上 下
26 / 53

第26話 一生、一人でいるがいい!

しおりを挟む
 なんだかんだで部屋割りは、ほぼ元通りで収まった。
 ほぼと言うのは、騒動の元だった小夜の部屋割りが決定したからだ。
「ふふん。どうだ、小娘よ。妾と旦那様はやはり離れられない運命さだめなのじゃ!」
「キ~ッ! 恒、どうするつもりなの?」
 部屋割りの結果に小夜が由香を煽り、由香は恒にどうするつもりなのかと問い詰めるが、恒にはどうもする気はないので軽く流す。
「どうするも何もこうする以外になかったんだから、しょうがないだろ!」
「そうじゃ! そうじゃ! あ~夜が楽しみじゃ……今宵はどんな格好で……あ~」
「恒、俺も同じ部屋なんだけど? あまり、寝られないのは……ちょっと」
「明良、何言ってるの? 俺が何かするって思ってるの?」
「でもよ、あっちはその気満々だぞ。お前が何かしなくても襲われるのは間違いないだろうよ」
「あ~それは大丈夫。小夜、『解除』」
「え? ……あ!」
 恒が小夜に対し、『人化』を解除させると、そこには小夜の姿はなく黒鞘の妖刀『村正』が宙に浮いていた。
『旦那様よ。これはどういうことじゃ?』
「どういうことも何もしばらくはそのままで」
『ふん、旦那様はじらしも一流なのじゃな。じゃが、妾はもう少し人として楽しむのじゃ。じゃから、こんなのはすぐに人化して……ん? おかしいのじゃ。もう一度……やっぱり、ダメなのじゃ……旦那様よ、これはどういうことなのじゃ?』
 どうやっても人化出来ない小夜が恒に説明を求める。

「なんでって、小夜は俺の所有物扱いになっているのは知っているよね?」
『そうじゃな。妾は武器として旦那様の所有物なのじゃ』
「だから、ある程度のことを小夜に対して、こうやって制限出来る理由だ」
『……イヤじゃ! 非道すぎるのじゃ! まだ、旨い物も食べていないのじゃ! 旦那様ぁ~』
 小夜の悲痛な叫びだけが響くが、恒はと言えば、耳を塞ぎ聞かないようにしている。
 しかし、この状況に耐えきれないのもあるが、同じ女として男に邪険に扱われるのを見てしまうと、いくら人外でも可愛そうと思えるもので、躊躇する由香よりも先に久美が恒に対し、文句を言う。
「恒、元に戻してあげて!」
「久美、言っちゃ悪いがアレが元の姿だぞ」
「ん~じゃあ、言い方を変えるね。小夜の人化を許可してあげて」
 恒の言葉に確かにそうだけどと久美は言い方を変え、恒に小夜に人の姿になることを許して欲しいとお願いする。
「久美、お前達は小夜が俺にベタベタするのをあんなにどうにかしろと言ってたじゃないか。小夜の人化を許可すれば、またアイツは俺にベタベタと纏わり付くぞ。それはいいのか?」
「イヤだけど、それよりも同じ女として、こんな扱いされるのは見ていられないの!」
「そうよ! 私も久美と一緒の気持ちよ!」
「じゃあ、小夜の面倒はお前達に任せてもいいんだな?」
「「え? いや……そういう「いいんだな?」……はい」」
 久美にお願いされた恒は元々は由香と久美が小夜に対してワチャワチャとして、部屋割りが決められなかったのが、原因じゃないかと言えば、それ以上に小夜のことを放ってはおけないと言う。そんな由香と久美の二人に恒から言われたことに対し、反論しようとするが、結局は押し切られてしまう。
「よかったな、小夜」
「旦那様よ、妾は本当に泣きそうになったのじゃ。慰めて欲しいのじゃ」
「あ~そういうのは久美が責任持ってやってくれるから。頼んでみなよ」
「分かったのじゃ」
 由香と久美の二人の承諾とも取れる発言に対し、恒はニコリと微笑むと既に人化で和装姿の少女と化した小夜に話しかけると、小夜ももう少しで本気で泣きそうになったと恒に甘えようとするが、その役目は二人に任せたと由香と久美の方へと小夜を振り向かせる。
 そして、このやり取りを黙って見ていた由香と久美は揃って声に出す。
「「ハメられた……」」

「なんじゃ人聞きの悪い。そもそもお主らが妾と旦那様の仲を引き裂こうして、あれやこれやと反対するばかりで何も建設的な意見を言わないのが悪いのじゃ。だから、妾と旦那様でまずは二人を大人しくさせる為に一計を案じたと言う訳なのじゃ。まあ、と言う訳でこれからよろしく頼むのじゃ。旦那様と同衾出来ないのは残念じゃが、機会がなくなった訳でもないからの」
「「……」」
 長々と小夜から、この状況を説明された由香と久美は恒を一瞥するが、恒本人はニコニコと笑っているだけだ。

「なら、部屋割りは由香達の部屋に小夜が追加されただけってことか」
「そうだね。明良の方も落ち着いたみたいだしね」
「まあ、そうだな。ワシの目が黒いうちは許さんからな」
「ドリー、ドリーの寿命ってどのくらい?」
「さあな。ほぼ無いのじゃないかな」
「「……」」
 ドリーの発言に恒と明良は何も言えなくなる。
「明良、ミリーと結ばれる日は今生では難しいね」
「もし……もしの話だけど、ミリー以外の相手って許されると思うか?」
「多分だけど、ミリーはこれから一緒に旅に出るよね。その途中でミリーの目を躱してってのは難しいし、もしミリーにバレて暴走でもしたらって考えたら、明良にはミリー一択しか残されていないんじゃないかな?」
「恒……なんか楽しそうだな」
「そう?」
 明良の発言に恒はしまったという顔になる。ドリーの目が黒い内ってのは生きている内は認めないと言っているのと一緒で、試しにドリーに寿命があるのか聞いてみるとないのも一緒だと返答される。だから、明良に生きている内は無理だなと言ってしまう。そして、ミリーの暴走を考えると芽がないからと言って、他の女性に手を出すのは考えられない。もし、そんなことをしてミリーが暴走してしまうかもと考えてしまう。
 そんなこんなの理由で明良は生きている限り童貞だなと考えてしまうとどうしてもニヤけてしまう恒だった。

「お前、俺が一生童貞でいるのが決定したと思って笑っているんだろ? 怒らないから正直に言ってくれ」
「そ、そんなことはないよ」
「なら、なんでそんなに肩が揺れているんだ? それにさっきから、俺と目を合わせないよな?」
「ぐ、偶然じゃないかな? それに、ミリーが多分許さないと思うよ。そういう年頃になれば、ドリーの反対を押し切って来るかもね」
「その時はワシがなんとしてでも止めてみせる!」
「『お父さんなんか大っ嫌い!』って言われるかもよ?」
「ぐっ……ワタル。冗談でも言わないでくれ」
 やはり、お父さんは娘に嫌われるのが一番怖いらしい。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

神に愛された子

鈴木 カタル
ファンタジー
日本で善行を重ねた老人は、その生を終え、異世界のとある国王の孫・リーンオルゴットとして転生した。 家族に愛情を注がれて育った彼は、ある日、自分に『神に愛された子』という称号が付与されている事に気付く。一時はそれを忘れて過ごしていたものの、次第に自分の能力の異常性が明らかになる。 常人を遥かに凌ぐ魔力に、植物との会話……それらはやはり称号が原因だった! 平穏な日常を望むリーンオルゴットだったが、ある夜、伝説の聖獣に呼び出され人生が一変する――! 感想欄にネタバレ補正はしてません。閲覧は御自身で判断して下さいませ。

彼はもう終わりです。

豆狸
恋愛
悪夢は、終わらせなくてはいけません。

ズボラ通販生活

ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

魔力値1の私が大賢者(仮)を目指すまで

ひーにゃん
ファンタジー
 誰もが魔力をもち魔法が使える世界で、アンナリーナはその力を持たず皆に厭われていた。  運命の【ギフト授与式】がやってきて、これでまともな暮らしが出来るかと思ったのだが……  与えられたギフトは【ギフト】というよくわからないもの。  だが、そのとき思い出した前世の記憶で【ギフト】の使い方を閃いて。  これは少し歪んだ考え方の持ち主、アンナリーナの一風変わった仲間たちとの日常のお話。  冒険を始めるに至って、第1章はアンナリーナのこれからを書くのに外せません。  よろしくお願いします。  この作品は小説家になろう様にも掲載しています。

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

処理中です...