3 / 53
第3話 される前に逃げないと
しおりを挟む
「長生君、起きて!」
「恒、起きろよ!」
肩を揺すられている感覚で目を覚ました恒が「ふぁ~」と欠伸をしながら体を起こすと、目の前には明良と『早川 由香』の二人が心配そうに恒を見ていた。
「どうしたの? 二人して?」
「どうしたのじゃないだろ! 恒がなかなか目を覚まさないから心配していたんだぞ」
「そうだよ。渡辺君も長生君がなかなか起きないから心配してたんだよ」
「あ~それは悪かった。謝るよ」
「起きたのなら、別にいい。それより、この状況がどういうことか分かるか?」
「あのね、渡辺君がね。長生君ならよくいろんな本を読んでいるから分かるんじゃないかって言うんだけどね。これってやっぱりアレ……だよね」
早川が言うようにこれは思いっ切りアレな展開だ。
そして恒からすれば、早川も図書室や教室の隅でラノベを読んでいたから、多分そうなんだろうと想像が付いているんだと思う。恒も早川にラノベは借りて読んでいたから、知っているというか予想は着く。だが、それは恒にとっての一番最初の異世界転移の話であって、今の恒にとっては一万と一回目の異世界転移で、しかもご丁寧に女神から、直接いろいろな話を聞かされているから、ここが異世界だということは確定済みだ。
とりあえず恒は早川の質問に対し答える。
「ああ、早川の予想通りだろうな。それで、明良達は神様に会えたの?」
「は?」
「どうしたの、長生君? 現実とラノベの世界は違う話だよ?」
恒の「神様に会ったのか」という質問に明良も早川も恒の正気を疑うような返事だ。
「え? 会ってないの?」
「恒、大丈夫か? もし、本気で言っているのなら、ここだけにしておいた方がいいぞ」
「そうだよ。長生君。いくら慣れない異世界転移だからって、あまり変なことは言わない方がいいよ」
「あ、ああ。分かった」
二人の返事に恒はどういうことだと首を傾げるしかない。それならば、あの白い部屋に行ったのは自分だけなのかと。
『そうですよ』
「うわ!」
「今度はなんだ?」
「どうしたの?」
「お前達には聞こえなかったのか?」
「どうした恒。本当に変だぞ」
「そうよ、まだ寝ていた方がいいんじゃないの。膝枕ならしてあげるわよ」
「いや、大丈夫だから」
さっき声が聞こえたのはどうやら自分だけらしいと恒が不思議に思っていると、またどこからから声が聞こえてくる。
『ごめんね~驚いちゃったよね!』
恒が声のする方に顔を向けると、そこには十センチメートルくらいの大きさでティンカー・ベルの様な感じの何かがいた。
『あ! 分かった。僕の名前はミモネ。イスカ様に言われてワタルの異世界生活が快適になるようにってサポートを頼まれたんだ』
恒はミモネと名乗った、その生物を掴もうと手を伸ばすと、明良から声を掛けられる。
「今度はなんだ? 何をしようとしているんだ?」
「明良には見えてない?」
「見えない? 俺には片手を伸ばした間抜けな感じの恒しか見えないけど?」
『そうだよ。僕は精霊の一種で、ワタルにしか見えないし、触ることも出来ないよ』
「じゃあ、この声も?」
「はぁ? まだ言ってんのか?」
『僕の声はね。いわゆる『念話』でワタルの頭の中に直接話しかけているから他の子には聞こえないよ』
『他の奴には聞こえないんだな』
『そだよ。分からないことはなんでも聞いてね』
『これから、俺達はあの鑑定装置に一人一人掛けられるんだよな?』
『うん。そだよ』
『じゃあ、あの鑑定装置に掛けられたら、俺の一万と二回目の異世界転移が決まってしまうんじゃないのか?』
『そだね~かなりの高確率でそうなるね』
『冗談じゃない! あ~もう少しスキルを見えるようにしといた方がよかったのかな~』
『じゃあ、逃げればいいじゃん!』
女神に『鑑定』以外のスキルを不可視にしてもらったことを後悔し始めた恒にミモネが提案をする。
『逃げる?』
『そう。ワタルはいろんなスキルを持っているんだから、それを使えば、ここから逃げるのなんて簡単だよ』
『でも、逃げてもさ。その先はどうするの?』
『さあ? でも、逃げないと高確率で一万と二回目の異世界転移だよ』
『それはイヤだな』
そう呟き頭を抱えて蹲る恒に明良と早川が声を掛ける。
「恒、本当に大丈夫か?」
「なんなら、保健室に……って、ないもんね。それなら、あの衛兵っぽい人に頼むしかないのかな」
早川の発言に恒は「逃げなきゃ」と勢いよく立ち上がると、遠くから恒達に対して声が掛けられる。
「異世界から来られた召喚者達よ! 今から測定を行うのでこちらへ集まって欲しい!」
「え? 何?」
「集まれだって」
「何かくれるのかな?」
その声に反応する様に散らばっていたクラスメイト達が、声のする方へと集まっていく。
「何か呼んでいるみたいね。私達も行きましょうか」
「そうだな。恒、行くぞ」
明良が恒の手を引き、他の連中が集まっている場所へと行こうとするが、恒はその場に留まろうと抵抗する。
「どうした恒? 呼ばれているんだぞ」
「行っちゃダメだ」
「どうしたの、長生君」
「行ったら、戦争に駆り出させられるぞ」
「何言ってんだ恒。俺達はまだ高校生だぞ。そんな未成年の俺達に何をさせるって?」
「『人殺し』だよ」
「「え?」」
「恒、お前本当におかしいぞ」
「そうだよ長生君」
恒の言葉に少しも耳を貸そうともしない明良と早川の二人の様子に恒は少しだけ違和感を感じる。
明良はいいとしてもあれだけ異世界転移系のラノベを読み漁っていた早川までが、なんの疑いもしないのはおかしいと恒は感じていた。
『ワタル。ちょっと鑑定してみなよ』
「分かったよ。『鑑定』……うわぁ『汚染』されているじゃん」
ミモネに言われ、恒が明良と早川を鑑定すると状態欄に『汚染』と記載されていた。すなわち二人とも軽く精神汚染されている状態である。
『多分、さっきの呼びかけた音声の影響だろうね。とりあえず二人を治療してあげなよ』
『それは分かるけど、何すればいいんだ?』
『『汚染』は闇魔法だから、聖魔法の『ヒール』か『リフレッシュ』で解除出来ると思うよ』
『分かった。やってみる』
ミモネの提案にのり、恒は明良と早川の手を取ると『ヒール』を実行する。
「恒、起きろよ!」
肩を揺すられている感覚で目を覚ました恒が「ふぁ~」と欠伸をしながら体を起こすと、目の前には明良と『早川 由香』の二人が心配そうに恒を見ていた。
「どうしたの? 二人して?」
「どうしたのじゃないだろ! 恒がなかなか目を覚まさないから心配していたんだぞ」
「そうだよ。渡辺君も長生君がなかなか起きないから心配してたんだよ」
「あ~それは悪かった。謝るよ」
「起きたのなら、別にいい。それより、この状況がどういうことか分かるか?」
「あのね、渡辺君がね。長生君ならよくいろんな本を読んでいるから分かるんじゃないかって言うんだけどね。これってやっぱりアレ……だよね」
早川が言うようにこれは思いっ切りアレな展開だ。
そして恒からすれば、早川も図書室や教室の隅でラノベを読んでいたから、多分そうなんだろうと想像が付いているんだと思う。恒も早川にラノベは借りて読んでいたから、知っているというか予想は着く。だが、それは恒にとっての一番最初の異世界転移の話であって、今の恒にとっては一万と一回目の異世界転移で、しかもご丁寧に女神から、直接いろいろな話を聞かされているから、ここが異世界だということは確定済みだ。
とりあえず恒は早川の質問に対し答える。
「ああ、早川の予想通りだろうな。それで、明良達は神様に会えたの?」
「は?」
「どうしたの、長生君? 現実とラノベの世界は違う話だよ?」
恒の「神様に会ったのか」という質問に明良も早川も恒の正気を疑うような返事だ。
「え? 会ってないの?」
「恒、大丈夫か? もし、本気で言っているのなら、ここだけにしておいた方がいいぞ」
「そうだよ。長生君。いくら慣れない異世界転移だからって、あまり変なことは言わない方がいいよ」
「あ、ああ。分かった」
二人の返事に恒はどういうことだと首を傾げるしかない。それならば、あの白い部屋に行ったのは自分だけなのかと。
『そうですよ』
「うわ!」
「今度はなんだ?」
「どうしたの?」
「お前達には聞こえなかったのか?」
「どうした恒。本当に変だぞ」
「そうよ、まだ寝ていた方がいいんじゃないの。膝枕ならしてあげるわよ」
「いや、大丈夫だから」
さっき声が聞こえたのはどうやら自分だけらしいと恒が不思議に思っていると、またどこからから声が聞こえてくる。
『ごめんね~驚いちゃったよね!』
恒が声のする方に顔を向けると、そこには十センチメートルくらいの大きさでティンカー・ベルの様な感じの何かがいた。
『あ! 分かった。僕の名前はミモネ。イスカ様に言われてワタルの異世界生活が快適になるようにってサポートを頼まれたんだ』
恒はミモネと名乗った、その生物を掴もうと手を伸ばすと、明良から声を掛けられる。
「今度はなんだ? 何をしようとしているんだ?」
「明良には見えてない?」
「見えない? 俺には片手を伸ばした間抜けな感じの恒しか見えないけど?」
『そうだよ。僕は精霊の一種で、ワタルにしか見えないし、触ることも出来ないよ』
「じゃあ、この声も?」
「はぁ? まだ言ってんのか?」
『僕の声はね。いわゆる『念話』でワタルの頭の中に直接話しかけているから他の子には聞こえないよ』
『他の奴には聞こえないんだな』
『そだよ。分からないことはなんでも聞いてね』
『これから、俺達はあの鑑定装置に一人一人掛けられるんだよな?』
『うん。そだよ』
『じゃあ、あの鑑定装置に掛けられたら、俺の一万と二回目の異世界転移が決まってしまうんじゃないのか?』
『そだね~かなりの高確率でそうなるね』
『冗談じゃない! あ~もう少しスキルを見えるようにしといた方がよかったのかな~』
『じゃあ、逃げればいいじゃん!』
女神に『鑑定』以外のスキルを不可視にしてもらったことを後悔し始めた恒にミモネが提案をする。
『逃げる?』
『そう。ワタルはいろんなスキルを持っているんだから、それを使えば、ここから逃げるのなんて簡単だよ』
『でも、逃げてもさ。その先はどうするの?』
『さあ? でも、逃げないと高確率で一万と二回目の異世界転移だよ』
『それはイヤだな』
そう呟き頭を抱えて蹲る恒に明良と早川が声を掛ける。
「恒、本当に大丈夫か?」
「なんなら、保健室に……って、ないもんね。それなら、あの衛兵っぽい人に頼むしかないのかな」
早川の発言に恒は「逃げなきゃ」と勢いよく立ち上がると、遠くから恒達に対して声が掛けられる。
「異世界から来られた召喚者達よ! 今から測定を行うのでこちらへ集まって欲しい!」
「え? 何?」
「集まれだって」
「何かくれるのかな?」
その声に反応する様に散らばっていたクラスメイト達が、声のする方へと集まっていく。
「何か呼んでいるみたいね。私達も行きましょうか」
「そうだな。恒、行くぞ」
明良が恒の手を引き、他の連中が集まっている場所へと行こうとするが、恒はその場に留まろうと抵抗する。
「どうした恒? 呼ばれているんだぞ」
「行っちゃダメだ」
「どうしたの、長生君」
「行ったら、戦争に駆り出させられるぞ」
「何言ってんだ恒。俺達はまだ高校生だぞ。そんな未成年の俺達に何をさせるって?」
「『人殺し』だよ」
「「え?」」
「恒、お前本当におかしいぞ」
「そうだよ長生君」
恒の言葉に少しも耳を貸そうともしない明良と早川の二人の様子に恒は少しだけ違和感を感じる。
明良はいいとしてもあれだけ異世界転移系のラノベを読み漁っていた早川までが、なんの疑いもしないのはおかしいと恒は感じていた。
『ワタル。ちょっと鑑定してみなよ』
「分かったよ。『鑑定』……うわぁ『汚染』されているじゃん」
ミモネに言われ、恒が明良と早川を鑑定すると状態欄に『汚染』と記載されていた。すなわち二人とも軽く精神汚染されている状態である。
『多分、さっきの呼びかけた音声の影響だろうね。とりあえず二人を治療してあげなよ』
『それは分かるけど、何すればいいんだ?』
『『汚染』は闇魔法だから、聖魔法の『ヒール』か『リフレッシュ』で解除出来ると思うよ』
『分かった。やってみる』
ミモネの提案にのり、恒は明良と早川の手を取ると『ヒール』を実行する。
0
お気に入りに追加
143
あなたにおすすめの小説
伯爵令嬢の秘密の知識
シマセイ
ファンタジー
16歳の女子高生 佐藤美咲は、神のミスで交通事故に巻き込まれて死んでしまう。異世界のグランディア王国ルナリス伯爵家のミアとして転生し、前世の記憶と知識チートを授かる。魔法と魔道具を秘密裏に研究しつつ、科学と魔法を融合させた夢を追い、小さな一歩を踏み出す。

異世界転生漫遊記
しょう
ファンタジー
ブラック企業で働いていた主人公は
体を壊し亡くなってしまった。
それを哀れんだ神の手によって
主人公は異世界に転生することに
前世の失敗を繰り返さないように
今度は自由に楽しく生きていこうと
決める
主人公が転生した世界は
魔物が闊歩する世界!
それを知った主人公は幼い頃から
努力し続け、剣と魔法を習得する!
初めての作品です!
よろしくお願いします!
感想よろしくお願いします!
役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !
本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。
主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。
その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。
そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。
主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。
ハーレム要素はしばらくありません。
少し冷めた村人少年の冒険記 2
mizuno sei
ファンタジー
地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。
不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。
旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

クラス召喚に巻き込まれてしまいました…… ~隣のクラスがクラス召喚されたけど俺は別のクラスなのでお呼びじゃないみたいです~
はなとすず
ファンタジー
俺は佐藤 響(さとう ひびき)だ。今年、高校一年になって高校生活を楽しんでいる。
俺が通う高校はクラスが4クラスある。俺はその中で2組だ。高校には仲のいい友達もいないしもしかしたらこのままボッチかもしれない……コミュニケーション能力ゼロだからな。
ある日の昼休み……高校で事は起こった。
俺はたまたま、隣のクラス…1組に行くと突然教室の床に白く光る模様が現れ、その場にいた1組の生徒とたまたま教室にいた俺は異世界に召喚されてしまった。
しかも、召喚した人のは1組だけで違うクラスの俺はお呼びじゃないらしい。だから俺は、一人で異世界を旅することにした。
……この物語は一人旅を楽しむ俺の物語……のはずなんだけどなぁ……色々、トラブルに巻き込まれながら俺は異世界生活を謳歌します!
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

転生した体のスペックがチート
モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。
目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい
このサイトでは10話まで投稿しています。
続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!
みんなで転生〜チートな従魔と普通の私でほのぼの異世界生活〜
ノデミチ
ファンタジー
西門 愛衣楽、19歳。花の短大生。
年明けの誕生日も近いのに、未だ就活中。
そんな彼女の癒しは3匹のペット達。
シベリアンハスキーのコロ。
カナリアのカナ。
キバラガメのキィ。
犬と小鳥は、元は父のペットだったけど、母が出て行ってから父は変わってしまった…。
ペットの世話もせず、それどころか働く意欲も失い酒に溺れて…。
挙句に無理心中しようとして家に火を付けて焼け死んで。
アイラもペット達も焼け死んでしまう。
それを不憫に思った異世界の神が、自らの世界へ招き入れる。せっかくだからとペット達も一緒に。
何故かペット達がチートな力を持って…。
アイラは只の幼女になって…。
そんな彼女達のほのぼの異世界生活。
テイマー物 第3弾。
カクヨムでも公開中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる