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第二章 ようこそ、獣王国へ

第十話 そうです。私が国王です。

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朝になり、皆で朝食を取った後にパパに他の三人を呼び出しを頼んだ想太は家の前でパパを待つ。
「あ! 今の内に変身しとこ『変身ブラック』」
「出たな! 悪者!」
「え? 俺?」
想太は変身し、手を握ったり開いたりとグーパーと感触を確かめていると、子供達の声がしたと思ったら、十人近くの子供達に囲まれる。
「悪者って……俺のことなの?」
「そうだ! 俺から盗んだソレを返せ!」
「「「そうだ! 返すんだ!」」」
ロロが一歩前に出ると、想太……いや『ケモフスキーブラック』にビシッと指を差してから、そう叫ぶ。
「返せって言われてもなぁ」
「そこまでよ! ロロ!」
想太がどうやって切り抜けようかと思っていると後方から声がするので家の方を振り向いたブラックが見たのは、『ピンク』の特撮ヒーロースーツを着た三人組が家の屋根の上に立っている姿だった。
「これ以上、あなたの悪行は許しません! 『ケモフスキーピンク』」
「ロロ! 欲しいからって強奪はダメなのよ! 『ケモフスキーピンク』プリティバージョン!」
「え~と、ロロ。わがままはダメなのよ。『ケモフスキーピンク』アダルトバージョン!」
三人は口上を終えると小声で『せ~の!』でタイミングを合わせると「とぅ!」とジャンプして、ブラックとロロの間に降り立つ。
「「「成敗!」」」
三人のピンクが声を揃えてロロ達に向かう。
「え……アサカお姉さんに姉ちゃん、それにお母さんだよね?」
「な、何を言っているんだい少年よ。私は『ケモフスキーピンク』だ!」
「でも、姉ちゃんでしょ?」
「ち、違う! わ、私は『ケモフスキーピンク』プリティだ……です!」
「そして、お母さん」
「そうよ、ロロちゃん。よく分かったわね。でもね、今の私は『ケモフスキーピンク』アダルトバージョンなのよ」
想太……いやブラックは朝香とママさんの体型にピッタリとしたスーツに目が釘付けになる。そして、それに気付いたプリティが自分のよく見えるつま先を見て胸に両手を当てるとひっそりと呟く。。
「ふん! 私だって!」
「姉ちゃん……ズルい! お母さんまで!」
泣きそうな顔になりながら、ロロが訴える。
「ソウタ兄ちゃん、俺もアレが欲しい! 作って!」
「え? アレって……『ピンク』が欲しいの?」
「違~う! なんでだよ! 男なら『リーダー』としての『レッド』でしょ!」
「え~ロロが赤はおかしいよ。赤は俺だね」
「いやいや、ここは名将と言われる俺こそ相応しい」
「「誰が!」」

口喧嘩を始めたロロ達に置いてけぼりをくらった朝香に近付き、コソッと聞いてみる。
「ねえ、これってどういうことなの? 朝香は分かるけど、ママさんまで着せてさ。まあ、お陰でいい目の保養にはなったけど」
「あ~想太、そんなこと言うんだ。でも、目の保養になったのはママさんだけなの?」
その胸部装甲を想太に見せつけるように言う朝香に想太は一言「ごちそうさまでした」と言うと朝香が急に恥ずかしそうに悶える。
「そんなこと……正直に言わないでよ! 恥ずかしいでしょ!」
「聞いてきたクセに……」
「そうだけど。ああ、もう! そういうところが想太なのよね」
朝香はそう言って、スーツを解除する。
「ねえ、でもさ。リリ達に着せたのは大丈夫なんだよね? 危険はないよね?」
「もちろんよ。これは一回限りの物だからね。私のベルトをコピーして作ったのよ。でも、安全の為にレーザー銃は上げなかったわ」
「分かった。でもさ、そろそろママさんを解除してあげない?」
「ん? どうして……って、ああ! もう、おじさん達が群がってる! ごめん、想太も手伝って!」
「分かったよ」
ママに群がっているおじさん達を引き離すと朝香がママのスーツを解除する。
すると、その途端に周りのおじさん達から「あ~あ」と落胆する声が聞こえてきた。
「ほらほら、おじさん達は散って散って! 奥さんに言い付けるからね!」
朝香の一言が効いたのかおじさん達が三々五々に散っていく。

「何があったんだ? ん? ママもいたのか」
「パパ……あのね……」
「お父さん、お母さん凄かったんだよ!」
「ん? お前はリリなのか?」
「そうだよ。どう? 可愛いでしょ?」
「お姉ちゃんだけ、ズルい! お父さん、俺も欲しい! ねえ!」
少し顔が赤らんでいるママ、フルフェイスマスクのせいでリリの様子は分からないが、体全体で喜びを表現しているので問題はないようだが、そのせいでロロが泣きそうな顔をしてパパに訴えている。そして、遅れてきた為に何があったのかを話せと目で想太に訴えるパパ。

「とりあえず、先にイヤなことを済ませちゃおうよ」
「これを放っておくのか?」
「ああ、朝香がいるから大丈夫。それより早く行こうよ」
「分かったよ。お前達も準備はいいか?」
「「ああ」」
パパが連れて来たおじさん二人も頷く。
「それで、あのパティってのは?」
「ああ、アイツならあそこだ。コソコソしてたから、何も出来ないように両手足を縛って転がしている。ほら、アソコだ」
パパが指を差した方向を見るとイモムシの様に転がされ、猿轡までされたパティが想太のことを思いっ切り睨んでいる。
「俺が悪者になっているじゃんか……」
少しだけ想太が凹んでいるとアツシから報告される。
『ソウタ、獣王国の王様の場所は掴めました。いつでも転移出来ます』
「分かった。パパさん、それとおじさん達は俺の周りに集まって」
「「「おう」」」
おじさん達が想太を囲むように立つと、想太は自分の体を掴むように言う。
「肩でも腕でもいいから、掴んでて」
「「「分かった。掴んだぞ」」」
「じゃ、行くね。『転移』」
「「「うわっ!」」」

一瞬の浮遊感を味わった後に、どこかに降り立つが「臭っ!」とパパ達が騒ぎ出す。
想太はマスクのお陰で異臭は防げているし、周囲の暗さも苦にはならないが、パパ達は足下も見えない中、鼻を抑えても防ぐことが出来ない異臭に鼻がもげそうになる。
「ねえ、王様の場所に転移したハズなんだけどさ。どう見てもここは牢屋……だよね」
「牢屋だと……」
「誰だ! さっきからギャアギャアと騒々しい!」
「「「「え?」」」」
想太が声のした方向を見ると鎖に繋がれた老人がいた。
「えっと、誰?」
「ふん! 近頃の若いもんは礼儀も知らないようだな。例え今は鎖に繋がれている身とはいえ、この獣王国『ガルディア国』の王だぞ。ふん!」
「え? 王様なの?」
想太が繋がれている人物と話していると、パパに腕を引っ張られる。
「なあ、俺達にも分かる様にしてくれ」
「あ、ちょっと待ってね。『ライト』」
「「「「うわっ」」」」
想太の魔法で視界を得ることが出来たパパ達が見たのは、壁から伸びる鎖に両手足を繋がれていた痩せ細った獅子の老人だった。
「ついでに臭いもどうにか出来ないか」
「分かったよ。『クリーン』 これで少しはマシになったんじゃない?」
言いたかないけど王様(仮)の回りには、その人の排泄物で汚れていたから異臭は相当な物だったんだろうなと想太はイヤな想像をする。そして、靴底を見て踏んでないことを確認してホッとする。
「うむ、ワシも久々にスッキリしたな。礼を言う」
「礼はいいけど、本当に王様なの?」
「ああ、そうだ。正確には王様だな」
「ふ~ん、そうなんだ。でも、ここで話をするにはちょっとイヤだね。じゃあ、このおじいちゃんを連れて帰ろうか。話はそこでしようよ」
想太の提案にパパ達と王様(仮)の目が点になる。そして、その言葉の意味を理解すると慌て始める。
「お前、本気か?」
「よく考えてから物を言うんだ」
「最悪、国にケンカを売ることになるぞ」
「ほう、ワシを連れ出すと言うか。面白い」
パパ達は冗談じゃないと騒ぐが、アツシが『王様のいる場所』として、ここに転移したんだからと想太はここにいる王様(仮)が本物で、上にいるのが『(仮)』だと認識していた。
「でも、どっちみちこれだけ騒いだんだから、その内見回りが来ると思うよ。その時にこのお爺さんが、このままだったら、厳しく尋問されて死んじゃうかもね」
想太が王様(仮)を一瞥すると、老人も意図を汲み取ったのかパパ達に訴える。
「そうじゃ、ワシみたいな年寄りはすぐにコロッと逝っちまうぞ」
「じゃ、まずは鎖を外そうか」
「ん? 貴様みたいな小僧に出来るのか? この鎖は特別製で触れた奴の力を吸い取るからな。普通に持つことも出来ん。だから、外すことは出来んよ。かといって、魔法で切断したり破壊しようとしても魔力も吸い取られる為、結局は何も出来ないんじゃ。連れ出してくれると聞いた時は嬉しかったが、コレばっかりはどうしようもならん。束の間の楽しい夢じゃったと思うことにするよ。決してお前らを恨むこともないから。さっさとここから出るがいい」
『ガチャン』
「はい、外れたよ。じゃあ、行こうかおじいちゃん」
「おう、外れたか。じゃ、行こうかの……って、ええ! なんでじゃ! なんで鎖が外れているんじゃ!」
「もう、急に大声出さないでよ! 外れたんだからいいじゃないの。あ、でも、この鎖は面白いから貰っておこうっと」
想太は珍しいオモチャを見付けたように鎖に触れると異空間収納へと格納する。
「じゃあ、これで忘れ物はないよね?」
「「「「……」」」」
「じゃあ、行くよ。捕まっててね『転移』!」

想太達が転移した後、地下牢に守衛が下りてくる。
「なんか騒がしかったけど、またあのじいさんがなにかしているのか?」
「まさか! だって、あの鎖に繋がれていたら、暴れようにも力が出せないんだぜ。きっと他の囚人だろ?」
「他の囚人って、この地下牢にはあの自称王様のじいさんだけじゃねえかよ」
「それもそうだな、ぎゃははは」
地下牢への階段を下りきると、守衛の一人が異変に気付く。
「おい! おかしい……」
「何がだ?」
「いつもより臭くない」
「どれ?」
もう一人の守衛が鼻をヒクヒクさせて周囲の臭いを確かめる。
「本当だ。確かに臭わないな。誰か掃除でもしたのか」
「いや、俺達以外にここまで下りてくるのはいないはずだ」
「「ってことは……」」
事態を察した二人は独房へと急ぐが、そこにはじいさんの姿はない。もちろん死体としてのじいさんも見当たらない。
「「大変だ!」」
守衛は急いで報告するべく上司である守備隊の隊長の下へと急ぐ。
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