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第四章 見えない敵意

第16話 どこのナニが変わったの?

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ソルトが呟いた後に「嬉しい」とガネーシャの声が聞こえたと思ったら、ガネーシャに抱き着かれ唇を塞がれる。
「プハッ……おいガネーシャ! 一体なんのつもりだ!」
「だって、ココまでが一セットだって……サクラが」
「またアイツか……うっ……なんだ、この感じは……」
『条件を満たしました。第三レベルまで解放します』
「だ、誰なんだ……お前は……」
そう言って、ソルトがその場に跪き、前にゆっくり倒れる。
「ちょ、ちょっと、ソルト! どうしたの? ガネーシャ、何をしたの?」
「え、俺はサクラに言われた通りに……」
側にいたレイとエリスでソルトを慌てて解放し、レイがガネーシャを問い詰める。そして、問い詰められたガネーシャがチラリとサクラを見ると、サクラは興味深そうにソルトを見ている。
「サクラ、説明してもらえるのよね」
「怖いな。エリス」
「はぐらかさないで! 私はあなたに聞いてるのよ!」
「待て! 落ちつけってエリス」
エリスの見幕に気圧されながらサクラが答える。
「落ち着けるわけないでしょ! ソルトがあんな風になってるのよ!」
「だから、ああいうのは前にもあっただろ? だから、大丈夫だって……多分だけどね」
「エリス、俺は大丈夫だ」
「ソルト……本当に大丈夫なの?」
ソルトはゆっくりと起き上がるとサクラを一瞥するとサクラの正面に立つ。
「お前な、何を知りたいのか分からないが、人を使ってまですることか。ガネーシャ、お前も簡単に乗せられるなよ」
「すまん、ソルト。ただ、ソルトの為になると言われたから……」
「サクラ、ガネーシャに謝れよ」
「そうだな。すまなかったガネーシャ」
「いや、別に謝られても困るから。それに結果的には俺にとっていい結果になったし」
そう言ってガネーシャはソルトをジッと見る。
「あ~そうだった。ガネーシャ、君は本当にいいのか? でも、なんで契約が成立したんだ?」
「ふふふ、それはブランカ達がヒントだ」
サクラが得意そうに語り出す。
「ブランカ達は自分の名前を忘れていた……そんな状態でソルトが名前を呼んだことが名付けと見なされ契約が成立した。そして、ガネーシャの場合は見た目が『男』から『女』に変わったことで『生まれ変わった』とガネーシャに思い込んでもらった後にソルトが名前を呼んだことで、少々強引だったがと認識してもらいソルトとの間に従魔契約が結ばれた」
「ああ、多少強引だが結果的には成功したな」
「それで、ソルトはどこか変わったの?」
「さあな。俺には分からない。どこか変わったか?」
「そうね……コレといった変化は分からないわね。とりあえず服でも脱いでもらえる?」
「なんで?」
「外見上、変わったところはないけど、それは見えない部分かもしれないでしょ? だから、ソルトが着ている服を脱いでもらうしかないじゃない」
「それはそうだが、何もレイが見る必要はないんじゃない?」
「そうね、レイだと細かい変化には気付かないでしょうから、引っ込んでてね」
「ちょっと、それはエリスも一緒でしょ! 私は……見たことあるし。ちょっとだけど」
「「「いつ?」」」
レイの発言にエリス達が食い付くが、ソルト自身はいつ見られたのか分からないし、レイ自体も正直に言うならば、ほんの一瞬のことなので、朧気にしか覚えていない。あえて言うのならだけだ。

「とにかく、今日はここまでにしてくれ。明日は一度、屋敷に戻るから」
「え~魔族領は~」
「いろいろありすぎて一度、頭の中を整理したい。あ、もちろん魔族領には行くぞ。その時はガネーシャに案内を頼むから」
「ああ、そうだな約束だぞ」
「ああ、だから今夜はこれでお開きだ。じゃあな」
ソルトが自分の家に入り「ガチャリ」と鍵を掛ける。
「あ、鍵掛けた! そこまでする?」
「ガネーシャが夜這いしそうだから、それはしょうがないんじゃない」
「ダメなのか?」
「「「ダメ(です)!」」」

ソルトはベッドに倒れ込むとルーを呼び出す。
「ルー、俺は何か変わったのか?」
『はい……その言いにくいのですが……』
「え? 皆は見た目の変化はないと言ってたけど?」
『えっと、多分ですが服を脱いでもらうと、分かるかと……』
「服か……なら、それって肉体的な変化なの?」
『はい。高位の魔族の体液を摂取したことで第三レベルまで解放されたことによる肉体的な変化が起きています』
「変化ね~それって人として生活は出来るのかな?」
『はい。ソルトさんの意思で変態可能です』
「変態ね。なんかイヤな字面だな。ねえ、それでさ。また変な機械的なアナウンスが聞こえたんだよね。一体最終レベルまで何段階あるんだろうね」
『……』
「ま、いいか」
ソルトはそのままベッドの上で就寝する。

翌朝、ソルトが家を出ようとすると家の外で何かが家にぶつけられているような気がして、確かめるために家の外へと転移する。

家の外に転移したソルトが見たのは、皆が見守る中でソルトがさっきまでいた家に向かって魔法を放っているブランカがいた。
「ねえ、アレって何しているの?」
「あ、ソルト。出て来たのね」
「ああ、起きたら家の外が騒がしいから転移で家の外に出た」
「それ、正解ね。下手したら丸焦げだったわよ。ほら」
エリスが指す方向を見ると、半ば自棄になったブランカが「どうしてよぉ~」と叫びながら魔法を放っている。
「それで、なんで俺の家に魔法を放っているんだ? 俺、ブランカに何かしたか?」
「ふふふ、あれはねブランカの意地なのよ」
「意地?」
「ほら、昨日ソルトが、家に掛けていたブランカの魔法を苦もなく涼しい顔で解除したでしょ。だから、それが悔しかったみたいなの」
「それが、アレなのか?」
「そう! 必ずソルトが掛けた障壁を突破するって、私達が起きる前からやっているみたいよ。どうする? 止める?」
「いい、放っておこう。それより朝食にしよう」
「そうね。じゃ準備しようか。皆はあっちに夢中だから、手伝ってね」
「ああ、分かった」
エリスと二人でソルトが朝食の準備を手伝い、終わる頃には美味しそうな匂いに釣られて一人、二人とブランカのしていたことの見物から離れ朝食が準備されたテーブルに着く。
そして、朝食を食べ終わってもまだ、ブランカは止めなかったのでソルトはシルヴァに言ってブランカを止めさせる。
「え~俺が止めるのかよ」
「お前の奥さんだろ。止めないなら止めないでいいけど、俺達はここから離れるからな」
「えっもう行くのか。分かった。止めるから。おい、ブランカ! もう止めるんだ!」
「何よ、止めないでよ。もう少しのハズなのよ……ソルト、なんでそこにいるの?」
「なんでって、起きたから?」
「え、でも私は転移出来ないように私の周囲と家の回りに転移を阻害する障壁を張ったのよ! なのになんでここにいるのよ!」
「なんでって、お前が魔法をバンバン放っているから、玄関から出られないだろ。だから、転移で出て来た」
「だから、なんで私の魔法を無効に出来るのよ!」
「なんでって……出来たから?」
「あ~もう聞きたくない!」
「面倒だな。じゃ、俺達は屋敷に戻るけど、シルヴァ達はどうする?」
「もちろん、着いていく。家族でな。あ、もう私達とソルトは家族同然だな。俺のことは『お父さん』と呼んでもいいぞ?」
「……じゃあ、いつも通りにゴルドは先にギルマスに報告な」
「また、俺だけかよ」
「すまんな。まあ、面倒なら屋敷の方に連れてきてもらってもいいぞ」
「ああ、そうするわ。じゃあ、送ってくれ」
ゴルドの返事を待って、ソルトがゴルドをギルマスの部屋へと転送する。
「さて、じゃあ俺の体に……止めよう。ちょっと多すぎるな」
「「「え~」」」
数名からブーイングが起こるが、ソルトは気にせずに地面に円を描くと、皆に描いた円の内側に入ってもらうようにお願いする。
「入った? 入ったね。じゃあ、いくよ。『転送』」

ソルトが回りを見渡し誰もいないことを確認してから作った家とテーブルを処分すると自分も屋敷の自室へと転移する。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

ギルマスが執務室で書類を片付けていると、『ドスン』と音がしたと思うと、そこにはゴルドが立っていた。
「お前か。ふむ、お前がここに来たということは一応の結果はあったということか」
「ああ、その通りだ。それがいい知らせだ。そして、悪い知らせもあるが、俺が話すよりソルトに直接聞いた方がいいだろ。ってことで、俺と一緒にソルトの屋敷まで来てくれ」
「悪い知らせか。それは俺の手に負える範囲か?」
「それも含めて直接確認してくれ」
「なんだか行きたくなくなってきた……」
「だが、聞かないと後悔することになるぞ」
「多分、そうだよな。はぁ~毎回毎回、なんでこうも変な土産ばっかり持ってくるんだよ」
「それは俺に言わないでくれ」

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「よし、これで僕も『鑑定魔法』が使えるようになった。これぞ異世界だな。試しに……」
竜也は手当たり次第に『鑑定魔法』を使って鑑定魔法をレベルアップさせる。

「え? 嘘だろ……どうすんだよ」
竜也がそう零した先には優しくレイラのお腹をさすっている泰雅の姿があった。

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