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第四章 見えない敵意

第9話 しょうもなっ!

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『う~私が言ってもいいんでしょうか?』
『誰も聞いてないし、いいんじゃない?』
『あ! それもそうですね。じゃ、話しますね』
『うん、お願い』
ルーが話してくれたのはこうだった。

魔族の名は「ガネーシャ」。以前はここまでヒトを恨むことはなかった。しかし、ある一件の出来事がガネーシャを変えさせたと言う。
その出来事と言うのが、ガネーシャが振られたことが原因らしいと。

『え~振られた腹いせでヒト全体が恨まれるの? なんだか割に合わないんだけど』
『ですが、その原因を知れば、それもしょうがないかと……』
『ルーはその詳細を知っているの?』
『……すみません。それは私の口からはちょっと』
そこからはソルトがルーに何度問い掛けても話してはくれなかった。

しょうがないかと嘆息しソルトがこっちをずっと睨んでいる魔族『ガネーシャ』に話しかける。
「ねえ、振られた腹いせにヒト全体を恨むのはどうかと思うんだけどさ」
「お前には関係ないだろ!」
「でも、俺もヒトだし、関係ないとは言えないだろ。そもそもに振られて恨むなんてとしてどうなの?」
ソルトが言ったことにガネーシャがピクリと反応しソルトを睨みながら一段と低い声で唸るように言う。
「お前、今なんて言った?」
「だから、男が女に振られた位でヒトを恨むのはどうかしていると……」
「違う! 俺は女だ!」
「「「え?」」」
ガネーシャの告白にソルトだけでなく、エリスや皆も一様に驚く。
「なんだよ、俺が女で悪いか!」
ガネーシャがそう言うので、ソルトがガネーシャを鑑定する。
~~~~~
名前:ガネーシャ 六一八歳
性別:女(処女)
種族:魔族
状態:ホルモン異常
~~~~~

鑑定した結果をソルトが皆に伝える。
「確かに女だね」
「ほら、見ろ!」
「「「え~」」」
だが、皆はまだ納得出来ないのか驚きの声を出すから、ソルトも「失礼だよ」と皆を諭す。
「でも、彼女……でいいんだよね。その彼女の体付きはどう見ても……」
エリスがそう言うと、ガネーシャがダンと足を踏み鳴らす。
「あ、ゴメンね。でも、そのどう見ても……ねえ」
「くっ……お前もそう言うのか! 私だって、せめてお前くらいの胸があれば、こんなことにはならなかったのに……」
「せめてって、あなたねぇ」
「くくく、確かに今の彼女に手が届きそうなのはエリスのサイズだもんね」
「レイ!」
エリスを揶揄うレイにエリスが怒り追い回す。

「もしかして、その状態にヒトを恨む原因があるのか?」
ソルトがガネーシャに話しかけるとガネーシャはソルトの方を向き「ああ、そうだ」と短く答える。
「よかったら、その話をしてくれないか。もしかしたらなんとか出来るかもしれないし」
「それは本当か!」
ガネーシャは思わずソルトの両肩を握るが、少しだけ手が届かずソルトにぶら下がる形になりながら、ソルトに確認する。
「まあ、落ち着いて。さっき鑑定した時にガネーシャの状態に『ホルモン異常』と出ていたのを確認したんだ」
「ホルモン異常? なんだそれは?」
「あ! そういうこと! なら、納得ね」
「レイは分かるの?」
一人納得していたレイにエリスが確認する。
「あのね、『ホルモン異常』ってのはね……が……こうなって……ってなるの」
レイの説明を聞いていたリリス、シーナ、ノア、カスミ、サクラが赤くなるのを見てソルトがレイに確認する。
「レイ、お前何を話した?」
「何って、『ホルモン異常』の話よ」
「それだけで、こうなるのか?」
ソルトがレイの話を聞いてもじもじしている女性陣を指差して言う。
「あ~それはしょうがないんじゃないの。少しだけ刺激が強かったとは思うけどさ」
「そんなことより、本当に治るのか? もう、この体のことで悩まなくてもいいのか?」
ソルトを揺さぶろうとガネーシャが力を込めるが、どう見ても揺さぶられているのはガネーシャの方だった。

「そこはなんとかするから、まずは話を聞かせて欲しい。いいかな?」
ソルトがその場で跪きガネーシャと目線を合わせるとヒトを恨む原因となった話を聞かせて欲しいと頼む。

ガネーシャはしばらく考えると「分かった」と言って、話し始める。

「あれは私がまだヒトを恨むことなく、ただこの体だけを疎ましく思っていた頃……」

ガネーシャがどう見ても男っぽい自分の体を疎ましく思っていた頃は自分と同じ種族にも「女のくせに」「本当は男なんだろ?」と言われ続けていた。
好きになった男にやっとの思いで告白しても「ごめんなさい」と言われ振られ続けてやけになって酒場で浴びるように飲んでいた時に隣に座った男に声を掛けられて、いい雰囲気になる。
そして「いいよね」と男に言われ、肩を抱かれたまま男の部屋に連れて行かれ「私もやっと人並みに」と期待していた。でも、服を脱いだら、この男も離れていくんだろうかと思い、脱ぎかけた服を途中で止め、服をギュッと掴んでいると男が背中から覆い被さり「大丈夫だから」と言われて、思い切って服を脱ぎ男の方を振り向き裸体を晒す。
男は逃げたり幻滅することもなく「キレイだ」と言ってガネーシャを抱き寄せた。
そして何度も口づけを交わし共にベッドに倒れ込み期待に薄い胸を膨らませる。
「「さあ……え?」」
二人はベッドに倒れ込むと二人とも仰向けになり、相手が覆い被さってくれるものと期待していたのに何もことが始まらないことに互いに疑問が頭に浮かぶ。
「え? どういうこと?」
先に正気に戻ったガネーシャが相手の男に尋ねる。
「え? どういうことって、俺がネコで君がタチでしょ? 違うの?」
「違うわ! 私は女よ!」
「え~じゃいらない。帰ってもらえるかな?」
「え? なに? 私をキレイって言ったじゃない!」
「それは男にしてはってことだよ。なあ、いいから早く出て行ってくれ」
男が苛立つようにガネーシャに言うとガネーシャが脱いだ服を投げ付ける。
「そんな、非道い! そもそも『タチ』ってなによ!」
「あれ? 知らない? 最近、この街に来た勇者が言ってたんだ。それから勇者に色んな話を聞いて、もう日陰で生きなくてもいいんだって」
男は満足そうに語り終えると、まだ禄に服も着ていないガネーシャをさっさと部屋から追い出す。
そしてガネーシャは泣きながら服を着て正すと零す。
「勇者憎い! ヒトが憎い! この体が憎い!」

そんなガネーシャの話を黙って聞いていたソルト達はと言えば様々で。
「そんなことで」
「分かる~」
「どうでもいい」
と三つに分かれた。

「私は全部話したぞ。今度はそっちが約束を守る番だ」
鼻息も荒くソルトに向かってビシッと指を差す。
「あ~もう、なんか面倒になっちゃったな~」
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