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第1章 ここが異世界

第24話 騙されないことも大事

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「ぐすっ……もうお婿に行けない……ぐすっ」
「ああ、もううっとうしい!」
「非道い! 無理矢理奪っといて!」
「あ~もう悪かったよ。ほら、この通り謝るから、さっさとそのお粗末なモノをしまっておくれ。誰かに見られたらどうするんだい」
「……」
「なんだい、もう謝ったじゃないか。ちょっとひんむいたくらいで大袈裟だよ。ゴブリンに襲われたと思えば軽いものじゃないか」
「え?」

 俺が着替えている最中に俺が着ていたTシャツとボクサーブリーフに興味を持ち、嫌がる俺から無理矢理剥ぎ取り、その替わりにとゴワゴワする半袖シャツとトランクスを投げ渡されたのだけど、納得出来ないでいた。

 だが、店主のことに比べたらと言われ「ん?」となる。こっちに来て初めて目にしたのがあの緑色の小人ゴブリンだった。

 その時に確かに襲われたが恐らくは捕食目的だったと思う。だから、店主が言った言葉が気になり思案顔になると「何が気になるんだい?」と聞かれたので、店主が言う『襲う』の意味を聞いてみた。

「なんだ、そんなことかい」
「そんなことって、アイツらは捕食目的に襲うんじゃないの?」
「まあ、そうだね。イヤなことにそれがほとんどだね」
「じゃ「だから、ほとんどだと言ったろ」……え?」
「一部は文字通りのさ。もちろん繁殖目的で女を襲うのが一般的だけど、ゴブリンにも雌はいるからね」
「それって……まさか……」
「ふふふ、分かったかい。雄に女が襲われるのなら、雌は男を襲うのさ。もちろん、こっちも繁殖目的だろうけどね。中には雄が男を襲う場合もあるみたいだよ。あ~怖っ!」
「……知りたくなかった」
「はいはい、分かったのなら早く履きな。いつまでもぶらぶらさせるんじゃないよ」
「……」

 俺は渡されたゴワゴワの下着類を身に着け、購入したズボンとシャツに着替える。

「これが追加分のお釣りだよ」
「……明細は?」
「細かいね」
「人を無理矢理ひんむいた人がいうことじゃないよね」
「ちっまだ言うかい。わかったよ、あの長袖のシャツが二万イエン、半袖シャツが三万イエン、パンツが五万イエンで……全部で三万イエンだよ」
「いやいやいや、明らかにおかしいでしょ!」
「なにがだい? 二万に三万に五万だろ。合ってるじゃないか」
「いや、だからそれだと十万イエンでしょ。なんでそれがたったの三万イエンになるのさ!」
「あ~あんたにあげたシャツとパンツで七万だからだよ。これでいいかい?」
「そこにシャツが五百イエン、パンツが三百イエンって書いてありますけど?」
「ちっ……」
「今、舌打ちしました?」
「気のせいだよ。なら、残りは六万イエンでいいかい?」
「六万と九千二百イエンです」
「……こまかいねぇ」

 店主は俺を面倒臭そうに見ると奥に行き、残りの金額をトレイに載せて持って来ると「これでいいんだろ」とつっけんどんな態度で渡してきた。

 俺はトレイの上の硬貨をポケットに入れると直ぐにインベントリに収納すれば『偽硬貨五万イエン』と脳内に表示されたので、偽硬貨だけを抽出し店主に交換を願い出る。

「なんだい?」
「ホンモノでお願いします」
「な、何を言ってるんだい! ちゃんとした大銀貨じゃないか! 言い掛かりは止めておくれよ!」
「……分かりました。では、この大銀貨を他のお店で使いますけど、使う前に『このお店で貰ったモノ』だと言いますよ?」
「ちっ……分かったよ。ほら」
「……」
「なんだよ、今度はホンモノだよ。アンタが引っ掛からないか試したんじゃないか」
「これ、ニセモノです」
「ぐっ……」

 俺はだと渡された五枚の大銀貨の内、三枚をだと突っ返す。

「くそっ! やりづらいねぇ」

 店主はぶつくさ文句を言いながらも今度はホンモノの大銀貨を出してきたので俺はそれをポケットにしまうと店主が「ニセモノだという時はポケットにしまう前に言わないとお前がニセモノに換えたと難癖付けられるからね、注意するんだよ」と言う。正にお前が言うなだが、それはそれで有り難く忠告として受け取る。

「色々と勉強になりました」
「ああ、そうかい。まったくこっちは儲け損なったよ」
「ホントですか?」
「なんだい、まだ疑うのかい?」
「だってまれびとの着ていた服とか言って誰かに高く売りつけるか、それを元に新しい服を作るんでしょ。なら、儲け損なったとは言えないじゃない」
「そこは黙って見逃すところだろ。ハァ~まったく妙な客を拾っちまったね」
「ははは、そこはお互い様ってことで」
「ああ、そうだね。そう思うことにするよ」

 店主はそこまで言うともう俺に用はないとでも言う様に左手で追い払う様な仕草をするので、俺も軽く頭を下げ店の外に出れば、ふと自分の足下の不自然さに気が付く。

 ちょっと粗野な感じの出で立ちに対し、足下は普通に革靴だからだ。

「しまった。靴をどうすればいいか聞けばよかった」と思っていたら、店主が扉から顔を出し「ブーツなら、もう少し先のボック爺さんの店だ。その靴と交換でいけると思うわ」と助言してくれたので、俺は店主に礼を言うと教えられたボック爺さんの店を目指す。
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