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第五章 変わりゆく世界、変わらない世界

第14話 触手プレイは勇者に教えてもらったそうです

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領主の屋敷の庭に飛び出したソルト達は人ではない何かに変異した領主親子がソルト達を捕まえようと伸ばしてきた触手をなんとか捌いていると、領主親子が屋敷の壁を壊して、その本体を表す。
領主の息子ギランは変異する前と同じでほっそりとした感じだが、下半身は十数本の触手へと変わっていた。そして、ギランの触手はブランカを積極的に捕まえようとしている。
「もう、なんで私の方に寄ってくるのよ」
『オデ、ワカイノヨリフルイノガイイ……』
「ああ、そうですか! 本当ムカツク!」
そんな風にギランに煽られ、相対するブランカをシルヴァは手伝うこともなくジッと、見ているだけだった。
「シルヴァ、ちょっとは手伝いなさいよ!」
「無理! 俺、そんなヌルヌルしているのは生理的に無理だし」
「もう、役立たず!」

一方、ソルトというか、レイの方には領主ディランの変異体の触手が迫る。
ディランは変異前とどこが変わったのか探すのが難しいくらいだが、ギラン同様に下半身を無数の触手に変えてレイを執拗に追い回す。
「もう、よりによって、なんで触手なのよ! 誰かの入れ知恵なの?」
そんな、レイの悲痛な叫びにギランが答える。

『ショクシュハユウシャガスキダッタ』
「え? どういうこと?」
『ユウシャケンキュウカイニオシエテモラッタ』
「「「「勇者研究会?」」」」
『ソウダ。ソイツラカラユウシャハショクシュプレイガスキダトオシエテモラッタ』
ギランはブランカの攻撃をその触手で捌きながら、レイの質問にちゃんと答える。
「また、あの勇者なの! もう、なんなのよ。勇者って!」
レイは知らず知らずの内に握っている剣に力を込める。

「でも、息子の方はそれでいいけど、領主まで触手って……」
『ヤッテミルトベンリダッタ』
「便利?」
『ソウダ。コレデエモノヲツカマエルノモ。エモノヲスイツクスノモナ』
「「「「吸う?」」」」
『『アア、ソウダ。コウイウフウニナ!』』
領主親子が叫ぶと、触手の先が四方に分かれ、その中は中心に棘の様な突起物、そして分かれた触手の裏には牙の様な物がビッシリと生えていた。
「うわっ……キモ……寄らないでよ!」
レイの剣先が光ると、ディランの触手を切り落とす。
『『エ?』』
「あれ?」
それまで、触手のヌルヌルとした粘液に邪魔され刃先が通ることがなかったのに、レイが振る剣は、それを難なく切り落とす。
「レイ、何をした?」
「え?」
「お前のその剣。先が光ってるじゃないか!」
「あ、ホントだ。どうしてだろう?」
「「「分からないのかよ!」」」
「でも、切れるからいいじゃない! よっ!」

『ナゼダ……ナゼ……』
『オヤジ、ソンナノイクラデモサイセイデキルダロ!』
『オウ、ソウダッタ……フン!』
ディランが少しだけ触手の先に力を込めると、ポコンと触手が再生する。
「「「「聞いてないヨぉ~」」」」

「こりゃ、定番通りに本体をなんとかしない限りは再生し続けるってパターンみたいだな」
「もう、そんな呑気に構えてないで、ソルトも手伝いなさいよ!」
「でも、領主の触手はレイがお気に入りみたいだし」
「そりゃどうも……って、言う訳ないでしょ! いいから、手伝え!」
「はいはい……で、どうすればいいと思う? ルー」
『そうですね。まずはヒュドラと同じ様にしてみましょうか』
「同じって、どうやるの?」
『まずはレイさんが斬った触手の断面を焼きましょう!』
「なるほど。炭化させて組織が再生出来ないようにするんだね。よし! レイ、じゃんじゃん斬ってくれ!」
「もう、さっきからやってるわよ! ふん!」
レイが切り落とした触手の断面を狙って、ソルトがプラズマ級の『火球』を当てる。
当たった瞬間に『ジュッ』と音がして、イカの焼ける臭いが立ち込める。
「あ、イカ焼きの匂いだ! って、そんなことじゃなくて……あれ? 再生しない?」
「うん、なんとか成功だね。じゃあ、シルヴァも同じ様にやってみて」
そのソルトの言葉にブランカがキレる。
「その前に触手が斬れないの! こっちをどうにかしてよ!」
「あ~ブランカ。剣先に聖魔法を込めてみて!」
「聖魔法……あ、そっか。教会謹製だから効かないと思っていたけど、レイが使っているのがそれなのね。分かったわ」
ソルトの言う通りにブランカが剣先に聖魔法を込めると、さっきまで苦戦していたのが嘘のようにスパスパと斬れる。そして、シルヴァもさすがに夫婦と言う感じの呼吸がピッタリ合い、ブランカが落とした触手の断面をシルヴァの火魔法で焼いていく。

「これでどうにかなるかな」
『『アマイ!』』
「「「「え?」」」」
斬られて落ちた触手の先がピクピクと蠢くと手足が生え、立ち上がる。
「え~そんなのアリなの? ちょっと、どうにかしなさいよ! ソルト!」
「分かったよ。もう、面倒な仕様にしちゃって。『掘削ディグ』」

ソルトは庭に直径三メートル、深さ五メートルほどの穴を掘ると、よちよち歩きの触手の先を穴の中へと落とす。

「これで最後かな?」
「触手の先はね」
シルヴァの返事を聞いたソルトは穴の中にさっきと同じ様な火球を放り込む。
「あ~いい匂い」
穴の中では触手達が細胞の一片たりとも残さない勢いで燃えていく。
「イカ焼きが食べたくなるけど、今はあっちだな」
「なあ、ソルト。アイツらもここに落とせばよくないか?」
「それもそうか。じゃあ、レイ、ブランカ。誘導よろしく!」
「「イヤよ!」」
「ソルトが、コイツらの足下を掘ればいいだけでしょ!」
「そうよ。早くしなさいよ!」
「あ! そうか。分かったよ。『掘削』x2」
『『ゲ?』』
ディランとギランはいきなり足下の地面が消え、驚くが、触手を伸ばし、穴に落ちないように踏ん張っていると。レイとブランカが笑いながら近付く。
「意外にしぶといわね。えい!」
「ホント、えい!」
穴の縁にしがみ付く触手を一つずつ丁寧に切り落としていく。
やがて支えきれなくなったディランが穴の底に落ちる。そして、それと同時にソルトの火球が飛び込み、火柱と共に悲鳴が聞こえる。
『オ、オヤジ……』
「ほら、お父さんは先に逝ったわよ。あなたもいい加減に逝きなさい! えい!」
『ア……』
ディランもブランカの最後の一撃で、穴の底に落ちると、自分の上から囂々と燃えさかる青い炎が目に入る。
『キレイ……ギャー!』
二つの火柱を何も言えずに見ているギルマスにゴルドが声を掛ける。
「いなくなっちまったな」
「ああ。この街はどうなるんだ?」
「それなら、ほら。あそこに跡取りがいるだろ。歳は確か、十八は超えていたはずだ。今の内に話を合わせとかないとな。あと、屋敷の地下室にいろいろとあるらしいぞ。ソルト情報だがな。俺は今から、そっちの調査にかかりっきりになるから、政はギルマスに任せたぞ」
「あ……」
ギルマスは立ち上がり、埃を払うと領主の次男に近付く。
「まずはどうやって王都に説明するか、一緒に考えましょうか」
ギルマスに話しかけられた次男はゆっくりと頷く。
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