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第二章 遺跡

第11話 召喚された理由は?

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竜也は宰相に連絡を取り、面接を求めた。
そして、今宰相の執務室へと泰雅と共に通される。

「私に聞きたいことあると、聞いているが?」
「はい、私達が召喚された理由をお伺いしたいのです」
「そうか、まだ言ってなかったか」
「はい、今まで聞く機会を逸していました」
「そうだな、私も説明してなかったな。まあ、座りなさい」
「「はい」」
宰相にソファを勧められ、竜也と泰雅は腰を下ろす。

「では、どこから話したものか」
「出来れば、詳細にお願いしたいのですが。私達が帰れるのかどうかも含めて」
「お願いします」
「ああ、分かった。では、話すとしよう。まずはなぜ召喚したのかだな。それはな……」

黙って、宰相の話を聞いていた竜也と泰雅だったが、話も最後の方になると拳を握りしめ暴れたい気持ちを抑えるのに必死だった。
「……と、まあこんな感じだが、分かってもらえたかな」
「……はい、わかりました。ありがとうございました」
「ありがとうございました」
「また、なにかあれば遠慮せずに聞いてくるがよい」
「「はい、ありがとうございました」」

宰相の執務室から出ると竜也と泰雅は無言で、竜也の部屋へと戻る。
「さて、言いたいことは山ほどあるが、まずは忘れないうちに書き留めるか。泰雅も忘れないうちに書いとけよ」
「ああ、だけどよ。話の中身が強烈すぎて、逆になかなか忘れることは出来ないぞ」
「そうだけどよ、寝たら忘れるだろ。いいから、書いとけ」
「ああ、分かったよ」

◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「ねえ、ソルト。ちゃんとあいつらにちゃんと伝わったと思う?」
「さあな。伝わったのなら、ギルドに手紙が届くだろうよ。それより、名前は? あの子達に悲しい思いをさせないんじゃないのか?」
「う~そりゃ、そうだけど……思いつかないんだもん! ソルトも手伝いなさいよ!」
「ん~ならさ、ABCでつければ?」
「どういうこと?」
「だから、Aなら、『アンジー』、Bなら『ベル』とか考えやすいだろ」
「そっか。それならA、B、Cで、えっとTまで考えればいいのね」
レイが指を折りながら、アルファベットを一文字ずつ数えながら言う。

「どう、出来そう?」
「うん、やってみる!」

◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「これでいいかな。泰雅は?」
「おう、書いたぞ。読んでくれ」
竜也と泰雅が互いに書いた内容を読み合わせ互いに確認する。

「泰雅の方もよく書けてるな。俺が漏らしたところも書かれているし、これでいいな」
「でもよ、どうやって送る? 俺達ってまだ軟禁状態だよな」
「ああ、それがあったな」
「なら、俺からレイラに頼んどくわ。レイラなら、王城の外にも出られるしギルドの場所も分かるだろうし。問題は金だな。手紙を送るのにタダってことはないだろ」
泰雅の言葉に竜也が驚いているが、泰雅は気にすることもなく、手紙をどうやってギルドに届けようかと考えている。

「なあ、泰雅。一つ聞いていいか?」
「なんだ?」
「レイラって誰?」
「ああ、最初に担当してくれたメイドのお姉さんだ。あれから、ことあるごとに話かけられてな。気付けば……その……あれだ、あれ。分かるだろ? あれな。そういうことだ。いや、別にお前に内緒にしてた訳じゃないんだぞ。ただ、話す機会がなかったというか、その、まあ、そういう訳だ」
「……」
泰雅の思わぬ告白に驚くが、あまりのことになにも考えられなくなる。

「泰雅」
「ん? どうした」
「お前、避妊は?」
「ああ、それか。向こうが大丈夫と言ってるから大丈夫だろ」
「お前、それって……」
「どうした?」

竜也は泰雅が既に王国から足枷を嵌められていることに気づくが、当の本人はそういうことは微塵も考えていない。能天気な泰雅にがっくりするが、これで麗子は自分一人のモノだと竜也はニヤリと笑う。

翌朝、泰雅はレイラにギルドへ手紙を出してもらえるか確認する。
「手紙ですか? いいですけど……お金は?」
「ああ、そうだよな。竜也!」
「すまんが、レイラさんも知っての通り、俺達は王国からの給金というか賃金は貰えていません。申し訳ないですが、立て替えといてもらえませんか?」
レイラはしばらく考えると、竜也に確かめるかのような質問をする。

「もし、手紙の届け先の方がギルドへの郵送料を払える方であれば、『着払い』という方法が使えます。ただし、相手から貰えなかった場合はペナルティが発生しますが、どうします?」
「そうだな、分かった。それで頼む。あと、なるべく早く着く方法があれば、それで」
「分かりました。昼前にはギルドへ届けられると思います」
「すまない。よろしく頼む」
「ごめんな、レイラ」
「いいですよ。泰雅さんの為になうことでしょ。それに……」
レイラが下腹部を愛おしそうに撫でる。竜也はそれに気付くが、泰雅は気付いてないようだ。
『だから、『大丈夫』は信じたらダメなんだ』

◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ソルトが朝の身支度を終え、ショコラと一緒に食堂へと下りると、リビングのソファでぐったりしているレイを見かける。
近くにいたサリュにレイのことを聞いてみると、二十人分の名付けを考えている内に朝になり、そのまま力尽きて寝ているとのことだった。

「大変だね。でも、もう少し女性らしくしてくれないかな。小さいとは言え、男の子もいるんだし」
「そう思うなら、上に連れてって寝かせなさいよ」
「エリス。いや、俺は自分より重い物は持てないし……」
「なら、転移を使えばいいでしょ? ほら、もう他の子達も起きて来るから、早くする!」
「はい!」
レイの腕を取ると、屋根裏部屋へレイを連れて転移する。

「じゃ、ベッドに……って、酷いなこれ。後で、ティアさんか子供達にでも掃除を頼まないとダメだな」
とりあえず、ベッドにレイを寝かせると、また転移で食堂へ戻る。

「もう、ソルト君! 横着したらダメでしょ。子供達が真似したらどうするの?」
「すみません。ティアさん」
「分かればいいの。レイちゃんを連れて行くのに使うのはしょうがないとしても、お部屋から戻る時は使う必要はないでしょ」
「はい、そうですね」
「分かればいいのよ」
「あ、それとお願いがあるんですけど」
「あら、ソルト君からお願いなんて、珍しいわね。なに? お姉さんに話してみなさい!」
「レイの部屋の掃除をお願いしたいんですけど、いいですか?」
「レイちゃんの部屋? 今は大部屋でしょ。あの部屋の掃除なら頼まれなくてもするわよ」
「いえ、そうじゃなくて、屋根裏の方をお願いしたいんです」
「そりゃ、頼まれればするけど、そんなに酷いの?」
「はい、見れば分かると思うので、ここでは言わないでおきますけど……」
「そう、分かったわ。朝食が済んだら子供達にも手伝ってもらって、ちゃっちゃとすませちゃうわね」
「はい。頼みます」
「ふふふ、楽しみね。ほら、ソルト君もさっさと朝食を済ませちゃって」
「はい」

ソルトがティアに朝食を済ませるように言われ、エリスと席に座って待っていると、すぐに朝食が運ばれてくる。
「はい、お待たせ」
「ありがとうございます」
「ふふふ、ソルト君はそうやって私達にすぐにお礼を言うけど、私たちはソルト君に雇われているんだから、お礼なんていいのに」
「いえ、お礼は大事ですよ」
「サリュ。ソルトはそういう子だから、気にしないであげて」
「エリスさんがそう言うのなら」
「ありがとう」

◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「ギルマス! ザンネニア王国のギルドから着払いで封書が届きました」
ギルマスの部屋へ封書を持った職員の男性が入ってくる。

「誰宛だ? 着払いなら、ソイツから払ってもらわんとな」
「それが……」
「なんだ?」
「王国では、ここのギルドのレイコ宛と言われたそうで」
「レイコ? そんな職員いたか?」
「いえ、職員にはそんな名前の者はおりません。ただ……」
「なんだ?」
「封書の宛名らしきところに妙にのたくった字が書かれていまして……」
「どれ、見せてみろ」
「これです」
職員の男性がギルマスに封書を渡す。

「どこの国の文字だ?」
「さあ? 見た事ありません」
「ふむ、『レイコ』だったな」
「はい」
「よし、ちょっと『探求者』のレイに連絡を取って来るように伝えてくれ」
「はい、分かりました」

ギルマスは思い出す、レイの知り合いがザンネニア王国に喚ばれたことを。
なら、この字はあいつらの世界の文字で、『レイコ』は『レイ』のことだろうと考えつく。

「まあ、あいつらが来れば分かる話だな」

◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「こんにちは~ギルドからの使いで来ました~」
屋敷の玄関がノックされ、ミディが玄関を開けると、そこにはギルドの使いを名乗る子供が立っていた。

「あら、こんにちは。誰に用事かしら?」
「ギルマスから、レイさんに伝言です。『ギルドに至急来るように』と」
「そう、分かったわ。ご苦労様」
ミディは使いの子にお駄賃代わりの銅貨を五枚ほど握らせると、お使いの子供はミディにお礼を言うと走って帰っていく。
「あ、忘れない内に書いとかないと」
ミディはエプロンのポケットからメモ帳とペンを取り出すと、『お駄賃 銅貨 五枚』と記入する。
「これでよし。まずはレイちゃんを起こさないとね」

屋敷に入るとソファで寛いでいたソルトが話し掛けてくる。
「ミディさん、ギルドからの使いと聞こえましたけど、なにかありました?」
「あ、ソルト君。なんかねギルマスがレイちゃんにすぐギルドへ来てほしいって伝言だったの。ソルト君からレイちゃんに伝えてもらえる?」
「いえ、それはお任せします」
「あら、冷たい」
「大体、レイはまだ寝ているんでしょ? そんなところに俺が入るのはダメでしょ」
「それもそうね。分かったわ。起こして来るわね」
「お願いします」

ミディを見送るとエリスがソルトに言う。
「ギルマスがレイを呼び出すって何事だと思う?」
「気になる?」
「気になるわね」
「じゃ、一緒に行こうか。そろそろ、活動も再開しないとダメだしね。ついでに何体か卸とかないと」
「じゃあ、レイを待ってギルドに行くのね」
「うん、そのつもり」
「なら、作ったお守りも持っていかないとね」
「それもあったね」

◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ミディに起こされたであろうレイがあくびをしながら、食堂へ向かい遅い朝食を済ませるとソルト達の前に座る。
「伝言は聞いたのか?」
「うん、聞いた。ギルマスが来いってなんだと思う?」
「多分、あいつらからの連絡だろうな」
「え? そんなに早く届くものなの?」
「多分だけど、先代文明のなにかじゃないのか?」
「ああ、ラノベでよくあったアレね」
「そう、ギルド間の通信網に使われてるっていうアレね」
ソルトとレイが話している内容に追い付けずになんのことなのかとエリスが憤慨する。

ソルトとレイがラノベのことをエリスに説明すると、エリスは妙な話ねと言う。

「それで、レイの準備はいいのか? いいなら、このままギルマスのところに転移するけど」
「そうね、私はいいわよ」
「ソルト、お守りは収納したの?」
「ああ、した。じゃ、行くか」
「うん」
「はい」
エリスが正面から、レイが背後からソルトに抱き着く。
「だから、抱き着かなくてもいいんだって」
「「いいから」」
「……じゃ、行くね『転移』」

◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ギルマスがゴルドと届けられた封書を前に話している。
「どうだ、ゴルドよ。これはレイに宛てられた物だと俺は思うが、どう思う?」
「そう言われてもな……だが、王国のギルドから届けられたのなら、レイの知り合いからだとは思うが、問題はどうやってこのギルドを知ったかだよな」
「そう言われてみれば、そうだな……」

と、その時、突然にソルト達三人がギルマスのいるこの部屋へと現れた。
「あ! いた。ギルマス、私に用ってなに?」
「……」
「なに? 違うの? 私に用があるって聞いたんだけど?」
「……」
「ソルト、違ったみたい。あ、ゴルドも久しぶり!」
「お前ら、相変わらずだな」
ゴルドが嘆息し、ギルマスの方を見るとやっと気を取り直した様でソルトに言う。

「ソルト、至急来いとは言ったが転移で来いとは言ってない。その辺の弁解があるなら聞いてやろう」
「もしかして、怒ってます?」
「ふん! 怒っている? この俺がか……いいか? 怒ってはいない。ただ、少しばかり呆れているだけだ」
「呆れる?」
「ああ、こうも簡単に転移をポンポン使っていると、その内誰かにバレるだろうよ。その時はどう対処するつもりだ?」
「ダメですか?」
「ダメとは言わないが、面倒な相手に目をつけられる可能性はあるな。それとも貴族様に使われたいか?」
「あ~貴族か~それがいたな~」
「分かったようだな。あのボードでも十分目を付けられると言うのに」
「そういや、まだなにも言ってこないですね。この街には貴族はいないんですか?」
「まあな。管轄の領主は他の街にいて、ここには代官代わりの平民が置かれているくらいだ。しかもこいつがお貴族様に従順じゃないから、多分だがお前らの事も報告されていないだろうさ。まあ、行き来している商人の中で話に上がるだろうがな」
「あ~面倒そう」
ギルマスの話す内容にソルトはうんざりしながらも、来たら来たで対応するしかないかと考えるのをやめる。

「それで、ギルマス。私が呼ばれたのはなんなの?」
「おう、忘れるところだった。これだよ。お前宛だと思う。ザンネニア王国のギルドから転送便で届けられた。確認してくれ」
ギルマスから封書を受け取ったレイが、その表面に『相良 麗子様』と書かれているのを確認し、裏を見ると『竜也と泰雅より』と書かれていた。
「うん、確かに私宛だね。ありがとうギルマス」
「ああ、礼より金貨十枚な、お前の口座から引かせてもらうな」
「え?」
「これな、王国のギルドから着払いで転送されたんだ。だから、宛先であるお前が払う。分かったか?」
「え~聞いてない! なんでそうなるの?」
不満を口にするレイにソルトが言う。

「レイ、アイツらは王城に軟禁状態か、金を稼げる状態でもないだろうし、面倒を見ているんだからと小遣いすらもらってない可能性もあるんだ。送ってくれただけでも、礼を言っとけ。ちゃんと届いたとな」
「でも、金貨十枚だよ。あんまりじゃない?」
「なら、貸しにしとけばいいだろ。今度、会った時にでも取り立てればいいさ」
「むぅ~分かった。そうする」
ソルトの提案に従い、レイが支払いに了承すると、ギルマスが職員を呼ぶと、レイの口座から転送便の代金を引くようにと指示を出すと職員は頷き部屋を出る。

「さて、無事にレイへの届け物だと分かった所で、俺から質問だ。どうやって、王国の仲間に連絡出来たんだ?」
「あ~それはね、ね「ギルマス、そこは秘密ってことで」……もう、ソルト。また、秘密なの?」
「いいから、お前は少し黙っとけ」
ギルマスがレイの言った『また、秘密』に食い付く。

「『また、秘密』とはどういうことだ?」
「ほら~」
「レイが悪いわね」
「エリスまで……」
「お前達のことだから、また誰か保護したとか、そんなところだろう」
「「「……」」」
「おっ当たりか」
「ゴルド、どういうことだ?」
「いや、別に不思議なことじゃないさ。今日、詰所に教会の養護施設の奴が『子供がいなくなった』と騒いで来てな。それで、もしかしたらと思った訳だが、当たったようだな。さ、ソルト。いい機会だから全部話せ」

ソルトは短く嘆息すると、昨日あった事を少しだけ隠してギルマスとゴルドに話す。

「すると、教会はなにか目的があって女の子を集め、毎日痛めつけ、一定年齢に達すると放り出すというわけか」
「だが、そういう事をしているのなら、俺の所にも話が来そうなもんだが……」
「ゴルドさん、多分ですよ。多分ですけど、今回みたいに人数が多いのは初めてだったんじゃないかなと俺は思うんです」
「それは、どういうことだ?」
「養護院から放り出されるのが二、三人なら、それほど目立ちませんよね? それにそのくらいの人数なら、大人一人なら問題なく連れ攫うことも出来るでしょう」
「だから、今まで表沙汰にならなかったという訳か。なら、言っちゃ悪いが自分達で始末するのが手っ取り早いんじゃないのか?」
「それだと、後始末が大変でしょ。それに売買したとなれば、いつかは見つかるかもしれない。でも、単に放り出すだけなら、勝手に野垂れ死ぬかもしれないし、誰かに攫われるかもしれない。放り出した方は、そんな後のことは知ったことじゃないし、他の誰かが勝手に始末してくれるのを期待してのことでしょうね」
「ふむ。嫌なことだが、ソルトの言うことが本当だとしたら、今まで相当数の子供が犠牲になっているはずだぞ。ゴルドよ、記録には残ってないのか?」
「いや、俺が警備についてからは、そんな話は聞いたことがない。そもそも親がいない浮浪者はどこにでもいる。別に子供一人が歩いていても不思議には思わないからな」
ゴルドの話を聞いたレイが、憤慨する。

「なんで、保護してやらないのよ!」
「お前、簡単に言うが何人いると思ってんだ。そんなの俺一人でどうこう出来る訳ないだろ。それに俺にも子供がいるんだ。なにも思わない訳じゃないが、家族を優先するのは当然だろ」
「でも……」
「レイ、あなたが思うことは分かるわ。それに見過ごしていたのは私も一緒。だから、ゴルドを責めないであげて」
「……分かった。ごめんね、ゴルド」
「ああ、いいさ。俺も今度からは注意してみるようにするから」
「ソルト、なにかいい考えはないの?」
「……」

ソルトはゴルドから聞いた話を自分なりにどうしたらいいかと考えていたら、レイからもなにかいい解決策はないかと言われる。
「ギルマス、養護施設じゃないけど、冒険者の育成施設として登録前の子供達を世話することは無理ですか?」
「どういうことだ?」
「要は面倒をみる親なり、保護者がいない子供達がいるってことでしょ。なら、そういう子供達を集めて世話するのはどうかと思いまして」
「お前、世話するというが人はどうする? 金は? 場所は?」
「世話するのは、子育ての経験があるお年寄りとか、引退した冒険者とかいますよね」
「まあ、そういう人ならいるな」
「だから、そういう人達にお世話をお願いして、ある程度動けるというか、今日お使いに来た子供くらいの仕事が出来るなら、午前は文字とか計算を教えて、空き時間にギルドの手伝いや、戦闘訓練なりすれば将来的に冒険者なり、ギルド職員なりになってもらえるんじゃないですか?」
「それが出来ればな。確かにケガとかで引退した冒険者はいるし、お年寄りもいるから世話するのは問題ないか。なら、金はどうする?」
「それは俺が投資という形で用立てます。返済は施設の運用が回り出してから、ギルドなり、個人からの返済でもいいですし」
「なら、あとは場所の問題か」
ソルトの提案にギルマスが目を閉じ、腕を組んで考える。

「ソルト、大丈夫なの?」
「そうよ。いい考えだとは思うけど、一人じゃ大変よ」
「まあ、なんとかなるだろう。それよりも封書の中身だよ」
「あ!」
レイが思い出したように持っている封書を開封する。

「竜也と泰雅からね。二人で書いてくれたみたい。で、内容は……」
「どうだ?」
「読んでもらった方が早いと思う」
レイから渡された竜也と泰雅が書いたであろう、手紙を読ませてもらう。
「ふぅ、なるほどね」

「おい、お前達だけで納得してないで、俺達にも分かるように話してくれ」
ギルマスに急かされる形で、ソルトがとりあえず話せるだけの内容でいいならと前置きし、話し出す。

「なるほど、そういうことになっているんだな」
「お前のお仲間は、元の世界に帰れると思っているんだな」
「ゴルドさんはなにか聞いたことがあるの? ここへ逃げて来た勇者は帰ることなく生を全うしたみたいだけど」
「そうだよな。それを考えると帰る方法はないと思っといた方がいいと思うぞ」
「でも、王国は帰れると言ってるんだから、期待してもいいんじゃないの?」
「それでも、全部を信じる訳にはいかないだろ。なんせ、あの王国だし」
「なら、私は帰れなくてもいいっていうの?」
「そこまでは言ってないだろ。今は、帰る方法がないってだけで、どこか探せばあるかもしれないし」
「どこかって、どこよ!」
「俺に当たるなよ! 俺も喚ばれた側だぞ」
「……」
「レイ、ソルトに当たるのは間違いよ。謝れとは言わないけど、少し落ち着きなさい」
「……ごめん、ソルト」
「ああ、気にしないでいい」

ソルトに謝るレイだが、なにかいいことを思いついたような表情でソルトに話す。
「ねえ、ソルト! 頭の中でググって見てよ! 『元の世界への戻り方』とかでさ」
期待の目でソルトを見つめるレイにソルトが折れる。
「やってみるけど、望む結果が出るとは限らないからな」
「分かってる。でも、少しでも不安を消したいの」
「分かったよ」
『ソルトさん、残念ながら……』
ソルトが聞く前にルーから『帰る方法はない』と告げられる。
『マジか~でも、このまま伝えたら、パニックになるぞ』
『そうは言われましても……』
『そうだよな。俺までルーに当たってもしょうがないよな。ごめんな、ルー』
『いえ、レイさんの気持ちも分かりますので』

ルーとの会話を切り上げ、レイを見るソルトが口を開く。
「あ~残念だが、帰る方法はない」
「え~そんなぁ~」
がっくりとその場に疼くまるレイにソルトが声を掛ける。

「いいから、聞け。レイ、『今は分からない』んだ。そうだな、遺跡とか探せばあるかもしれないし。召喚魔法があるのなら、送還魔法があってもいい筈だ」
「遺跡……送還魔法……そっか、そうだよね。これだけ魔法があるんだもん。どこかにある筈だよね。それに遺跡なら、なにかありそうだし。うん、そうか。ありがとう、ソルト」
「ああ、礼ならいいから」
「じゃ、行こうか!」
「え?」
「『え?』じゃないよ。遺跡に行くんでしょ。ほら、早く!」
「いや、待てって。まだ遺跡に行く準備が終わってないから……」
「準備? そんなのいいから、行くよ!」
レイがソルトの腕を取り、遺跡に行くと言い出したのをギルマスが止める。

「レイ、慌てるな! ソルトの言う通りだ。未発見の遺跡にはなにがあるか分からんのだ。ソルトが言うように準備を済ませてからでも遅くはあるまい」
「でも……」
「仲間のことが心配か? だが、それで準備不足が原因で遺跡に辿り着けなかったら、どうする? 悪いことは言わん。今はソルトの言う通りに準備を万全にしてから、行くことだ」
「はい……」
「それにな、魔の森の様子が最近、おかしいと報告が上がっている。ソルトよ、済まんがニックのところで多めに卸してくれ。魔の森での討伐が上手くいかず肉が不足しているようなんだ」
ギルマスが魔の森の様子がおかしいと聞いて、ソルトは嫌な予感を感じる。

「魔の森の様子が変だと言いますが、なにか特徴的なことはないんですか?」
「そうだな。いつもならすぐに襲ってくるゴブリンやコボルトなんかが一切見当たらないそうだ」
「確かに言われてみれば、ゴブリンなんて繁殖力も凄いから、すぐに増えますもんね」
「そうだ。だから、それを餌にするなにかがいるってことだろうな」
「ゴブリンを餌にですか……なにか思い当たることはないんですか?」
「ああ、考えられるのはアントだろうな」
「アント……蟻ですか」
「蟻と言っても、大きいのは五メールを超えるからな。しかもあいつらは地中に巣を作る。地中から顔を出し、餌となる人や魔物の足に噛み付き地中の巣の中に引き摺り込むんだ。狭い土の中じゃ剣も振れないし、魔法もうまく発動出来ずにそのまま餌にされる」
「また、面倒な……」
「まあ、土の中じゃ、どのくらい繁殖しているかなんて分からないしな。いつも騒ぎが大きくなってから対策に乗り出すんだ。それでも被害は抑えられないがな」
「なら、ギルドからの調査依頼と討伐依頼としてもらっていいですか?」
「分かった。そのくらいなら、なんとかしよう。後、素材は出来るだけ持ち帰ってくれな」
「蟻をですか? まさか、食べるんですか?」
「バカ! そうじゃない。あいつらの殻は硬いから、安くて軽い鎧に使えるんだよ。まあ、初心者用だがな」
「分かりました。じゃ、依頼として受けますね」
「ああ、それは処理しとこう」

ギルマスとの会話を切り上げ、屋敷に戻ろうとした時にソルトはエリスに小突かれたことで、ようやく思い出し無限倉庫から大量のお守りをテーブルの上に出す。
「じゃ、あとはよろしく」
そう言って、ギルマスの部屋を出ていく、ソルト達を黙って見送ったギルマスが、ゴルドと一緒にこれもあったなと嘆息する。
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