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第7話 召喚したのは

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 ドリーが話してくれたのは、恒達を召喚した国の名前と恒達を召喚したであろう理由だった。召喚した国の名は『ネマン教皇国』、召喚の目的はドリーの心臓を得るためだとか。

「えっと、ドリー。ちょっと聞いていいかな」
「ワタルか、なんだ」
「アイツらがドリーの心臓を目的とするのはなんのため? ドリーの心臓で何が出来るの? ドリーは心臓を取られても平気なの?」
「なんだ。殊勝な態度の割には普通の質問だな」
「なんかごめん……」
 ドリーは恒の質問に対し、気持ちよく返事を返したが恒からの質問の内容に少しだけ辟易するが、いい機会だと思い恒からの質問に答える。
「気にするな。まずアイツらがワシの心臓を目的とするのは『不老不死』の為だ。そして、当然ながらワシは心臓を失うと死ぬ」
「ああ、えっとありがとう。でも、本当に不老不死なんて有り得るの?」
「まあ、ワシが最古龍エンシェントドラゴンということで、そう思っているのかもしれんな。なんせ、ワシは悠久の時というか、この世界の誕生から今までを生きているからな。そういう意味でワシの心臓を加工すれば『不老不死』を得られると思っているのだろう」
 ドリーが話した内容に恒は考えさせられる。
 そして、恒達を召喚した理由が朧気ながら分かってきたのはドリー討伐の戦力とするためらしいということだった。
 もしかしたらドリーの討伐が、この世界の崩壊に繋がるのではと考える。なぜ、そういう考えに至ったかというとドリー自体が原初の頃から存在する最古龍エンシェントドラゴンで、最古龍エンシェントドラゴンといえば、『世界の管理者』というのが今まで読んできたラノベの中でも当たり前の存在だ。
『ちょっとだけ正解かな』
「なんで、ちょっとだけなの?」
『ん~でもこれって、言ってもいいのかな?』
「なんか禁則事項でもあるのか?」
 ミモネが何か言い淀むのが恒は気になって聞いてみる。
『ん~まあ、全部は言えないっていうのはあるかな』
「そうなんだ。それで、そのちょっとの理由は?」
『まあ、いっか。ダメなら一万と二回目になるだけだし』
「おい!」
 ミモネが身も蓋もないことを言ったのを聞き、恒も思わず突っ込んでしまう。
『まあ、いいじゃない。それで、そのちょっとってのがね。そのドリーに関係していることなの。結果を言ってしまえば、ドリーの討伐は失敗するの』
「じゃあ、世界の崩壊には繋がらないのか」
 それでも構わずにミモネが話すが、一万と二回目にならなかったので、禁則事項ではなかったらしい。だが、ドリーの討伐は失敗すると聞いて、少しだけ安心する恒だったが、ならば『ちょっと』がなんなのか気になる。
『だから、そこが『ちょっと』の部分なの。正確に言えば、討伐はされないけど致命傷を負ってしまうのね。それで、結果的にはどこか知らない場所で人知れずお亡くなりになるの』
「「「「「……」」」」」
『あれ? どうしたの? もう、雰囲気が暗いな~もっと、明るく楽しい会話は出来ないの?』
「「「「「出来るか~!!!」」」」」
『え~』
 ドリーの討伐は失敗するが、結果的には、その時に負った傷が原因でどこかでお亡くなりになるらしいと聞き、ドリーも恒達も意気消沈してしまう。
 だが、ふと恒は気になったことをミモネに聞いてみる。
「なあ、そもそもさ。俺達が召喚されなきゃドリーの討伐自体もないし、俺が世界の崩壊の原因にもならないんじゃないのか?」
『本当に今更だね』
 恒が本当に今更なことをミモネに確認すると、そう言い返されては何も言えなくなる。
『あのね、あんな女神でも一応は、ワタル達の異世界転移の前の時点まで戻して、異世界転移自体をなくそうとはしたのよ。でもね、出来なかったの』
「それって、あれか。ゲームでいうセーブポイントが、その時点より前がなくて、異世界転移が避けられない強制イベントっていうことか」
『その通り!』
 だから、あの女神は一万回も恒達の異世界転移を試行して、やっと辿り着いた僅かな可能性が『恒が死なないこと』だったのかと恒は納得してしまう。

「でもさ、ドリーが死ぬのはいいとして。なんで恒が死ぬと世界の崩壊に繋がるの?」
「おい! ワシが死ぬことを前提にするなよ」
「でも、死んじゃうのが運命ならしょうがないじゃない。それだけ長生きしたんだから、もう十分でしょ」
 由香がドリーは死ぬこととして、ミモネに話の続きを促すが、それにドリーが反発する。
「ぐぬぬ、この女は……ワタル、こういうのはやめておいた方がいいぞ。表面上は頷いておきながら、腹の中では逆のことを考えているに違いない」
「ちょっと、やめてよ! 恒、こんな駄龍の言うこと信じちゃダメだからね!」
「由香。いいから、今はミモネの話を聞かせてよ。ドリーも余り煽らないでね。例え、老い先短いとしても」
「ワタルまで、そんなことを……」
 恒にまで死ぬことを決定づけられてしまったドリーが項垂れてしまう。そして、そんなドリーに質問する。
「あのね、ドリー。死ぬかもしれないのは、ここにずっといた場合の話でしょ。それにアイツらはドリーが人化出来るのは知っているの?」
「あ! それもそうだな。ワシがここにいなければいい話か」
「そうでしょ。それで、ミモネ。もし、アイツらが討伐に来るとしてどれくらい先なの?」
『そうだね。隷属化しているとはいえ、他の生徒達のスキルの訓練とか戦闘訓練も必要だろうし、早くて半年。長くても一年ってとこじゃないかな』
「そっか、ありがとう。なら、その間にドリーはどうするか決めればいいんじゃない」
「うむ、そうだな。よし、分かった。ワタル、よろしくな」
「え? よろしくって……何を?」
「何をって、ワシもお前に着いていくってことだ。これから、世話になるぞ」
「「「「え~」」」」
「そんなに嫌がられるといくらワシでも傷つくぞ……」
 ドリーの『着いていく』という発言に恒達が嫌がるというか、驚いてしまう。
「えっとさ、ドリーは本気なの?」
「ああ、本気だ。ここにいたら死ぬってのが分かっているのにジッとしてなんかいられるか!」
「でも、いいの? ここってドリーが見張っているというか、縄張りというか、管轄みたいなもんじゃないの?」
「まあ、そういう役割があるのも確かだが、管轄という意味では北半球がそうだからな。だから、どこにいようと大して変わりはない。ふん! まあ、お前達がイヤでも着いていくぞ。なんだか面白そうだしな」
「分かったよ。この世界の先輩としてよろしく頼むよ」
「ふむ。了承と捉えていいんだな」
「分かったわよ。渋々だけどね」
「龍がパーティメンバーなんてね」
「でも、役に立つのか?」
 恒が不承不承ながらドリーを歓迎すると由香、久美、明良がそれぞれドリーに言葉を掛ける。
「小僧、ワシが役に立たんと思うのか?」
「いや、だって引きこもりの龍なんだろ? この世界の常識とか知っているのかさえ怪しいところじゃないか」
「小僧こそ、分かっとらんな」
「おっさん、俺は小僧じゃない。明良だ」
「そうか。ならアキラよ。ワシもドリーであっておっさんではない」
 明良がドリーに対し役に立つのかと自分のことは横に置いて、そんなことを言うもんだから、ドリーも明良に対し噛みついてしまう。
「そうか。そうだったよな。んで、ドリー。俺が分かっていないってのはどういうことだ?」
「あのな、ワシが引きこもりの龍なら、この服や武器なんかはどうやって用意したと考えているんだ」
「あ!」
「分かったか。ワシはこれでもヒトの世界では冒険者として活躍している」
『ねえ、それでワタルのことはもういいの?』
「そうだった。それで肝心の恒の関連性はどうなってるの?」
『うん、分からない』
「「「「「はぁ?」」」」」
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