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第五章 追求
第一話 動機
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左手で首筋を押さえたままの状態で千原管理官が焦った様子で山本に反抗する。
「何を言っているのか。私には分からない。話がないのなら、私はこれで帰らせてもらうから」
「まだ、話は終わっていないですよ」
千原管理官が会議室から出ようとしたところを坂本警部が先回りしてドアを背後にした状態で、千原管理官に席に戻るように促す。
「私には関係のない話だろ」
「関係ないですか。首筋を抑えたまま、訴えられてもね~」
「……なんだよ。そんなの関係ないだろ!」
「まあ、いいですよ。左手が疲れたらいつでも下ろして下さい。別に今、ここで改めようとは思いませんから」
「あ? それはどういうことだ?」
「それはですね……坂本警部、お願いします」
「はい。分かりました」
席に戻った坂本が山本の指示に従いパソコンを操作すると、プロジェクターから新しい映像が投影される。そこには宮下弁護士殺害事件の本部が置かれている警察署から出て来る千原管理官が出て来るところだった。
「これは……」
「これは宮下弁護士殺害の本部が置かれている所轄署から出て来るところを撮影したものです」
「私は知らない。なんでこんなものが……」
「まあ、それはいいとして……見て欲しいのはここなんですよ。いいですか? よく見て下さいね」
そう山本が言うと坂本が映像を進め、千原管理官の首筋がよく見える位置で映像を一時停止する。
「ココです。見えますか?」
「……」
「ほう、これはまた……」
山本の問い掛けに千原管理官は無言だが、捜査一課主任は感嘆の声を上げる。
「管理官、ここまでハッキリ映っているのなら、状況証拠としては十分です。何か反論はありますか?」
「……動機。そうだよ! 私が殺したと言うのなら、その動機はなんなんだ!」
「……」
「ほら、見ろ! そんなのはないだろ。ふん! いいか。もうこんな茶番は終わりだ。帰らせてもらうぞ」
「まだ、話は終わっていませんよ」
千原管理官は再び席を立とうとするが、山本に言われ渋々と席に座り直す。
「まあ、確かに状況証拠としては十分だが。管理官の言うように動機がないと公判維持は難しいかもな」
「まあ、まだ終わっていませんから。ですよね、坂本警部」
「ええ。これを見て下さい」
捜査一課主任が千原管理官の言うように動機がないと公判維持が難しいと言い出した。でも、山本と坂本はそんなことは心配する必要がないとでも言うように次の映像をプロジェクターで投影する。
投影されたのは十年前のある女性の刺殺記事だった。千原管理官は一瞬、表情を歪めるがすぐに持ち直したようで山本に対し、「それがなんだ」と強気な発言をする。
「覚えていませんか? 私は現場近くの派出所勤務で加えて初めての殺人事件だったのでよく覚えているんですよ。管理官もこの頃はまだ学生だったのではないでしょうか」
「ま、まあそうだな。で、これがなんだと言うんだ」
山本の言葉にも千原管理官は何も響く様子はなく面白く無さそうにだからどうしたと言う。
「実はですね。この殺害された女性の隣に住んでいた当時少年だった方と連絡が着きました。で、ですね。当時のことを聞いたところですね、この被害者女性の部屋に足繁く通っていた男性とよく廊下ですれ違っていたと言うんですね」
「……」
「それで、何か特徴を覚えていないかと聞いてみたんですが、その方も当時は小学生ですし、相手の男もどこにでもいるような風体で特徴的なことは何も覚えていないという回答しか得られませんでした」
「そうか。まあ、十年前の小学生ならしょうがないか」
「俺もそう思ったんですよね。でも、さっきの映像をニュースで偶然見たらしく間違いなくこの男だということで連絡を受けたんですよ。あの首筋の痣は間違いない……とね」
山本の言葉に千原管理官は左手にグッと力を込め、坂本警部と捜査一課主任は千原管理官を一瞥する。
「それのどこが動機になるって言うんだ! いい加減にしろ!」
「まだ、話が終わっていないので、落ち着いて下さいね」
千原管理官は自分の立場が悪くなっていることに気付き、この場をなんとかしようと大声で反論するが、山本に軽く流される。
「実際にはこの被害女性を殺害したとして、全く無関係としか思えない中年男性が部屋の中で血塗れの凶器を握っていたという状況証拠のみで、その場で逮捕され背景となる動機なども捜査されることなく結審まで持って行かれました」
「……」
「その件は俺も覚えている。確かに異様な早さで事件が解決したのは覚えている。でも、それがなんで千原管理官の動機付けになるんだ?」
「それはですね……」
捜査一課主任が山本の説明に対し、それでもどこで千原管理官が田中弁護士に宮下弁護士まで殺害する動機に繋がるのかと不審がる。
「まず、田中弁護士ですが……この事件の被疑者として逮捕されました小林容疑者の国選弁護士でした。そして、宮下弁護士はこの案件の検察官でした」
「担当弁護士に担当検事……そういうことか。だが、それだけで、殺害まで持って行くには不十分だな」
そう言って、捜査一課主任は山本を一瞥する。
「何を言っているのか。私には分からない。話がないのなら、私はこれで帰らせてもらうから」
「まだ、話は終わっていないですよ」
千原管理官が会議室から出ようとしたところを坂本警部が先回りしてドアを背後にした状態で、千原管理官に席に戻るように促す。
「私には関係のない話だろ」
「関係ないですか。首筋を抑えたまま、訴えられてもね~」
「……なんだよ。そんなの関係ないだろ!」
「まあ、いいですよ。左手が疲れたらいつでも下ろして下さい。別に今、ここで改めようとは思いませんから」
「あ? それはどういうことだ?」
「それはですね……坂本警部、お願いします」
「はい。分かりました」
席に戻った坂本が山本の指示に従いパソコンを操作すると、プロジェクターから新しい映像が投影される。そこには宮下弁護士殺害事件の本部が置かれている警察署から出て来る千原管理官が出て来るところだった。
「これは……」
「これは宮下弁護士殺害の本部が置かれている所轄署から出て来るところを撮影したものです」
「私は知らない。なんでこんなものが……」
「まあ、それはいいとして……見て欲しいのはここなんですよ。いいですか? よく見て下さいね」
そう山本が言うと坂本が映像を進め、千原管理官の首筋がよく見える位置で映像を一時停止する。
「ココです。見えますか?」
「……」
「ほう、これはまた……」
山本の問い掛けに千原管理官は無言だが、捜査一課主任は感嘆の声を上げる。
「管理官、ここまでハッキリ映っているのなら、状況証拠としては十分です。何か反論はありますか?」
「……動機。そうだよ! 私が殺したと言うのなら、その動機はなんなんだ!」
「……」
「ほら、見ろ! そんなのはないだろ。ふん! いいか。もうこんな茶番は終わりだ。帰らせてもらうぞ」
「まだ、話は終わっていませんよ」
千原管理官は再び席を立とうとするが、山本に言われ渋々と席に座り直す。
「まあ、確かに状況証拠としては十分だが。管理官の言うように動機がないと公判維持は難しいかもな」
「まあ、まだ終わっていませんから。ですよね、坂本警部」
「ええ。これを見て下さい」
捜査一課主任が千原管理官の言うように動機がないと公判維持が難しいと言い出した。でも、山本と坂本はそんなことは心配する必要がないとでも言うように次の映像をプロジェクターで投影する。
投影されたのは十年前のある女性の刺殺記事だった。千原管理官は一瞬、表情を歪めるがすぐに持ち直したようで山本に対し、「それがなんだ」と強気な発言をする。
「覚えていませんか? 私は現場近くの派出所勤務で加えて初めての殺人事件だったのでよく覚えているんですよ。管理官もこの頃はまだ学生だったのではないでしょうか」
「ま、まあそうだな。で、これがなんだと言うんだ」
山本の言葉にも千原管理官は何も響く様子はなく面白く無さそうにだからどうしたと言う。
「実はですね。この殺害された女性の隣に住んでいた当時少年だった方と連絡が着きました。で、ですね。当時のことを聞いたところですね、この被害者女性の部屋に足繁く通っていた男性とよく廊下ですれ違っていたと言うんですね」
「……」
「それで、何か特徴を覚えていないかと聞いてみたんですが、その方も当時は小学生ですし、相手の男もどこにでもいるような風体で特徴的なことは何も覚えていないという回答しか得られませんでした」
「そうか。まあ、十年前の小学生ならしょうがないか」
「俺もそう思ったんですよね。でも、さっきの映像をニュースで偶然見たらしく間違いなくこの男だということで連絡を受けたんですよ。あの首筋の痣は間違いない……とね」
山本の言葉に千原管理官は左手にグッと力を込め、坂本警部と捜査一課主任は千原管理官を一瞥する。
「それのどこが動機になるって言うんだ! いい加減にしろ!」
「まだ、話が終わっていないので、落ち着いて下さいね」
千原管理官は自分の立場が悪くなっていることに気付き、この場をなんとかしようと大声で反論するが、山本に軽く流される。
「実際にはこの被害女性を殺害したとして、全く無関係としか思えない中年男性が部屋の中で血塗れの凶器を握っていたという状況証拠のみで、その場で逮捕され背景となる動機なども捜査されることなく結審まで持って行かれました」
「……」
「その件は俺も覚えている。確かに異様な早さで事件が解決したのは覚えている。でも、それがなんで千原管理官の動機付けになるんだ?」
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捜査一課主任が山本の説明に対し、それでもどこで千原管理官が田中弁護士に宮下弁護士まで殺害する動機に繋がるのかと不審がる。
「まず、田中弁護士ですが……この事件の被疑者として逮捕されました小林容疑者の国選弁護士でした。そして、宮下弁護士はこの案件の検察官でした」
「担当弁護士に担当検事……そういうことか。だが、それだけで、殺害まで持って行くには不十分だな」
そう言って、捜査一課主任は山本を一瞥する。
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