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第三章 遺跡の役目

第14話 目的の場所にはいたのはファンタジーの王様だった

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遺跡から歩くこと数日経つが、一向にその原因と思われる物は見つからない。
「おかしいですね。施設に表示された地図ではこの辺りの筈なんですが……」
シーナは自分の立つ場所から、辺りを見回すが、ソレっぽい物は見当たらない。

「大体、探しているのはどういう物なの?」
「それは……」
「え? もしかして分からないの?」
「ええ。すみません。近くまで来れば見つかると思っていたのですが……」
「え~シーナ。それってどうなの?」
おろおろするばかりのシーナにレイが絡む。

「いいや。何か見つかったら教えて。私は休憩するからさ。どっこいしょっと」
レイがそこに横たわる黒い何かに腰掛ける。

すると、その黒い何かがゆっくりと動き出す。それに気付いたソルト達は一歩引き、身構える。レイはそんなソルト達の様子を見て「どうしたの?」と声を掛けるが、ソルト達は目線だけでレイに訴える。
「何? 何を言いたいのか分からないよ!」
果物の皮を剥こうとして、手に持っていたナイフを黒い何かに思いっきり突き刺す。
『アッ……』
「え?」
レイもその声に気付き、ソルト達の視線を追うようにゆっくりと振り向く。
すると黒い何かもゆっくりと頭を上げ、レイと視線を合わせる。

その黒い何かがなんであるか気付いたレイは思わず声を上げ、走り出そうとするが動けないし声も出ない。するとソルトからの念話を受信する。
『レイ。いいから、そいつを刺激するんじゃない。だから、悪いと思ったが、お前を動けなくした』
『悪いと思っているなら、早く解除しなさいよ!』
『ダメだ』
『なんでよ!』
『お前、さっき自分が何をしたか分かってるのか?』
『え?』
ソルトからそう言われ、改めて自分の右手を見るレイ。その右手はナイフを握っていて、そのナイフの柄の部分まで深く刺さっている。レイが、その微かに動く頭で、ナイフが刺さっている黒い何かを辿っていくと、こちらを痛そうに黙って見ているそれがいた。
『分かったか? 分かったなら、俺がまずは話をするから、そこで大人しくしてるんだ。いいな?』
『わ、分かった。ね、ねえ、置いていったりしないよね?』
『……すると思うか?』
レイの問いにソルトは無理に笑った為に少しだけ引き攣った笑顔になる。
『だ、大丈夫だよね?』
『いいから、最前席で黙って見てるんだ』
『分かった』

これでレイも大人しくしているだろとソルトは、その黒い何かを刺激しないように静かに近付く。
すると、その黒い何かは近付いて来たソルトに話しかける。
「お前は私に腰掛けている奴の知り合いか?」
「あ、話せるんだ。まずはごめんなさい。あなたが言うようにアイツは俺の仲間だ」
「そうか。なら、まずは刺さっているのを抜いてくれたら、それでいい。抜いたら、お前らもさっさとこの場所から離れるんだ」
「分かった。まずはナイフを抜くから」
「頼む」

ソルトはレイに掛けている魔法を解除すると、エリス達の元に行くように言う。
「残る」
「いいから、お前は向こうに行ってもらった方が話がこじれないで済むんだ。皆を助けると思って、早く行け!」
「もう、分かったわよ!」
レイが去ったのを確認し、ナイフが刺さっている場所に近付くとコレかとナイフに手を伸ばす。
「いいか、今から抜くからな。頼むから暴れるなよ!」
「分かったから、早く抜いてくれ!」
「分かった。抜くぞ!」

ナイフを持つ手に力を入れ、尻尾らしき場所に刺さっているナイフを引き抜く。
「あっ……」
ナイフを抜いた場所から血が流れ出したので、ソルトは『ヒール』を唱える。
血が止まり、傷口が塞がったのを確認すると、ソルトは黒い何かの顔の前に戻る。
「一応、傷口も塞いだけど、どうだ? まだ痛かったりする?」
「いや、大丈夫だ。他の痛みに比べればこれくらいなんてことない」
その『他の痛み』と言う言葉にソルトが引っかかりを覚えるが、まずはこの黒い何かがなんなのかをハッキリさせたいと思い、質問する。
「俺の仲間が悪いことをした。すまない」
「それはもういい。傷口も治してもらったしな」
「ありがとう。で、質問なんだけど……龍だよね?」
「ああ、そうだ。なんだ? 見るのは初めてか?」
「うん! やっぱり龍だった! 初めて見たけど、いいね。格好いいね!」
「そ、そうか……」
ソルトの言葉に黒龍が嬉しそうな顔をするが、すぐに苦痛の表情を浮かべる。
それに気付いたソルトがまた、質問する。
「なあ、さっき『他の痛みに比べれば』って言ってたよな。よければ俺に話してくれないか? 僅かでも手助けは出来ると思うぞ」
「無理だ。早くここから立ち去れ」
「でも……」
「ソルトさん! その龍です。その龍が地脈を乱す原因です!」
「は?」
「ほう、あの嬢ちゃんは分かっているみたいだな」
黒龍がシーナを見ながら、そんなことを言う。ならばとソルトが黒龍を鑑定すると『地脈を乱す楔』とあった。

「分かったか。お前達にはどうすることも出来ない。だから、早くここから去るんだ。久々に人と話せたのはいい想い出になった。礼を言う」

「そうか」
ソルトは黒龍にそう言うと『ボゴッ』と右ストレートを黒龍の左頬に放つ。
「「「え~」」」
黙って見ていたエリス達から声が漏れる。
「何するんだ! 痛いじゃないか!」
「お前が地脈を乱す原因なら、俺達はお前を取り除かないといけない。だから、このまま討伐されてくれ」
「はぁ? お前は何を言ってるんだ? いいから、放っといてくれ。私はこの場で魔素を流し込むのが役目なんだ」
黒龍がそう言い終わると同時に今度はソルトの左フックが黒龍の右頬に突き刺さる。
「だから、何をするんだよ! 放っとけよ!」
「お前こそ、何を言ってるんだ? 原因であるお前を取り除かないと俺達が困るんだよ!」
そう言いながら、ソルトは黒龍にアッパーを放つ。
「もう!」
黒龍はこれ以上大人しく殴られるつもりはないとばかりに立ち上がる。
それを見たソルトはシーナに近付く。
「いいか。今からお前を制御室に転移させる。お前は施設の制御室で状況を俺に念話で教えてくれ」
「ソルトさん……分かりました。お願いします!」
「よし! 『転送』!」
シーナが消えるとほぼ同時にシーナからの念話がソルトに届く。
「ソルトさん! 制御室に着きました」
「よし。今、どうなってる?」
「はい。その場所からの魔素の流入は認められません!」
「分かった。そのままモニターしてくれ」
「分かりました……ソルトさん」
「どうした?」
「無茶はしないで下さいね」
「分かってる」

黒龍は後ろ足で立ち上がりソルトをジッと見る。
「お前に恨みはないが、私の邪魔をするのであれば……覚悟するがいい」
「その前にだ。どうして、お前はここで地脈に対し魔力を流し込んでいたんだ?」
「お前には関係ないだろ!」
「だから、関係あるからここまで来たんだろ! お前のしていることを止めないと俺達の街が危ないんだよ!」
「なんだと! そんなことアイツは一言も言ってなかったぞ!」
「アイツ?」
「ああ。地脈の魔素が不足気味だから、ここで地脈に魔素を流し込んでくれって頼まれてな」
「頼まれたから、していた……それだけ?」
「ああ、それだけだ」
「あら、他の痛みってのは?」
「……」
「まさか! 人質を取られたりとかしているのか?」
「……違う。そうじゃない」
ソルトは次々に質問するが、黒龍は全てに対し違うと言う。
「はぁはぁ……もう思いつかない。いい加減に教えてくれよ。俺達ならなんとか出来るかもしれないだろ?」
「……」

なかなか教えてくれない黒龍に少しイラつき始めたソルトの元へサクラ、エリス、リリス、カスミが近づいてくる。
「お前達、まだ危ないから下がっていろ!」
「ソルト、このままじゃ永遠にその問答は終わらないぞ」
「ん? どういうことだ?」
サクラがため息を吐き、何も分かっていないとソルトを下がらせる。
「おいおい、まだ話の途中なんだけど?」
「だからな、アイツは女なんだよ。鑑定したんだろ? なら、分かるだろ?」
「え?」
サクラにそう言われ、ソルトが改めて鑑定すると確かに『雌』とある。また、痛みの原因もそこに記述があった。
「確かにこれじゃ恥ずかしいか」
ソルトがそう呟いた言葉に黒龍が反応する。
「知られた! 男に知られた! もう、お嫁にいけない!」
そう言って、顔を覆うと泣きだした。
「やっちゃったね」
「やったな」
「やってしまいましたね」
「また?」
サクラ、カスミ、リリス、エリスがソルトに泣かされた黒龍を見ながら何かを確信する。
「お~い、俺にも分かる様に教えて!」

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