上 下
5 / 53

第5話 まずはこの国から出る!

しおりを挟む
 恒は明良達を抱えたまま、自分達が軟禁されていた部屋の上空五十メートルまで転移した。
「うわぁ~ちょっと高すぎたかな、こりゃ」
「おい、恒。どうなってんだ? って、どこだよ、ここは!」
「きゃっ、床がない!」
「へ~以外と平気なもんだね」
 恒に抱えられたままの状態で明良、由香、久美がそれぞれの感想を言うと、恒が今の状況を説明する。
「ここはアノ場所から上空五十メートルの位置。『転移』だと行った場所しかダメだけど、距離指定ならイケるって話だったから、とりあえずここにしたんだけど、いつまでもここにいられないから、どこかに行かないとダメなんだけど、そうだな。まずはアソコに行こうか」
「「「アソコ?」」」
「そう、アソコ。ほら、アソコに高い山が見えるでしょ? アソコなら、ここの連中も追い掛けてくるのは時間が掛かると思うんだ。ってことで『転移』!」
「「「ひゃっ!」」」

 恒達が消えた場所ではあの偉そうに話していた男が回りにいた衛兵に問い掛ける。
「どういうことだ?」
「どういうことだと言われましても……衛兵がアイツらの腕を掴もうとした寸前に消えました。それしか分かりません」
「消えただと!」
「はい。確かに消えました。私達の目の前で」
 男の側にいた衛兵がそう答えると、男は腕を組み考え込む。
「司祭様、どうしましょうか?」
「消えたのは何人だ?」
「確か、四人です」
「四人か。四人なら、残りの連中でもイケるか」
「ええ、多分」
「なら、取り敢えず消えた連中は放置する。どうせ、何も知らないこの世界ではそう長くは保たないだろう。いずれ、ここへ泣きついてくるに違いない」
「はっ、分かりました」
 司祭と言われた男は消えた恒達のことは取り敢えず放置することに決め、残されたクラスメイトの元へと向かう。
「さてと。残された連中の中に有効なスキルを持つ者がいればいいがな」
「司祭様。これだけ残っているんですから。きっといますよ」
「そうだといいがな。もしいなかったら、消えた連中がそうかもしれないな」
「それはそうかもしれませんが、まずはこやつらのスキルを調べます」
「ああ、そうしてくれ」

 山頂に転移した恒達は、足が地面に着いたことでホッとする。
「寒っ! 地面に足が着いたのはいいけど、少し寒くないか」
「そうだよ。わ、恒。女の子は体を冷やしちゃダメなんだよ」
「ねえ、恒。あそこに洞窟があるよ。あそこなら少しは寒さも和らぐんじゃない?」
「「「洞窟?」」」
「そう、ほら! あそこにあるでしょ」
 そう言って、久美が指を差す方向には確かに洞窟があった。確かに洞窟でなら風をさけることも出来るだろうと恒達四人は洞窟を目指し歩く。

「なあ、明良。これって洞窟かな」
「どういう意味だ恒?」
「だってさ、これって入口の高さだけで五メートルはあるんじゃない。洞窟っていうよりはトンネルっぽいんだけど。それにこれだけ広いと寒さも凌げない気がするし。それにさ、なんだか生臭いんだよね」
「生臭い? そうか?」
「そうだよ、明良。それに山の中の洞窟ってさ、普通なら熊とかが住み着いているよね」
 明良に恒が質問し、由香がそれを引き継ぐ形で何が住み着いているのかもと考察する。そして、それに対し明良も頷く。
「そうだな」
「それにここは異世界でしょ。多分、魔物とかもいるよね」
「かもな」
「じゃあさ、これだけの大きさの入口で生臭いってなると、どんな魔物だと思う?」
「これだけの大きさだとゴブリンクラスじゃないよな」
「だよね。恒ならなんだと思う?」
 由香からの質問に恒が自分なりの考えを話す。
「そうだなオークには大きすぎるし、オーガにも大きいかな。それにオークもオーガも山頂じゃなくてもっと麓寄りだろうな。その辺も含めて、人が寄りつかない頂上付近に巣を構える魔物となると……」
「「「なると?」」」
ドラゴンだろうな」
「「「ドラゴン!」」」
『当ったり~!』
「え? そうなの?」
「恒? どうしたの?」
 ラノベの知識から引っ張ってきた恒が推測した一つの答えに対し、ミモネが肯定する。
「いや、まあそれはあとで話すけど。イヤな予感の方が当たったみたい」
「イヤな予感?」
「それって、まさか……」
「まさかなの?」
『誰じゃ! ワシの寝床で騒ぐのは?』
「「「「え?」」」」
 恒達が声のした方を振り向くと、洞窟の奥の方で何やら眼のような物が金色に輝く。そして、それと同時に生臭く温い風が恒達を覆う。
「「「「臭っ!」」」」
『なんじゃ、これでも身だしなみには気を付けている方なんじゃがな』
 そう言って、金色の眼がゆっくりと闇の中で動くと、のそりと恒達の方へと向かって来る。
「「恒、怖い!」」
 由香と久美が恒の背後へと隠れる。明良はその場に立ち尽くしたままだ。

 恒達の前に姿を現したのは、真っ黒な色をした龍だった。
 そして、恒達に向かって話しかける。
『ふむ、お前達はワシの声は聞こえるかな?』
「聞こえている」
『なら、まずは話そうじゃないか。ワシとて無闇矢鱈に暴力を振るう訳じゃない』
「分かりました。では、話します。俺達四人は……」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

処理中です...