の為に……な?」
俺は自分の頭と顔を指差して「黒髪、黒眼なら客だと言えるんじゃない?」と言うがもう目が血走って俺の言うことを聞こうともしない。
「だから、『な?』じゃねぇって! いいから、人の話を聞けよ!」
「ふぅふぅ~ははは、いいじゃないか。な? 痛いのは最初だけだから……な?」
「だから、『な?』じゃねぇ!」
応援ありがとうございます!
10
お気に入りに追加
672
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる