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第一章 再会?
出会う?
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SIDE A.ある男子高校生の想い
「はぁ~」
駅から学校への通学路を歩いていたら後ろから背中を叩かれたので振り向くと、そこには中学からの同級生『森林 太』がいた。
「よう、どうした? 朝っぱらから、そんなため息吐いて。らしくねえぞ」
「なんだ、太か。いいから、ほっといてくれよ」
すると、また背中に衝撃が走る。
「な~に、男同士でコソコソしてんの? やっぱり、あの噂ってホントなの? ねえ?」
太と反対方向に目をやると、そこには同じ中学からの同級生『山田 由美』が下から俺の顔を覗き込んでいた。
「噂って、なんのことだ?」
「聞くな! ブル! 聞かない方がいいぞ!」
「太は知ってんのか?」
「……ああ、知っている。だけど、俺の場合は聞いたと言うか、聞いてしまったってのが正解だな」
「なんだよ~俺だけ仲間はずれかよ。なあ、教えろよ~」
「あ~まー君、そうやってると、悪化するから。ほら……」
由美にそう言われ、太を問い詰めるのを止めると、周囲からのひそひそ話が聞こえてくる。
「ほら、あれが例の二人よ! 片方は細マッチョで、もう片方はゴリマッチョ……尊い……」
「やっぱり、細マッチョがネコなのかな」
「それは、当たり前すぎるわ。ここは逆説というのもアリかも」
そんな会話が聞こえてきたので、内容をもう一度、自分なりに解釈してみる。
「うん、ダメだな。これは」
「もしかして、分かっちゃった?」
俺的にはアウトな内容だが、家のリビングで妹がうたた寝をして手元から読みかけの本が落ちたのを拾った時に中身を見てしまったことがある。そうだ、いわゆるBLだ。まさか、俺と太がそういう関係だと噂されていたとは……
「太、今まで長い付き合いだったな。ありがとう」
そう太に告げると足早に学校を目指す。
「おい、待てよ。こんなところに置いていくなよ!」
すると……
「きゃっ! 見て、もしかして痴話喧嘩かな。あ、そうだ! こうしちゃいられない。生で見ていたいけど、会報のためにも録画しとかなきゃ」
俺達を噂していた少女がカバンからスマホを取り出すと撮影を開始する。
「由美、さっき会報って聞こえなかった?」
「そ、そうかな? マー君の気のせいじゃないかな?」
「そうか、それならいいが」
「俺はよくないぞ! ブル! どういうことだ! 俺達は友達だろ? 俺がなにかしたのか?」
あ~もう、面倒だな~察してくれよ。もう、その言動があの少女達に燃料をくべているんだって。俺は噂が消えるまで大人しくしていたいだけなのに。
このまま、太と言い合いしても無理だと判断した俺は、駆け足で校門を目指す。
「行っちゃったね。どうするの?」
「どうするもこうするも、俺は認めないぞ。あんな一方的なことは!」
「(バカだね、それが原因なのに。でも、面白いからいっか)」
「なに、ニヤニヤしてんだよ。お前の友達が困っているんだぞ」
「ふふふ、別にいいじゃない。このままでも」
「イヤだ! 俺は認めない!」
「「「きゃ~!!!」」」
「(あ、盛り上がっちゃって。今日の会報が楽しみだな!)」
「やっぱり、お前なにか企んでいるだろ? まさか、俺とブルの仲を引き裂くつもりか?」
「(はい、燃料投下いただきました。ご馳走様です)そ、そんなことはないよ?」
「「「きゃ~!!! 燃え上がってきたわ!」」」
「なあ、なんか周りの一部が盛り上がっているみたいなんだけど?」
「気のせいよ。ほら、私達も急がないと!」
「あ、ああ。気のせいか?」
納得いかない様子で、由美と太が校門へと入る。
人足先に校門を潜った俺は自分の教室へと入ると同級生と軽く挨拶を交わし自分の席に着く。
「なあ、お前ってさ。陸上部の山田 由美と同中なんだろ?」
「ああ、そうだが」
同じクラスの少しチャラ目な『吉田 一太』が話しかけてくる。
「おし! なあ、紹介してくれない? 俺さ、ああいう元気いっぱいって子が好みなんだよね~」
「紹介するのは構わないが、少しは鍛えた方がいいぞ」
「あ? なんだよ、紹介するのがイヤなのか?」
俺が言った言葉に少し不機嫌な反応を見せる吉田。
「勘違いするなよ。別に紹介するのがイヤな訳じゃない」
「じゃ、なんだよ?」
「あいつはな、自分と同じ量の運動が出来ないとイヤなんだよ。歩くにしても、走るにしてもだ」
「どういう意味?」
「どういうもなにも、そのまんまだよ。あいつとのデートに一般的なデニムにスニーカーなんて格好で行こうものなら、すぐに汗だくになって靴擦れをこさえることになるぞ」
「マジ?」
「ああ、マジだ。今まで何人も紹介してきたが、全部そうやって返り討ちに遭っている」
「……」
「じゃあ、お前のことを紹介してもいいんだな?」
「うん、やっぱりよく考えたら、俺にはもったいないな。うん、ちょっと今回は縁がなかったということで……」
そう言って、吉田が俺の席から離れていく。
それとほぼ同時に担任の教師が教室へと入って来る。
「よ~し、HR始めるぞ! 皆、席に着いてるか。じゃ、委員長」
「起立、礼、着席」
「じゃ、出席を取るな。相川……」
担任がクラス全員の出席を取ると、教壇の端を両手で掴む。
「いいか、お前ら。入学して約二ヶ月。そろそろ高校にも慣れてきた頃だろ。しか~し、その慣れた時が一番、危ない。特に電車通学している男子ども、これからは女子がだんだんと薄着になるからな。痴漢に間違われないように注意しろよ。俺は呼び出されて行きたくはないからな! それともうすぐ中間考査が始まるからな。気を引き締めろよ! じゃ、朝のHRはここまで。委員長」
「起立、礼、着席」
担任が教室から出て行くのを確認し、嘆息する。
「注意するのが遅いって……」
SIDE B.ある女子高生の勘違い
「あ~やっちゃった。どうしよう……」
駅から学校までの通学路をさっきのことを思い出してみる。そして、よくよく考えてみるとあれは冤罪だったのでは? と思いつく。もし、そうだとしたら、あの男子高校生に悪いことをしてしまったと思う。だけど、どうすればまた会えるんだろう。もし、向こうが先に私を見つけたら、多分だけど、私を避けるよね。う~ん、困った。
私が降りる一つ手前の駅で降りたのは分かっているんだけど、その時点では、あの男子高校生を痴漢の犯人だと決めつけてしまったためにお礼どころか、睨みつけてしまったからな~
あの後、男子高校生が降りた後にも痴漢は再び私を触ってきた為に、男子高校生の冤罪説が次第に大きくなっていった。ちなみに当事者の痴漢は別の人の手で捕まって、駅舎へと連行されていった。
「お早う! 亜美、どうしたの? 朝から落ち込んでいるみたいだけど?」
もうすぐ学校に着くというところで同級生の『山田 奈美』に声を掛けられる。
「あ! 奈美、お早う」
「それで、なにかあったの? まさか、また痴漢?」
コクリと頷いてみせる。
「もう、ダメじゃない。ちゃんと周りの人に言ったの? この人痴漢です! って」
「言えなかった……」
「ハァ~それで、その痴漢されたことを悔しがっているの?」
「違うの! 痴漢らしきおじさんは捕まったの。多分だけど……」
「じゃあ、いいじゃない」
「だけどね、多分、その痴漢から助けてくれた人をね、私は痴漢だと勘違いしちゃったの!」
「はぁ? なんでそうなるわけ? それでその人にはちゃんと謝ったの? お礼は言ったの?」
「ううん、その人は一つ前の駅で降りたんだけどね。その時にはまだ、その人が痴漢だと思っていたから、思わず睨み付けちゃったの。ねえ、どうしよう……どうしたらいい?」
「そういうこと言われても分からないわよ。まずはどういう感じの人だったの? 男? 女?」
「えっとね、多分、隣駅の高校生だと思う」
「へ~隣駅か。それなら、学校は一つしかないわね。それにその高校なら妹が通っているから、それっぽい人がいないか妹に聞くことが出来るわね」
「ホント?」
「まあ、慌てなさんな。いくら同じ学校とは言ってもなにも分からなければ、見当すらつけられないわよ」
「そうか、それもそうね」
「ほら、それで。高校生らしいってのは分かったから、まずは男なの? 女なの?」
「えっとね、男の子。それと、たぶんだけど同い年だと思う」
「男の子ね。それで同学年っていうのは? それはどうして?」
「あの徽章は一年生だと思うの。前にお兄ちゃんがしてたから」
「へ~意外とよく見てるのね。でも同じ一年なら、グッと近付いて来たわね。他には?」
「背が高かったの。私が見上げて首が痛くなるくらい」
「もっと、具体的に言って欲しいけど、亜美の首が痛くなるくらいなら、相当高いわね。他には? 例えば髪型とか?」
「髪型は普通にサラサラのストレートで長くもなく短くもなく」
「ふ~ん、ごく普通ね。それで、他には? ほら、イケてるとか太ってるとか」
「う~んとね、細身で意外とマッチョかも。腕に太い血管が浮いてたし」
「あんた、意外とよく見てるのね」
「あのね、痴漢がいなくなったと思ったら、急に圧迫感がなくなったの。それでね、なんでかな~と思ったら、その人がドアに手をついて私との間にスペースを作ってくれてたの! その時にね、意外と太い腕だな~って思ったの。あと、すっごく睨んでた」
「はぁ、まあいいわ。それで睨んでたってのは亜美に対して?」
「それは分からない。一瞬だったし。でも、ガラス越しに、その男の人の顔を見た時もず~っとどこか睨んでたのは覚えてる」
「そう、それに細身のイケメンね」
「私、イケメンって言ってないよ?」
「その顔が言ってるのよ。後で自分の顔を鏡で見てみなさいよ」
「え? そんなに?」
言われて、顔を両手で覆うと自分でも頬が熱を帯びているのが分かった。
「分かった? 亜美にとっての初恋かな? うまくいくといいね。じゃ、私は妹に聞いておくから。あまり期待はしないでね」
「う、うん。ありがとうね」
駅から、ここまで奈美にいろいろ聞いてもらっている内に確信することが出来た。
だから、この気持ちを確かめるためにも、ちゃんとお礼を言うためにも、絶対に会ってやる!
奈美と一緒に校門を潜ると下駄箱で校内履きに履き替え教室へと向かう。
教室のドアを開けると、同級生と朝の挨拶を交わし自分の席に着く。
奈美は私の左隣の席へと座る。
「こんなもんかな。妹にさっき聞いた内容で送っといたわよ。なにか反応があるといいわね」
「ありがとう! 奈美」
奈美にお礼を言って、手を握る。
「ほら、分かったから、離しなさい。もうすぐ担任が来るし」
「きゃ~! やっぱり尊いわ~!」
「ねえ、あの二人って、やっぱりそうなのかな?」
「さあ? どうかしらね。この会報も会員限定で本人に見つかったら処罰ものだって言われてるし。だから、想像上の妄想話として捉えていた方がいいわね」
「でも、二人ともイケメンだし。細いのとぶっといので、まさに理想そのものなんだけどね~」
「まあ、そこはね。想像して楽しむってのが、この会の基本ルールだしね」
教室の隅っこではしゃぐ同級生を見て、奈美に聞いてみる。
「ねえ、最近よくはしゃいでいるのを見かけるけど、あの子達ってどういう集団なのかな?」
「(もう、会報が回ってるんだ。次の休憩まで見られないじゃない! もう)さ、さあ、私にもよく分からないわ……」
「はぁ~」
駅から学校への通学路を歩いていたら後ろから背中を叩かれたので振り向くと、そこには中学からの同級生『森林 太』がいた。
「よう、どうした? 朝っぱらから、そんなため息吐いて。らしくねえぞ」
「なんだ、太か。いいから、ほっといてくれよ」
すると、また背中に衝撃が走る。
「な~に、男同士でコソコソしてんの? やっぱり、あの噂ってホントなの? ねえ?」
太と反対方向に目をやると、そこには同じ中学からの同級生『山田 由美』が下から俺の顔を覗き込んでいた。
「噂って、なんのことだ?」
「聞くな! ブル! 聞かない方がいいぞ!」
「太は知ってんのか?」
「……ああ、知っている。だけど、俺の場合は聞いたと言うか、聞いてしまったってのが正解だな」
「なんだよ~俺だけ仲間はずれかよ。なあ、教えろよ~」
「あ~まー君、そうやってると、悪化するから。ほら……」
由美にそう言われ、太を問い詰めるのを止めると、周囲からのひそひそ話が聞こえてくる。
「ほら、あれが例の二人よ! 片方は細マッチョで、もう片方はゴリマッチョ……尊い……」
「やっぱり、細マッチョがネコなのかな」
「それは、当たり前すぎるわ。ここは逆説というのもアリかも」
そんな会話が聞こえてきたので、内容をもう一度、自分なりに解釈してみる。
「うん、ダメだな。これは」
「もしかして、分かっちゃった?」
俺的にはアウトな内容だが、家のリビングで妹がうたた寝をして手元から読みかけの本が落ちたのを拾った時に中身を見てしまったことがある。そうだ、いわゆるBLだ。まさか、俺と太がそういう関係だと噂されていたとは……
「太、今まで長い付き合いだったな。ありがとう」
そう太に告げると足早に学校を目指す。
「おい、待てよ。こんなところに置いていくなよ!」
すると……
「きゃっ! 見て、もしかして痴話喧嘩かな。あ、そうだ! こうしちゃいられない。生で見ていたいけど、会報のためにも録画しとかなきゃ」
俺達を噂していた少女がカバンからスマホを取り出すと撮影を開始する。
「由美、さっき会報って聞こえなかった?」
「そ、そうかな? マー君の気のせいじゃないかな?」
「そうか、それならいいが」
「俺はよくないぞ! ブル! どういうことだ! 俺達は友達だろ? 俺がなにかしたのか?」
あ~もう、面倒だな~察してくれよ。もう、その言動があの少女達に燃料をくべているんだって。俺は噂が消えるまで大人しくしていたいだけなのに。
このまま、太と言い合いしても無理だと判断した俺は、駆け足で校門を目指す。
「行っちゃったね。どうするの?」
「どうするもこうするも、俺は認めないぞ。あんな一方的なことは!」
「(バカだね、それが原因なのに。でも、面白いからいっか)」
「なに、ニヤニヤしてんだよ。お前の友達が困っているんだぞ」
「ふふふ、別にいいじゃない。このままでも」
「イヤだ! 俺は認めない!」
「「「きゃ~!!!」」」
「(あ、盛り上がっちゃって。今日の会報が楽しみだな!)」
「やっぱり、お前なにか企んでいるだろ? まさか、俺とブルの仲を引き裂くつもりか?」
「(はい、燃料投下いただきました。ご馳走様です)そ、そんなことはないよ?」
「「「きゃ~!!! 燃え上がってきたわ!」」」
「なあ、なんか周りの一部が盛り上がっているみたいなんだけど?」
「気のせいよ。ほら、私達も急がないと!」
「あ、ああ。気のせいか?」
納得いかない様子で、由美と太が校門へと入る。
人足先に校門を潜った俺は自分の教室へと入ると同級生と軽く挨拶を交わし自分の席に着く。
「なあ、お前ってさ。陸上部の山田 由美と同中なんだろ?」
「ああ、そうだが」
同じクラスの少しチャラ目な『吉田 一太』が話しかけてくる。
「おし! なあ、紹介してくれない? 俺さ、ああいう元気いっぱいって子が好みなんだよね~」
「紹介するのは構わないが、少しは鍛えた方がいいぞ」
「あ? なんだよ、紹介するのがイヤなのか?」
俺が言った言葉に少し不機嫌な反応を見せる吉田。
「勘違いするなよ。別に紹介するのがイヤな訳じゃない」
「じゃ、なんだよ?」
「あいつはな、自分と同じ量の運動が出来ないとイヤなんだよ。歩くにしても、走るにしてもだ」
「どういう意味?」
「どういうもなにも、そのまんまだよ。あいつとのデートに一般的なデニムにスニーカーなんて格好で行こうものなら、すぐに汗だくになって靴擦れをこさえることになるぞ」
「マジ?」
「ああ、マジだ。今まで何人も紹介してきたが、全部そうやって返り討ちに遭っている」
「……」
「じゃあ、お前のことを紹介してもいいんだな?」
「うん、やっぱりよく考えたら、俺にはもったいないな。うん、ちょっと今回は縁がなかったということで……」
そう言って、吉田が俺の席から離れていく。
それとほぼ同時に担任の教師が教室へと入って来る。
「よ~し、HR始めるぞ! 皆、席に着いてるか。じゃ、委員長」
「起立、礼、着席」
「じゃ、出席を取るな。相川……」
担任がクラス全員の出席を取ると、教壇の端を両手で掴む。
「いいか、お前ら。入学して約二ヶ月。そろそろ高校にも慣れてきた頃だろ。しか~し、その慣れた時が一番、危ない。特に電車通学している男子ども、これからは女子がだんだんと薄着になるからな。痴漢に間違われないように注意しろよ。俺は呼び出されて行きたくはないからな! それともうすぐ中間考査が始まるからな。気を引き締めろよ! じゃ、朝のHRはここまで。委員長」
「起立、礼、着席」
担任が教室から出て行くのを確認し、嘆息する。
「注意するのが遅いって……」
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「あ~やっちゃった。どうしよう……」
駅から学校までの通学路をさっきのことを思い出してみる。そして、よくよく考えてみるとあれは冤罪だったのでは? と思いつく。もし、そうだとしたら、あの男子高校生に悪いことをしてしまったと思う。だけど、どうすればまた会えるんだろう。もし、向こうが先に私を見つけたら、多分だけど、私を避けるよね。う~ん、困った。
私が降りる一つ手前の駅で降りたのは分かっているんだけど、その時点では、あの男子高校生を痴漢の犯人だと決めつけてしまったためにお礼どころか、睨みつけてしまったからな~
あの後、男子高校生が降りた後にも痴漢は再び私を触ってきた為に、男子高校生の冤罪説が次第に大きくなっていった。ちなみに当事者の痴漢は別の人の手で捕まって、駅舎へと連行されていった。
「お早う! 亜美、どうしたの? 朝から落ち込んでいるみたいだけど?」
もうすぐ学校に着くというところで同級生の『山田 奈美』に声を掛けられる。
「あ! 奈美、お早う」
「それで、なにかあったの? まさか、また痴漢?」
コクリと頷いてみせる。
「もう、ダメじゃない。ちゃんと周りの人に言ったの? この人痴漢です! って」
「言えなかった……」
「ハァ~それで、その痴漢されたことを悔しがっているの?」
「違うの! 痴漢らしきおじさんは捕まったの。多分だけど……」
「じゃあ、いいじゃない」
「だけどね、多分、その痴漢から助けてくれた人をね、私は痴漢だと勘違いしちゃったの!」
「はぁ? なんでそうなるわけ? それでその人にはちゃんと謝ったの? お礼は言ったの?」
「ううん、その人は一つ前の駅で降りたんだけどね。その時にはまだ、その人が痴漢だと思っていたから、思わず睨み付けちゃったの。ねえ、どうしよう……どうしたらいい?」
「そういうこと言われても分からないわよ。まずはどういう感じの人だったの? 男? 女?」
「えっとね、多分、隣駅の高校生だと思う」
「へ~隣駅か。それなら、学校は一つしかないわね。それにその高校なら妹が通っているから、それっぽい人がいないか妹に聞くことが出来るわね」
「ホント?」
「まあ、慌てなさんな。いくら同じ学校とは言ってもなにも分からなければ、見当すらつけられないわよ」
「そうか、それもそうね」
「ほら、それで。高校生らしいってのは分かったから、まずは男なの? 女なの?」
「えっとね、男の子。それと、たぶんだけど同い年だと思う」
「男の子ね。それで同学年っていうのは? それはどうして?」
「あの徽章は一年生だと思うの。前にお兄ちゃんがしてたから」
「へ~意外とよく見てるのね。でも同じ一年なら、グッと近付いて来たわね。他には?」
「背が高かったの。私が見上げて首が痛くなるくらい」
「もっと、具体的に言って欲しいけど、亜美の首が痛くなるくらいなら、相当高いわね。他には? 例えば髪型とか?」
「髪型は普通にサラサラのストレートで長くもなく短くもなく」
「ふ~ん、ごく普通ね。それで、他には? ほら、イケてるとか太ってるとか」
「う~んとね、細身で意外とマッチョかも。腕に太い血管が浮いてたし」
「あんた、意外とよく見てるのね」
「あのね、痴漢がいなくなったと思ったら、急に圧迫感がなくなったの。それでね、なんでかな~と思ったら、その人がドアに手をついて私との間にスペースを作ってくれてたの! その時にね、意外と太い腕だな~って思ったの。あと、すっごく睨んでた」
「はぁ、まあいいわ。それで睨んでたってのは亜美に対して?」
「それは分からない。一瞬だったし。でも、ガラス越しに、その男の人の顔を見た時もず~っとどこか睨んでたのは覚えてる」
「そう、それに細身のイケメンね」
「私、イケメンって言ってないよ?」
「その顔が言ってるのよ。後で自分の顔を鏡で見てみなさいよ」
「え? そんなに?」
言われて、顔を両手で覆うと自分でも頬が熱を帯びているのが分かった。
「分かった? 亜美にとっての初恋かな? うまくいくといいね。じゃ、私は妹に聞いておくから。あまり期待はしないでね」
「う、うん。ありがとうね」
駅から、ここまで奈美にいろいろ聞いてもらっている内に確信することが出来た。
だから、この気持ちを確かめるためにも、ちゃんとお礼を言うためにも、絶対に会ってやる!
奈美と一緒に校門を潜ると下駄箱で校内履きに履き替え教室へと向かう。
教室のドアを開けると、同級生と朝の挨拶を交わし自分の席に着く。
奈美は私の左隣の席へと座る。
「こんなもんかな。妹にさっき聞いた内容で送っといたわよ。なにか反応があるといいわね」
「ありがとう! 奈美」
奈美にお礼を言って、手を握る。
「ほら、分かったから、離しなさい。もうすぐ担任が来るし」
「きゃ~! やっぱり尊いわ~!」
「ねえ、あの二人って、やっぱりそうなのかな?」
「さあ? どうかしらね。この会報も会員限定で本人に見つかったら処罰ものだって言われてるし。だから、想像上の妄想話として捉えていた方がいいわね」
「でも、二人ともイケメンだし。細いのとぶっといので、まさに理想そのものなんだけどね~」
「まあ、そこはね。想像して楽しむってのが、この会の基本ルールだしね」
教室の隅っこではしゃぐ同級生を見て、奈美に聞いてみる。
「ねえ、最近よくはしゃいでいるのを見かけるけど、あの子達ってどういう集団なのかな?」
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