彼女はだれ?

ももがぶ

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第一章 再会?

なんで俺が

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SIDE A.俺まで捕まるのか?
部屋に戻り机の前に座り勉強道具を広げる。
「さてと」
いざ、勉強を始めようとするが、さっきの母さんの言葉と真美の『ニブチン』という言葉が引っかかる。
「まあ、母さんのいう通りだよな。いつまでも山田姉妹とこのままの関係という訳にもいかないよな。いつかはあの姉妹も俺の知らない誰かのところにいくのはしょうがないか」
『しょうがない』と思い、無理矢理に胸の奥底に押し込もうとするが、どうもうまくいかない。
「なんだろう、なんかこう、胸の奥がモヤモヤする。なんだろう?」
自分の胸に手を当て、しばらく考えてみるがどうも落ち着かない。
「こういう時に相談出来る相手がいればな~太じゃダメだし。家族なんて論外だ。なら、山田姉妹にって、当人じゃん……あ~もうなんだよ!」
どうしようもない気持ちになり両手で頭を掻きむしるが、やっぱりスッキリしない。

「やめた! こういう時は走って発散させるしかないな。よし、走ってくるか!」
すぐにジャージに着替えると、部屋を出て一階に下りる。
「あら? マー君、どこ行くの? もうすぐお昼だけど?」
「母さん、ちょっと走って来るから。昼は取っといて。じゃ!」
「あら、そう。行ってらっしゃい。ふ~ん、やっぱりモヤモヤしているんじゃないの。男の子してるね、まー君!」

家を出て、しばらくは駅と反対方向の人通りが少ないコースを選んで走る。
「ほっほっ、なんだかこうやって走るのも久々な気がするな~ん? あれ? アイツがなんでこんな所に?」
道路の向こうにいるアイツが気になる。スマホを取り出し撮影すると、撮った写真を奈美に送る。
奈美が既読になったのを確認すると、すぐに奈美からの着信がある。

『まー君、これ! 今どこなの? なんで、あのストーカーがいるの?』
「奈美、いいから落ち着け。今、俺は駅と反対方向に走っていたんだけど、なぜか吉田がいたから写真を撮って送ったんだ。やっぱりアイツは諦めていないんじゃないのか? なんで奈美の家を知っているのかが気になるところだけどな」
『え~なんで、ソイツが私の家を知っているのよ!』
「それは俺に言われても分からないよ。でも、数分もしない内に着くと思うぞ。土田さんの親父さんに連絡してさ、ちょっと警戒してもらいなよ」
『うん、分かった。亜美に言って頼んでもらうから』
「おう、じゃあな。家からは誰も出ないようにしろよ。いいか絶対にだぞ!」
『分かったよ。まー君心配してくれてありがとうね』
「ああ、じゃあな」
電話を切り、吉田の方に視線を向けると何かを探すように辺りの様子を伺いながら、歩いている。もしかして、住所から探しているのかも知れない。今なら、地図アプリで大体の場所は分かるからな。しかし、吉田はアプリがうまく使えないのか、迷っているみたいだ。ちょっと気が進まないが、行ってみるか。大丈夫だよな?

道路向こうの吉田に向かって、声を掛ける。
「お~い! 吉田! こっちだ、こっち!」
いきなり、名前を呼ばれた吉田が辺りをキョロキョロして、誰が自分を呼んだのか探しているみたいだ。
仕方ない、もう一度呼んでみるかと、思ったところで吉田と目が合う。

「田中! なんでここに?」
横断歩道を渡って吉田の側に向かう。
「なんでって、俺の家はここのすぐ近くだからな。それで、お前はどうしてここに?」
「あ、ああ。俺は……その……なんとなくだな」
「なんとなくか。まあ、ここで会ったのもなにかの縁だ。少し、歩きながら話そうか?」
「いや、俺は先を急ぐんだ。悪いな」
「そうか、足止めして悪かったな。じゃまた学校でな」
「お、おお。あ、そうだ。お前さ、この近所なら、ここの住所知らないか?」
吉田が紙片に書かれた住所を見せてくる。その住所は間違いなく奈美の家の住所だった。
「まあ、分かるが、ここにどんな用事があるんだ?」
「分かるのか! なら、案内を頼んでもいいか!」
「待て、それよりもここにどんな用があるのかを教えてくれないか?」
「はあ? なんで、そんなことをお前に言う必要があるんだよ! いいから、教えろよ!」
「いいから、理由を話せよ。それを言うまでは教えることは出来ない」
「なんだよ! なんで、皆邪魔するんだよ!」
「おい、吉田。落ち着け! お前、なにを言ってるんだ?」
「うるさい! なんでお前が邪魔するんだ!」
さっきから、吉田が大声で騒ぐものだから、いつの間にか周りに野次馬が集まっていた。その中に誰が呼んだのか警官が見える。
これはヤバい。そう思うが、興奮した吉田は後ろから近付く警官に気がついていない。
吉田がズボンの後ろポケットに手を入れる。

その瞬間に後ろから近付いていた警官が吉田の手を抑える。
「君、それを出したら罪が重くなるよ。いいね」
「な、なんでここに警官が?」
「君ね、通りでこんな騒ぎを起こしていたら、誰が通報してもおかしくはないでしょ? ほら、行くよ」
「イヤだ! 離せ! 俺はアイツに……」
警官の手を無理矢理に解いて脱出を試みるが、すぐに他の応援に来ていた警官に取り押さえられる。
「はい、大人しくしてね。これ以上、暴れると公務執行妨害で逮捕することになるよ」
警官にそう言われると、途端に暴れていた吉田の動きが止まる。
「なんでだよ……なんで、いつもうまくいかないんだ……俺がそんなに悪いのかよ!」
吉田が再び暴れ出そうとしたが、また警官に取り押さえられる。
いつの間にかパトカーも何台か横に停められ、その中からも応援の警官が降りてきて、吉田を囲うようにしてパトカーに乗せる。
それを見ていた俺に一人の警官が近付いて来て話掛けてくる。
「君は彼と知り合いなの? なにを話していたのか、聞いてもいいかな? まあ、とりあえずは車に乗ってもらえるかい?」
「はあ、どうしても行かないとダメですか?」
「そうだね、まあ、断らない方が正解かな。これだけの騒ぎを起こした訳だしね。こちらとしてもなにも聞かないって訳には行かないんだよ。ごめんね」
「分かりました。その前に家に連絡を入れてもいいですか? あと、どれくらい拘束されますか?」
「拘束って……まあ、あまり変わりはないか。そうだね、時間は一~二時間ってとこかな」
「分かりました。じゃ家に連絡させてもらいます」
家に電話して、詳しいことは帰ってから話すけど事件に巻き込まれたから、ちょっと警察署まで行ってくると話すが、電話の向こうでは母さんが取り乱しているのが分かる。
「すみませんが、警察からも家に連絡をしてもらっていいですか? 母が取り乱してしまっているようで」
「分かった。おい、聞いたろ、この子の家に連絡して事情を話しといて。頼んだよ。これでいいかな?」
俺の相手をしている警官が、近くにいた警官に母さんへの事情説明をしてくれるようだ。後は山田姉妹だな。
「すみません、もう一件いいですか?」
「もう一件? 分かったよ、なるべく早くな」
「はい、ありがとうございます」
警官に礼を言うと奈美に電話を掛ける。
『まー君、どうなったの? アイツは? まー君は無事なの?』
「奈美、落ち着け。いいか、さっき吉田は警察に連れられて行った。で、俺は目撃者というか、当事者として今から話をしに警察署に連れていかれるところだ。とりあえず、吉田の件はこれでどうにかなりそうだと土田さんに話しといてくれ。じゃあな」
『ちょ、ちょっとまー君!』
「終わりました。じゃあ、お願いします」
「終わったのか。それじゃ、その車に乗ってね」
初めて乗るパトカーに興奮しながらも、なにを話せばいいんだろうかと頭を抱える。



SIDE B.まさかだよ
奈美達と戯れあっていたが、お父さんに連絡しないとダメだったと思い出し、お父さんに電話を掛ける。
『なんだ、亜美。俺はまだ仕事中なんだが「いいから、聞いてよ!」……お、おお、分かった。話してみろ』
「あのね、昨日お願いしたストーカーのことなんだけどね」
『ああ、あれか。あれは注意したら家に帰ったと連絡しただろ。なんだ、まだなにか不安なことがあるのか?』
「うん、大ありだよ。さっき、お世話になっている同級生の子達と家に帰ろうと駅に向かっていたらね」
『まさか! そこに来たのか!』
「違うから、いいから聞いてよ」
『そうか、悪かったな』
「でね、その同級生の子のお友達と会ったんだけど、その子が言うにはストーカーのことを甘く見過ぎだって言われたの。最近、事件化しているのは『注意したから大丈夫』って言われたのが多いって」
『むっ。なんだソイツは。亜美はそんな奴の言うことを信じて、お父さんの言うことが信じられないのか?』
「そうじゃない! そうじゃないけど、その子の言うことも一理あると思ったのも本当だよ」
『まあ、ソイツの言うことも正しいな。だがな……』
「ねえ、お父さんの方でもう一度、吉田がちゃんと家にいるのか確認してもらえないかな?」
『分かった。そのストーカーが家にいるのなら、ひとまずは安心出来るんだな』
「そうなの。お願いね」
『ああ、ちょっと待ってろ。確認するからな』
お父さんとの電話を切り、奈美達に話そうとしたら奈美がスマホを握りしめて、「なんで」と呟いていると、そのまま誰かに電話をかける。
「まー君、これ! 今どこなの? なんで、あのストーカーがいるの?」
奈美が電話しているのは、あのまー君みたいだが、奈美が焦っているように見える。
状況が分からないので、由美にどういうことなのか聞いてみる。
「ねえ、奈美はどうしたの?」
「亜美、お父さんはどうだった?」
「なんかね、自分の娘が巻き込まれそうだってのに、どこかのんびりしているよ。それで、奈美はどうしたの? なにか焦っているみたいだけどさ」
「そっか、亜美は電話中だったもんね。実はね、さっきまー君からね、あのストーカー君の写真が送られて来たの。しかも今いるのが、ここからすぐ近くみたいなのよね」
「え? なに? どういうこと?」
「そうなるよね。だから、奈美がまー君に確認しているんだけどね」
電話が終わった奈美がスマホをテーブルに置き、ニヤニヤしている。
あれ? 吉田のことで電話して聞いてくれたんだよね? なんで奈美はニヤついているの?
「お~い、奈美。亜美も話が聞きたいって! な~み~聞いてる?」
「あ、ごめん。ふふふ、まー君に心配されちゃった。ふふ」
「ふふふじゃないでしょ! で、どういうことなのか、ちゃんと聞いたんでしょうね?」
「ああ、そうよね、そうでした。ごめんね亜美」
「ううん、それはいいんだけど、なにがあったのか聞かせて」
「うん。じゃあ、まー君から聞いたことを話すね」
まー君が言うには、なぜかこの家の住所が書かれた紙を持って、この家を目指していたらしい。
分からないのは、なぜ私がここにいるのを知っているのかということだ。
「なんで、アイツが奈美の家を知っているの? そもそも、なんで私が奈美の家にいることを知っているの?」
「そうよね。そこが不思議なところよね。亜美はあの子にスマホに変なアプリを入れられたりとかしてないの?」
「私が? 吉田に? そんなことする訳ないじゃない」
「じゃあ、あの子から変なメールが来たとか?」
「ないない、全部着拒してるし」
「へ~そこまで徹底してるのに諦めないんだね。こりゃまー君が言っていることも当たっているかもね」
「由美、そういうことは言わないの! そういうのでフラグが立ちやすくなるんだからね」
「もう、分かったわよ」
そんな話をしていると奈美のスマホがまー君からの着信を知らせる。
「奈美はまー君の着信音を変えてるんだね」
「そうだよ。私も変えてるし」
「いいから、静かにしててよ」
「「は~い」」
奈美がスマホを取ると、いきなり喋り出す。
「まー君、どうなったの? アイツは? まー君は無事なの?」
奈美がまー君に質問をするが、まー君からの声は聞こえないので、なにを話しているのかは分からない。もう、スピーカーにしてくれてもいいのに。
「ちょ、ちょっとまー君!」
まー君から、通話を切られたのか奈美がスマホの画面をじっと見ていたら、急にこちらに向かって話しだす。
「まー君が警察に連れていかれた!」
「「え~!!!」」
「奈美、ちょっと落ち着こうか。まー君がなにも言わないはずはないよね? ほら、ちゃんと話してごらん」
「由美~」
「ほら、そうやってても私達にはなにも分からないんだからさ。ね?」
「うん、分かった。じゃ話すね。あのねまー君がね『さっき吉田は警察に連れられて行った。で、俺は目撃者というか、当事者として今から話をしに警察署に連れていかれるところだ。とりあえず、吉田の件はこれでどうにかなりそうだと土田さんに話しといてくれ』だって」
「それを早く言いなさいよ! 亜美、急いでお父さんに確認してもらえるかな?」
「う、うん。分かった」
「まったく、奈美はまー君のことになると途端にポンコツになるんだから」
「由美もまー君が警察に連れて行かれたって、直接聞けばこうなるわよ!」
「それもそうか」
姉妹のことは放っておいて、お父さんに電話して確認する。
「もしもし、お父さん?」
『ああ、亜美か。今、連絡しようと思ってたところだ』
「そう、あの吉田が捕まったんでしょ」
『ああ、そうだ。なぜそれを知っているんだ?』
「一緒に警察に連れて行かれたのが、今私がお世話になっている同級生の幼馴染でね。その子が吉田が捕まったって連絡してくれたの。でね、その子は吉田のクラスメイトで私に注意してくれた人なの。ね、お願いだから非道いことはしないでね」
『ああ、一緒にいた子が署に連れて行かれたと聞いたが、そうか。亜美の知り合いだったか。分かったよ。丁重に扱うように俺からも連絡しておく。なに心配するな。単に事情を聞くだけだし、手荒いことはしないだろうさ』
「うん。お父さんありがとう。お願いね」
通話を切り、スマホをテーブルに置くと、奈美達に説明する。
「あのね、今お父さんに聞いてみたの。そしたらね、単に事情を聞くだけだから、なにも手荒いことはされないだろうから心配するなってさ」
「「本当に?」」
「うん、大丈夫だって。じゃあ、私は家に帰るね」
「「ダメ!」」
「な、なんでよ?」
「だって、アイツがどのくらい捕まっているのか分からないじゃない。ちゃんと連絡が来るまではここにいてよ」
「分かった。もう少しだけお世話になるね」

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