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第四章 見えない敵意

第11話 変わったね

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説明し終えたレイとガネーシャが揃って家から出てくるとガネーシャがソルトに近付き頭を下げる。
「どうした?」
「すまなかった! この通りだ!」
ソルトは訳が分からずにレイを見るとレイがニヤリと笑いソルトに説明する。
「全部、話したのよ。ガネーシャに全部ね。もう、ホント碌なことしかしないよね、前の勇者ってさ」
「ああ、それでか。でも、それだけじゃ、あそこまでしないだろ?」
ソルトがそう言って、まだ頭を下げているガネーシャを指してレイに言う。
「ふふん、それは私のお陰だね。ガネーシャの様子がちょっと変わったと思わない?」
「言われてみれば……少し体付きが変わったような……」
レイの言う通りガネーシャの体付きが変わったのがソルトの目にもハッキリと分かるくらいに変わっていた。
「やっぱ、異世界よね。普通なら……って言うか、日本なら数ヶ月から年単位の治療になりそうなもんなのにね。いやぁ私は自分の才能が怖くなるよ」
『ソルトさんの知識がなければ役に立たないポンコツの癖に……』
『ルー! 思ってても言わないの!』
「ん? 何か悪口を言われた気がする?」
「き、気のせいじゃないかな。ほら、ガネーシャもいつまでもそんなことしてないで、立って、立って……え? 誰?」
「誰ってガネーシャでしょ? どうしたのソルト?」
「いや、だって顎が割れてないし、眉毛も細いし、それにうっすらと口髭も生えてたよね?」
ソルトにそう言われ恥ずかしそうにガネーシャが顔を隠すとレイがガネーシャの肩を抱き寄せ「非道いこと言うね」とソルトを睨む。
「いや、だってさっきまでは……」
「だから、変わったって言ったでしょ! ほら、ガネーシャ。あんな男の言うことは気にしないでいいから。ね」
「でも、俺は……」
「もういいから、ほら、コレが今のガネーシャの顔だから」
レイはそう言って氷魔法で器を作り、そこに水魔法で水を満たすと水鏡にしてガネーシャに自分の顔を確認させる。
ガネーシャは水面に映る自分の顔を見て、自分で顔を触ったりしながら自分の顔であることを確認しているようだ。
「これが私……さっき言われたように顎が割れてない。眉も太くないし口髭もなくなった」
ガネーシャが顔を上げ、泣きそうな顔になりレイに抱き着き感謝の言葉を口にする。
「ありがとう、本当にありがとう。これで何も気にすることなく生きていける! 本当にありがとう!」
「もう、泣かないの。ほら、拭いて」
「でも……」
「もう、しょうがないわね」
泣くガネーシャにハンカチを渡し泣き止むようにレイは言うけど、ガネーシャは感謝したりないといったように涙が溢れている。
『む~本当はソルトさんが感謝される筈です。いいんですか?』
『いいよ。面倒くさい。ルーはガネーシャが俺に抱き着いて、泣き止まないのをヨシとするの?』
『しませんよ! もし私に実体があれば無理矢理にでも剥がします!』
『ふふっ、じゃあいいじゃない』
『あ、それもそうですね。でも、なんだか、レイさんだけが感謝されるのは、やっぱり納得出来ません!』
ソルトはレイに憤慨しているルーの声を聞いて想像する。もし実体があればどれだけ頬を膨らませているんだろうかと。もしかしたら頬袋一杯に詰め込んだハムスターの様になっているんだろうかと考えると思わず「ふふふ」と笑い出してしまう。
『どうしました?』
『いや、実はさ』
ソルトが想像していたことをルーに話すと『知りません!』と言ったきり、ソルトがいくら話しかけてもルーが応えることはなかった。
「何がいけなかったんだろう?」
「どうしたの?」
「エリス……」
ソルトがルーを怒らせた原因が何かを考えていると、三人がなかなか戻って来ないのでエリスが様子を見に来たみたいだ。
一人は泣いていて、一人は胸を貸し、一人は頭を抱えこんでいたら誰でも心配になるでしょとエリスに言われ、それもそうかとソルトも少し反省する。

「それで上手くいったの?」
「エリスも見れば驚くさ。整形されたのかと思うくらいだよ」
「え?」
「まあ、見てみなよ。そっちもレイに色々聞きたいんでしょ?」
「そうね。じゃあ、二人を連れて行くわね。ソルトは、男達を解放してやって」
「分かった」
エリスに頼まれたソルトが軟禁されている家の方へと向かうと後ろでは『キャ~』と女性陣の声が響く。
「まあ、そうなるよね。でも、今はこっちか」

軟禁されている家の前に着くと「あ、そう言えば」とソルトが思い出す。ブランカに魔法を掛けてもらっていたことを。
「え~と、どうするかな~」
『別に悩む必要はありませんよ。サクッとやっちゃいましょう!』
「え? サクッとか?」
『ええ、そうです。ソルトさんならやれます! 出来ます!』
「そ、そうなんだ。あと、ルーさ」
『はい、なんでしょう?』
「なんか、言葉遣いが変わったね」
『へ?』
「今の方がいいね。でも、どうやれば解除出来るのかな? ねえ、ルー……ルー?」
『『いいね』って言われた……』
「ルー? 聞いてる?」
ソルトに言われたことを反芻していたルーの反応が遅れる。
『あ、すみません。どうしました?』
「いや、どうしたって聞きたいのはこっちだけど。その、この魔法ってどうやれば解除出来るの?」
『あ、そうでした。では』
そう言ってルーが丁寧にソルトに『魔法解除マジックキャンセル』を説明し取得させ、即実行させる。
「『魔法解除』……これで本当に解除出来たのかな?」
『出来ましたよ。試しにドアを開けてみて下さい』
「そうだね。じゃあ、開けるよ」
ルーに言われ、ソルトが家の玄関ドアを開けると、そこにはダラッとしている野郎どもの姿があった。
「何コレ? うわっ……ちょっと、窓開けて! 換気しないとクサいよ」
「おう、ソルトか。もう終わったのか?」
「終わったよ。終わったけど、この家の臭いはどうしたの? 早く窓を開けなよ!」
ソルトの見幕にショコラとコスモが慌てて窓を開けるが、ゴルドとシルヴァは何も臭わないぞと請け合わない。

そんな二人に呆れ、ショコラとコスモに礼を言い「もう終わったから」とだけ、告げ家の玄関を閉める。

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