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第七章 王都にて
第8話 私に任せて
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「じゃ、よろしくね。ブランカ」
『いいわよ。落ちないようにね』
ブランカの背中に乗り軽く首元を触りながら、声を掛けるとブランカの回りに風が舞うと同時に一瞬で上空へと飛び上がる。
「うわっ……スゴッ!」
『ふふふ、どう凄いでしょ!』
「うん、凄いよ」
『じゃあ、飛ばすわよ!』
「え……あ! ぐ……」
ソルトは突然の風圧にブランカから落ちそうになるが、慌てて自分の周りに障壁を張ると同時にブランカと自分を拘束で結びつける。
『あら、ごめんなさいね』
「いいよ。もう、大丈夫だから」
『そ? じゃあ、お言葉に甘えて……』
「え? まだ、速くなるの?」
『ふふふ、久しぶりだから楽しいわね。ソルトはどう?』
「……」
『あらら、気絶した訳じゃないみたいだけど……まあ、いいわ』
それから数分経過すると、ブランカがある街の上空でピタリと止まる。
『着いたわよ』
「え、もう着いたの?」
『ええ、ほら下に見えるでしょ』
「……何にも見えない」
ブランカがソルトに目的地に着いたと告げ、足下にある建物がそうだと言うが、ソルトにはどれがそうなのかが全く分からない。
いくらソルトでも上空三千メートルから、見える建物は全てが豆粒サイズで判別が着かないのだ。
『でも、これ以上近付けば大騒ぎになるわよ?』
「それもそうか……ん? ねえ、ブランカ、あの山の上までいいかな?」
『あそこね。いいわよ』
「うっ……」
ソルトの指示に従い山の上まで来たブランカは『ここなら誰にも見られそうにないわね』と言うと、静かに山に下りるとソルトもブランカの背中から地面に降り立つ。
「ふぅ~もうちょっと飛んでてもよかったんだけどね……でも、楽しかったからいいわ」
「ブランカ、ありがとうね」
「いいわよ。で、どうするの? 結構、離れちゃったけど?」
「それはね、こうするんだよ。転移!」
「あら、便利!」
ソルトとブランカは一瞬で教会の裏手に転移する。
「ここからなら、ブランカも案内しやすいでしょ」
「そうね……ちょっと待ってね」
ブランカが手を組み顔を伏せると回りを探る様に魔力を流すと「分かった!」と顔を上げる。
「あそこよ」
「あそこって……五階か」
ブランカが指差したのは、ソルト達がいる場所から見える五階の窓だった。
「ほら、行くんでしょ」
「ああ、分かったよ」
「じゃ」
「え?」
「ん!」
「へ?」
「もう!」
ソルトはブランカに言われると五階の窓を目指し、その場から飛び上がろうとしたところで、そのブランカがソルトに対し両腕を突き出してくる。
ソルトはその意味が分からずにブランカに問い返すが、ブランカは不満そうにしている。
「もう、私にあそこまで飛べって言うの!」
「え? 飛べるんじゃないの?」
「チッチッチッ……分かってないわね。こういう時こそ女の子をエスコートするものでしょ。ほら、早く!」
「女の子……」
「そこはサラッと流しなさいよ! ほら!」
「分かりました。じゃ、失礼しますよ」
「きゃっ……うん、なかなかいいわね」
「シルヴァには内緒で……」
「ん~どうしようかな?」
「じゃ……」
「あ、うそうそ!」
ソルトはブランカをグッと抱き寄せるとそのままお姫様抱っこすると、ブランカはまさかお姫様抱っこされるとは思っていなかった様だが、直ぐにソルトの首に腕を回しご満悦だ。
ソルトはこんなことをしていいものかとシルヴァにはなるべく黙ってくれるように言えば、ブランカがニヤリと返したのでお姫様抱っこを止めようとするとブランカは慌て出す。
「じゃ、行くよ」
「うん、お願いします」
ソルトはその場で垂直に飛び上がると五階の窓と同じ高さまで浮上する。
「じゃ、ブランカお願い」
「え~もうちょっといいじゃない」
「……」
「分かったわよ。もう、ウチの婿殿には冗談も通じないんだから」
ブランカは左手の指の爪を伸ばすと窓の留め金をスッと断ち切ると、直ぐにソルトの首に腕を回す。
「……」
「何よ。ちゃんと開けたでしょ」
「開けたんなら、そのままついでに窓を開けて入れたじゃん」
「もう、そういうこと言わないの。ほら、早くしないと人が来るわよ」
「……」
ソルトはブランカに対し言いたいことは山ほどあるが、ブランカの言う通りにこのまま浮いていれば確かに人目に着くと思い嘆息しながら、ソルトは手を伸ばし窓を開けてから、部屋の中へと侵入する。
「ここが例の?」
「そう! ノアに色々仕掛けて来たヤツの部屋よ。ほら、あそこ……分かる?」
「あ!」
「そう、あれよ」
ブランカが指を差す先には、ソルト達がいる街の領主の部屋に飾られていた紋章だ。
「じゃあ、ここで間違いはないみたいだね」
「もう、私を信用しなさいって」
「ごめん……じゃ、ここで待ってればいいのかな」
「そうね……あ、来たみたいよ」
ブランカが言うと同時に部屋の扉が開かれ、この部屋の持ち主である司祭が入ってくるが、下を見ながら入って来たせいか、執務机の前にいる二人には気付かずにそのまま後ろ手で扉を閉める。
「は~い!」
「初めまして」
「はっ?」
「あら、忘れたの? ほら、ここ。ここよ、よく思い出して」
「あ! お前は!」
「ふふふ、思い出してくれたみたいね」
「な、なんでここに!」
司祭は自分の執務机の前で自分に向け手を振っている女性に驚くが、次に女性が発した言葉に更に驚く。司祭は確かにどこか見覚えのある女性がなぜここにいるのかと不思議に思ったが、その女性が「ここ!」と自分の額を指差したことで、漸く思い出す。
「思い出してくれたのなら、話は早いわね。もう、あの街に手を出すのは止めてもらえるかしら」
「な、なんのことだ!」
「だから、あなたがガネーシャに変な虫を着けていたでしょ」
「ど、どこにそんな証拠がある! あるなら、出してみろ!」
「あら、そんなこと言っていいの?」
「どういう意味だ?」
「どういう意味って、だって証拠を出せって言うから、本当にいいのかなと思って」
「だから、それはどういう意味だと言っている!」
「ふふふ、おかしなことを言うわね。証拠が欲しいんでしょ。なら、一番の証拠ってなんだと思う?」
「ん?」
司祭はブランカに止めろと言われたが、それはなんのことだと惚けてみせる。だが、ブランカがガネーシャの名前を出したことで、これ以上言うのなら証拠を出せと詰め寄る。
詰め寄られたブランカは司祭に対し「いいの」と問い掛ける。司祭は何が言いたいのか分からずに重ねて問い掛けるが、ブランカは逆に問い掛けて来る。
「ふふふ、あのね自白に勝る証拠はないと思うんだけど、私が言いたいこと分かるかしら?」
「自白……ふっ何を言うかと思えば……それはなにか? 私が自分から話すと思っているのか。バカなことを言う」
「あら、なんでそう言い切れるのかしら。そのオデコ。まだ、癒すことが出来てないんでしょ?」
「ぐぬぬ……だが、私は話す気はないぞ」
「あ~いらないいらない」
「え?」
ブランカは司祭の言葉にバカにするように笑いながら、そんなのはいらないと言う。言われた司祭はブランカがいうことを理解出来ていない。
「だからね、別にあなたがどうこうってのは関係ないの。だって、直接頭をいじればいいだけのことだから。でもね、私も出来るかどうか分からないの」
「なんだ……」
「でもね」
ブランカの言葉に司祭は出来ないんだとホッと胸を撫で下ろすが、ブランカは司祭の様子など気にせずに話を続ける。
「出来ないことはないと思うの。でもね、ほとんど初めてのことだから痛いと思うのよ。ね、初めては痛いって言うでしょ」
「……」
「ブランカ、俺がやろうか?」
「いやよ!」
「いやって……」
「話す」
「「え?」」
ソルトがブランカにそんなに不安なら自分がと交代を名乗り出るが、ブランカはそれを断ると、司祭が「話す」と言い出した。
『いいわよ。落ちないようにね』
ブランカの背中に乗り軽く首元を触りながら、声を掛けるとブランカの回りに風が舞うと同時に一瞬で上空へと飛び上がる。
「うわっ……スゴッ!」
『ふふふ、どう凄いでしょ!』
「うん、凄いよ」
『じゃあ、飛ばすわよ!』
「え……あ! ぐ……」
ソルトは突然の風圧にブランカから落ちそうになるが、慌てて自分の周りに障壁を張ると同時にブランカと自分を拘束で結びつける。
『あら、ごめんなさいね』
「いいよ。もう、大丈夫だから」
『そ? じゃあ、お言葉に甘えて……』
「え? まだ、速くなるの?」
『ふふふ、久しぶりだから楽しいわね。ソルトはどう?』
「……」
『あらら、気絶した訳じゃないみたいだけど……まあ、いいわ』
それから数分経過すると、ブランカがある街の上空でピタリと止まる。
『着いたわよ』
「え、もう着いたの?」
『ええ、ほら下に見えるでしょ』
「……何にも見えない」
ブランカがソルトに目的地に着いたと告げ、足下にある建物がそうだと言うが、ソルトにはどれがそうなのかが全く分からない。
いくらソルトでも上空三千メートルから、見える建物は全てが豆粒サイズで判別が着かないのだ。
『でも、これ以上近付けば大騒ぎになるわよ?』
「それもそうか……ん? ねえ、ブランカ、あの山の上までいいかな?」
『あそこね。いいわよ』
「うっ……」
ソルトの指示に従い山の上まで来たブランカは『ここなら誰にも見られそうにないわね』と言うと、静かに山に下りるとソルトもブランカの背中から地面に降り立つ。
「ふぅ~もうちょっと飛んでてもよかったんだけどね……でも、楽しかったからいいわ」
「ブランカ、ありがとうね」
「いいわよ。で、どうするの? 結構、離れちゃったけど?」
「それはね、こうするんだよ。転移!」
「あら、便利!」
ソルトとブランカは一瞬で教会の裏手に転移する。
「ここからなら、ブランカも案内しやすいでしょ」
「そうね……ちょっと待ってね」
ブランカが手を組み顔を伏せると回りを探る様に魔力を流すと「分かった!」と顔を上げる。
「あそこよ」
「あそこって……五階か」
ブランカが指差したのは、ソルト達がいる場所から見える五階の窓だった。
「ほら、行くんでしょ」
「ああ、分かったよ」
「じゃ」
「え?」
「ん!」
「へ?」
「もう!」
ソルトはブランカに言われると五階の窓を目指し、その場から飛び上がろうとしたところで、そのブランカがソルトに対し両腕を突き出してくる。
ソルトはその意味が分からずにブランカに問い返すが、ブランカは不満そうにしている。
「もう、私にあそこまで飛べって言うの!」
「え? 飛べるんじゃないの?」
「チッチッチッ……分かってないわね。こういう時こそ女の子をエスコートするものでしょ。ほら、早く!」
「女の子……」
「そこはサラッと流しなさいよ! ほら!」
「分かりました。じゃ、失礼しますよ」
「きゃっ……うん、なかなかいいわね」
「シルヴァには内緒で……」
「ん~どうしようかな?」
「じゃ……」
「あ、うそうそ!」
ソルトはブランカをグッと抱き寄せるとそのままお姫様抱っこすると、ブランカはまさかお姫様抱っこされるとは思っていなかった様だが、直ぐにソルトの首に腕を回しご満悦だ。
ソルトはこんなことをしていいものかとシルヴァにはなるべく黙ってくれるように言えば、ブランカがニヤリと返したのでお姫様抱っこを止めようとするとブランカは慌て出す。
「じゃ、行くよ」
「うん、お願いします」
ソルトはその場で垂直に飛び上がると五階の窓と同じ高さまで浮上する。
「じゃ、ブランカお願い」
「え~もうちょっといいじゃない」
「……」
「分かったわよ。もう、ウチの婿殿には冗談も通じないんだから」
ブランカは左手の指の爪を伸ばすと窓の留め金をスッと断ち切ると、直ぐにソルトの首に腕を回す。
「……」
「何よ。ちゃんと開けたでしょ」
「開けたんなら、そのままついでに窓を開けて入れたじゃん」
「もう、そういうこと言わないの。ほら、早くしないと人が来るわよ」
「……」
ソルトはブランカに対し言いたいことは山ほどあるが、ブランカの言う通りにこのまま浮いていれば確かに人目に着くと思い嘆息しながら、ソルトは手を伸ばし窓を開けてから、部屋の中へと侵入する。
「ここが例の?」
「そう! ノアに色々仕掛けて来たヤツの部屋よ。ほら、あそこ……分かる?」
「あ!」
「そう、あれよ」
ブランカが指を差す先には、ソルト達がいる街の領主の部屋に飾られていた紋章だ。
「じゃあ、ここで間違いはないみたいだね」
「もう、私を信用しなさいって」
「ごめん……じゃ、ここで待ってればいいのかな」
「そうね……あ、来たみたいよ」
ブランカが言うと同時に部屋の扉が開かれ、この部屋の持ち主である司祭が入ってくるが、下を見ながら入って来たせいか、執務机の前にいる二人には気付かずにそのまま後ろ手で扉を閉める。
「は~い!」
「初めまして」
「はっ?」
「あら、忘れたの? ほら、ここ。ここよ、よく思い出して」
「あ! お前は!」
「ふふふ、思い出してくれたみたいね」
「な、なんでここに!」
司祭は自分の執務机の前で自分に向け手を振っている女性に驚くが、次に女性が発した言葉に更に驚く。司祭は確かにどこか見覚えのある女性がなぜここにいるのかと不思議に思ったが、その女性が「ここ!」と自分の額を指差したことで、漸く思い出す。
「思い出してくれたのなら、話は早いわね。もう、あの街に手を出すのは止めてもらえるかしら」
「な、なんのことだ!」
「だから、あなたがガネーシャに変な虫を着けていたでしょ」
「ど、どこにそんな証拠がある! あるなら、出してみろ!」
「あら、そんなこと言っていいの?」
「どういう意味だ?」
「どういう意味って、だって証拠を出せって言うから、本当にいいのかなと思って」
「だから、それはどういう意味だと言っている!」
「ふふふ、おかしなことを言うわね。証拠が欲しいんでしょ。なら、一番の証拠ってなんだと思う?」
「ん?」
司祭はブランカに止めろと言われたが、それはなんのことだと惚けてみせる。だが、ブランカがガネーシャの名前を出したことで、これ以上言うのなら証拠を出せと詰め寄る。
詰め寄られたブランカは司祭に対し「いいの」と問い掛ける。司祭は何が言いたいのか分からずに重ねて問い掛けるが、ブランカは逆に問い掛けて来る。
「ふふふ、あのね自白に勝る証拠はないと思うんだけど、私が言いたいこと分かるかしら?」
「自白……ふっ何を言うかと思えば……それはなにか? 私が自分から話すと思っているのか。バカなことを言う」
「あら、なんでそう言い切れるのかしら。そのオデコ。まだ、癒すことが出来てないんでしょ?」
「ぐぬぬ……だが、私は話す気はないぞ」
「あ~いらないいらない」
「え?」
ブランカは司祭の言葉にバカにするように笑いながら、そんなのはいらないと言う。言われた司祭はブランカがいうことを理解出来ていない。
「だからね、別にあなたがどうこうってのは関係ないの。だって、直接頭をいじればいいだけのことだから。でもね、私も出来るかどうか分からないの」
「なんだ……」
「でもね」
ブランカの言葉に司祭は出来ないんだとホッと胸を撫で下ろすが、ブランカは司祭の様子など気にせずに話を続ける。
「出来ないことはないと思うの。でもね、ほとんど初めてのことだから痛いと思うのよ。ね、初めては痛いって言うでしょ」
「……」
「ブランカ、俺がやろうか?」
「いやよ!」
「いやって……」
「話す」
「「え?」」
ソルトがブランカにそんなに不安なら自分がと交代を名乗り出るが、ブランカはそれを断ると、司祭が「話す」と言い出した。
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