巻き込まれたんだけど、お呼びでない?

ももがぶ

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第八章 やるべきこと

第8話 あんたはこっちだから

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「は~い、そこまで!」
「ブランカ、も少しいいでしょ」
「だ~め。ほら後ろを見なさいよ」
「え? あぁ~」

 ブランカに無理矢理といった感じでソルトと引き離されたレイが見たのは、ソルトの頭をその胸に抱いていたレイを羨ましそうに見ていた女性の面々で、自分なりにソルトの頭の位置をどこに置こうかとシミュレーションしているのか、自分達の胸の前で赤児を抱えるような仕草をしながらレイの後ろに並んでいた姿だった。

 それを見たレイは申し訳ない気持ちになりながらもブランカの忠告に従い、ソルトの側から離れると同時にレイの後ろにいたリリスが次は自分の番だとばかりに鼻息を荒くしながら「さあ!」とソルトに言うが、ソルトはソルトで「いや、もう十分だから」とけんもほろろに突き放す。

「えぇ~そんなぁ~」
「はいはい、リリスも皆もそういうことだから、離れて離れて! ほら!」
「「「えぇ~」」」
「え~言わない!」
「「「……」」」

 まだ納得していないリリス達にブランカが手を鳴らしながら「また、次の機会にしなさい」と言えば「じゃ、次は私からですね!」とリリスが名乗りを上げれば「じゃあ、次は私だな」とサクラが続き「じゃあ、次は……」とそれぞれに名乗りを上げ順番を決めていく。

 それを見ていたレイはソルトに「なんかゴメンね」と謝り「気にするな」とソルトは片手を振り答える。

「じゃあ、ソルトも落ち着いたところで改めて聞くけど、一体どうしたの?」
「ああ……」
「ブランカ、あのね……ソルトも多分分かっていないと思うよ」
「え? それはどういうことなの?」
「レイ! あなたがソルトさんの何を知っていると?」
「リリス、止めなさい」
「でも……」
「今はレイの話を聞きましょう」
「……はい」

 ソルトが急に泣きだした理由についてブランカがソルトにどうしたのかと理由を聞いたところ、ソルトは話しだそうとしたが中々次の言葉が出て来なかった為にレイがそれを引き継げば、先程からレイにソルトを独占されているのが気に入らないのか横からリリスが文句を言い出した。ブランカはリリスに対し今はレイの話を聞くのが先だと、レイに食ってかかるリリスを宥める。

「じゃあ、改めてレイ、説明してくれるかな。ソルトもいいわね」
「ああ、俺も上手く説明出来ないから助かるよ」
「うん、ありがと。でも、違っていたら言ってね」
「分かった。話してくれ」
「うん、じゃあ話すね。あのね……」

 レイはソルトの目を見て回りで心配そうに見ている皆の顔を確認してからゆっくりと話し出す。

「あのね、私じゃないけど、私の伯父さんのことなんだけどね、さっきのソルトと同じだったんだと今なら分かるの」と言ってレイが話したのは、まだレイが小学三年生くらいの時に大好きな祖母が亡くなり、レイは身体中の水分がなくなるんじゃないかと思うくらいに泣いたと言う。だが、祖母と同居していた伯父さんは自分の両親や回りの親戚や知人が泣いているのに一人だけ泣きもせず一粒の涙を見せることなく淡々と葬儀の準備を済ませ、全てを取り仕切っていた。

 レイはそんな伯父さんの様子を見て「伯父さん、冷たいんだね」と泣きながら父親に訴えたらしいが父親からは「そんなことはないよ」と優しく窘められた。だが、レイは皆がこんなに悲しんで泣いているのに一粒の涙も零さないんだからと伯父さんは冷たく薄情な人間なんだと決めつけてしまった。

 でも、そんな葬儀が過ぎ三回忌も無事に終わった頃、皆がお酒を呑んで食事を楽しんでいたのに伯父さんが一人縁側に座り、一人でお酒を呑みながら泣いていたのを不思議に思い父親のところに行き「伯父さん、一人で泣いていたよヘンだよね。もう、お葬式はだいぶ前に終わったのにさ。ねえ」と言ったら父親は優しい声でレイに「そうか、兄さんはやっと泣けたんだな」と言った。

 レイはそんな父親の言葉に「お父さん?」と訝しく思ったが、父親に「いいから、そっとしておいてやれ。あと、見なかったことにもな」と言われて益々訳が分からなかったのだが、家に帰り父親に、あの時の伯父の様子をなんでと聞いた。すると、父親は「父さん……つまりお前のお爺さんの時もそうだったんだよ」と話し始めた。

 伯父は祖父が亡くなった時も長男として喪主として全てを取り仕切り泣く暇も無かったというのもあるが、頭では祖父や祖母が亡くなったことが分かっていても心が拒否してしまったのだろうと言う。だから、祖母の三回忌を終えたところで伯父は祖母の死をやっと受け入れられたのだろうと父親がレイの頭を撫でながら言った。

 レイはそれを聞いても「ヘンなの」としか思えなかったが、父親が「大事な人が急にいなくなるというのはそういうこともあるんだよ」と教えてくれた。

 そんな話を聞いていたレイだから、ソルトの目に涙が溢れ出したのもソルトの中で母親の死をやっと受け入れられたのだろうと思い、あの日の伯父を思い出しソルトの頭を抱きしめたのだと言う。

「……だそうだけど、ソルト本人としてはどうなの?」とブランカに尋ねられたソルトは黙って頷き「その通りだな」と言う。

「じゃあ、やっぱりオバさんは……」
「ああ、そうだ。もう、五年になるかな……」
「そんな……」
「おいおい、レイが泣くことはないだろ」
「だって、私にも優しくしてくれたんだよ。なんで教えてくれなかったのよ!」
「無茶言うなよ。もう、お前達の家は引っ越した後だったろ」
「それでも……うっうっうわぁぁぁん」
「皆が落ち着かないから、こっちでね」
「うっ……うわぁぁぁん」

 ソルトの話を聞いたレイが泣きだし、ソルトの胸に飛び込もうとしたところで、ブランカから「あんたはこっち」とレイの頭を掴み自分の胸へと押し付ければ、それを見たリリス達はGJと親指を立てる。

『私もお義母様と呼びたかったです……』
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