上 下
94 / 132
第六章 いざ、王都へ

第4話 来ちゃった!

しおりを挟む
峠道の中腹に差し掛かったところでゴルドが言う。

「この辺りが野盗に襲われたと報告が多い場所だ。だから、分かっていると思うが」
「分かってるってゴルド。皆まで言うな」
「レイ、あんた分かってるの?」
「エリス、何を言いたいの?」
「野盗が相手なのよ。その辺のごろつきとは訳が違うのよ!」
「え~何言ってんの。そんなの分かってるって」
「だから……ソルト」

野盗が出ると張り切りだしたレイに対しエリスが何か思うところがあったのか、レイに確認するが当の本人はエリスが気にしていることが分かっていないようだ。そんな様子にしびれを切らしたエリスが更に食ってかかろうとしたところをソルトにやんわりと止められる。

「いいの? ソルト」
「いいも何も経験してみないと分からないだろ。コレばっかりはさ」
「そうかもしれないけど、ソルトはいいの?」
「……」

前に捕縛した領主の使いを見殺しにした時のことをエリスは言いたいのだろう。だが、現時点ではレイを安全に帰す方法はないとルーに言われたことで、ソルトとしては早めにレイに対しこういうに慣れておいた方がいいだろうと思っている。

「ふう、ソルトが何を考えているのか分からないけど、レイにもを分かって欲しいと思っているのよね?」
「ああ、まあそんなところだ」
「そうなのね」

エリスはソルトにそう言った後に小声で「なんだかレイが羨ましく思えるわね」と呟くが、それは誰の耳にも聞こえなかったようだ。

「どうしたのエリス?」
「レイ、なんでもないわよ。それよりもいいのね?」
「だから、いいってば!」
「ハァ~なんとなく空元気にも見えるんだけど……まあ、いいわ。だけど、相手は野盗だということだけは忘れないでよ。いい?」
「……うん、分かっているつもり」
「つもりじゃダメなの! 私達が見逃したら「分かってる! 分かっているわよ!」……レイ」
「でも、出来ないの! 出来ないよ……」
「レイ……」
「レイさん……」

御者台でソルト達のやり取りを黙って聞いていたゴルドだが「慣れてもらうしかねえよな」と呟く。

『ソルトさん、前の茂みに潜んでいます。地図MAPに表示しますね』
「ありがと。う~ん、これはなんとも」
「どうした?」
「あ、ゴルドさん。いいところで馬車を停めてもらえるかな」
「やっぱり、来たか。数はどれくらいだ?」
「えっとね、前の茂みに隠れているのが右に十人、左に八人。で、背の高い木の上で狙っているのが右に一人、左に二人かな。後は、退路を塞ぎたいのか二十人ちょいってところ」
「ハァ~お帰り願いたいのだがな」
「そうもいかないみたいね。『障壁』!」

ソルトがゴルドとの話を切り上げると同時に自分達の馬車と領主代行の馬車を包む様に障壁を張る。するとあちらこちらから『カキン、カキン』と何かが弾かれる音がする。

「来たの?」
「ああ、来た。だから、お前は後ろに隠れていろ」
「……」

レイも異変に気付いたのかソルトに声を掛けて来るが、その顔はこれから先のことを予測しているのか青白くなっている。

「レイはここにいるのよ」
「私達が退治しますので」
「……」

レイに声を掛けるとエリスとシーナは馬車の外に出る。ソルトも領主代行の護衛に既に念話で伝えている。

「さてと……」
「お前がこの馬車の護衛か!」
「ん?」

ソルトがゆっくりと馬車から降りると、ウンともスンとも響かない障壁を叩きながら見るからに野盗と言った格好の男が吠える。

「うわぁまんま野盗だね」
「そうね。ちょっとばっちぃかな」
「触るのはイヤなんですけど……」
「そうも言っておれんだろ。領主代行もいるんだしな」
「そうだよね。今後、行き来することも増えるだろうから、なるべく掃除しておいた方がいいと思うんだけどゴルドさんはどう思う?」
「そうだな、討伐対象なら賞金が出るが、これだけの数だろ? と、なると生きたままってのは難しいな。詰所があるところまで距離もあるしな」
「ってことは殲滅がベストなの?」
「まあ、そういうことだ。行けるか?」
「まあ、任せてよ。ってことでお願いね、ルー」
『任せてください! 目標固定ロックオン! からの麻痺パラライズ!』

障壁の向こうで吠えている野盗を見た感想をエリスとシーナが好き勝手に言った後にソルトはゴルドにどういう方向で片付けるのかを確認すると殲滅が最良だということだった。なので、ソルトはゴルドに返事をすると即座にルーに魔法を展開してもらう。そしてその結果、吠えていた野盗のリーダーらしき男はその場で崩れ落ち、遠くの木からズドンと何かが落ちる音が聞こえてきた。当然、リーダーの周囲にいた連中や茂みに隠れていた連中もその場で崩れ落ちたのを確認している。

「相変わらずデタラメだな」
「うん、自分でもそう思うよ。それより、取り敢えずは捕縛して一箇所に集めようか」
「そうだな。エリスもシーナも頼んだぞ」
「「え~」」
「え~言わない! さっさとしないと日が暮れるだろ」
「「は~い」」

ソルト達は手分けして盗賊達を後ろ手に縄を掛け、両足首も縄で縛ると馬車の近くに重ねていく。

「これで全部か?」
「ちょっと待ってね。うん、大丈夫みたいだね」

ソルトが視界の隅に映る地図を確認し他に野盗が潜んでいないかを確認し、これで全員だとゴルドに告げると、ゴルドはリーダー格の男の前に立つ。

「お前らのアジトはどこだ?」
「……」
「言わないか……しょうがないな。ソルト、頼んだ」
「了解。じゃあ、行くよ『自白最高』!」
しおりを挟む
感想 71

あなたにおすすめの小説

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?

あくの
ファンタジー
 15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。 加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。 また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。 長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。 リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

精霊に好かれた私は世界最強らしいのだが

天色茜
ファンタジー
普通の女子高校生、朝野明莉沙(あさのありさ)は、ある日突然異世界召喚され、勇者として戦ってくれといわれる。 だが、同じく異世界召喚された他の二人との差別的な扱いに怒りを覚える。その上冤罪にされ、魔物に襲われた際にも誰も手を差し伸べてくれず、崖から転落してしまう。 その後、自分の異常な体質に気づき...!?

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

ボッチの少女は、精霊の加護をもらいました

星名 七緒
ファンタジー
身寄りのない少女が、異世界に飛ばされてしまいます。異世界でいろいろな人と出会い、料理を通して交流していくお話です。異世界で幸せを探して、がんばって生きていきます。

転生することになりました。~神様が色々教えてくれます~

柴ちゃん
ファンタジー
突然、神様に転生する?と、聞かれた私が異世界でほのぼのすごす予定だった物語。 想像と、違ったんだけど?神様! 寿命で亡くなった長島深雪は、神様のサーヤにより、異世界に行く事になった。 神様がくれた、フェンリルのスズナとともに、異世界で妖精と契約をしたり、王子に保護されたりしています。そんななか、誘拐されるなどの危険があったりもしますが、大変なことも多いなか学校にも行き始めました❗ もふもふキュートな仲間も増え、毎日楽しく過ごしてます。 とにかくのんびりほのぼのを目指して頑張ります❗ いくぞ、「【【オー❗】】」 誤字脱字がある場合は教えてもらえるとありがたいです。 「~紹介」は、更新中ですので、たまに確認してみてください。 コメントをくれた方にはお返事します。 こんな内容をいれて欲しいなどのコメントでもOKです。 2日に1回更新しています。(予定によって変更あり) 小説家になろうの方にもこの作品を投稿しています。進みはこちらの方がはやめです。 少しでも良いと思ってくださった方、エールよろしくお願いします。_(._.)_

処理中です...