上 下
32 / 53

第32話 貨幣価値

しおりを挟む
 金貨の入った革袋を受付でもらった恒だが、この金貨十枚の貨幣価値がよく分からない。ミモネに聞こうと思ったが、知っているとは思えない。
「ま、いいか。あいつらの様子を見てからにしよう」
 恒はギルド横に併設されている訓練場に向かうと、ドリーと撃ち合っている明良が目に入る。
「へ~頑張ってるんだ。由香は……魔法制御の練習ね。じゃあ、久美は……何、やってるんだアレは?」
 明良はドリーと剣術の稽古、由香は魔法制御を訓練中、久美はと言えば、知らない誰かに打ち込まれていた。

「あれ? 久美には届いてない?」
「あれは女子おなごが障壁を張っているのじゃ」
「へぇ~障壁ね。支援系にも色々あるんだな」

「なあ、旦那様よ。査定が終わったら来てくれと言っていたが、それまで暇じゃ」
「暇って言われても、もうすぐ日暮れだぞ。だから、ギルドに寄るのは明日だよ」
「そうは言われても暇な物は暇なのじゃ!」
「あ~もう、面倒だ! 『解除』」
『な、何をするのじゃ!』
 その場で妖刀に戻った小夜を腰に差すとギルドの訓練場を後にする。

「おかえり~ワタル!」
「ただいま、ミリー」
 宿に戻った恒は出迎えてくれたミリーの頭をくしゃくしゃにする。
「やめろよ~ワタル~」
「ちょっと、ウチのミリーに乱暴……って、ワタルじゃない。お帰り。今日は初依頼だったんだろ。どうだった?」
「うん、上手くいったよ。あ、そうだ。女将さん。ちょっと、聞きたいんだけどいい?」
「なんだい? 面倒なことなら勘弁だよ」
 女将に言われた恒は、そんな難しいことじゃないからと金貨の入った革袋を取り出すと、その中から金貨を一枚取り出し、女将に見せる。

「へぇ~初依頼で金貨をもらえたのかい。随分、羽振りがいいね。で、聞きたいことってのは?」
「うん、そのね。俺はこの国に来たばかりだから、この金貨の貨幣価値が分からないんだ。申し訳ないけど、この金貨を細かいのに両替して教えて欲しい」
「あ~そういうことかい。まあ、こういうのはドリーじゃ分からないだろうね。いいよ。ちょっと、用意してくるから待ってな」
 女将に言われた恒はミリーと一緒に食堂のテーブルに大人しく待つ。

 しばらくして、女将がトレイの上に革袋をいくつか載せて戻ってくる。
「はいよ。お待たせ」
 恒の待つテーブルの上に重そうなトレイをドスッと載せる。
「じゃあ、説明するよ。いいかい?」
「うん。お願い」
「いいかい? これが恒から預かった金貨。これと同じ価値が銀貨百枚。そして、その銀貨一枚と同じ価値が銅貨十枚、その銅貨一枚と同じ価値が鉄貨十枚。そしてその鉄貨一枚と同じ価値が銭貨十枚になり、銭貨一枚が一番小さい貨幣だよ」
 そう説明すると、恒に銀貨九十九枚、銅貨九枚、鉄貨九枚、銭貨十枚を金貨一枚の両替分として渡す。
「本当なら、手数料も取るところだけど、今回はサービスね。ちゃんと他の子達にも教えておくんだよ。それと、宿代はちゃんと稼げるようになってからでいいからね」
「ちなみに宿代は?」
「そうさね、ドリーの分を除いて、あんた達四人分で二部屋に朝晩の二食で一泊銀貨二十枚ってとこだね」
「なら、一週間分で銀貨百四十枚なら、金貨一枚と銀貨四十枚か。ってことは一月四週間として、銀貨五百六十枚だから金貨五枚と銀貨六十枚だね」
 恒はそう言うと革袋の中から金貨五枚を取り出し、まだトレイの上に乗っていた銀貨六十枚を女将に渡す。

「え?」
「ワタル、すご~い!」
「とりあえず、四週間分ね。確かめて」
「いいのかい? そりゃ、私は助かるけど……」
「まずは寝泊まりするところとご飯は大事なので。それでお願い」
「分かったよ。じゃあ、有り難くちょうだいするよ」

 女将がほくほくとしたいい笑顔で奧に引っ込んだところで明良達が訓練から戻って来た。
「恒、もう帰っていたのか」
「どうだったの。初依頼は?」
「バッサバッサのグッチャグチャ?」
「聞きたい?」
「「「聞きたい!」」」
「じゃあ、ご飯が出てくるまでの暇潰しに話すよ」
「「「うん!」」」

「はい、今日の夕食だよ。ん? おにいちゃんたちどうしたの?」
「ミリー、ありがとう。明良達はもう少ししたら食べるから大丈夫だよ」
「そう?」
 ミリーは明良達を心配そうに見ていたが、恒の言葉を信じ厨房に戻る。

「なんて話を聞かせるんだよ……うぷっ」
「そうよ! ご飯前に聞かせる話じゃないでしょ! うっ!」
「本当にグチャグチャの話だった……で、おかずがハンバーグ……おっ!」
「そっちが聞きたいて言うから話したのに」
 どこか納得出来ない恒だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

彼はもう終わりです。

豆狸
恋愛
悪夢は、終わらせなくてはいけません。

ズボラ通販生活

ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!

プラス的 異世界の過ごし方

seo
ファンタジー
 日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。  呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。  乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。 #不定期更新 #物語の進み具合のんびり #カクヨムさんでも掲載しています

夢追人と時の審判者!(四沙門果の修行者、八度の転生からの〜聖者の末路・浄土はどこ〜)

一竿満月
ファンタジー
 火土気衛は、結婚もせずたくさんの教え子を育て、理科の教師を続け副主査で定年、再任用及び非常勤講師として七〇歳まで働き、退職後は田舎で畑いじり暮らしていました。そして、大きな病気にかかることもなく、七七歳のある日のこと、老衰(多臓器不全)により死亡。亡くなる時は、親しい友人や元同僚までみんなに見守られ、幸せな死を迎えた。 その後、第五死王所の閻魔さまにその立派な人生を称えられ、四沙門果の修行者の権利を得ることになった。よく分からないまま、輪廻の輪に入った火土気衛は、お釈迦さまに昔からの自分の願望を長々と語っていく。すると、預流向を叙位され、聖者(小角・空海・道真・覚源・西行・叡尊・賢俊)の流れに取り込まれた。次に目を覚ましたのは戦国時代。そして、自分の姿を確認すると、そこには、ぷにぷにした体の赤子がいた。七七歳の老人は、聖者として輪廻転生をし、生まれ変わったのだ。 そして、そこから戸惑いつつも、ファンタジーな世界を少しずつ記憶を取り戻し、なんとか生き延びようとしていくのであった。 ※追記.初投稿です。投稿内容は、フィクションのため歴史的事実と異なる場合があります。登場する国家、地名、団体名は、現実のものとは関係ありません。時代考証等が出来ていない事や、ご都合主義(死王所、死警所、死役所等造語)の部分が多くみられるかもしれませんが、あらかじめその事をご了承ください。なお、登場人物の都合上、名字の読みを富田(とみた)と冨田(とだ)で統一させていただきます。また、週二回程度(火曜日と土曜日22時投稿)のペースで投稿してまいりましたが令和五年四月より週一回程度の更新と追加・修正を頑張りたいと思います。応援と感想・誤字脱字の報告等お待ちしております。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

魔力値1の私が大賢者(仮)を目指すまで

ひーにゃん
ファンタジー
 誰もが魔力をもち魔法が使える世界で、アンナリーナはその力を持たず皆に厭われていた。  運命の【ギフト授与式】がやってきて、これでまともな暮らしが出来るかと思ったのだが……  与えられたギフトは【ギフト】というよくわからないもの。  だが、そのとき思い出した前世の記憶で【ギフト】の使い方を閃いて。  これは少し歪んだ考え方の持ち主、アンナリーナの一風変わった仲間たちとの日常のお話。  冒険を始めるに至って、第1章はアンナリーナのこれからを書くのに外せません。  よろしくお願いします。  この作品は小説家になろう様にも掲載しています。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

処理中です...