彼女はだれ?

ももがぶ

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第一章 再会?

いろんなことが少しずつ

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SIDE A.それぞれの山田姉妹への思い
自宅の最寄駅に着き、太達に「また来週」と挨拶を交わし、電車から降りると家に向かって由美と一緒に歩く。
「ねえ、太ってさ、幸のことはどう思っているのかな?」
急に由美にそんなことを聞かれる。俺が気にしないようにしているってのに。
「さあな。俺は太とそういう話はしたことがないからな」
「ふ~ん、奈美とはするのに?」
「言っとくがな、あれは、たまたま話の流れでそうなっただけで、狙って話した訳じゃないからな」
「まあ、いいわ。そういうことにしといてあげる」
「あげるって、なんだよ。別に俺が頼んだわけでもないだろ」
そんな風に二人で話しながら、歩いていると由美の家との別れ道となる曲がり角に大が座っていた。

「おい、大。ここでなにやってんだ? まさか、奈美を待っているのか?」
「違う! と、友達を待っているだけだ。兄ちゃんには関係ないだろ! さっさと帰れよ!」
「お前、兄に向かって」
「まあまあ、まー君もそんなに大人気なく怒らないでも。それに大もこんなところで奈美を待っていないで、お家に帰りな」
「うるさい! ちんちくりんの由美は黙ってろよ!」
「な、このガキは! 誰がちんちくりんだって言うのよ!」
「ふん! 同じ双子なのに奈美と違って残念だな」
助け舟を出した由美に向かって、大が自分の胸の前に両手を持ってきて、由美を揶揄うように挑発する。

ここは兄としてちゃんと叱っておかないとダメだろう。由美なんか自分の胸元を見て落ち込んでいるじゃないか。
「大、それは言い過ぎだ。人の体のことを悪く言うのは良くないことだと、教わっただろ。ほら、由美に謝れ」
「まー君、言ってることは優しいけど、地味に傷つく……」
「ふん! 俺は謝らないからな!」
「そうか、分かった。なら、母さんに報告するだけだ」
「な、なんでだよ! 本当のことを言ってなにが悪いんだよ!」
「じゃあ、俺がお前を『ちび』とか『ガキ』って言ったら、どうする?」
「そりゃ、怒る」
「それと同じだよ。よし、これから奈美と由美にお前のことを『ちびガキ』って言わせるからな」
「なんでだよ! 俺は兄ちゃん達より年下なんだから、小さいのはしょうがないだろ!」
「でも、本当のことだろ?」
「わ、分かったよ。悪かったよ、由美」

大がなんとか搾り出すように由美に向かい謝罪の言葉を口にするが、また呼び捨てだ。
「違うだろ? 『由美さん』だろ? それともなにか、お前は由美も『俺の女』とか言い出すのか?」
「違う! こんなガサツな女はいらない!」
「な、このガキ! 誰がガサツだ!」
大の言葉に下を向いていた由美が反応する。まあ、ガサツなのは俺も認めるが、言っちゃダメだな。

「ほら、大。違うなら、奈美のことは置いといて、由美のことはちゃんと『由美さん』と呼びなさい」
「……ごめんさない。由美さん」

「もういいよ、たった数分でこんなに傷つけられるとは思わなかったよ。もう、ショックすぎる~まー君、慰めてよ!」
「バカ言うなよ。なんで俺が」
「だって、まー君の弟の大が私を傷つけたんだよ。兄としての責任は?」
「あ~もう、それなら明日、母さんに訴えればいいだろ。ったく、俺にどうしろっていうんだよ」
「まー君、優しくないね」
「そういうのは彼氏にやってもらえ。俺は知らん」
「そんなのいないから、まー君に言ってんじゃん! もう! ニブチン!」
「なんか言ったか?」
「別に……」
「じゃあ、俺は帰るな。大もいい加減にして帰るんだぞ」
「だから、俺は友達を待っているだけだって!」
「そうか、でも明日になれば分かるからな。いいな?」
「もう。じゃあまー君明日ね」
「ああ、明日はよろしくな」
「分かった。じゃあね~」
由美と別れ、大をその場に残して家に帰る。

「ただいま~」
「おかえり~」
台所の方から、真美の声がする。
弁当箱をカバンから出しながら、台所に向かうと真美に弁当の感想を言ってから、弁当箱を渡す。
「今日は全部食べたの?」
「ああ、全部俺が食ったよ。ご馳走様でした」
「うん、よろしい。あの女に食べさせなきゃいいよ」
「お前まで、『あの女』呼びかよ。よし、お前も明日は大と一緒に母さんから説教な」
「な、なんでよ! 私は大みたいに直接言ってないんだから、セーフでしょ」
「でも、俺的にはアウトだ。どうせ、家にいるんだろ? そして、お前はあいつらが来ることが嬉しくないと思っている。違うか?」
「ぐっ……確かにそうだけど、私まで怒られるのは納得出来ない」
「なあ、なんでそこまで山田姉妹を目の敵にするんだ? 大は『俺の女』扱いするし。本当になんでなんだ?」
「それは……」
「なんだ? 言えない理由か?」
「(言ったら、お兄ちゃんが意識するかもしれないから、言えないんじゃん! もう、このニブチン!)」
「ん?」
真美が俺を睨みながら、なにかを呟いているが全く聞こえない。

『ガチャ』
不意に玄関が開く音がするが、『ただいま』の声はしない。すると、乱暴に階段を駆け上がる足音の後に部屋のドアを乱暴に開け閉めする音が聞こえた。
「大ね。また、あの女に振られたのかな」
「お前は、奈美まで『あの女』呼びかよ」
「別にいいじゃない。本人に直接言っている訳じゃないんだしさ」
「なら、明日。ちゃんと山田姉妹に挨拶はするんだな?」
「は? なんでそういう話になるのよ」
「どうせ、気になって話を聞きたいんだろ」
「そ、それはそうだけど」
「なら、ちゃんと挨拶するんだな」
「わ、分かったわよ」
真美を少しだけ怒らせたかもしれない。
真美は流しに向かい夕飯の仕込みを始めた。
「まあ、あとは明日だな」
俺も自分の部屋に戻る。


SIDE B.まー君とマー君
大君と言う小さなストーカー予備軍と別れた後に奈美の家に案内される。
「ただいま~はい、ここが私のお家よ。さあ、上がってね」
「お邪魔しま~す」
すると、階段の上から見覚えのある日焼けした快活少女といった雰囲気の見覚えのある女の子が階段を降りてくる。
「あれ? 珍しいね。お友達?」
「由美、この子が例の人探しを頼んでいる亜美よ。亜美、この子が私の妹の由美。二人とも仲良くしてね」
「亜美です。よろしく」
「由美だよ、よろしくね。ほら、こんな玄関にいないで私達の部屋に行こうよ」
「それもそうね。ほら、亜美も上がって、上がって」
「うん」
「じゃあ、私は飲み物とお菓子を持って行くね」
「うん、お願いね由美」

玄関を上がると奈美に案内され階段を上り部屋へと案内される。
「とりあえず、制服を脱いだら、こっちに着替えてね」
奈美が部屋着っぽいのを渡してくれた。
「ありがとうね」
「はい、制服はこっちにね」
奈美がハンガーを渡してくれたので脱いだ制服をハンガーに掛けると奈美がそれを受け取り、部屋の隅に掛けてくれた。

部屋着に着替えている途中で、不意に部屋のドアが開かれ驚いていると、そこには飲み物とお菓子を抱えていた由美の姿があった。
由美は下着姿の私を見ると、静かに持っていた飲み物とお菓子をテーブルに置くと私の手を握りしめ「同志」と小さく呟いた。

まあ、奈美と違いすぎるのは分かるけどさ、同志ってそういう意味だよね。

「ほら、亜美もさっさと着替えちゃいなよ。いつまでも下着姿でいるのもね」
「う、うん」
いや、由美のせいとは言えず、ちゃんと服を着る。
「ほら、ここに座って」
由美が亜美を小さなテーブルの横に座るように言ってくる。

「じゃ、改めまして。奈美の妹の由美です。よろしくね」
「え~と、奈美の同級生で土田亜美と言います。よろしくね」
「はい、じゃあお互いの挨拶が終わったところで、今日は亜美がお泊まりします。いいかな?」
「へ? また急だね。どうしたの?」
奈美が今日は私が泊まると言うことを話すと由美が疑問を口にする。そりゃ、そうだよね。普通はそんな急に泊まらせることなんてないだろうし。
やっぱり、ちゃんと理由を話さないとね。
そういう風に思っていると奈美から話していいかと聞かれる。

「亜美、話してもいい?」
「うん。私からもお願い」
「そう、じゃ話すね。ことの始まりは、まー君から写真が送られてきたところからなんだけどね」
「あ~あれ! アイツが関係しているんだ。じゃあ、大変だね」
「あれ? なんで由美が知っているの?」
「だって、私もまー君と一緒に目撃したから。まー君がね、反対のホームにいつもとは違う方向なのにいるのが怪しいって言ってね。見ると怪しい目付きのヤツがいてさ。でね、その方向が奈美が利用する駅の方向だからって奈美のことを心配して送ったみたいよ。その後に電話で話したでしょ?」
「そっか、まー君が私のために……」
由美の説明に私のことを話していた筈の奈美が急に顔を赤らめると説明が止まってしまった。

「「奈美?」」
「はっ! ごめんね。でね、その男の子が来るかもってことでね。まー君からの電話の後にタイミングよく来たバスに乗ったの。そしたらさ、そのバスの中から、学校の方向に向かっているその男の子を見付けたの」
「うわぁ~それは怖いわ。それで?」
「でね、このまま学校に行って、亜美がいないって気付いたら、家の方に行くんじゃないかって思って、ここに泊まってもらうことにしたの」
「へ~大変だね」
奈美が私が泊まりに来ることになった理由を話しているんだけど、由美の反応が少し軽いのが気になる。

「でね、その男の子が『マー君って誰だよ!』って呟いていたんだって」
「まー君、なんでまー君が関係しているの?」
「私達が知っているまー君とは違うみたい。この話はまー君から電話で聞いたんだし、その男の子もまー君と同じクラスらしいの」
「へ~そりゃまた奇遇だね。で、そのマー君はどういう関係なの?」
「それは……亜美、言っても構わない?」
「うん、いいよ」
由美がマー君に興味を持っているようだ。自分が知っているまー君とは違うとは分かっていても同じまー君だから気になるんだろうか。奈美が私にマー君のことを話していいかと聞いてきたので了解する。

「実はね、そのマー君ってのは、亜美の婚約者なの」
「え~! その年でもう婚約者がいるの?」
「うんとね、婚約者と言ってもね、私が小さい頃に一緒に遊んだだけの男の子と結婚の約束をしただけなんだけどね」
由美が驚くから、私から事情を補足して説明する。
「あ~それがあの写真なの?」
「そう、私が亜美にもらったのを由美にも送ったの」
「へ~そうなんだ。でも、なんでそれをそのストーカーが狙っているの?」

「昨日、襲われ掛けた時に私が『マー君、助けて!』って叫んじゃたからかも」
「ああ、絶対にそれだよ。本当に災難だね。奈美のストーカーも大概だけどね」
「奈美のストーカー? ああ、さっきの!」
「あれ? もう会っちゃった? 大め、まー君が帰れって言ったのに!」
「あのぉ、由美に確認だけど、まー君って、もしかして今朝の電車で一緒だった男の子?」
「そう。今朝も一緒だったの。あれ? もしかして見られてた?」
「もう、バッチリ。随分と仲のいい彼氏彼女だな~って思ってね」
「そっか~彼氏彼女か~」
彼氏彼女と言われて、気をよくしたのか由美の顔が微かに赤くなる。

「ちょっと、由美! どういうことなの?」
「え? なに? 奈美、急にどうしたの?」
「なんで、由美がまー君といちゃついているのよ! そんなの抜け駆けじゃないの!」
「いちゃついてるって、私はそんなこと……」
「ごめん、奈美。私の話し方が悪かったわ。あのね、別にいちゃついていたとかそんなんじゃなくてね。雰囲気というかその場の感じがね、私から見て仲が良さそうに見えたってだけだから、ね? 落ち着いて」
「そうだよ、別になにも変なことはしてないし。でも……」
「「でも?」」
「まー君に可愛いって言われちゃった。きゃ」
「……」
「ちょ、ちょっと奈美、落ち着いて。由美が可愛いって言われたってことは奈美も可愛いってことじゃない」
「どういう意味かな?」
「もう、二人は双子でしょ! なら、片方が不細工で片方が美人ってことはないでしょ。もうちゃんと落ち着いてよ」
「そっか、そうだよね。まー君だもんね。だから、まー君は由美を通して、私も可愛いって言ったのよね」
「まあ、否定は出来ないけど、直接言われたのは私だからね」
「どうせ、由美のことだから、うまく誘導したんでしょ? 本当にそういうのはうまいんだから」
「うっ」
「あら、図星みたいね」
もうこの姉妹に好かれるまー君ってどんな奴なのよ。まさかのハーレム願望とかあるんじゃないでしょうね。
あ~早く私のマー君に会いたい。
あれ? そう言えば、駅からここまでの道ってどこかで見覚えが……
う~ん、どこでだったかな。うまく思い出せないや。
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