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第二章 ようこそ、獣王国へ

第五話 せっかく間に合ったのに

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「じゃ、いくね」
「「「うん」」」
想太が両手を下に向けた後に腰に手を当てると特撮ヒーローに欠かせない変身ベルトが腰に巻かれる。そして想太がベルトに手を掛け特撮ヒーローの様な構えを取ると、腕を回し「変身チェンジブラック!」の掛け声とともにベルトのボタンを押すと想太の体が一瞬光った後、そこには頭からつま先までの全身を黒色の謎素材に包まれた想太? がいた。
「えっと、想太でいいんだよね?」
「ソウタ兄ちゃんなの?」
「お顔が見えない……」
「あ、ごめんね」
想太が被っていたヘルメットを脱ぎ、ロロに顔を見せる。
「格好いい! ねえ、僕も欲しい! ねえ、ちょうだい!」
「ロロ! 止めなさい。ソウタ兄ちゃんは今からお父さん達を助けに行くのよ」
「あ、そうだった。じゃあ、終わったらちょうだい!」
「ロロ!」
「ごめんなさい……」
想太の変身した姿を見て興奮していたロロが少し収まった所で朝香が話しかける。
「想太……それが作れるのなら私が作る必要はなかったんじゃないの?」
「いや、それは……」
確かに朝香の言うようにこの特撮ヒーロースーツがあれば、朝香に作ってもらわなくてもよかったんだけど『でも……』と想太も反論する。
「元は朝香が特撮ヒーローの様に衣装チェンジが出来ればいいのにって言ったのが切っ掛けでしょ」
「そりゃ、確かに言ったけどさ。でも、これじゃ衣装チェンジどころじゃないじゃないの!」
「うっ……まあね。あ、でも衣装チェンジのスキルもちゃんと作ったよ。パパッと着替えられるようにね」
「なら、それでいいじゃない!」
「いや……それは……その……」
「もう、いいわ。それで、もちろん『ピンク』もあるんでしょうね?」
「はい。すでに譲渡済みです」
「なら、いいわ。許してあげる」
「いいの?」
「いいわよ。それより、腰に下げてるそれは、もしかしてのもしかしてなの?」
「そう、そのもしかしてのレーザー銃と剣のセット」
「ハァ~呆れた。でも、そんな物が作れるのなら、巨大ロボも作れるんじゃないの?」
「俺もそう思ったんだけど、そういう物になると実在しないのはダメなんだって。アツシが言うにはね」
「その線引きはどこなの?」
「うんとね、例えばモビルスーツ的な物は日本のアニメでは当たり前的な存在だけど、実物としては存在しないよね」
「そうね。あっても実物大の何かだよね」
「そう。だから、そういうのは作ろうと思っても再現出来ないからダメなんだ」
「そうなのね。でも、それはレーザー銃なのよね?」
「そうだね。だから、考えたくはないけど、どこかの国では実現しているってことなんだろうね」
「うわぁ……聞かなきゃよかった。でも、これでより成功率が上がったってことよね」
「うん。ほぼ一〇〇パーセントだね」
「じゃ、そろそろ行くの?」
「そだね。そろそろいい頃合いだと思うし」
想太の言葉にリリとロロが泣き出しそうな表情になるのに気付いた想太が二人に聞いてみる。
「ねえ、二人のお父さんとお母さんの名前を教えてくれるかな?」
「うん。えっとねパパとママ」
「そう、パパとママ」
「うん、そうだね。そのパパとママの名前を教えてくれるかな」
「え? だからパパとママだよ」
想太は二人に両親の名前を聞くが二人は「パパとママ」と答える。
「朝香、これってどういうことなの?」
「どうって……あ、そうか。想太、難しく考えることないのよ。そのままなのよ」
「え? どゆこと?」
「だから、お父さんの名前が『パパ』、お母さんの名前が『ママ』なの」
「え? そうなの?」
想太が二人に改めて確認すると「さっきからそう言ってるのに」とリリが口を尖らせる。
「ごめんね。リリ」
「いいの。許してあげる。だから、怪我しないでね」
「分かったよ。じゃ、行ってくるね」
「うん、行ってらっしゃい。気を付けてね」
「怪我しないでね」
「僕がもらうまで壊さないでね」
「……分かった。なるべくね」
ロロの言葉に多少引き攣りながら返事を返すと、転移する場所をアツシに確認する。
『いきなり敵陣のど真ん中に切り込むのも面白いですが、ここはセオリー通りに近くの木陰にしましょう』
「頼むよ。じゃ、行くね」
「「「行ってらっしゃい!」」」
「行ってきます! じゃあ『転移』!」
想太の声と共に想太の姿が消える。
「あ、本当に消えた!」
「消えちゃった」
「ふふふ、大丈夫よ。今はお父さん達の近くにいるハズだから。じゃあ、すぐには帰ってこられないだろうから、座って待ってようか」
「「うん」」
朝香は二人の背中を軽く押しながら、ソファへと座らせる。

一方、救出作戦の為に奇襲を掛けることになった想太は、リリ達の親が捕まっている簡易施設が見える林の中へと現れる。
「よっと。転移成功……かな?」
『篝火の明かりが見えると思いますが、それが目的の施設になります』
「そうなんだ。うわぁ赤い光点で一杯。捕まっている人達はどれくらいいるの?」
『そうですね。ここだけで百三十名ほどでしょうか』
「結構、捕まってるね。なら、それを監視している人達もそれくらいなのかな」
『百はいませんが、結構多いです』
「分かった。じゃあ、早速……」
想太は地図上で表示されている赤い光点に対し、『睡眠』を放つ。すると途端に施設の方から「パタンパタン」と人が倒れる音がする。
「これは……一体こいつらに何が起きた?」
施設の中に作られた檻の中から、騎士達が倒れる様子を見ていた獣人の男が、その様子に驚いていると、檻の外の死角から声を掛けられる。
「こんばんは。ここにパパとママはいますか? リリとロロの両親なんですけど?」
「な……」
大声を上げようとしたが、その声の主に驚きすぎて声が詰まる。
「あの、聞こえてます? リリとロロの両親のパパとママを探しているんですけど?」
「……俺だ」
「はい?」
「俺がパパだ」
「あ、そうなんですね。じゃあ、今から助けますね」
「待て! その前にお前は何者なんだ? 何故、リリとロロのことを知っている?」
「もう、早く皆を助けたいのに」
「いや、ダメだ。場合によってはここより状況が悪くなる場合もある。頼む、教えてくれ」
リリ達の父親であるという目の前の雄々しい狼型の獣人に檻の中から両肩を掴まれて揺さぶられてしまう。
「分かりました。話しますから、パパさんも手を離して下さい」
「あ、スマン。子供達のことが気になりすぎて、興奮してしまったようだ」
「いいですよ。心配なのは分かります。えっと、じゃあ話しますね」
「ああ、頼む」
想太は檻越しにパパにリリ達を保護した経緯を話し、今は想太の家で保護していることを話して納得してもらうことが出来た。
「信じられんが、確かに聞いた特徴はリリとロロに違いない」
「じゃあ、早く脱出しましょう。捕まった人達はここだけですか?」
「いや、ここには男だけだ。女は……」
「ああ、分かりました。言わなくてもいいです。まずはここから離れましょう。じゃあ、どっかに捕まってて下さいね」
「ん? 出してくれないのか?」
「だって、今出したら寝ている騎士達を虐殺するでしょ」
「もちろんだ。当たり前だろ」
「それがイヤだから、このまま移します」
「待て! なんでそれがダメなんだ!」
「だって、皆が皆、悪い訳じゃないでしょ。それにちゃんと悪さしたのは個別に捕縛しますから」
「本当だな。信じてもいいんだな?」
「いいですよ。じゃあ行きますよ。『朝香、送るから後はお願いね』じゃ、『転送』」
「あっ……」
パパはその一言だけ残し、檻ごと朝香達のいる家の側へ転送される。

「じゃあ、女性を救出しないとね。イヤなものを見なけりゃいいけど……」
『では、間に合うかどうか分かりませんが、現場に急ぎましょう』
「うん、分かった」
想太は無事であることを祈りながら、一番豪勢なテントの中に入ると、そこには全裸の脂ぎった肥満体型の中年男性とシーツを体に纏った獣人の女性がベッドの上にいた。
その女性はナイフを手に取り、今まさに男に向けて両手で握ったナイフを振り下ろそうとしていたところだった。
想太は女性の手を取り、ナイフを取り上げると「間に合った」と零す。
「何するの! あなたもこいつらの仲間なのね! ふん、お前達みたいな卑怯者に好きにされるくらいなら……」
女性はそう言うとまた、別のナイフを手に持つと今度は自分の胸に突き立てようとするので想太は慌てて止める。
「ちょっと、待って下さい。俺はあなた達を助けに来たんです。リリとロロに頼まれて」
「え? 今、なんて?」
「リリとロロと知り合った縁であなた達を助けに来たんです」
「なら、生きてるのね。リリとロロは生きているのね!」
「ええ、今は俺の家で保護してます。それにさっきパパさん達も助け出しました」
想太がそう言った瞬間に女性の目から涙があふれ出す。
「よかった……リリとロロだけでなく、パパも……これで何も心残りすることは何もないわ」
そう言ってまた女性が自分の胸にナイフを突き立てようとするので、想太はまた慌ててソレを止める。
「もう、どこからナイフを出すんだか。リリとロロを知っているのなら、死なずに会ってあげて下さい。それとママさんを知りませんか?」
「……」
「もしもし、聞こえてます?」
『ハァ~』
「なんだよ。アツシ」
『もう、ソウタの鈍さは国宝級だと思います。今までの流れから分かるでしょ』
「分かる? 何が?」
『もう一度、女性の顔を見て下さい。どことなくリリと似ていると思いませんか?』
「リリと? なんで? って、ああ……そういうことか」
想太は改めてシーツを纏った女性をよく見ると確かにアツシの言う通りにどことなくリリと似た雰囲気がある。
「もしかして、あなたがママさんですか?」
女性は黙って頷く。
「よかった。どこも怪我はないようですね。じゃあ、早くこんな所から出ましょう」
「ダメよ!」
「え? どうしてですか?」
「だって、私はもう……」
「何もされてないんでしょう」
「でも……」
「そんなことで嫌う人なんですかパパさんは?」
「アノ人はそんなことはしない!」
「なら「ダメなの。私が私を許せないの!」……え~」
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