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第四章 見えない敵意

第13話 そりゃ大変だ

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「で、どうするの?」
「どうするって?」
レイの様子を黙って見ていたソルトにエリスが話しかけてくる。
「これからよ。元はノアを唆していた魔族を捕まえるために魔族領に行く予定だったでしょ?」
「そういや、そうだったね。で?」
「『で?』って……もう目的の魔族は見付かったし、魔族領に行く必要もなくなったわけでしょ。だから、どうするのかって聞いてるの!」
「あ、そうか。なんだかんだで目的は達成しちゃってるのか」
「だから、さっきからそう言ってるじゃない。だから、どうするのよ」
エリスに言い詰められ、、確かに魔族領に行く必要がなくなったことに魔族領に行くのが楽しみだったソルトは正直ガッカリするが、まあしょうがないかと諦める。それと同時に大事なことを思い出す。
「あ、そうだ。ブランカ。ガネーシャに取り付いていた小さな虫みたいなのはどうした?」
「あれ、始末したわよ。どうして?」
「どうしてって……あれからガネーシャを唆した張本人が分からないかと思ったんだけど、そうか。もう始末しちゃったか」
ガネーシャに纏わり付いていた小さな魔物を辿ればガネーシャの依頼主に辿り着けるんじゃないのかと思って、捕獲したブランカに確認したソルトだが、既に始末済みと伝えられガッカリする。
「それなら分かっているわよ」
「そうか、分かっているのか。残念だ……」
「だから、分かっているって言っているじゃないの。ちゃんと、聞いてる?」
「だから、聞いているよ。始末したんでしょ。それで、相手も分かっているって……『分かっている』? ねえ、分かっているって言ったの?」
「そうよ。だから、そう言っているじゃない」
「そうだよね。でも、どうやって?」
「ふふふ、興味ある?」
「うん、教えて欲しい」
「じゃあ、教えてあげる。それはね……」

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

少し時間は遡り、ブランカが小さな魔物を捕まえた頃。

その男は協会の司祭の様な格好をして、執務室の机に向かって書類を確認していた。
「うん? 通信が途絶えたか。もしかして、他の魔物に始末されたか。しょうがない
今度会った時にでもまた着ければいいか」
そう呟き、また書類に目を戻したときにソレが聞こえた。

『見付けたわ』
男は書類から目を離し、正面を見ると執務机の前に立つ女が目に入る。
「ん? 誰だお前は? どうやってここに入った?」
『ふふふ、慌てん坊さんね。私の体をよく見てみなさい』
男が女の体を改めてよく見ると、女の体は半透明で向こう側が透けていた。

「実体は別か」
『そういうこと。それで、ここはどこかしら? あなたは協会の司祭ってところかしらね。なら、ここは協会の中なのね。そして、あの山が……うん、分かったわ。ココがどこなのか』
「何を言っている! 一体お前は何者で、ここへは何が目的で来た? 答えろ!」
『何者かは今は秘密よ。それで目的は……ガネーシャに頼んだ相手が何者でどこにいるのか所在を確認する為よ。もうあなたはマーキング出来たし、ここがどこなのかも分かったわ。ありがとうね』
「ま、待て! まだ私の話は終わってない」
自分の目的は達成できたと消えようとしていた女に声を掛け、引き戻す。
『なんの用かしら? 私の目的は達成出来たから早く帰りたいんだけど?』
「うるさい! いいから私の言うことを聞け!」
『何? ムカつくわね。じゃあ、いいわ。お土産をあげる。えいっ!』
半透明の女がそう言った瞬間に額が熱くなる。
「あっつぅ~な、何をした!」
『ふふふ、鏡を見れば分かるわよ。じゃあね~』
「あ! 待て!」
消えていく女を捕まえようと手を伸ばすが、元々半透明で実体も感じられなかった体を捕まえることが出来るハズもなく、伸ばした手は空を切る。
そして、執務室の騒ぎに気付いた修道士が部屋の扉を乱暴に開け中に入ってくる。
「失礼します。司祭様、大きな声がしましたが、どうかなさいましたか?」
「なんでも無い! いいから出て行け!」
「ハッ失礼しました。では……し、司祭様……そのお顔は如何なさいましたか?」
「顔……あ!」
司祭は慌てて片腕で額を隠すと修道士を部屋から追い出す。
「一体、アイツは私の額に何をしたのだ」
執務机の引き出しから手鏡を取り出し、自分の額を確認すると司祭の額には何やら図形の様な物が刻まれていて、その図形から血が滴り落ちている。
「これは……さっきのアイツの仕業か……」
渇き掛けている表面の血を拭い取り刻まれた図形が露わになるとそこには『中央に十字架』があり、それに向かって炎を吐く『二頭の龍』が刻まれていた。
「ふん! こんなもの。私なら直ぐに治せるのだから、なんの問題もない」
司祭と呼ばれた男だ。それなりに治癒魔法が使えるのだろう。
男は詠唱を終え、自分の額に右手を当てると治癒魔法が発動し、光が溢れる。
「よし。これで治った。どれ?」
男が再び、手鏡を手に取り自分の額を確認するとそこには図形が残ったままだった。
「バカな……そんなハズはない! 私はちゃんと詠唱したぞ! それも滅多に使うことのない最上級の治癒魔法を……なのに、なぜだ!」

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「……ってな訳でね。そいつの顔は……ゴメン、覚えてないや」
「じゃあダメじゃん」
「あ! でも、ちゃんと分かる様に目印は付けておいたわよ。そいつの気配も覚えたし。多分、大丈夫よ」
「多分……ね。それで、目印ってどんなヤツ? 分かり易いの?」
「そりゃあもう、久々の力作よ。切り取って、額に納めたくなるくらいのね」
「へぇ~そりゃ凄そうだね。じゃあ、それを見せてもらうことは出来る?」
「いいわよ。えっとね、こんな風な図柄にしたの」
ブランカがそう言って、指先に魔力を集めて地面に図形を書いていく。
そして、書き終わった図形を見てエリスが一言漏らす。
「これは教会にケンカ売ってるわね」
「エリスもそう思う? 実は俺もそう思う。この二頭の龍は娘をいいように利用されたシルヴァとブランカだよね」
「あら、エリスもソルトも分かってくれたのね。嬉しいわ!」
「ハァ~『ルーこれってさブランカが相手してきたのって教会関係者だよね』」
『ええ、そうみたいです。結構、上の位みたいですよ』
『やっぱり……まあ、いっか。元々向こうから売ってきた喧嘩だしね』
『そうですね。あの教会のやり方は私も好きにはなりません。それに奉っている神様も正直どうかと思いますし』
『もしかして、実在しないの? いや、神様の存在ってあやふやだけどさ。この異世界ならひょっとしたら実在するのかなと思ってね』
『いますよ』
『そうか、いるのか』
『でも、あの方達が奉っているモノは存在しません。まがい物です』
『そうなんだね。でもさ、信心はそれぞれだからね』
『そういう考え方もありますが、歪んだまま増長された信仰心はたまに信じられないことを起こします』
『へぇ~そうなんだ。さすが異世界だね』
『ですから、今現在そういうことが起きかけています』
『へぇ~そりゃ大変だね……え?』
『だから、大変なんです!』
『え~』
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