上 下
93 / 132
第六章 いざ、王都へ

第3話 食べました

しおりを挟む
「えっと、これはどういうことなのかな?」
「領主代行殿はそこの席にお座りください」
「ああ、どうも。って、違うから。私が聞きたいのはそうじゃなくて、なんでこんなテーブルが用意されているのかってことなんだけど?」
「まあまあまあ、今はそんなこといいじゃないですか。それよりもほら、早く食べないと冷めちゃいますよ」
「……分かった。今は不問にするしかないと言うことか。まあ、そういうことなら冷めない内に食べるとするか」

アランは話に乗ってくれないソルトに納得出来ない部分もあるが、今はそんなことよりもまだ湯気を立て美味しそうな匂いが鼻腔を擽る目の前の料理に釘付けになる。そして、ハァ~と短く嘆息すると用意されたカラトリーを手に取り食事を始める。領主代行であるアランが食事を始めたのを皮切りにソルト達も食事を始める。

ソルト達が食事をしていると、ふと周りの連中がソルト達を凝視していることに気が付く。

「ねえ、ソルト。なんかおっさん達の視線がキツイんだけど。どうにかならない?」
「昼飯食う間くらい我慢しろよ」
「え~出来ないよ。ねえシーナからもなんとか言ってよ。エリスもそう思うでしょ?」
「「全然!」」
「え~なんで? なんで私だけなの?」
「いいから、我慢出来ないのならさっさと食ってしまえばいいだろ。これからもこういうことが何度もあるかもしれないのに一々対応していられないだろ」
「え~こんな美少女の食事シーンをタダで見せるのって、考えられない!」
「ほ~なら、金をもらえばあのオッサン達の前でメシ食うところを見せるのか?」
「……そんなことを言っている訳じゃないんだけど」
「なら、黙って食え!」
「……ハイ」

食事を終え、流しやテーブルを片付けようとした所で見学していたオッサン達に「どうかそのままでお願いします」と言われたので、竈の火種だけはちゃんと始末するようにお願いして休憩所から出発する。

ソルト達が休憩所から出発すると、オッサン達が話し出す。

「アレってアレだろ? 確か『殲滅の愚者』って言われていた」
「そうそう、ソレだよ。俺も思った!」
「ああ、そうだな。エルフのお姉さんに少女の組み合わせだ。間違いない!」

ソルト達が知らないところでソルト達の名は広まっているようだ。

「ほら、ここからは野盗もいるし警戒を怠るんじゃないぞ」
「「「はい!」」」

峠道に入り、ゴルドがソルト達に警戒を厳にするように注意する。

「ねえ、そんなに出て来るの?」
「そうだな。俺もそれほど街の外に出るわけじゃないから詳しくはないが、出るときには出るな」
「そりゃそうでしょ。じゃなくて、どのくらいの頻度でどういう団体さんなのかを聞きたいの!」
「あ~それは分からないな」
「え~ダメダメじゃん!」
「だから、出て来たのにちゃんと対応すればいいだろ。もし野盗なら賞金が掛かっているかもしれないし、アジトには溜め込んだ財宝とかあるかもな」
「それ、ホント?」
「さあな。だが、野盗が出て来たら『一粒で二度、三度美味しい』って奴だな」
「だって、ソルト! あ~早く出てこないかな野盗さん」
「「「……」」」

レイはゴルドとの会話で野盗が出て来るのを今か今かと待ち構えている。だが、ここからの峠道は襲われることを注意するのは野盗だけではない。やはり、魔獣が森の奥、木々の間から街道を見張っているのはソルトの監視レーダーには丸わかりだ。なら、なぜ襲ってこないのかと言えば、ソルトがいるからとしか言えないだろう。

魔獣とは言え、逆らってはいけない存在と言うのは本能に訴えてくるらしくソルト達の馬車がただただ何もなく自分達の前を通り過ぎるのを祈るだけだった。

じゃあ、野盗の方はと言えば、防衛本能が働くことはなくソルト達の馬車を襲いやすい位置に差し掛かるまでグッと我慢しながら、慎重に慎重に監視を続けるだけだった。

この後に始まるのことなど知るよしもない。
しおりを挟む
感想 71

あなたにおすすめの小説

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

愛人がいらっしゃるようですし、私は故郷へ帰ります。

hana
恋愛
結婚三年目。 庭の木の下では、旦那と愛人が逢瀬を繰り広げていた。 私は二階の窓からそれを眺め、愛が冷めていくのを感じていた……

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

【本編完結】隣国が戦を仕掛けてきたので返り討ちにし、人質として王女を娶ることになりました。三国からだったのでそれぞれの王女を貰い受けます。

しろねこ。
恋愛
三国から攻め入られ、四面楚歌の絶体絶命の危機だったけど、何とか戦を終わらせられました。 つきましては和平の為の政略結婚に移ります。 冷酷と呼ばれる第一王子。 脳筋マッチョの第二王子。 要領良しな腹黒第三王子。 選ぶのは三人の難ありな王子様方。 宝石と貴金属が有名なパルス国。 騎士と聖女がいるシェスタ国。 緑が多く農業盛んなセラフィム国。 それぞれの国から王女を貰い受けたいと思います。 戦を仕掛けた事を後悔してもらいましょう。 ご都合主義、ハピエン、両片想い大好きな作者による作品です。 現在10万字以上となっています、私の作品で一番長いです。 基本甘々です。 同名キャラにて、様々な作品を書いています。 作品によりキャラの性格、立場が違いますので、それぞれの差分をお楽しみ下さい。 全員ではないですが、イメージイラストあります。 皆様の心に残るような、そして自分の好みを詰め込んだ甘々な作品を書いていきますので、よろしくお願い致します(*´ω`*) カクヨムさんでも投稿中で、そちらでコンテスト参加している作品となりますm(_ _)m 小説家になろうさんでも掲載中。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

悪妃の愛娘

りーさん
恋愛
 私の名前はリリー。五歳のかわいい盛りの王女である。私は、前世の記憶を持っていて、父子家庭で育ったからか、母親には特別な思いがあった。  その心残りからか、転生を果たした私は、母親の王妃にそれはもう可愛がられている。  そんなある日、そんな母が父である国王に怒鳴られていて、泣いているのを見たときに、私は誓った。私がお母さまを幸せにして見せると!  いろいろ調べてみると、母親が悪妃と呼ばれていたり、腹違いの弟妹がひどい扱いを受けていたりと、お城は問題だらけ!  こうなったら、私が全部解決してみせるといろいろやっていたら、なんでか父親に構われだした。  あんたなんてどうでもいいからほっといてくれ!

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

処理中です...