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第三章 遺跡の役目

第19話 撤去の後で

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「う……うぅ~ん」
「ノア、大丈夫? 痛いところはない?」
『睡眠』から眼が覚めたノアにレイが体に異常はないかと問い掛ける。
「あ~レイだったか。その……もう終わったのか?」
「ちゃんと終わったわよ」
「いや……疑っているわけではないが……寝ていただけだったから。実感がないというか。その……」
「大丈夫よ。ちゃんと切ったから。あ! そうだ、見る?」
「見る?」
「ちょっと待って」と言いながらレイが部屋の隅に置いてあったトレイを持ってくるとノアの目の前に差し出す。
「ほら、これ!」

「ちょっと、何見せるのよ! 早く、このグロイのをどけてよ!」
「え~そんなこと言うの? つい、さっきまでノアの体の一部だったんだよ。非道いな~」
「え?」
「つまり、コレがノアを苦しめていた患部ってこと。ちゃんとお別れしたら?」
「ふん!」
ノアが鼻息荒く右手を構えると、かつては体の一部だったモノに『火球』を放ち消滅させる。
「ちょっと、何するのよ! 研修材料に使うつもりだったのに!」
「何騒いでいるの? もう、ノアは起きたの? フンフン、あらいい匂いがするわね」
患部が焼かれ部屋中に焼き肉の臭いが立ち込めている。エリスはこの臭いを嗅いだらしい。
「あら、ホント。でも、この臭いの元がアレだと思うと、ちょっと微妙よね」
「アレって何を焼いたの? まさか?」
エリスはノアが憤慨している様子とレイがニヤニヤしている様子から瞬時に状況を理解する。

「アレをダメにしちゃったの? もう、何するのよ! なんとかアレを永久保存して研修に使おうと思っていたのに~もう、こうなったら、レイが責任取って、新たなヂヌシになりなさい! それで、もう一回、ソルトに切ってもらうのよ。うん。そうよ、それがいいわ! さ、そうと決まれば、早く!」
「な、何を言ってるの! 私がそんな恥ずかしいヂヌシになるわけないじゃない!」
「いいじゃない。減るもんでもないでしょ。それにソルトに色んなところを覗かれるんだし。いいじゃないの」
「……」
エリスとレイのやり取りを聞いていたノアがゆっくりと起き上がる。
「今の話は本当か?」
「え? なんの話?」
ノアがエリスに問い質す。

「ソルトに覗かれるって話だ」
「あ! そのこと。まあ、ソルトだけじゃなく私達も見たんだけどね。まあ、治療の為だからしょうがないわよね」
「しょうがない……しょうがないで済ませないでよ! わ、私の……アレを覗いたの?」
「ええ、もう思いっきり広げてね」
エリスの話を聞いて、ノアの顔が瞬時に赤くなる。
「見られた……私のアレが……ソルトに……」
「まあ、間違いじゃないけど私達もいたことを忘れずにね」
「見られたか。うん、見られたのなら、しょうがないわね。やっぱり責任を取って貰わないと!」
「ねえ? 聞いてる? 私もアレを見たんだけど?」
レイが何かを呟いているノアに話しかけるが、反応が薄い。
「エリス! エリスからも何か言ってやってよ!」
「いいじゃないの。元々ノアはソルトに従属してしまったんだから、今更何も変わらないわよ」
「そうだけど、そうじゃないでしょ!」
「はいはい、それじゃ、ソルトのところに行くわよ。もう、ここにいる理由もないしね」
「もう、ちゃんと聞いてよ!」
「はいはい、聞いてますよ」

エリスはまだ何かを呟いているノアとグチグチと言い続けるレイを引っ張って家の外にいるソルトの元へ向かう。

「やっと、起きたか。じゃあ、もう家はいらないな」
家から出て来たエリス達を見てから、ソルトが家を解体する。

「これでやっと帰れるんだね」
「ああ、遺跡調査も一段落ってところだな。ん?」
ソルトは何かをずっと呟き続けているノアに気付くと声を掛ける。
「どうした、ノア。まだ痛むのか?」
「あ、ソルト……あ、あの……その……わ、私……」
「礼ならいいぞ。面倒見る約束だったしな」
「面倒を見る?」
ノアはソルトの言った言葉がよく分からずに聞き返す。
「サクラに聞いたんじゃないのか? ノアは俺の『従魔』という扱いだ。だから、ペットの世話や面倒を見るのは当然のことだろ?」
「ペット……」
「ああ、そうだ。これからよろしくな」
ソルトはそう言うとノアに右手を差し出し、ノアはなんだか納得出来ない様子で、その右手を握り返す。
サクラは額に手を当て天を仰ぎ、エリスは両手を軽く上げ「ダメだこりゃ」と呟き、レイは腹を抱えて笑い続け、リリスは両拳を握りしめ「諦めるもんですか!」と力強く意気込む。
そんなソルト達の様子をカスミ、ショコラ、コスモは呆れて見ていた。

「じゃ、家に帰るから、しっかり捕まってな。いいか、捕まったか、じゃ行くぞ『転移』」

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「娘の気配が消えた……」
「なに言ってるんですか。あの娘がそう簡単に死ぬわけないでしょ。気のせいよ」
「なら、探ってみるがいい。あれだけ存在感を放っていた娘の気配がまったくしないんだからな」
「もう、そんなことばかり言って。そこまで言うのなら探ってみましょう」

「どうだ?」
「始めたばかりでしょ! ちょっと、待ちなさい」
「ふん、俺の言うことを信じなかった割には随分と念入りだな」
「嘘……嘘よ……なんで……」
「俺の言うことを信じる気になったか?」
「そんなこと言っている場合じゃないでしょ! 何をそんなに呑気に構えているのよ!」
「まあ、落ちつけ。確かに娘の気配は消えたが、完全に消えた訳じゃない」
「何言ってるのよ! 気配が全くしないじゃないの!」
「だから、落ちつけと言っている。娘の気配はしないが、代わりに俺達と似た気配を持つ者が生まれたぞ。分かるか?」
「似た気配? もしかしたら、これかしら……そうね、確かに私達と似てるわね」
「分かったか。娘の気配が消え、新たに俺達……龍と似た気配を持つ者が誕生した。これから推測出来るのは、この者が娘のことも何かを知っている筈だと思わないか?」
「確かに……」
「そこで俺からお前に提案だ」
「何よ!」
「久々に人の世界へ行ってみないか?」
「……もしかして、デートに誘っているの?」
「まあ、そうともいうな」
「ふぅ~ん、まああなたがそこまでいうならいいけど、『人化』も久しぶりだから出来るかしら。不安だわ」
「まあ、街の近くまで行ってから試せばいいさ。すぐに勘も取り戻すだろうさ」
「それもそうね。でも、着れる服があったかしら」
「それも買えばいいさ。幸いここにはいろんな武具もあれば宝石もある」
「久しぶりにお買い物が出来るのね!」
「ああ、そうだな。美味いものもいっぱい食えるぞ。人の姿ならすぐに満腹になるのが難点だけどな」
「ふふふ、そう言えば食べ過ぎて、お腹が張って苦しそうにしていたこともありましたね」
「ああ、そういうこともあったな」

娘のことを忘れて久々のデートにウキウキしている龍の番がそこにいた。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「『火球』 うん、スムーズに発現するようになったな」
竜也がポンポンと魔法を放つ様子を見ていた泰雅が羨ましそうに見ていた。それに気付いた竜也が泰雅に話しかける。
「泰雅、お前もやってみたらどうだ?」
「やるって……どうやるんだよ」
「どうやってか……それはな」
竜也が自分がどうやって魔法を発現出来たかを泰雅に懇切丁寧に教える。
「はぁ? 死に目にあって覚えろ? 無理! もう、レイラのこともあるし……」
「なら、レイラに何かあったらどうするんだ? 何も出来ないまま指を咥えて見ているのか?」
「そんなわけないだろう!」
泰雅がいきり立って、竜也を睨み付ける。その様子を見て竜也はもしかしてと考え、泰雅に提案する。
「泰雅、そのままの状態で『守りたい!』と強く念じてみろ!」
「はぁ? 強く念じろだ?」
「そうだ。レイラさんも何もかも守りたいって気持ちを強く持つんだ!」
泰雅は納得出来ない様子だったが、竜也の言うことならとまずは竜也の言う通りに頭の中でレイラと、そのお腹の子のことを思い、絶対に守り抜くと目を閉じたまま強く思い願う。すると、泰雅の体が光を放ち、硬質的な膜が泰雅を覆う。
「泰雅……泰雅! 出来たぞ! 見ろ!」
竜也の言葉に泰雅が目をゆっくりと開けると泰雅の回りを覆う膜が目に映る。
「これはなんだ?」
泰雅がその膜に触れようと手を伸ばすが、あと少しというところで触れることが出来ないので、足を一歩踏み出すと、それに合わせて膜も動く。
「え?」
そんな様子を見ていた竜也は吹き出しそうになるが、ふと我に返り泰雅にアドバイスする。
「泰雅! イメージだ。自分の周囲十センチくらいで展開するようにイメージしてみろ!」
「イメージか……よし!」
竜也の言葉を聞き、泰雅がイメージしてみると、硬質的なその膜がギュッと縮んだかと思うと泰雅の体より一回り大きいくらいまで縮小された。
「結局、さわれないんだな……」
竜也は泰雅の放った言葉に吹き出しそうになりながら、泰雅が出来そうな魔法を二人でいろいろ試してみる。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「ただいま~」
「おかえり! ソルト兄ちゃ……誰だ! お前は!」
ソルトの部屋に転移してから、ソルトが部屋を出て、皆がいるであろう食堂へと向かうと突然、そう言われた。
エリス達は後ろで笑いをこらえている。そして大人組は「また何かやらかしたんだな」と冷ややかな反応だ。

「誰って……ソルトだよ。分からない?」
「嘘つけ! ソルト兄ちゃんは、もっとちっちゃくてちんちくりんだ! そんなデカくなんてない! 誰だ!」
「だから、ソルトだって……レイ、エリス、なんとかしてよ~」
「ぷっ、もうだめ……くくく、ソルトが……あのソルトが『なんとかして~』だって……ははは」
「もう、レイってば。そんなに笑っちゃダメでしょ。ほら、あなた達も、もう分かったでしょ。身なりは大きくなっても中身はヘタレなまんまだって」
「そうだね。なかはヘタレなソルト兄ちゃんだ」
「うん、あのへたれっぷりは、間違いなくソルト兄ちゃんだね」
「そうだ! おかえり、ソルト兄ちゃん!」
本物のソルトだと分かった瞬間に子供達がわっとソルトに群がる。
「分かってくれたのは嬉しいけど、なんか複雑だな」
「まあ、ソルト君らしいわね。それで、そちらのお嬢さんはまた新しいお嫁さん候補なの?」
ティアが少し大きくなったお腹をさすりながらソルトを揶揄うように言う。
「あ~この子は俺の新しいペ「婚約者のノアと言います」ットって、え~」
「ああ、ノアは私と同じでソルトの婚約者だ。よろしくな」
「あら、大変ね。レイちゃんも」
ティアがレイとエリスを楽しそうに見る。

「え、なんでそんなことになってるの?」
ソルトはそう呟くが、誰も聞いておらず新しい家族のノアに質問攻めだ。

そして、ある山の中ではある夫婦が旅支度を始めていた。
「何があるのかしら。何年も経っているから、きっといろいろ変わっているわよね。楽しみだわ」
「そうだな。新しい食べ物があればいいな」
娘のことなど、どこかにとんでしまったようだ。

~~~~~

これで『第三章』を終わります。
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