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第三章 遺跡の役目

第13話 そろそろ出掛けますけど

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「くっ……ダメだ。もう保ちそうにない。麗子、もう一度でいいから会いたかった……」
『なに? もしかして、竜也なの?』
「え? 麗子なのか?」
『なによ、そっちから呼び出しといて。なにもないなら、止めてよね。じゃあね』
「あ! 待て! 待ってくれ!」

すると剣を振り続けていたゴルザが剣を止める。
「なにを待てと? すまんが、もう少し続けさせてもらうぞ。そりゃ!」
そう言って、また剣を振りかぶるゴルザ。

『もしかして、念話が?』
『なによ。念話が出来る様になって嬉しかったの?』
『麗子! やっぱり出来る様になったんだ!』
『ふ~ん、で用件は?』
『なにか、魔法を教えてくれ!』
『え、魔法? そんなの念じれば出るんじゃないの?』
『なんだよ! それ!』
『なにって言われても、私もそうとしか教えられてないけど……そういうもんじゃないの?』
『え~』
『いいから、やってみなよ。じゃ、私は忙しいからこれでね。またね、ばいばい』
『あ……切れたか。でも、念じてみろか。確かに今の『障壁バリヤ』も『念話』も強く念じたからだよな。よし、やってみるか!』
右手をゴルザにかざしたまま、左手も同じ様にゴルザに向けると『睡眠スリープ』と唱える。

「フガッ」
剣を振りかぶった状態でゴルザはそのまま膝から崩れ落ちる。
「え? どうなった?」
「「「ゴルザ様!」」」
若い騎士が倒れたゴルザに近付き様子を見る。
「寝てる……」
「え? 寝てるの?」
「ええ、寝ているだけのようです」
「そうなのか。なら、訓練は終わりでいいかな」
「ええ、それでいいと思います」

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「またね、ばいばい。ふぅ~」
「どうしたの、レイ?」
「ああ、ごめんね。ちょっと友達から念話が入ってね」
「そうなのね」
レイの言うにソルトが反応する。
「なら、アイツらに話を聞くことが出来るのか?」
「それはちょっと、難しいかな」
「なんでだ?」
「なんかね、向こうは向こうで切羽詰まっているみたいでね。大変そうだったから」
「そうか。なんか新しいことが聞ければと思ったんだけどな」
「なんかね、『魔法を教えて!』って言われたのよ。どう思う? こっちも異世界初心者だっての!」
「そりゃ、お前が『念話』とか使っているから、なにかしらのことは知っていると思ったんじゃないのか」
「ああ、それはあるかも。だから、強く念じれば使えるかもよって言っといた」
「うわっ軽! ってか、それはあんたくらいだからね」
「え? そうなの? ソルトだって、そんなに考えずに色々使えているじゃない」
「ああ、ソルトはね~色々と別格よね~で、それに便乗しているあんたも大概だけどね」
「え? そうなの?」
「そうよ。普通はそんな簡単に覚えられるもんじゃないからね。だから、私だって、この歳まで……ああ、もう、いいの! そういうことは!」
「なに? エリスから言ったことなのに」
「だから、あんたが魔法を使えるようになったのはソルトの影響とか指導ありきでしょって話よ」
「ああ、そういうこと。確かにそうかもね。私はソルトに守られているってことかしら?」
レイがソルトの腕を掴みそう言うと、シーナとエリスがレイをソルトから離す。
「離れて下さい!」
「そうよ。単にあんたが一方的に迷惑掛けているだけでしょ!」
「それを言われると……」

「はあ、痴話喧嘩はそれぐらいにしてだ。出発は二週間後でいいんだな。じゃ、それまではなにもないんだな?」
「ゴルドさん。俺からはなにもないよ。今回は遺跡探索じゃないから、早く済むとは思うけど、いつもの様にどうなるか分からないし、ちゃんと家族孝行しといてね」
「お前、縁起でもないこと言うなよ」

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「ん? 寝てたのか?」
ゴルザは運ばれた部屋のベッドの上で目を覚ます。

「アイツか……まさかアイツが俺に魔法を掛けたのか? まさか……アイツにはまだなんの手解きもしていないと聞いている。だが、俺の剣をアイツは止めた。ふむ」
「分からんか?」
声が聞こえた方を向くと宰相がそこに立っていた。
「いつから、そこに?」
「お前が起きる少し前だな。お前がタツヤに倒されたと聞いてな。なにか面白い話が聞けそうだと思って来てみたんだが……あったみたいだな」
宰相がニヤリと笑いゴルザを見る。見られたゴルザは、黙っていることも出来ないと観念し全てのあらましを宰相に話す。

「ほう、なるほどな……」
「宰相様はどう思われますか? やはり、アイツは……タツヤは自力で魔法を身に付けたとお思いですか?」
「まあ、そうとしか考えられんの」
「ですが……」
「まあ、待て。前の勇者も自力で覚えたんだろ? なら、なにも不思議なことはあるまい。それに折角魔法を覚えた勇者をそのまま、使い物にならなくしたのはお前だ。まだ、覚えているんだろ?」
「ええ」

宰相は顎を手で摩りながらゴルザに話す。
「まあ、異世界人の勇者が色々とこの世界に優遇されているのは、今更どうにも出来んだろう。だからと言って、使い物にならなくするのはちと、違うと思うぞ」
「ですが、アイツらは俺達がそれこそ年月掛けて覚えてきたことをほんの数日でものにしていく。これが……我慢出来ますか!」
「だが、召喚したのは陛下だ。それを潰すのは陛下に対しての謀反と捉えられてもおかしくはないぞ。その辺のことは理解しているのか?」
「……」
宰相の言葉にゴルザは両の拳をグッと握りしめる。

「まあ、気持ちは分かるが、せいぜい壊さない程度にしておくんだな。ワシから言えることはそれぐらいだ」
「はっ」

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

なんだかんだと準備を済ませ、これから魔の森を抜けて地脈の乱れの原因となった場所へと向かう日になった。

「なんだかな~」
「ソルト、どうしたの?」
屋敷を出た後のソルトの様子が引っかかりレイが話しかける。
「ほら、前に遺跡探索に行く時はさ、頑張ってとか怪我しないようにとか、色々あったじゃない」
「うん、そうだったね。それが?」
「それがって、さっきなにを言われたか覚えてないのか?」
「覚えてるわよ。皆で『行ってらっしゃ~い』て、笑顔で送り出してくれたじゃないの? ソルトこそ大丈夫?」
「ソレなんだよ。前はあんなに今生の別れみたいに送り出してくれたのにさ。さっぱりしすぎだと思わない?」
「ふっなんだ、ソルトは引き留めて欲しかったのかい? 意外とお子様なんだね」
「サクラ、違うからな! そんなことじゃなくて、もっとこう……」
「はいはい、いいから。もうゴルドも待っているでしょうし、急ぐわよ!」
「……」

ソルトがまだなにか言い足りないようだけどエリス達はなにも気にすることなくソルトを引き摺るようにゴルドとの待ち合わせ場所へと急ぐ。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「なんだ、今日は随分遅いんだな」
「ごめんね。今日はソルトが珍しくごねちゃってさ」
「ソルトが?」
エリスの話す内容に信じられないと思いながら、ソルトを見ると、ソルトはバツが悪そうに下を向いている。
「はぁ~なにやってんだか」
ゴルドが嘆息しながら、ソルト達を見る。
「しかし、増えたな」
「そうね。不思議とね」
「アイツのせいか?」
「そうとも言うけど、どうかな。まあ、私達も賑やかなのは嫌いじゃないしね」

正門を出ると皆でボードに跨がり、魔の森の今は墓標としている洞窟へと向かう。
「この森も久しぶりだが、元の様子に戻っているような気はするな」
「そうね。前よりは落ち着いて見えるわね」
ゴルドの呟きにエリスが応える。

「はい。どうやら、私の見立て通りにほぼ前の状態に戻っているようです」
「なら、その……地脈の暴走の原因さえ取り除けば、ちゃんと元通りになるってことね」
「はい。その通りです」
「だってさ。ソルト! ソルト? なに、まだ気にしてるの?」
「……」
「もう、なにも心配してないわけじゃないでしょ。それなりに親密になったってことじゃないの」
「え、そうかな? そういうことなのかな?」
少しだけソルトの気持ちが上向きになってきた様に感じるレイ。
「なに? ソルトは家族が出来たことの方が嬉しいの?」
「なんだよ、突然。そりゃ、単なる同居人より家族の方がいいに決まっているだろ。そうだろ?」
「なら、私は?」
「レイは仲間だろ?」
「え~私は家族じゃないの?」
「そりゃ無理があるって」
ソルトの答えに不満なレイだが、ゴルドが口を挟む。

「おい、もう着くぞ」
ゴルドの言葉に皆がボードを降りてから洞窟に近付く。
洞窟に入ると、リリス達と母親の墓に手を合わせる。

「よし、じゃソルト頼むぞ」
「いいよ。じゃ捕まって」
ソルトが言うと何時ものように正面にエリス、背中にレイ。右腕にリリス、左腕にカスミ、空いた腰にシーナが抱き着き、サクラがレイに覆い被さるように背中から抱き着く。ショコラとコスモは空いた隙間に手を伸ばしソルトに触れる。
「ふぅ~じゃあ、行くね」

転移が終わると遺跡と化した施設の前に立っていた。
「で、どっちに行けばいいの?」
「ああ、それはあっちかな」
ソルトが森の中を指差す。

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