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第一章 それぞれの道
第10話 これから、大事な話をします
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ゴルドがレイと一緒にギルド内に併設されている食堂に入り一つのテーブルで向かい合って座っているソルト達を見つけると、ソルトに断ることなく相席する。
「ソルト、なんか私に言うことはないの?」
「レイに言うこと? ああ、お疲れ様」
「なに? それだけなの。私が襲われ掛けたのよ! なのにたったそれだけなの?」
「いや、ゴルドさんがいたんだし、お前も結構ヤル気だったんだし、どこのなにを心配しろと?」
「そうかもしれないけど、そうじゃないでしょう! もっと、視野を広げようよ」
「まあ、今はいいや。で、ゴルドさんから見てレイの戦いっぷりはどうだったんですか?」
ソルトからレイの対人戦闘の結果を聞かれるゴルドが、そうだなと話し始める。
その内容を聞いたソルトは、なら大丈夫だねとレイに言う。
「ちょっと、待って。なにが大丈夫なの?」
「いや、だからちゃんとヤレたんだろ? なら、大丈夫かなって」
「だから、私のどこを見て大丈夫って言うのよ!」
「まあ、それは後でちゃんと話すから、今は昼を済ませなよ。俺とエリスはもう済んだからさ。後で、ギルマスの所で落ち合おう。な?」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
「いいから、ちゃんと飯は食っとけ。ゴルドさんの奢りなんだろ?」
ソルトはそう言うと、エリスと一緒に席を立つと食堂から出て行く。
「ほれ、メニューだ。俺達もさっさと飯を食って、アイツらの話を聞かないとな。本当は飯を食いながらある程度は聞けるはずだったんだけどな」
「なに? 私のせいとでも言いたい訳? ゴルドが訓練場で済ませろって言うから、こうなったんでしょ?」
「そうだったな。俺が悪かった。ほれ、いつまでも不機嫌なままでいると皺になるぞ」
「放っといてよ!」
プリプリとしながらもレイは、さっさと昼を済ませて、ソルト達の元に行こうとメニューを眺める。
頭ではサラッと簡単な調理で時間を掛けずに出される料理をと考えるが、体の方はガッツリ食べたいと要求してくる。
「あ~もう、いい。決めた! 奢りなら、ガッツリたっぷりよね。すみませ~ん、注文お願いします!」
「はい、少々お待ちください」
「おいおい、なにを頼むつもりだ? 俺の財布の心配もしてくれよな」
「あら、警備隊隊長が随分と小さいことを言うのね」
「お前な、いくら隊長の俺だって、カミさんには逆らえないんだよ。頼むから少しは手加減してくれよ」
「ふ~ん、まあいいわ」
「分かってくれたか。助かる」
「はい、ご注文を伺います」
ゴルド達の座るテーブル席へと注文伺いに来たウェイトレスにレイが注文する。
「ボアのステーキ、オークのステーキを二枚ずつ、それとオニオンスープにパンを付けて」
「はい、賜りました。ゴルドさんは?」
「パンとオークのステーキで」
「はい、いつもの大きさでいいですか?」
「いや、今日は一番小さいやつで頼む」
「えっと、どうかされました?」
「いいから、それで頼む」
「はい? 分かりました」
「ふぅ~お前もソルトと一緒で十分、えげつないな」
「あら、遠慮するなって言ってくれたんじゃないの?」
「そりゃ、社交辞令ってもんだ。なのに……ああ、もう小遣いないぞ」
「それはお気の毒さま」
「くっ」
その頃、ソルトとエリスはギルド内の図書室とまでは言わないが、いくつかの本棚に書籍が陳列されている部屋に入り、周辺の地図、この世界の大まかな地図を探す。
「ソルト、あったわよ」
「そう? 見せて」
部屋の中にある小さなテーブルに二人で座り、エリスが探し当てた本を広げる。
「これには、この世界の大まかな地図と、それぞれの国の特徴が書かれているわ」
「どれ? と、その前にこの街はどこの領で、どこの国に属するの?」
ルーに聞けば分かることだがと思いながら、エリスに質問すると本を開き、世界地図を指しながら説明を始める。
「まず、この街の名前は『エンディ』で、国は『メルティア公国』よ」
エリスが説明してくれた内容とルーが展開してくれた『世界地図』の内容と照らし合わせる。
「うん、合ってるね」
「なに? また独り言なの」
「あ、ごめんね。じゃ次はグランディアだね」
「それって……」
「そう、故郷になるのかな?」
エリスも広げた世界地図に目を落とし、探そうとするが見つけられない。
「ない! ない! どういうこと?」
ルーに頼んで、視界の先に展開されている世界地図にその場所を示すように頼むが、一向に示されない。
『ルー、もしかして滅ぼされたとか?』
『はい、百年ほど前に隣国に攻め込まれ、壊滅しました』
『そうなんだ。じゃあさ、その元の位置とか分かる?』
『はい。元の位置はここになります』
ルーがそう言って示した場所は、現在のザンネニア王国の場所だった。
『ルー、もしかしてだけど、滅ぼした隣国って』
『そうです。ザンネニア王国です』
『そうか、ありがとう』
『いえ、またなにかありましたら、いつでも呼んでください』
『ああ』
隣に座るエリスを見ると、まだ地図を見ながら必死で探している。
「エリス。その地図にないってことは、もうないってことだろ」
「嘘よ! だって、一つの国がそんなに簡単に滅ぶなんて、そんなことあり得ないじゃないの」
「いいから、落ち着け。例え今じゃなくても昔なら、国同士の争いなんて珍しいことでもないだろう。それにエルフの国なら、そこら中から狙われても不思議でもない。そうだろ?」
「ええ、そうね。悔しいけどソルトの言う通りよ」
「なら、歴史とか昔のことを調べた方が分かるんじゃないのか?」
ソルトの言葉にエリスが腕を組み考える。
「それもそうね。ちょっと、昔のことを調べてみるわ」
「ああ、そうした方がいい」
エリスにそう声を掛けると開かれたままの世界地図を改めて見る。
「こうやって、見るとルーの見せてくれる世界地図に比べたら、落書きレベルだな」
『うふふ。褒めていただきありがとうございます。ですが、これでも最新の技術で描かれた物なんですよ』
「そうか。まあいい大体の位置関係は分かった。見事に大陸の端と端だな」
『そうですね。ちょっとレイさん一人だとキツイ旅になるでしょうね』
「そうか。そうだよな~でも、面倒ごとに巻き込まれるのは嫌だし。でも、こいつらに好き放題されるのは、やっぱり納得出来ないよな。腹パンくらいはかましてもバチは当たらないよな」
『そうですね。もっと過激な事でも許されると思いますが』
「ふ~ん、例えば?」
『例えばですか? う~ん、ずっと悪夢に悩まされるとか?』
「意外とえげつないね」
『引きました? 引かないでくださいよ。たまたま思いついただけなんですから!』
「ふふふ、そうやって焦っているルーも新しいね」
『あ! そういえばそうですね。私も日々、新しいことを覚えているんですね』
「そうみたいだな」
ソルトがルーと脳内でキャッキャッウフフしていると、エリスが随分楽しそうねと話しかける。
「ソルト、本当に大丈夫なの?」
「ああ、気にしないでくれるとありがたい」
『私のせいですか?』
『ルーは気にしないでいいから』
「で、見つかったの?」
「ないわ。ないのよ。これってどう言うことなの?」
「あ~あのさ、思い当たることがあるんだけど、怒らずに聞いてくれる?」
「いいわよ。私もこのままじゃ気持ち悪いし、思い当たることならなんでも話してみて」
「じゃ、言うよ。多分だけど、グランディアを滅ぼしたのは大国で、自分達に都合の悪い歴史とか事実は隠蔽しているんじゃないかなと……思うんだけど」
「……」
「エリス?」
「なに、それ! 人の国を滅ぼしといて、それを隠蔽してなかったことにするなんて、最低じゃない!」
「まあ、そうだね。でも、大国とか高位にいる人間なんて、そんなもんじゃないの?」
「そうかもしれないけど、私の故郷だったかもしれない国がもうないのよ! こんなんじゃ、例え記憶が蘇ったとしても私はどうすればいいのよ!」
いつの間にかエリスの両目に涙が溜まり、そして耐え切れずにボロボロと溢れだす。
大泣きする女性に対し、どうしていいか分からずオロオロするソルトにエリスが抱き着いてくる。
ソルトは置き場所のない両手をどうしようもなく肩より上の位置に上げて、どうすればいいのかと考える。
『ルー、これってどうするべき?』
『知りません! 好きにすればいいのでは?』
ルーを頼ったソルトだが、急に不機嫌な様子のルーになんでと疑問を抱くが、まずはこれをどうするかだよな。ソルトがどうすべきかと考えた結果が念話でレイに助けを求めることだった。
『レイ、聞こえる? ギルドの二階にある資料室に来てくれるかな』
「はっ! ソルトが呼んでる。ゴルド、資料室に案内して!」
「は? 今からか、俺はまだ飯食ってんだぞ?」
「なら、場所だけでも教えてよ! 資料室ってどこ?」
「ああ、それなら、二階に上がってすぐの部屋だ」
「そう、ありがとう」
レイがゴルドにお礼を言うと、教えられた場所に向かい勢いよく、資料室のドアを開ける。
「ソルト、助けに来たわよ! って、なにしてるの? まさか、見せつけるために呼んだの?」
「誤解だ。そうじゃないんだよ。いいから、エリスを剥がしてくれないかな」
「後で理由を話してもらうからね。ほら、エリス。ソルトから離れて!」
「あん、もう。このヘタレ」
「へ?」
レイがエリスをソルトから剥がす時にエリスの口から漏れた言葉をソルトは聞き逃さなかった。
「あれが演技だとしたら、やっぱ女って怖いな」
『ソルトさんは不用心がすぎます! もっと警戒して下さい!』
『厳しいな、ルーは』
『違います! ソルトさんの警戒心が足りないだけです!』
『ん? 今、ソルトさんって言ったね。いいね』
『それは……もう、今はそんなことじゃないでしょ!』
「ソルト、ソルト! もう、用事は済んだんでしょ! ギルマスのところに行くんじゃないの?」
「ん、ああ。行こうか」
ルーとの会話を中断しソルトは、レイ達と一緒にギルマスの部屋へ向かう。
部屋に入ってくるソルト達の顔を見るなり、ギルマスがゲンナリとした表情になる。
「おいおい、また今日もなにか問題か。さっきの連中の件なら、今警備隊から届いた報告書を読んでいたところだ」
「もう届いたのか。早いな」
「ゴルドは読んでないのか?」
「ああ、俺は嬢ちゃんの相手をしてたからな」
「それで、今回はどんな用件だ?」
「ソルトがエリスと資料室でイチャついてたの!」
「「おい、レイ!」」
ソルトとエリスが揃ってレイにツッコミを入れるが、当の本人は本当のことでしょと開き直っている。
「で、本当なのか? ソルト!」
「ギルマス、それが本当ならエリスからだろうな。ソルトから襲われるのを待っていたらどっちも爺さん婆さんになるだろうからな」
「ゴルド!」
「ゴルドさん、当たりです」
「ソルトまで、そんなこと言うのね」
「また、イチャつくの?」
レイがソルトとエリスに不満を漏らす。
「それより、本題はなんだ? イチャつくのは後でも出来るだろ」
「エリス、どうする? 君から話すか?」
「ソルトから話して。私からじゃ、うまく話せないわ」
「そうか、なら「怪しい……」レイ、なんだよ。話が進まないだろ」
「確か、二人揃って上司の家に挨拶するのってさ、結婚の挨拶とかでしょ? エリスと会ってまだ二日よ。ちょっと早過ぎない?」
「ちょっと、レイ。飛躍しすぎだよ」
「あら、いいわね。本当にしちゃう?」
「もう、いいから。エリスもまともに相手しないの! レイもいい加減にしなよ。全然進まないじゃない。これ以上、ふざけるなら二人とも部屋の外に出てもらうから」
話が進まないことに少し苛ついたソルトが語気を強めて二人に話す。
「「ごめんなさい」」
「それじゃ、ソルトよ。改めて話してくれ。なるべく隠さずにな。エリスもそれでいいんだな?」
「ええ」
ギルマスも二人が巫山戯て話がちっとも進まないことに嫌気がさしたのか、エリスに釘を挿しソルトへ話をするように言う。
「それじゃ、話しますね。まず、エリスの名前は『リリス・フィル・グランディア』」
「待て! それじゃエリスは……」
「そうですね。王族の可能性があります」
「なんてこった……この、エリスがね。お姫様なんてね」
「ゴルド、でも頭に『亡国の』が付くのよね」
「「「亡国?」」」
「ええ、そうよ。この地図を見てもどこにも『グランディア』なんて国名はなかったのよ。おまけに歴史書を調べてもどこにも載ってなかったわ」
「それは、つまりどういうことだ?」
「大国の都合で隠蔽されている可能性があります」
「ソルト、それって本当なの?」
「レイも時代劇や現代劇で悪い連中が自分の都合のいいように記録を改竄するのは、よく見ているだろう。それだよ」
ソルトはギルマス達にエリスの本名を告げ、すでにグランディアと言う国自体が存在しないところまでを話した。
「でもさ、なんで改竄なんかするの。侵略したとしても戦勝国として記録は残したいんじゃないの?」
「それが、正当な理由ならね。例えば、陰謀とか謀略で国を滅ぼしたとしたら、それは都合の悪い真実になるんじゃないのかなと俺は思っている。だから、グランディアという国とどうやって戦争になって、どうやって滅ぼしたかが記録に残されると都合が悪かったのかなとね」
「それでも、これだけ長寿の人が多いのなら覚えている人も多いんじゃないの?」
「それは確かに考えられる話だけどさ、仕掛けた国がヒト族主体なら、そんな百年前のことなんて三、四世代くらい跨いじゃうから記憶が曖昧になるでしょ。だから、当時の記憶なんてすぐに霞んじゃうんだよ」
「そうなのね。それで百年前ってのはなに? 滅ぼされたのは百年前の話ってこと? でも、どこにも記録はないんだよね? そもそも二日前に来た私達っていうかソルトがなぜ、そんなことを知っているの? そういえば、アイツらの場所も知ってたよね? ねえ、どういうこと?」
「あ……」
ソルトがつい口から漏らした百年前という単語にレイが飛びつく。そして、今まで疑問に思っていたことを矢継ぎ早にソルトに対し質問を浴びせる。
「なんだ、ソルトはグランディアが、いつ滅ぼされたのかが分かるのか?」
「もしかして、相手も分かるのか?」
「それなら、場所も知っているの?」
レイに続いて、ギルマス達もソルトに対し質問してくる。
「皆さん、落ち着いて!」
「ちゃんと話してくれるのよね?」
「レイ、あまりスキルのことを強要するのは関心しないが、俺も知りたいな。だからソルトの許せる範囲で話してくれないか」
「ねえ、もしグランディアのことについて、知っているのなら、話して。お願い!」
「ソルト、ギルマスもエリスもこう言っている。それに俺も知りたい」
ギルマス達の言葉にルーのことをどうするかとソルトが考える。
『私は構いませんが……』
『いや、俺が構うから!』
『ソルトさん……』
「また、呆けてる! それもソルトの秘密の一部なの?」
レイがズバリではないが、意外と核心を突いてくる。
「え~と、じゃあ話します。まず、レイは『ググる』って分かるでしょ?」
「うん、分かるけどそれが?」
「俺のスキルで、ググることが出来るって言えば分かるでしょ」
「え~なにそれ。すっごい便利じゃん! なんでソルトばっかり!」
「ちょっと待て。俺達にはさっぱり分からん。大体、その『ググる』ってのはなんだよ」
「ソルト、どう言えばいいの?」
レイがうまく説明出来ないとソルトに説明してくれと頼む。
「そうですね。自分が知りたい、探したいことや物を頭で考えると、それに対し答えてくれるスキルと考えて下さい」
「それは便利そうだけど、その情報源はどこなんだ?」
「さあ、そこまでは知りません。特に興味はないですし。今のところ間違った情報はなかったので」
「そうか」
ソルトの説明でどうにかスキルとしての能力を理解し、ギルマス達はなんとか満足したようだ。
「それじゃあ、グランディアのことについて説明してもらえるかしら」
「分かった。まず、場所としてはここ。今はザンネニア王国の一部だね」
「あれ? ちょっと待って」
レイがバッグの中から紙片を取り出すと、そこに書かれた文字を確認する。
「やっぱり。アイツらがいるって教えてくれた国じゃない」
「レイ? どうしたんだ?」
「私達が異世界から喚ばれた話はしたわよね?」
「ああ、そうだな」
「それに巻き込まれたって話もしたと思うけど、その当事者の二人がいるのがここってソルトが教えてくれたのが、この紙の場所なの。ほら、この地図に合わせると、ね? このザンネニアって場所になるでしょ」
「ああ、そうだな。それにこの国なら、やるだろうな」
「あの勇者もここから、逃げてきたからな」
「じゃあ、頻繁に召喚をしているってこと?」
「さあな。召喚についてはここまでは聞こえてこないからな」
「それで、ソルトが確認した情報では、グランディアは、このザンネニアに滅ぼされたって言ってるの?」
「そうだ。百年前に攻め込まれて滅ぼされたらしい」
「そうなのね。じゃあ、私が記憶を取り戻せば、その当時の内容も思い出すかもしれないのね」
「ちょっと待て、エリス。記憶を取り戻すってのは、どういうことだ? ソルト、説明出来るか?」
「いいですよ、ギルマス。エリスは『記憶封鎖』って呪いを掛けられています。それと、その呪いはレイの聖魔法『解呪』が効くことは確認済みです」
ソルトの説明を聞いたゴルドがエリスに確認する。
「エリスは聞いてるんだよな?」
「ええ、聞いたわ」
「なら、その呪いを解いたとしてだ。どうなるかは聞いたのか?」
「それはソルトにも分からないそうよ。記憶が呪いを受けた時点に戻るのか、それとも今の記憶を残したまま昔の記憶も戻るのかってのはね」
「それで、エリスはどうしたい?」
「私はそれでも記憶を取り戻したいの。だから、ゴルドもギルマスも私を見守って欲しいの。お願い!」
エリスが、ギルマス、ゴルドに対し頭を下げ懇願する。
「エリス、頭を上げてくれ」
「そうだぞ、エリス。俺達はパーティメンバーじゃないか。頼られたのなら、出来るだけの手助けはさせてもらおうじゃないか」
「ギルマス、ゴルド、ありがとう。ソルト、レイ。私の呪いを解いて下さい。お願いします!」
「エリス、ごめんね。私はしてやりたいんだけど、やり方が分からないの。ごめんなさい」
レイが涙を浮かべながら、エリスに謝罪する。そんなレイにソルトが声をかける。
「レイ、別に心配することはないから。呪いを解除したいと思いながら、『解呪』と呟くだけでいい。あとはスキルが仕事してくれるからさ」
「ソルト、本当?」
「ああ、本当だ。だから、なにも心配せずにやって欲しい」
「ぐすっ……分かった。やってみる! エリスいい?」
「ええ、お願い」
「分かったわ。じゃあ、そこのソファに横になって」
エリスがレイの指示に従って、ソファに横になる。
「じゃあ、してみるね。『解呪』!」
レイが両手を胸の前で組むと祈るようにエリスに向かってスキルを発動する。
次第にエリスを光が包み込むと同時にエリスの顔に苦痛が浮かぶ。
「エリス!」
レイが、エリスの苦悶の表情に気付きスキルを止めようとするが、ソルトが続けるようにと言う。
「でも、エリスが……」
「心配ない! これはエリスの呪いが解けかかっている証拠だから、気にしないで光が収まるまで、スキルの発動を続けて!」
「わ、分かった。頑張って、エリス!」
やがて、エリスを覆っていた光が消え、エリスの表情も柔らかいものへと変わる。
「どうなの、ソルト! 成功したの?」
ソルトがエリスを鑑定する。
~~~~~
名前;エリス 二二三歳(リリス・フィル・グランディア 二二三歳)
性別:女(処女)
職業:魔法剣士
体力:B
魔力:A
知力:A
筋力:C
俊敏:A
幸運:C
スキル:
水魔法:lv4
火魔法:lv2
風魔法:lv3
剣術:lv4
体術:lv3
投擲:lv3
状態:良好
~~~~~
「うん、成功だ。『記憶封鎖』は消えている!」
「そうか。でもなんで目を覚まさないんだ?」
「さあ、それは俺にも分からないですが、鑑定した結果には、どこも不調を表すものは見当たりません」
「分かった。なら、目が覚めるまでにお前達のことをもう少し聞かせてもらおうか」
「え~少しは休ませて下さいよ」
「ふむ、それもそうじゃな。ちょっと、茶をもらうか」
ギルマスが、部屋のドアを開け、お茶を人数分頼むと執務机へと戻る。
「そうだ、ソルトはまたニックのとろこで卸してもらえないか?」
「いいですよ。でも、そろそろ在庫切れが近いから、補充したいんですけどね」
「そうだな、本当なら昼から出てた筈なんだが、こうなっちゃあな」
「でも、明日は行けるでしょう?」
「それはエリス次第だが、まあソルト一人でも大丈夫だろ」
「え~私は?」
「なら、お前も着いて行けばいい。それなりに戦えるようにもなったし、ソルトへの借金もあるようだしな」
「もう、それ言わないでよ。考えないようにしているのに!」
「じゃあ、俺はニックさんのところに行ってきますね」
ソルトはそう言って、退室するとニックの待つ解体倉庫へと向かう。
「こんにちは~」
「おう、来たな。んじゃ、今日はオークを五体だな。で、これが昨日のオーク三体の魔石だ」
「はい、確かに。じゃ、ここに並べますね」
「おう、頼む」
ソルトがいつものようにニックが指示する場所へオークを五体並べる。
「うん、こいつも体に余計な傷がなく、首が綺麗に刎ねられてるな。んじゃ、これを受付に渡してくれ」
「はい、ありがとうございます」
「あと、これは俺の勝手な要求だが、ボアとかヘビとかなんならワイバーンでもいいんだが、革が使える獲物がありがたいがな」
「革ですか」
「ああ、そうだ。ここのところ、いい革が入ってこないって愚痴られてな。悪いな」
「いえ、いいですよ。頑張ってみますんで」
「おう、だが無茶はするんじゃねえぞ。俺のお得意なんだからな」
「はい、分かりました」
「おう」
ニックと挨拶を交わし、ギルド内に戻ると受付のお姉さんにニックから預かった紙を渡す。
「あら、今日もですか。随分、頑張ってますね。これならランクが上がっても良さそうなのに」
「え? そうなんですか?」
「ええ、ギルマスからはなにも聞いてないの?」
「ええ、そんなことは一言も」
「そう。なら、聞いてみるといいわ。でも、あなたは有望な新人みたいね。この街に来たばかりと言うのにゴルドさんやエリスさんと親しくしているし、ギルマスの部屋にも何度も呼ばれているし。誰かに取られる前に手を出してみようかしら?」
受付のお姉さんが急に妖艶な雰囲気を醸し出しながら、ソルトに迫って来ようとしていると、コホンとお姉さんの後ろで咳払いされる。
「これ、支払い分です。確認をお願いします」
「はい、ちょっと待って下さい。え~と、ひのふのみの……はい、確かに。じゃ、ソルト君、これが今日の支払い分の金貨百枚ね」
「はい、ありがとうございます」
バッグに受け取った金貨の袋を全部、しまい込むと、そのままカウンターを抜け、ギルマスの部屋へ向かう。
「本当に有望よね。ちょっと初心なのが物足りない気がしないでもないけど」
「ダメですよ、先輩。抜け駆けは許されないですからね」
「あら、なんのこと?」
「惚けないでくださいよ、あの『殲滅の愚者』は久しぶりの有望な若手なんですから! 皆、ここからやっと抜け出せそうって思ってるんですからね。例え先輩でも抜け駆けは厳禁ですからね」
「は~い」
ソルトの知らないところで、ソルトの争奪戦が開催されていることなど、知る由もないソルトだった。
「ソルト、なんか私に言うことはないの?」
「レイに言うこと? ああ、お疲れ様」
「なに? それだけなの。私が襲われ掛けたのよ! なのにたったそれだけなの?」
「いや、ゴルドさんがいたんだし、お前も結構ヤル気だったんだし、どこのなにを心配しろと?」
「そうかもしれないけど、そうじゃないでしょう! もっと、視野を広げようよ」
「まあ、今はいいや。で、ゴルドさんから見てレイの戦いっぷりはどうだったんですか?」
ソルトからレイの対人戦闘の結果を聞かれるゴルドが、そうだなと話し始める。
その内容を聞いたソルトは、なら大丈夫だねとレイに言う。
「ちょっと、待って。なにが大丈夫なの?」
「いや、だからちゃんとヤレたんだろ? なら、大丈夫かなって」
「だから、私のどこを見て大丈夫って言うのよ!」
「まあ、それは後でちゃんと話すから、今は昼を済ませなよ。俺とエリスはもう済んだからさ。後で、ギルマスの所で落ち合おう。な?」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
「いいから、ちゃんと飯は食っとけ。ゴルドさんの奢りなんだろ?」
ソルトはそう言うと、エリスと一緒に席を立つと食堂から出て行く。
「ほれ、メニューだ。俺達もさっさと飯を食って、アイツらの話を聞かないとな。本当は飯を食いながらある程度は聞けるはずだったんだけどな」
「なに? 私のせいとでも言いたい訳? ゴルドが訓練場で済ませろって言うから、こうなったんでしょ?」
「そうだったな。俺が悪かった。ほれ、いつまでも不機嫌なままでいると皺になるぞ」
「放っといてよ!」
プリプリとしながらもレイは、さっさと昼を済ませて、ソルト達の元に行こうとメニューを眺める。
頭ではサラッと簡単な調理で時間を掛けずに出される料理をと考えるが、体の方はガッツリ食べたいと要求してくる。
「あ~もう、いい。決めた! 奢りなら、ガッツリたっぷりよね。すみませ~ん、注文お願いします!」
「はい、少々お待ちください」
「おいおい、なにを頼むつもりだ? 俺の財布の心配もしてくれよな」
「あら、警備隊隊長が随分と小さいことを言うのね」
「お前な、いくら隊長の俺だって、カミさんには逆らえないんだよ。頼むから少しは手加減してくれよ」
「ふ~ん、まあいいわ」
「分かってくれたか。助かる」
「はい、ご注文を伺います」
ゴルド達の座るテーブル席へと注文伺いに来たウェイトレスにレイが注文する。
「ボアのステーキ、オークのステーキを二枚ずつ、それとオニオンスープにパンを付けて」
「はい、賜りました。ゴルドさんは?」
「パンとオークのステーキで」
「はい、いつもの大きさでいいですか?」
「いや、今日は一番小さいやつで頼む」
「えっと、どうかされました?」
「いいから、それで頼む」
「はい? 分かりました」
「ふぅ~お前もソルトと一緒で十分、えげつないな」
「あら、遠慮するなって言ってくれたんじゃないの?」
「そりゃ、社交辞令ってもんだ。なのに……ああ、もう小遣いないぞ」
「それはお気の毒さま」
「くっ」
その頃、ソルトとエリスはギルド内の図書室とまでは言わないが、いくつかの本棚に書籍が陳列されている部屋に入り、周辺の地図、この世界の大まかな地図を探す。
「ソルト、あったわよ」
「そう? 見せて」
部屋の中にある小さなテーブルに二人で座り、エリスが探し当てた本を広げる。
「これには、この世界の大まかな地図と、それぞれの国の特徴が書かれているわ」
「どれ? と、その前にこの街はどこの領で、どこの国に属するの?」
ルーに聞けば分かることだがと思いながら、エリスに質問すると本を開き、世界地図を指しながら説明を始める。
「まず、この街の名前は『エンディ』で、国は『メルティア公国』よ」
エリスが説明してくれた内容とルーが展開してくれた『世界地図』の内容と照らし合わせる。
「うん、合ってるね」
「なに? また独り言なの」
「あ、ごめんね。じゃ次はグランディアだね」
「それって……」
「そう、故郷になるのかな?」
エリスも広げた世界地図に目を落とし、探そうとするが見つけられない。
「ない! ない! どういうこと?」
ルーに頼んで、視界の先に展開されている世界地図にその場所を示すように頼むが、一向に示されない。
『ルー、もしかして滅ぼされたとか?』
『はい、百年ほど前に隣国に攻め込まれ、壊滅しました』
『そうなんだ。じゃあさ、その元の位置とか分かる?』
『はい。元の位置はここになります』
ルーがそう言って示した場所は、現在のザンネニア王国の場所だった。
『ルー、もしかしてだけど、滅ぼした隣国って』
『そうです。ザンネニア王国です』
『そうか、ありがとう』
『いえ、またなにかありましたら、いつでも呼んでください』
『ああ』
隣に座るエリスを見ると、まだ地図を見ながら必死で探している。
「エリス。その地図にないってことは、もうないってことだろ」
「嘘よ! だって、一つの国がそんなに簡単に滅ぶなんて、そんなことあり得ないじゃないの」
「いいから、落ち着け。例え今じゃなくても昔なら、国同士の争いなんて珍しいことでもないだろう。それにエルフの国なら、そこら中から狙われても不思議でもない。そうだろ?」
「ええ、そうね。悔しいけどソルトの言う通りよ」
「なら、歴史とか昔のことを調べた方が分かるんじゃないのか?」
ソルトの言葉にエリスが腕を組み考える。
「それもそうね。ちょっと、昔のことを調べてみるわ」
「ああ、そうした方がいい」
エリスにそう声を掛けると開かれたままの世界地図を改めて見る。
「こうやって、見るとルーの見せてくれる世界地図に比べたら、落書きレベルだな」
『うふふ。褒めていただきありがとうございます。ですが、これでも最新の技術で描かれた物なんですよ』
「そうか。まあいい大体の位置関係は分かった。見事に大陸の端と端だな」
『そうですね。ちょっとレイさん一人だとキツイ旅になるでしょうね』
「そうか。そうだよな~でも、面倒ごとに巻き込まれるのは嫌だし。でも、こいつらに好き放題されるのは、やっぱり納得出来ないよな。腹パンくらいはかましてもバチは当たらないよな」
『そうですね。もっと過激な事でも許されると思いますが』
「ふ~ん、例えば?」
『例えばですか? う~ん、ずっと悪夢に悩まされるとか?』
「意外とえげつないね」
『引きました? 引かないでくださいよ。たまたま思いついただけなんですから!』
「ふふふ、そうやって焦っているルーも新しいね」
『あ! そういえばそうですね。私も日々、新しいことを覚えているんですね』
「そうみたいだな」
ソルトがルーと脳内でキャッキャッウフフしていると、エリスが随分楽しそうねと話しかける。
「ソルト、本当に大丈夫なの?」
「ああ、気にしないでくれるとありがたい」
『私のせいですか?』
『ルーは気にしないでいいから』
「で、見つかったの?」
「ないわ。ないのよ。これってどう言うことなの?」
「あ~あのさ、思い当たることがあるんだけど、怒らずに聞いてくれる?」
「いいわよ。私もこのままじゃ気持ち悪いし、思い当たることならなんでも話してみて」
「じゃ、言うよ。多分だけど、グランディアを滅ぼしたのは大国で、自分達に都合の悪い歴史とか事実は隠蔽しているんじゃないかなと……思うんだけど」
「……」
「エリス?」
「なに、それ! 人の国を滅ぼしといて、それを隠蔽してなかったことにするなんて、最低じゃない!」
「まあ、そうだね。でも、大国とか高位にいる人間なんて、そんなもんじゃないの?」
「そうかもしれないけど、私の故郷だったかもしれない国がもうないのよ! こんなんじゃ、例え記憶が蘇ったとしても私はどうすればいいのよ!」
いつの間にかエリスの両目に涙が溜まり、そして耐え切れずにボロボロと溢れだす。
大泣きする女性に対し、どうしていいか分からずオロオロするソルトにエリスが抱き着いてくる。
ソルトは置き場所のない両手をどうしようもなく肩より上の位置に上げて、どうすればいいのかと考える。
『ルー、これってどうするべき?』
『知りません! 好きにすればいいのでは?』
ルーを頼ったソルトだが、急に不機嫌な様子のルーになんでと疑問を抱くが、まずはこれをどうするかだよな。ソルトがどうすべきかと考えた結果が念話でレイに助けを求めることだった。
『レイ、聞こえる? ギルドの二階にある資料室に来てくれるかな』
「はっ! ソルトが呼んでる。ゴルド、資料室に案内して!」
「は? 今からか、俺はまだ飯食ってんだぞ?」
「なら、場所だけでも教えてよ! 資料室ってどこ?」
「ああ、それなら、二階に上がってすぐの部屋だ」
「そう、ありがとう」
レイがゴルドにお礼を言うと、教えられた場所に向かい勢いよく、資料室のドアを開ける。
「ソルト、助けに来たわよ! って、なにしてるの? まさか、見せつけるために呼んだの?」
「誤解だ。そうじゃないんだよ。いいから、エリスを剥がしてくれないかな」
「後で理由を話してもらうからね。ほら、エリス。ソルトから離れて!」
「あん、もう。このヘタレ」
「へ?」
レイがエリスをソルトから剥がす時にエリスの口から漏れた言葉をソルトは聞き逃さなかった。
「あれが演技だとしたら、やっぱ女って怖いな」
『ソルトさんは不用心がすぎます! もっと警戒して下さい!』
『厳しいな、ルーは』
『違います! ソルトさんの警戒心が足りないだけです!』
『ん? 今、ソルトさんって言ったね。いいね』
『それは……もう、今はそんなことじゃないでしょ!』
「ソルト、ソルト! もう、用事は済んだんでしょ! ギルマスのところに行くんじゃないの?」
「ん、ああ。行こうか」
ルーとの会話を中断しソルトは、レイ達と一緒にギルマスの部屋へ向かう。
部屋に入ってくるソルト達の顔を見るなり、ギルマスがゲンナリとした表情になる。
「おいおい、また今日もなにか問題か。さっきの連中の件なら、今警備隊から届いた報告書を読んでいたところだ」
「もう届いたのか。早いな」
「ゴルドは読んでないのか?」
「ああ、俺は嬢ちゃんの相手をしてたからな」
「それで、今回はどんな用件だ?」
「ソルトがエリスと資料室でイチャついてたの!」
「「おい、レイ!」」
ソルトとエリスが揃ってレイにツッコミを入れるが、当の本人は本当のことでしょと開き直っている。
「で、本当なのか? ソルト!」
「ギルマス、それが本当ならエリスからだろうな。ソルトから襲われるのを待っていたらどっちも爺さん婆さんになるだろうからな」
「ゴルド!」
「ゴルドさん、当たりです」
「ソルトまで、そんなこと言うのね」
「また、イチャつくの?」
レイがソルトとエリスに不満を漏らす。
「それより、本題はなんだ? イチャつくのは後でも出来るだろ」
「エリス、どうする? 君から話すか?」
「ソルトから話して。私からじゃ、うまく話せないわ」
「そうか、なら「怪しい……」レイ、なんだよ。話が進まないだろ」
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「あら、いいわね。本当にしちゃう?」
「もう、いいから。エリスもまともに相手しないの! レイもいい加減にしなよ。全然進まないじゃない。これ以上、ふざけるなら二人とも部屋の外に出てもらうから」
話が進まないことに少し苛ついたソルトが語気を強めて二人に話す。
「「ごめんなさい」」
「それじゃ、ソルトよ。改めて話してくれ。なるべく隠さずにな。エリスもそれでいいんだな?」
「ええ」
ギルマスも二人が巫山戯て話がちっとも進まないことに嫌気がさしたのか、エリスに釘を挿しソルトへ話をするように言う。
「それじゃ、話しますね。まず、エリスの名前は『リリス・フィル・グランディア』」
「待て! それじゃエリスは……」
「そうですね。王族の可能性があります」
「なんてこった……この、エリスがね。お姫様なんてね」
「ゴルド、でも頭に『亡国の』が付くのよね」
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「ええ、そうよ。この地図を見てもどこにも『グランディア』なんて国名はなかったのよ。おまけに歴史書を調べてもどこにも載ってなかったわ」
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「ソルト、それって本当なの?」
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ソルトはギルマス達にエリスの本名を告げ、すでにグランディアと言う国自体が存在しないところまでを話した。
「でもさ、なんで改竄なんかするの。侵略したとしても戦勝国として記録は残したいんじゃないの?」
「それが、正当な理由ならね。例えば、陰謀とか謀略で国を滅ぼしたとしたら、それは都合の悪い真実になるんじゃないのかなと俺は思っている。だから、グランディアという国とどうやって戦争になって、どうやって滅ぼしたかが記録に残されると都合が悪かったのかなとね」
「それでも、これだけ長寿の人が多いのなら覚えている人も多いんじゃないの?」
「それは確かに考えられる話だけどさ、仕掛けた国がヒト族主体なら、そんな百年前のことなんて三、四世代くらい跨いじゃうから記憶が曖昧になるでしょ。だから、当時の記憶なんてすぐに霞んじゃうんだよ」
「そうなのね。それで百年前ってのはなに? 滅ぼされたのは百年前の話ってこと? でも、どこにも記録はないんだよね? そもそも二日前に来た私達っていうかソルトがなぜ、そんなことを知っているの? そういえば、アイツらの場所も知ってたよね? ねえ、どういうこと?」
「あ……」
ソルトがつい口から漏らした百年前という単語にレイが飛びつく。そして、今まで疑問に思っていたことを矢継ぎ早にソルトに対し質問を浴びせる。
「なんだ、ソルトはグランディアが、いつ滅ぼされたのかが分かるのか?」
「もしかして、相手も分かるのか?」
「それなら、場所も知っているの?」
レイに続いて、ギルマス達もソルトに対し質問してくる。
「皆さん、落ち着いて!」
「ちゃんと話してくれるのよね?」
「レイ、あまりスキルのことを強要するのは関心しないが、俺も知りたいな。だからソルトの許せる範囲で話してくれないか」
「ねえ、もしグランディアのことについて、知っているのなら、話して。お願い!」
「ソルト、ギルマスもエリスもこう言っている。それに俺も知りたい」
ギルマス達の言葉にルーのことをどうするかとソルトが考える。
『私は構いませんが……』
『いや、俺が構うから!』
『ソルトさん……』
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レイがズバリではないが、意外と核心を突いてくる。
「え~と、じゃあ話します。まず、レイは『ググる』って分かるでしょ?」
「うん、分かるけどそれが?」
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「ちょっと待て。俺達にはさっぱり分からん。大体、その『ググる』ってのはなんだよ」
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「そうですね。自分が知りたい、探したいことや物を頭で考えると、それに対し答えてくれるスキルと考えて下さい」
「それは便利そうだけど、その情報源はどこなんだ?」
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「分かった。まず、場所としてはここ。今はザンネニア王国の一部だね」
「あれ? ちょっと待って」
レイがバッグの中から紙片を取り出すと、そこに書かれた文字を確認する。
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「ああ、そうだな。それにこの国なら、やるだろうな」
「あの勇者もここから、逃げてきたからな」
「じゃあ、頻繁に召喚をしているってこと?」
「さあな。召喚についてはここまでは聞こえてこないからな」
「それで、ソルトが確認した情報では、グランディアは、このザンネニアに滅ぼされたって言ってるの?」
「そうだ。百年前に攻め込まれて滅ぼされたらしい」
「そうなのね。じゃあ、私が記憶を取り戻せば、その当時の内容も思い出すかもしれないのね」
「ちょっと待て、エリス。記憶を取り戻すってのは、どういうことだ? ソルト、説明出来るか?」
「いいですよ、ギルマス。エリスは『記憶封鎖』って呪いを掛けられています。それと、その呪いはレイの聖魔法『解呪』が効くことは確認済みです」
ソルトの説明を聞いたゴルドがエリスに確認する。
「エリスは聞いてるんだよな?」
「ええ、聞いたわ」
「なら、その呪いを解いたとしてだ。どうなるかは聞いたのか?」
「それはソルトにも分からないそうよ。記憶が呪いを受けた時点に戻るのか、それとも今の記憶を残したまま昔の記憶も戻るのかってのはね」
「それで、エリスはどうしたい?」
「私はそれでも記憶を取り戻したいの。だから、ゴルドもギルマスも私を見守って欲しいの。お願い!」
エリスが、ギルマス、ゴルドに対し頭を下げ懇願する。
「エリス、頭を上げてくれ」
「そうだぞ、エリス。俺達はパーティメンバーじゃないか。頼られたのなら、出来るだけの手助けはさせてもらおうじゃないか」
「ギルマス、ゴルド、ありがとう。ソルト、レイ。私の呪いを解いて下さい。お願いします!」
「エリス、ごめんね。私はしてやりたいんだけど、やり方が分からないの。ごめんなさい」
レイが涙を浮かべながら、エリスに謝罪する。そんなレイにソルトが声をかける。
「レイ、別に心配することはないから。呪いを解除したいと思いながら、『解呪』と呟くだけでいい。あとはスキルが仕事してくれるからさ」
「ソルト、本当?」
「ああ、本当だ。だから、なにも心配せずにやって欲しい」
「ぐすっ……分かった。やってみる! エリスいい?」
「ええ、お願い」
「分かったわ。じゃあ、そこのソファに横になって」
エリスがレイの指示に従って、ソファに横になる。
「じゃあ、してみるね。『解呪』!」
レイが両手を胸の前で組むと祈るようにエリスに向かってスキルを発動する。
次第にエリスを光が包み込むと同時にエリスの顔に苦痛が浮かぶ。
「エリス!」
レイが、エリスの苦悶の表情に気付きスキルを止めようとするが、ソルトが続けるようにと言う。
「でも、エリスが……」
「心配ない! これはエリスの呪いが解けかかっている証拠だから、気にしないで光が収まるまで、スキルの発動を続けて!」
「わ、分かった。頑張って、エリス!」
やがて、エリスを覆っていた光が消え、エリスの表情も柔らかいものへと変わる。
「どうなの、ソルト! 成功したの?」
ソルトがエリスを鑑定する。
~~~~~
名前;エリス 二二三歳(リリス・フィル・グランディア 二二三歳)
性別:女(処女)
職業:魔法剣士
体力:B
魔力:A
知力:A
筋力:C
俊敏:A
幸運:C
スキル:
水魔法:lv4
火魔法:lv2
風魔法:lv3
剣術:lv4
体術:lv3
投擲:lv3
状態:良好
~~~~~
「うん、成功だ。『記憶封鎖』は消えている!」
「そうか。でもなんで目を覚まさないんだ?」
「さあ、それは俺にも分からないですが、鑑定した結果には、どこも不調を表すものは見当たりません」
「分かった。なら、目が覚めるまでにお前達のことをもう少し聞かせてもらおうか」
「え~少しは休ませて下さいよ」
「ふむ、それもそうじゃな。ちょっと、茶をもらうか」
ギルマスが、部屋のドアを開け、お茶を人数分頼むと執務机へと戻る。
「そうだ、ソルトはまたニックのとろこで卸してもらえないか?」
「いいですよ。でも、そろそろ在庫切れが近いから、補充したいんですけどね」
「そうだな、本当なら昼から出てた筈なんだが、こうなっちゃあな」
「でも、明日は行けるでしょう?」
「それはエリス次第だが、まあソルト一人でも大丈夫だろ」
「え~私は?」
「なら、お前も着いて行けばいい。それなりに戦えるようにもなったし、ソルトへの借金もあるようだしな」
「もう、それ言わないでよ。考えないようにしているのに!」
「じゃあ、俺はニックさんのところに行ってきますね」
ソルトはそう言って、退室するとニックの待つ解体倉庫へと向かう。
「こんにちは~」
「おう、来たな。んじゃ、今日はオークを五体だな。で、これが昨日のオーク三体の魔石だ」
「はい、確かに。じゃ、ここに並べますね」
「おう、頼む」
ソルトがいつものようにニックが指示する場所へオークを五体並べる。
「うん、こいつも体に余計な傷がなく、首が綺麗に刎ねられてるな。んじゃ、これを受付に渡してくれ」
「はい、ありがとうございます」
「あと、これは俺の勝手な要求だが、ボアとかヘビとかなんならワイバーンでもいいんだが、革が使える獲物がありがたいがな」
「革ですか」
「ああ、そうだ。ここのところ、いい革が入ってこないって愚痴られてな。悪いな」
「いえ、いいですよ。頑張ってみますんで」
「おう、だが無茶はするんじゃねえぞ。俺のお得意なんだからな」
「はい、分かりました」
「おう」
ニックと挨拶を交わし、ギルド内に戻ると受付のお姉さんにニックから預かった紙を渡す。
「あら、今日もですか。随分、頑張ってますね。これならランクが上がっても良さそうなのに」
「え? そうなんですか?」
「ええ、ギルマスからはなにも聞いてないの?」
「ええ、そんなことは一言も」
「そう。なら、聞いてみるといいわ。でも、あなたは有望な新人みたいね。この街に来たばかりと言うのにゴルドさんやエリスさんと親しくしているし、ギルマスの部屋にも何度も呼ばれているし。誰かに取られる前に手を出してみようかしら?」
受付のお姉さんが急に妖艶な雰囲気を醸し出しながら、ソルトに迫って来ようとしていると、コホンとお姉さんの後ろで咳払いされる。
「これ、支払い分です。確認をお願いします」
「はい、ちょっと待って下さい。え~と、ひのふのみの……はい、確かに。じゃ、ソルト君、これが今日の支払い分の金貨百枚ね」
「はい、ありがとうございます」
バッグに受け取った金貨の袋を全部、しまい込むと、そのままカウンターを抜け、ギルマスの部屋へ向かう。
「本当に有望よね。ちょっと初心なのが物足りない気がしないでもないけど」
「ダメですよ、先輩。抜け駆けは許されないですからね」
「あら、なんのこと?」
「惚けないでくださいよ、あの『殲滅の愚者』は久しぶりの有望な若手なんですから! 皆、ここからやっと抜け出せそうって思ってるんですからね。例え先輩でも抜け駆けは厳禁ですからね」
「は~い」
ソルトの知らないところで、ソルトの争奪戦が開催されていることなど、知る由もないソルトだった。
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